メルクマール

最近、この作品への批判が増えている気がしますが、個別のエピソードの好き嫌いはともかくとして、全体について批判するのはまだ早いと思っています。ただ、「この作品世界には”死”が無いために、アクションシーンの緊迫感が欠けている」という意見は、一理あると思っていました。

でもここにきて、”死”が登場しました。黒い影に取り込まれ、魂が食われてしまう。それは明らかに”死”を象徴しているでしょう。戦線が初めて”死”に直面し、”死に物狂い”で戦うことになったわけです。なので、戦闘シーンにいつになく緊迫感がありました。

その状況で、ゆりの戦略センスが光ります。彼女はユイの件で音無の行動に疑いを持ち、今回の天使の行動で確信したのでしょう。音無の意図を完全に見抜いて、自分と音無、どちらの道を選ぶかを戦線メンバーに選択させることにしました。

これは、彼女が地位を失う危機ですが、そのかわりに、天使を陣営に取り込んで、戦力として計算できるようになったわけです。このあたりのセンスが素晴らしいなと。自分のことよりも、戦線メンバーのことを気にしているんですよね。

ゆりの目的は、”神に反抗して戦うこと”そのものではなく、”戦線メンバーを守ること”なのかもしれません。そのための手段が”反抗”だったと。彼女は弟たちを守れなかったことを悔いています。この世界では、戦線メンバーの”姉”のつもりだったのでしょう。でも今、その役目を天使と音無に一時的に譲って、独立行動に出ました。これは何を意味するでしょうか。

”黒い影”は、この世界のシステムそのもの、つまり”神”に関わるのかなと思っていたのですが、ゆりはそうではなく、天使のハンドソニックなどと同様に、誰かがプログラミングしたと考えているようです。だとすると、あまり大きな話ではなく、この仕掛けは「ゆりが”成仏”するきっかけ」に過ぎないのかもしれません。

エンディング曲の背後で、戦線メンバーが一人ぼっちのシーンが、順々に映ったのが印象的でした。”死”の無い世界で、彼らは仲間として一緒にいたわけですが、ここで死に直面し、人は誰も、生まる時と死ぬ時は一人だ、ということを噛みしめているのでは。
「仲間がいる」ことそのものが、彼らが成仏できない理由だとしたら、一度仲間から離れて、自分が”どう死にたいか”を見つめなおす必要があるでしょう。

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