メルクマール

それは『ファンタジーな存在』が、「当たり前のものとして受け入れられている世界」と、「一般的には受け入れられていない世界」の２つで、この作品は後者でしょう。現実世界を舞台にして、ファンタジーな存在がいかに異質なものであるかを描こうとしている。「ヴァンパイアバンド」も同じ方向性ですね。

だからこそ、新羅のセルティへのこだわりは異様でもあり、また理解もできます。幽霊とか妖精とかって、実在するとはあまり信じられないけど（少なくとも巷の怪奇話は全く信じてないけど）、いたらいいなと思いませんか。もしそういうものがいなくて、いわゆる「科学で証明できるもの」しかこの世に無いとすれば、なんとつまらないことか。

幽霊とか妖怪とか妖精とか、そういう「知られざる世界」があるとすれば、きっと霊魂も存在して、死んだらそういう世界に行けるんじゃないかな、とかいう考えにつながります。それはかなりの関心事と言えるのでは。

だから、もしセルティみたいな存在を見つけたら、そばにおいて、よく知り合いたいと思うのは当然でしょう。何を見て、どう考えているのかを知りたくてたまらないはず。そう、僕は新羅の気持ちがわかります。

似顔絵書きの老人は、デュラハンに逢ったことを、「あの経験は人生で最高のものだった。あの夜が一生だった」と語りましたが、彼にとって「この世ならざるもの」に接したことが、宗教体験（奇跡体験）的に神聖視されているのでしょう。彼にとってデュラハンの絵は宗教画なのだと思えます。そう、老人の気持ちも、わかる気がします。

新羅の父親の気持ちでさえ、わかりますね。科学の徒である医師として、首無しで動いている人間？を見たら、どうなっているのか”開けてみたい”と考えるのは当然でしょう。で、医学的には理解できない神秘的な仕組みで動いていることを知って、彼は嬉しくなったのではないでしょうか。こう来なくっちゃ！という。

そんなわけで、ファンタジーな世界観ではあるけれど、嘘をついているのは「デュラハンの存在」という一点だけで、人物の反応などはとてもリアルに描かれており、僕はこれをリアルな、写実的な物語だと捉えています。　今回、多くのシーンがハンディカメラを通した映像として描かれたのも、リアルさを出そうとしたためで、効果があったと言えるでしょう。

ストーリーはなかなか進まないけど、「リアルな都会の、ちょっと不思議な物語」というテイストはとても良いので、今回も楽しんで観る事ができました。

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