写真1 写真2 写真3 写真4 写真5 写真6 写真7 写真8 写真9 写真10 江戸城の遺構の殆どは石垣です。近づいて石垣の細部を観察すると、細部に宿る美を発見します。構築物を全体として剛健に見えた石垣が、つぶさに観察すると、ふくよかで優しく見えてきます。 (写真1、2)
そのふくよかな石垣の表面は、滑らかで肌理(きめ)細やかです。そのような石垣は何ヶ所もありますが、置かれた場所により色彩が変わり、その表情は豊かです。 (写真3、4)
表面が磨かれていない石垣もありますが、そのザラザラした手触り感のある石垣は、斜光線の具合で表面に、ほのかな深みが生まれて、独特の美しさが現れます。真四角な石が整然と積まれたものも、大小の色違いの石が不規則に積まれたものも、それぞれに風情があります。 (写真5、6、7)
石垣には人工的に完成された美もありますが、一度火災で焼けただれたけれども、時が経過して表面は紋様と化して、意外な美に転じたものもあります。それは明暦の大火で表面が破壊された天守台の石垣です。それらの一部は、恰も石垣に紋様を描いたかのよう残されました。 (写真8)
石垣に影を投影すると、一瞬、石垣の凹凸が逆になって見えることがあります。これは輪郭線を境として実物の境界線(実像)と空白部の境界線(虚像)が逆転して見える、目の錯覚現象ですが、ここに掲げた写真では実像と虚像が同一の場所で転換しました。その結果、それは裏側から石垣を透視したかのような、不思議な視覚を経験します。 (写真9)
雪景色の石垣には、雪の付着の具合で、思わぬモノトーンの造形を発見します。それは影絵を見るような、石垣の幻想的な姿です。 (差品10)
江戸城の石垣は、風景の中で構築物を全体として眺めても美しいですが、近づいて細かな造りや表情を眺めると、美は細部に宿るとは、このことかと納得するのです。 (以上)
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写真1 旧同心番所 写真2 大手三之門石垣 渡櫓門の石垣 写真3 大手三之門石垣 出入り口の石積み面 写真4 中之門石垣 前面を囲う石垣 写真5 中之門石垣の出入口 写真6 中之門石垣 出入り口の石積み面 外濠、内濠の門をくぐって城郭内に入った後、本丸や二の丸に入るには更に城郭内にある門をくぐらねばなりません。本丸や二の丸は城郭内の門で厳重に守られていました。そして城郭内の門は、堅固さと同時に、美しさも演出しました。
城郭内の門について、ここでは大手三之門と中之門を取り上げます。
大手門をくぐり、左手の管理事務所で入門許可カードを受け取り進みますと、右手に尚蔵館、左手に済寧館があり、その間を進むと右手に同心番所跡がありますが、その手前にある石垣の門が大手三之門の入り口の遺構です。
大手三之門は、本丸と二の丸に入る前の、城郭内では最初の門です。内濠の大手門と桔梗門をくぐって登城する者は皆大手三之門を通ることになります。往時は大手三之門の前には濠があり、橋が架かっていました。すべての登城者は、この橋を渡る前に乗り物を降りたところなので下乗橋と言いました。
大手三之門は枡形構造となっています。濠の橋を渡ると枡形造りの石垣で囲まれた平場に入りますが、平場の右手に同心番所があり、そこで取り調べを受けてから左手の渡櫓門をくぐって百人番所のある広場に入ることになります。 (写真1)
現在、渡櫓はありませんが、櫓を支えた巨大な石積み門柱が左右に厳然と立っています。その石垣は、巨石を組み合わせて積み上げたもので、如何にも本丸への正門の風格があります。小田原の安山岩は灰色であり、瀬戸内海から運ばせた花崗岩は薄黄色ですが、これらを組み合わせて、多彩な石組みの渡櫓門です。大きさと共に美しさも演出した門です。 (写真2、3)
登城者は百人番所で取り調べを終えて、いよいよ本丸に入るのですが、その際、百人番所の向かい側にある中之門を通って行きます。中之門は、百人番所の広場に面した、高く長い石垣を、左右に分けて出入口とした門です。 (写真4、5)
本丸に入る通路に面した中之門の石積みで先ず気付くのは、先に見た大手三之門の稜線が直線的であるのに比べて、中之門の左右の稜線には僅かな撓(たお)りが入っていて、優雅さを演出していることです。更に、大きな長方形の石と小ぶりな四角な石を組み合わせて、隙間なく接ぎ合わせており、その色彩も大手三之門の渡櫓門より色数も多く、灰色、褐色、薄黄色、黒色と巧みに混ぜ合わせて、パッチワークのような紋様に仕上げています。 (写真6)
内濠の枡形門は、城郭を守る機能を重視して造られていますが、城郭内の大手三之門や中之門は、より一層、美観を高める工夫が凝らされています。権力には威厳が不可欠であり、威厳は大きさだけでなく美しさが求められたのです。 (以上)
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