写真1 写真2 写真3 写真4 写真5 芸術家にして発明家のレオナルド・ダ・ビンチは水の流れのスケッチをいくつも残していますが、変幻自在な水の姿に自然の真理を読み取っていたのかも知れません。葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」には小舟を翻弄する大きな波が克明に描かれていますが、水の造形に藝術の美を見いだしていたのかも知れません。
大海原を疾走する船が海面につくる波形は、同じ波紋の繰り返しのようですが、一つとして同じものはありません。船が一定の速さで進んでいても海面は常に変化しているからです。船の進行がつくる波紋は、たちまち姿を変えていきますが、一つとして同じ変化はしません。
青い海と白い波のツートンカラーの波紋は、濃淡を変えながら、千変万化して消えていきます。ふと、空と雲を撮り続けた、アメリカ近代写真の父と言われるアルフレッド・スティーグリッツを思い出しました。千変万化する点で、天空に浮かぶ白い雲は海面に浮かぶ白い波に似ています。
妻ジョージアのポートレイト写真で名声を博していたスティーグリッツは、被写体のおかげだと批評されて、写真の価値は被写体で決まらないと主張するために多くの雲の写真を撮り、その写真集で再度名声を獲得します。妻のポートレイトも雲のシリーズも、写真家の感性が捉えたもので変わりは無いと言う意味で、これを「イクィヴァレンツ(等価)」と称しました。
次々と海中から盛り上がる波頭は、尖端をキラキラと輝かして、突き上げるエネルギーを見せつけます。(写真1)
波頭は砕けて泡となり、深い海の濃い青を淡い白色で消していきます。(写真2)
海面で消えゆく波紋は、最初は太く逞しく、やがて柔らかくまろやかに変わります。(写真3、4)
最後には、波紋は波の網の目のようになって、荒い網の目から細かい網の目になって海面に広がります。(写真5)
これらの写真をスティーグリッツのように等価とは言いませんが、撮影していて飽きなかったことは事実です。 (以上)
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写真1 パリのシャンゼリーゼ通り 写真2 銀座中央通り 写真3 De Beers ビル 写真4 MIKIMOTO Ginza2ビル 写真5 PIAS GINZA 写真6 金色と黒の市松模様のビル 写真7 ルイビトン店舗 写真8 銀座ガス灯通りにあるビル 写真9 TIFFANY のビル 写真10 GAP旗艦店 写真11 GUCCI のビル 写真12 有楽町マリオン 建築物の正面をフランス語でファサード (facade)と言いますが、建物で最も目に付く部分なので、西洋建築では最も重要視されます。そして、西洋の街では、建ち並ぶ個々の建物のファサードの面(つら)を横に合わせて、複数の建物が一枚のフラットな面を構成するように面合(つらあわせ)した街路が美しいとされます。従って西洋の都市では街路の輪郭線が統一されています。(写真1)
しかし日本では街路の輪郭をフラットに統一することに余り執着しません。大都市の中心街路では、さすがに建物そのものの輪郭線が統一されていますが、それでもファサードから多くの広告看板が突き出ていて、日本の街路の輪郭線は曖昧であり、西欧の都市に比べて醜く見えます。 (写真2)
西欧では道路幅に対して建物の高さを制限したり、使用する色彩に制限を加えたりして、都市景観を整然とする努力をしています。西欧で街路に並ぶ建物は、形態も色彩も抑え気味にしているのは、都市空間は公共の舞台であり、その舞台で演技するのは街行く人々であるとの考え方があるからだと聞きました。
ところが世界的人類学者のクロード・レヴィ=ストロース氏は言います。 「 私が聞かされていたのとは反対に、現代の東京は私には醜くは感じられませんでした。建造物の単調な整列が、通行者に二面の壁のあいだの小路や大通りをたどらせる西洋の都市と違って、さまざまな建物が不規則に立て込んでいることは、多様で自由な印象を与えます」と。
これは、都市の美観はそこに住む人々とそこを訪問する人々が決めることであって、多様な感じ方があっても良いとの考え方です。レヴィ=ストロース氏が言うように、日本では全般的に建築でも都市政策でも西欧に比べて自由度が大きいのは、あながち悪いわけではないようです。
そのような気持ちで東京の街を歩いていると、目を見張るような高層ビルの壁面を発見します。銀座の街は美術品の展示場のようです。
高層ビルの躯体そのものが造形美を誇示するように体をくねらせた De Beers ビル、そして三角形の窓で覆われた MIKIMOTO Ginza2ビルは、銀座マロニエ通りに建っています。ビルの躯体そのものをらせん状にねじった高層ビル PIAS GINZA は晴海通りにあります。(写真3、4、5)
ビルの壁面の装飾に目を向けると、市松模様に派手な金色と黒色の色彩を組み合わせた高層ビル、そして日本の家紋の柄を借用したルイビトンの店舗が銀座中央通りに建っています。西欧建築に市松模様や家紋などの日本伝統の柄を用いる例としては、他には折り紙を貼ったような壁面の中層のビルが銀座ガス灯通りにあります。(写真6、7、8)
銀座にはメカニックなデザインで光り輝く高層ビルが増えています。 TIFFANY の高層ビルは、黒光りする正方形の小さな壁面が不規則に傾けて貼り付けてあるので明るい銀座中央通りでひときわ目立ちます。(写真9)
有楽町から銀座4丁目交差点までの間の晴海通りには、ビル全体を細い経筋の金属で覆った大きな GAP旗艦店が建ち、その並びには太い経筋の金属で覆った GUCCI の高層ビルが建っています。有楽町のシンボルビルのマリオンは、二つに割れた楕円状の巨大なビルの壁面全面を経筋の窓枠で飾り、冷たいメカニック表情をしています。 (写真10、11、12)
日本を代表する銀座の都市景観は、レヴィ=ストロース氏が言うように多様であり自由に変化しています。 ここに掲げた写真のファサードの中には既に消えたものもあります。しかし有楽町マリオンのように、前身の日本劇場(日劇ダンシングティームが活躍した)の楕円形を継承して変わらないものもあるのです。伝統と変化に富んだ日本の街は本当に魅力あるものなのでしょう。日本人はそれに気づかないだけかも知れません。 (以上)
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