メルクマール

前回のレビューで、過去を改変しても倫太郎だけが元の記憶を保っている理由は、倫太郎だけが世界線を移動している（あるいは倫太郎以外の世界の世界線が移動している）からだろうと書きました。　そして、それが倫太郎である理由は、Dメールを受けた携帯電話の持ち主だから、という仮説でした。

でも今回の様子だと、後半は外れみたいですね。　Ｄメールを受け取ったのは萌郁やるかの携帯電話だったのに、記憶を維持していたのは倫太郎だけでした。　これはどういうことなのだろう。　まさか倫太郎は魔眼の持ち主なのか…

インチキくさい解釈ですが、倫太郎が「主人公だから」という理由はアリかもしれません。　例えれば、倫太郎以外のラボメンが”シュレディンガーの猫”で、倫太郎がその観測者です。　

量子力学（コペンハーゲン解釈）によれば、物理現象は、誰かが”観測”してはじめて確定します。　猫を箱の中に閉じ込め、そこに1/2の確率で崩壊する物質と、崩壊したら猫を殺す仕組みを仕込んでおきます。　箱を開けて”観測”するまでは、物質は崩壊したともしないとも言えない、量子的には二重の状態（2つの状態の重ね合わせ）なので、猫もまた、生きているとも死んでいるとも言えない、二重の状態ということになります。

エヴェレットの多世界解釈は、そのパラドックス（二重の状態の猫なんておかしい）を解消するためのもので、「猫が死んだ世界と、猫が生きた世界の両方がある」と考えます。　箱に閉じ込めた瞬間に、世界が分岐するわけです。　箱の中の猫にとっては、世界は一つですが、外側にいる観測者にとっては、複数の世界があるように思えるかもしれません。（実はそうはならないが後述）

先に書いたように、ラボメンが箱の中の猫であり、倫太郎が観測者だとすると、ラボメンの世界が分岐して、倫太郎だけがそれを観測するという理由づけになるかもしれません。　倫太郎が観測者に選ばれた理由は、主人公だからです。　メタフィクション的ですけどね。

ただし、エヴェレットの多世界解釈には続きがあって、観測者も量子的存在だと見なします。　箱の中だけでなく、観測者ごと分岐するから、誰も世界の分岐には気付かないし、別の世界は知覚できない（つまり存在しないのと同義）というのが正しい理解だとされます。

サブタイトルも気になりますね。　何が「ホメオスタシス（恒常性）」なのだろう。　恒常性は、生物が体を一定に保つための仕組みで、「気温が下がったら、震えることで熱を作り、体温を保つ」といった作用のことを言います。　時空にも恒常性があり、世界線があまりズレないように保つ仕組みがあるという意味だろうか。　例えば、ロト６がの数字を間違えたのは、単なる偶然ではなくて、恒常性を保つ作用だった、とか。　だとしたら、過去を大きく変えるのは難しいということになります。

実は、『時空のホメオスタシス』というネタでは、以前にとある魔術の禁書目録のレビューで書いたことがあります。　超能力や魔術でねじ曲げられた時空を、元に戻すという『時空のホメオスタシス』を担うのが、イマジンブレーカーの当麻なのではと。　それと似たような話が、あるのかもしれません。

それにしても、倫太郎たちは気軽にDメールの実験をしていますが、怖くないのですかね。　どこが変わったのかわからない、微妙に違う世界に飛ばされるということは、とても怖いと思うのですが。　倫太郎が本当の恐怖を味わうのは、これからなのかもしれません。

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