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社会保障に関する最近の報道

 「社会保障と税の一体改革」について俎上に上せる通常国会が進行中のためか、社会保障に関する記事が連日目に付きます。目に留まったものをいくつかまとめておきたいと思います。


1.国保組合に補助金カット再浮上

 本日7日付けの日本経済新聞の記事です。国保組合というのはあまり耳慣れない用語です。日本が世界に誇る国民皆保険制度を支えるのは、政府又は健康保険組合を保険者(健康保険事業の経営主体)とした協会けんぽ又は組合健康保険制度(健康保険法が根拠法)並びに市町村及び特別区又は国民健康保険組合を保険者とする国民健康保険制度(国民健康保険法が根拠法)です。国民健康保険組合とは、「同種の事業又は業務に従事する者で、当該国保組合の地区内に住所を有するものを組合員として組織する公益法人」であり、「国民健康保険を行うことができ」ます。

 記事によれば、「国保組合は医師、弁護士、建設職人などの同業者を組合員とする健康保険で160余りあり、加入者は計330万人。国が保険給付の原則32%を補助しており、補助金の総額は年間3200億円強に膨らんでいる。高所得者の医療費を国が補助するのはおかしいとの批判が強」いとのことです。

 「こうした批判を受け、厚労省はこれまで一律32%だった補助率を、国保組合の加入者の平均所得に応じて0~32%の5段階に分ける案を検討している。平均所得が150万円未満なら現在と同じ32%の補助率になるが、150万円以上の国保組合は補助率が大幅に下がることになる。補助率の引き下げによって、国は補助金を400億円程度減らせる。増え続ける社会保障支出をある程度抑えられるほか、公平感を高めることで健康保険制度への信認を取り戻す狙い」だそうです。

 当然の流れで、補助金を大幅に減らされる医師会の国保組合などは、強い抵抗の声をあげています。しかし、「厚労省は今回、補助金削減のための法案を、高齢者医療制度の見直し法案とあわせて通常国会に提出する方針だ。単独では反対勢力につぶされかねないため、医療保険制度の安定を狙った複数の法案をまとめることで、正面突破を狙う。13年度以降のできるだけ早い時期に補助金を削減したい考えだ。だが、高齢者医療制度の見直し自体も、負担増を懸念する都道府県の反対があって難航。民主党は都道府県の説得に努めるというが、先行きは極めて不透明だ。消費増税を目指すなら社会保障の無駄を省くことが不可欠なはずだが、正面からの議論を避けようとする動きも目立つ」と伝えています。

 新聞は、こぞって消費税増税賛成かやむなし論に傾いていたような印象でしたが、一般にはあまり知られていない健保組合の補助金問題を取り上げて、係る行き過ぎた補助金を削れないならば消費税引上げは認めず的な論調の記事を出すようになってきたので、増税反対に回るのかな、という印象を受けました。


2.年金、50代半ば以下は負担超 27歳は712万円赤字

 2月6日、同じく日本経済新聞の記事です。確かに少子高齢化の急速な進行と長引く不況で、誰もが今の社会保障制度は支えていけるのか、そこはかとない不安を抱いているところに、こういった記事をぶつけて不安をあおるのは、報道機関の常套手段です。言わんとしていることは分かるのですが、この記事には、計算の根拠となった人口動態や平均余命についての言及が一切ありません。その辺りは、「内閣府経済社会総合研究所の試算」そのものに当たってくれということなのでしょう。

 日本の社会保障支出は対GDP比で約20%、金額ベースだと100兆円規模になっています。この内、平成23年度予算編成時の数値を見ると、年金が53.2兆円、医療が32.1兆円と、この二つでおおよそ8割を占め、今後もしばらくは拡大を続けることが予想されています。「社会保障と税の一体改革」の本質は、負担増と給付の削減に過ぎませんが、年金制度はこの際必要最小限のものに絞り込んだ方が良いのかもしれません。すなわち、現行年金制度は、元々「老齢、障害、及び死亡」を保険事故と考える保険制度ですが、年金を預貯金のように考える人が多いため、このような記事が後を絶たなくなるのです。頭を整理するための極論を敢えて書くとすれば、想定する保険事故から、「老齢」を除いてしまって、条件を緩和した「障害」と「死亡」だけを保険事故と考え、加齢によって心身の状態が全く就労に適さない状態となった方には「障害年金」を支給するということにするのも、一つの考え方だと思います。そのときには、働く意思と能力のある方についての定年制度は、当然廃止です。

 また、この記事が言っているような負担と給付の世代間格差を完全に解消するためには、現行の賦課方式の制度設計を自分で積み立てた原資から年金を受け取る積立方式に移行するしかないと思われますが、積立方式の最大の弱点は、通貨の価値が急激に落ち込むような超インフレに対してなすすべがないということです。我が国の高度成長期時代程度のインフレが起こったとしても、原資の運用方法次第では老後の生活は困難なものになる可能性があります。


3.国保、赤字3900億円に拡大 10年度、高齢化で医療費増

 2月3日の日本経済新聞です。こういう記事などだけを読むと、消費税増税は必至ということになってしまします。

 記事によれば、「厚生労働省は、年金生活者や自営業者らが入る国民健康保険(国保)の2010年度の実質収支が3900億円の赤字になったと発表した。赤字幅は前の年度より650億円拡大し、08年度の後期高齢者医療制度の導入以降で最大になった。高齢化や新たな医療技術の普及によって医療費の膨張に歯止めがかからないことが主因で、多くの市町村が保険料の引き上げを迫られる。実質収支は見かけの収支から、市町村が赤字穴埋めのために一般会計から税金を繰り入れている分を差し引いたもの。後期高齢者医療制度の導入で75歳以上の高齢者が国保から離れたため、いったんは改善に向かったが再び悪化が進んでいる。( 中 略 )実質収支が悪化したのは、高齢化などの影響で医療費が膨らみ、保険給付が前の年度比3.2%増の8兆8250億円に膨らんだためだ。一方で、保険料収入は2.1%減の2兆9851億円に落ち込んだ。景気低迷で保険料算定の基礎となる所得が減った影響が大きい。給付額と保険料の差は年々広がる傾向にあり、赤字拡大に歯止めがかからない。保険料の納付率は88.6%で、過去最低だった09年度よりも0.59ポイント上昇した。ただ、これは失業者の保険料を一部減免する制度を導入した影響が大きく、保険料を納める人が急増しているわけではない。9割を下回る水準で低迷したまま、本格反転の見通しはたたない。都道府県別では東京(83.9%)や千葉(85.97%)などの都市部の納付率が低くなっている。」とのことです。

 そのためか、政府は2月3日に「市町村が運営する国民健康保険の財政を安定させるため、すべての医療費を都道府県単位で共同負担する仕組みを盛り込んだ国民健康保険法の改正案」の閣議決定を行っています。改正案の趣旨は、「それぞれの国保が加入者数や医療費の支払い実績に応じて資金を出し合うことによって、年齢構成などで市町村ごとの差が大きい医療費負担をならし、保険料の格差が広がりにくくすることにあります。また、保険料を軽減している低所得者の数に応じて、国などが財政支援する制度の恒久化も決め」ています。

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