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雇用保険改正の読み方

 令和2年9月から翌年10月まで続いた菅義偉政権の経済ブレーンとして未来投資会議から「成長戦略会議」に名称が改められた有識者の諮問会議のメンバーの中にデービッド・アトキンソン氏という英国人の名前がありました。アトキンソン氏が日本の観光産業の振興とともに看板政策の一つとして掲げていたのが「最低賃金の引き上げなどによる中小企業の再編」でした。「日本の企業の99.7%を占める中小企業の数を減らし、生産性を高めよ、という」趣旨の主張です。菅政権が一年余の短命政権で終わり、このようなことが表立って主張されることは、今日ではあまり見られなくなりました。しかし、ここ数年進められている経済政策の多くは、最低賃金の大幅引き上げを挙げるまでもなく、中小企業の負担を増やし、淘汰の波にさらすような政策ばかりが目に付きます。

 既に実施が決まっている雇用保険の改正も、社会保険の適用要件のうちの規模要件撤廃が検討される動きなども、中小企業を淘汰して、(会社を辞めやすい環境を整備して)労働市場の流動化を推し進めたいという政府の隠された意図が見て取れます。その心は、人出不足に大きく傾いている労働市場における少ない人材がより高い賃金を求めて生産性の高い成長産業に就労する流れを作り、人出不足の解消と生産性の向上を同時に達成するということだと推測されます。しかし、中小企業を淘汰すれば、結果的に多くの失業者を生み出すばかりでなく、我が国の強みであった中小企業の厚みのある知見や技術が失われてしまい、ひいては大企業も国家も力が削がれるリスクの方がはるかに大きいのではないかと憂慮されます。

 とはいっても、政府が中小企業の淘汰を促す経済政策を進める以上、中小企業は生き残りを賭けて従業員が簡単に辞めていかない経営、つまりは従業員を幸せにする経営を進めていかざるを得ないと思います。インフレに対応してある程度の賃上げは必要不可欠となるのでしょうが、従業員の幸せは賃金の水準だけで決まるものではないことを肝に銘じ、会社の理念や使命を再確認したうえで、従業員の幸福度を増すために加えるべきこと、捨てることを再考し実行する経営が求められているのです。

1.令和6年(2024年)10月から

教育訓練給付金が最大70%から80%まで増額されます。

2.令和7年(2025年)4月から

(1)自己都合退職者の基本手当の給付制限期間が2箇月から1箇月に短縮されます。雇用関係の教育訓練を受講中ならば、給付制限期間は無しになります。

(2)就業手当の廃止

(3)育児休業給付金が手取りの8割から10割に増額されます。

3.令和7年(2025年)10月から

(1)教育訓練休暇給付金が、休職中に教育訓練を受講していると受給できるようになります。5年以上の雇用保険期間があることが教育訓練休暇給付金を受給するための要件となります。金額は、基本手当と同じです。

(2)雇用保険の被保険者以外にも教育訓練の費用および生活費を支援する融資制度を設ける予定です。

4.令和10年(2028年)10月から

 パート・アルバイトの雇用保険適用要件を週20時間以上から10時間以上に引き下げます。推計500万人の雇用保険加入者の増加が見込まれます。



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労災保険におけるメリット制

1.労災保険のメリット制

 労災保険の保険料率は、事業の種類ごとに決まっています。しかし、事業の種類が同じでも、作業工程、機械設備、作業環境、事業主の災害防止努力の違いにより、個々の事業場の災害率には差が生じます。そこで、労災保険制度では、労働災害防止努力の促進を目的として、その事業場の労働災害の多寡に応じて、一定の範囲内(基本:±40%、例外:±35%、±30%)で労災保険率または労災保険料額を増減させる制度(メリット制)を設けています。

 継続事業では、その業種に適用される労災保険率から、非業務災害率(全業種一律0.6/1000)を減じた率を±40%の範囲(一括有期事業の場合、規模に応じて±30%または±40%の範囲で増減率が適用されますが、立木の伐採の事業については、最大で±35%の範囲になります。)で増減させて、労災保険料率を決定します。これを「改定労災保険率」又は「メリット料率」といいます。ここでいう非業務災害率とは、それぞれの業種に設定されている労災保険率のうち、通勤災害、二次健康診断等および複数業務要因災害に係る給付ならびに複数事業労働者の業務災害に係る給付の一部に充てる分の保険料率のことで、業種を問わず1000 分の0.6 としています。

 要するに、メリット制とは、労災保険では事故率が低いほど保険料率が軽減されるというの仕組みのことです。また、通勤災害は、メリット制とは関係ありません。


2.メリット制の適用

 継続事業では、「事業の継続性」に関する要件と、「事業の規模」に関する要件を同時に満たしていることが、メリット制適用の要件となります。

(1) 事業の継続性
 メリット制が適用される保険年度の前々保険年度に属する3月31日(以下「基準日」という)の時点において、労災保険の保険関係が成立してから3年以上経過していること。

(2) 事業の規模
 基準日の属する保険年度の前々保険年度から遡って連続する3保険年度中(以下「収支率算定期間」という)の各年度において、使用した労働者数に関して、次の A または B のいずれかを満たしていること。
 A:100人以上の労働者を使用した事業であること。
 B:20人以上100人未満の労働者を使用した事業であって、災害度係数が 0.4 以上であること。

 災害度係数は、以下の計算式で算定します。
 災害度係数 = 労働者数 × (業種ごとの労災保険率-非業務災害率) ≧ 0.4

 メリット制が適用される時期は、連続する3保険年度の最後の年度(「基準日」の属する年度)の翌々保険年度になります。
 例えば、平成29年度~令和元年度が連続する3保険年度の場合には、最後の年度の令和元年度の翌々保険年度に当たる令和3年度にメリット制が適用されます。

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育児休業期間中に就業した場合の育児休業給付金

 産前産後の休業もそうだが、育児休業を取得した場合、“No Work No Pay”の原則から無給となるのが一般的です。ではこれらの休業期間中の生活費はどう補完されるのかといえば、産前産後休業中は出産手当金が健康保険から、育児休業期間中は育児休業給付金が雇用保険から支給される仕組みになっています。これらの給付金額が具体的にどのように計算されて支給されるのかは、実務上重要なところですが、役所の公式な小冊子などの説明は例によって分かりにくい傾向になりがちといえます。


1.育児休業期間中に就業した場合

 育児休業給付金の実務は、育児休業期間中に就業した場合の育児休業給付金が一体どうなるのか? という視点から給付金を見てゆくと全体像が比較的理解しやすいです。

 育児休業給付金は、「支給単位期間」という考え方を用いて支給されます。「支給単位期間」とは、育児休業を開始した日から起算した1箇月ごとの期間をいいます(育児休業終了日を含む場合は、その育児休業終了日までの期間です。)。支給単位期間中に就業した場合は申告が必要になります。就業している日が10日を超えて、かつ就業している時間が80時間を超えるときは、育児休業給付金は支給されません。また、育児休業期間中に賃金が支払われた場合は、育児休業給付金が減額支給される場合もあります。


2.育児休業給付金の計算式

 各支給単位期間の育児休業給付金支給額を求めるためには、まず、育児休業開始前6箇月間の賃金総額を180で除した数字(=休業開始時賃金日額)を算定します。次に支給単位期間の支給日数を原則30日とします。ただし、休業終了日の属する支給単位期間についてはその支給単位期間の日数とします。続いて、育児休業給付金支給額を次の式を用いて求めます。

 休業開始時賃金日額×支給日数×67%(※50%)
※育児休業開始後6箇月までは67%、6箇月経過後は50%

 そこで、各支給単位期間に支払われた賃金がある場合の育児休業給付金支給額ですが、次のように算定することになっています。

(1)支給単位期間に支給された賃金が賃金月額の13%(当初の6箇月)以下ならば、本来の育児休業給付金が減額されることはありません。また、6箇月経過後は、賃金月額の30%以下ならば減額はありません。

(2)支給単位期間に支給された賃金が賃金月額の13%(当初の6箇月)を超えて80%未満の場合、次の式の様に算定され、支給額の減額が行われます。
 休業開始時賃金日額×支給日数×80%-支給単位期間に支給された賃金額

(3)支給単位期間に支給された賃金が賃金月額の80%を超えた場合、育児休業給付金の支給はありません。

 副業・兼業をしている場合など、育児休業給付金制度では、就業日数(時間)の算定にあたっては、雇用保険の被保険者となっていない事業所で就業している日数(時間)も含まれます。なお、育児休業期間を対象として支払われた賃金の算定にあたっては、雇用保険の被保険者となっていない事業所から支払われた賃金は含まれません。

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失業保険を受給中のアルバイト

1.雇用保険の基本手当の受給要件など

 雇用保険の基本手当(以下「失業保険」という)を受給する要件は、一般的には以下の通りです。

(1)離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12箇月以上あること
(2)被保険者期間に通算できる各月とは、雇用保険の被保険者であった期間のうち、離職日から1箇月ごとに区切っていった期間に賃金支払いの基礎となった日数が11日以上または賃金の支払の基礎となった時間数が80時間以上ある月とします。

 これらに加えて「解雇された」、「会社が倒産した」等の会社の都合によって失業した者である特定受給資格者、および、契約更新をしてくれない「雇止め」や、「会社の希望退職制度」での退職、その他特定の理由での離職者である特定理由離職者は、
(3)離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6箇月以上あることでも可。

 所定給付日数については、自己都合や定年退職で離職した離職者の場合、 被保険者期間によって以下の通りとなります。

(1)1年以上~5年未満 : 90日
(2)5年以上~10年未満 : 90日
(3)10年以上~20年未満 : 120日
(4)20年以上~       : 150日

 特定受給資格者および特定理由離職者
特定受給資格者&特定理由離職者

 失業保険の受給期間は、原則離職した日の翌日から1年間です。所定給付日数が330日の場合は1年+30日、所定給付日数が360日の場合は1年+60日。受給期間を過ぎると、たとえ給付日数が残っていたとしても受給できなくなります。

 失業給付を受給するための手続きを最寄りの職業安定所で済ませて受給資格が決定した日から通算して7日間を待期期間といいます。この期間は、失業給付を受給することができません。

 自己都合退職などの一般受給資格者は、待期期間終了後、さらに給付制限期間があり、この間は失業給付を受給することができません。給付制限期間は、5年間のうち2回までは2箇月ですが、5年間のうち3回目以降は3箇月となります。また、法令違反や社内規定違反、会社に損害を与えたなど、自己の責めに帰すべき重大な理由で解雇された人は一律3箇月となります。特定受給資格者および特定理由離職者は、待期期間が終了後ただちに失業給付の受給が可能です。

 失業給付受給期間中は、4週間に1度、失業認定日に職業安定所に出向き、求職の活動状況を記入した「失業認定申告書」と「雇用保険受給資格者証」を提出して、失業状態にあることの認定を受けます。失業給付を受けるためには、前回の認定日から今回の認定日までの間に、原則として2回以上(最初の認定期間は1回)の求職活動の実績が必要です。ただし、3箇月(または2箇月)の給付制限がかかる者は、待期満了後から給付制限経過後の最初の認定日の前日までに3回以上(給付制限期間が2箇月の場合は、原則として2回以上)の求職活動が必要です。


2.失業給付受給中のアルバイト

 失業給付の手続きを行い、受給資格が決定した日から通算7日間の待期期間中は、アルバイトができません。待期期間を過ぎれば、給付制限期間中や給付期間中でもアルバイトができます。

 雇用保険加入条件を満たす「1週間の所定労働時間が20時間以上」および「31日以上の雇用が見込まれる」アルバイトの場合は「就職」と判断され、就業先の事業主は職業安定所に雇用保険の資格取得手続きを行う義務が生じます。こうなると、当然失業給付が受給できなくなります。アルバイトをするなら、週に20時間を超えないように契約することがポイントとなります。

 1日に4時間以上(20時間未満)の労働をすると、1日分の失業給付の支給が先送りになります。減額されることはありませんが、働いた日数分、支給開始日が後ろへずれるということです。

 1日4時間未満のアルバイトの場合でも、1日の基本手当の金額の80%よりも多く稼いでしまうと、支給されなくなってしまいます。
A…基本手当日額+収入(内職等による1日分の収入金額-控除額)
B…前職での賃金日額×0.8上記の結果に基づき、対処が変わります。
1.A<B、または、A=B 場合 → 全額支給
2.A>B → 差額が減額されて支給
3.1日分のアルバイト収入がBより多い場合 → 支給なし

 つまり、1日4時間未満の労働でも、収入金額によっては、失業給付が減額されたり支給されなかったりしますが、1日4時間以上(20時間未満)のアルバイトであれば、基本手当の金額は変わらず、支給が先送りになるだけということです。

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労災申請様式の書き方

 労働者が業務中に被った怪我や業務が要因の疾病に罹患した場合、労働者災害補償保険が適用されることになります。その際に治療にかかる費用の請求様式として最も一般的な様式5号の記入についてです。解説の前に、まず様式を入手する必要がありますが、厚生労働省のHPからダウンロードして使うことができます。


記入の仕方の要点

(1)①管轄局署、②業通別、④受付年月日、⑥処理区分、⑦支給・不支給決定年月日、⑪再発年月日、⑬三者、⑭特疾、⑮特別加入者の欄は記入する必要はありません。

(2)⑤14桁の労働保険番号

 労働保険番号は、「会社に聞く」または「事情を話して労働基準監督署に聞く」ことで確認できます。
 ここでの疑問点は、建設業における下請け会社の従業員が元請の建設現場で怪我をした場合、派遣社員の派遣先での業務中の傷病や出向者の出向先での傷病の場合です。建設業における下請け会社の従業員が元請の建設現場で怪我をした場合、記入されるべき労働保険番号は元請建設会社のものとなります。一方派遣労働者の場合には、派遣者元、つまりは直接雇用されている会社の労働保険番号が、出向の場合には、派遣先の会社のものとなります。

(3)⑩負傷又は発病の年月日、⑰負傷又は発病の時刻、⑲災害の原因及び発生状況

 怪我ではなく疾病の場合、発病年月日は不明な場合が多いと思います。その場合には、とりあえず「初めて病院を受診した日」を記入します。正式な発病年月日は、後日、労働基準監督署の調査により決定されます。また、発病時刻が不明な場合には⑰の記入は不要です。

(4)事業の名称、事業場の所在地、事業主の氏名

 5号様式では、事業主が⑩負傷又は発病の年月日、⑰負傷又は発病の時刻、⑲災害の原因及び発生状況の証明を行うことになっています。会社印の押印は必要ありません。日付欄は、事業主証明をした日付を記入します。
 ここでいう事業主とは、(2)で選択した労働保険番号の事業主と軌を一にする形で、建設現場は元請事業場、派遣の場合には派遣元、出向労働者の場合には出向先です。そして、労働者の所属事業場の名称欄には労働者が直接雇用されている事業場の名称・所在地を記入します。

 (参 考)事業主が証明を拒んだとき

(5)労働基準監督署と病院

 労働基準監督署と病院の欄は、管轄の労働基準監督署名と様式を提出する病院や薬局の名前を記入します。日付は病院や薬局に提出する日付を記入します。

(6)㉒その他の就業先の有無

 ここから裏面の記入欄です。怪我や疾病をした時点で副業をしている場合など、その事業場の他にも働いていたところが有ったか無かったか、その有無を記入します。無い場合は「無」に○をするだけです。有る場合は、「有」に○をしたうえで、怪我をした会社以外の就業先の数を記入します。さらに、特別加入している人は、労働保険番号・労働保険事務組合名・加入年月日を記入します。

(7)派遣先事業主証明欄

 派遣労働者が労災請求する場合に使用する欄です。それ以外であれば記入する必要はありません。

(8)東京労働局

 労災様式の書き方を照会する際の電話番号 : 03-5812-8391
  
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