「ホワット・イフ?」
サブタイトルにもなっている「野球のボールを光速で投げたらどうなるか」など、バカげた質問に科学的に答える本。xkcdの1コーナーの書籍化で、2015年に日本語版が出たときに話題になったけど、たまたま最近読んだ。
xkcdの作者が、物理学畑出身で元NASAというバックグラウンドで回答する。例の棒人形マンガも出てくる。ふざけた口調でも、堅苦しい口調でも、わざと堅苦しい感じにふざけた口調でもなくて、気さくでナチュラルながらユーモアをまじえた口調で回答している。
たとえば上記の「野球のボールを光速で投げたらどうなるか」の場合。ボールの前で核融合が起こり続け、バッターのところにはプラズマ雲が先に到達し、かつてバックネットがあったところより数十メートルから100メートルほどの地点を中心とする巨大なクレーターとなる。
「地球にいる人間全員が一斉にレーザー・ポインターを月に向けたら、月の色は変わるか」という質問の答はノー。なんだけど、どこまでやれば月の色が変わるかエスカレートし、メガワットレーザーを並べて5ペタワットの電力で照射。最後には出力500テラワットのレーザーを照射し続けて月も地球も消滅させてしまう。
「海から水を抜く」は海底の地形を知るのに面白い。海底に排水口ができたものとして、海面が50m下がったとき、100m下がったとき、200m下がったとき……と、どんどん下がってくる。日本列島はロシアと朝鮮半島につながり、カリブ海とメキシコ湾は大西洋から切り離され、3km下がると中央海嶺の先端が現れてくる。そしてパート2では、そのぶんの水が火星に流れ込んだ場合の地形の変化が解説される。
「DNAがなくなったら」は、本題の考察のかたわら、実際に細胞がDNAの指示に従うプロセスを妨害する「死の天使」キノコなんて怖い話が出てくる。
疑問そのものより、その疑問を実現することが問題になるものもある。「元素周期表を現物で作る」では、毒が発生するものから、隣りの元素との組み合わせで燃え上がるもの、放射性のものなど、どんどんえらいことになっていく。
「地球にいるすべての人間ができる限りくっつきあって立ってジャンプし、全員同時に地面に降りたら、どんなことが起こりますか?」という質問では、それ自体は大した影響はないけど、地球にいるすべての人間が集まったことによる影響が……
ちなみに、「半分空のコップを見て、楽天家は半分水があると思い、悲観論者は半分しか水が入っていないと思い、エンジニアはコップが必要な大きさの2倍だと思う」というジョークは気に入った。
「人魚ノ肉」
木下昌輝氏のデビュー作「宇喜多の捨て嫁」は、トリッキーな視点と書き方に唸らされた。で、それに続く2作目の本作「人魚ノ肉」が文庫化されたのをきっかけに読んだ。やはりトリッキーな小説だった。
幕末を舞台に、坂本竜馬や岡田以蔵、新撰組らが人魚の肉を食べて怪異に直面する。吸血鬼、ゾンビ、ドッペルゲンガー、さらには時の環の中を永遠に殺され続ける不死(?)の者など。そうしたエピソードを、1話完結の短編連作で描く。
それらのフィクション要素が、史実や伝承にある話にうまくあてはめられているのがトリッキーでうまい。沖田総司の有名エピソードにはなるほどと思ったし、斎藤一のラストにはおおそう来たかと。
さらにトリッキーなのが、1話完結の短編連作で、ほかのエピソードの人物やシーンが後のエピソードにからんでくる形式だ。「パルプ・フィクション」みたいというか。
終盤には、人魚の肉と人魚の血の関係も語られる。最終的に不死になったのは……?
「新仮面ライダーSPIRITS」18巻
人類+仮面ライダー vs. バダン+三影たち vs. デルザー+大首領の3つどもえの戦い。バダンからの同盟を申し出を断わる仮面ライダーに、村雨良は……
というわけでこの巻ではデルザー、特にジェネラルシャドウが軸になって、敵として活躍している。
燃やせよ 全部が灰になるまでだ
巻末インタビューは、そのジェネラルシャドウの声をあてた柴田秀勝さん。
「英国一家、日本をおかわり」
アニメにもなった「英国一家、日本を食べる」のマイケル・ブース一家が、10年たって再び日本に。子供2人もミドルティーンとローティーンになった。まあマイケル本人はその間もTV番組で日本に来てたけど。
今回は、沖縄から北海道まで南西から北東にくまなく回り(ただし複数回かけて)、その土地ごとの食べものを探求していく。著者は日本の伝統的な食や自然を求めているようで、テロワールも意識している。
で、求道的な料理人や製造者などを中心に訪ねていく。鹿児島の焼酎酒造、有田焼の工房、静岡の茶園、新潟の酒造と麹メーカー、福島の米農家、函館のウニ漁など。
そのぶん、画一的な現代のものや、あまりに観光地化されたものは否定的らしい。日本を愛しつつも、いろいろな辛辣なことを書いている。日本のカレーライスなど、ユーモアをまじえつつも、かなりの辛口評価だ(カレーだけに)。
ちなみに、著者がイザベラ・バードについて「全般に尊大で不快にも感じる」とコメントしているのは、意外に思った。
「Q.E.D. iff」10巻、「C.M.B.」38巻
人気ミステリーコミックシリーズの最新刊が、今回も2冊同時発売された。以下、ネタバレに気をつけているつもりだけど、未読の方は念のためご注意を。
「Q.E.D. iff」は「アウトローズ」と「ダイイングメッセージ」の2編を収録している。
「アウトローズ」は、豪華客船で開かれた金庫破りゲームに燈馬君と水原さんのコンビが参加する、派手なエピソードだ。集まった参加者たちも謎めいていて、ゲーム自体にも裏がありそうで……ということで、話が二転三転する。本格推理というわけではないけどけっこう伏線も張られているし、この手の話でときどきある「二転三転してるうちに登場人物が何をしたかったんだったかわからなくなる」こともなくて楽しめた。
「ダイイングメッセージ」は、バブル時代に南の島に建てられたまま廃墟になったホテルから白骨死体が見つかり、30年の時を超えて誰が犯人で誰が被害者かを追う。「濃い」登場人物たちが話を掻き回してるなと思ったら、そういう結末だったのか。
「C.M.B.」は、「目撃証言」と「光の巨人」の2編を収録している。うち「光の巨人」は、前・中・後編の3話分の長さだ。
「目撃証言」は、恋人を殺した罪で服役した男が、出所後に自分の無実を証明できるという謎の目撃者を追う。ひねりが効いた話で、ちょっと、「Q.E.D.」15巻のあの話や、「Q.E.D.」24巻のあの話を連想した。
「光の巨人」は、13世紀に北欧神話を記した文献「エッダ」の成立過程と、現代で調査先から謎のメッセージを送ってきた父を探す少年の話を交錯させた冒険潭。「C.M.B.」36巻の「ルバイヤードの物語」に似た話の構造だ。
「エッダ」のことは知っていたけど、書いたスノッリのことは知らなかったので、こんな面白い人物だったとは。そして話は現代のアイスランドを舞台に、ある物を追うある組織(インディージョーンズでもあれを追ってたな)との戦いとなる。岩に温泉にオーロラ。あと、十徳ナイフがあればどんな困難でも解決できるというのが「マクガイバー」っぽいなとちょっと思った。
XKBのキー配列でCtrlとCapsを入れかえ、変換と無変換をShiftにする
最近のLinuxのデスクトップ環境では、キーをXKBという機構で管理しています。最近、新規でLinuxデスクトップ環境をセットアップしたので、ついでに自分のキーカスタマイズ方法をメモしておきます。カスタマイズ内容は、タイトルのとおり、CtrlキーとCapsキーを入れかえるのと、変換キーと無変換キーをShiftキーにすることです。
まず設定ファイルのディレクトリを作ります。
$ mkdir -p ~/.xkb/{keymap,symbols}
使っているキーコンポーネント名をファイルに保存します。
$ setxkbmap -print > ~/.xkb/keymap/mykbd
symbolsディレクトリの下に新規ファイルを作ります。ここでは仮に「henkan」とします。
$ vi ~/.xkb/symbols/henkan
無変換キーに左Shiftキーを、変換キーに右Shiftキーを割り当てるには、以下のような内容を書き込んで保存します。
partial modifier_keys xkb_symbols "thumb_shift" { replace key <MUHE> { [ Shift_L ] }; replace key <HENK> { [ Shift_R ] }; };
キーコンポーネント名を保存したファイルをテキストエディタで開きます。だいたい7行ぐらいだと思います。
$ vi ~/.xkb/keymap/mykbdf
こんな感じで変更します。
xkb_symbols { include "pc+jp+inet(evdev) }; ↓ xkb_symbols { include "pc+jp+inet(evdev)+ctrl(swapcaps)+henkan(thumb_shift) };
「henkan(thumb_shift)」は、symbolsディレクトリの下に作ったファイル名と、そのファイルでxkb_symbolsで定義した名前です。
設定を読み込みます。
$ xkbcomp -w0 -I$HOME/.xkb ~/.xkb/keymap/mykbd $DISPLAY
「$HOME」と書いているのは、「-I」の直後の「~」はシェルが展開してくれないためです。
なお、IMフレームワークにiBus使っていると、IMを切りかえたときに、カスタマイズされたキー配列がクリアされます。これは、iBusではIMがキー配列と結びついているための必然です。
iBusではなくFcitxを使っていて、半角/全角キーによりIMをオン/オフしたときにも、キー配列がクリアされてしまう場合があります。これはGNOMEとiBusの統合機能が有効になっていて、iBus方式のキー配列管理がされているからです。Fcitxでこのようになる場合には、統合機能を無効にします。
$ gsettings set org.gnome.settings-daemon.plugins.keyboard active false
「人に話したくなる世界史」
「居酒屋で人に聞かせて、ああなるほどって思わせるような話」をコンセプトとして世界史を語る本。歴史の話というと単一の国や地域の話になりがちだけど、同時代の複数の地域の関係を語ってるのが面白い。そして、全体を国際貿易が軸として貫いているのが特徴だ。
その特徴が特に印象的だったのが2章だ。中世にはヨーロッパは後進地域でムスリム圏が先進地域だったことは知っていたし、ヴァイキングが略奪だけでなく交易や開拓をしていたことも知っていた。が、本書で、ヴァイキングがムスリム圏と国際貿易をしていたことや、その交易ルートを後のハンザ同盟が継いだことを知った。
それに先立つ1章は、アレキサンドロス大王の東征を、それに先立つオリエント〜インダスの交易から読み解く。
3章からは、大航海時代からのヨーロッパ躍進の話が続く。大航海時代の始まりとアフリカ、大航海時代の東アジア圏(イスラム勢力とイエズス会)、ポルトガルとスペインが世界を二分していた時代など。また、グーテンベルクの活版印刷は、商業活動マニュアルや契約書に大きな影響を与えたとか。
8章から、それまで少しずつ出てきたイギリスが中心になる。借金やバブルを抱えながらうまく立ち回った話や、綿織物生産がインドからイギリスに移っていく過程など。
10章から南北アメリカの発展が始まる。背景には、「戦争と商売は別」というヨーロッパの考えによって中立国・中立都市が発展する構図がある。本書のオビで言及されている「母をたずねて三千里」に関しては、蒸気船によるヨーロッパから中南米への労働力移動と、イギリスの非公式帝国化が語られている。
最後に12〜13章では、イギリスのヘゲモニー(覇権)を、プラットフォームを握った者の強さという、現代のインターネットにも通じる視点から説明する。