「室町無頼」
2016年下期直木賞候補にノミネートされた小説。ノミネート以前から面白いという評判は聞いていて、でもようやく読んだ。やはり面白かった。
応仁の乱の直前頃に起こった蓮田兵衛の徳政一揆(私は本書で知った)を描く。ただし、それを最後のクライマックスに配置して、そこまでは主人公の成長や、主要人物の人となりを描く。
その登場人物が魅力的なのが本書の最大の特長だと思う。ストーリーというより人物の魅力で話を引っぱっていくというか。
背景は、京の川に餓死者の死体が多数流れ、金持ちは飽食しているという、貧富の格差が激しい時代。そこで農民より下の暮しをしていた牢人の子の才蔵が主人公となり、棒術ひとつで時代を駆けていく。
蓮田兵衛と骨皮道賢という、実在した2人の人物が、物語としては主人公以上に活躍する。いずれも清濁あわせちつつ芯は理想家として描かれている。
ほかにも、その3人が関わる芳王子という美女やら、脳筋キャラの馬切衛門太郎やら、魅力的な人物が続々と登場する。悪役の法妙坊暁信もいい味出してるし。
清濁あわせもつ人物が革命を目指すというのは、ちょっと船戸与一の南米ものを連想した。あと、雰囲気はマンガ「バンデット 偽伝太平記」とか。
「Q.E.D.」8巻、「C.M.B.」36巻、「捕まえたもん勝ち! 2 量子人間からの手紙」
人気コミックシリーズの最新刊が、今回も2冊同時発売された。さらに、同じ作者による小説「捕まえたもん勝ち!」の続編も発売された。「C.M.B.」には、「捕まえたもん勝ち!」のヒロインの七夕菊野(キック)もゲストで登場している(本の間でストーリー上の関連はない)。
以下、ネタバレに気をつけているつもりだけど、若干はあるので、未読の方は念のためご注意を。
「Q.E.D. iff」は、「海辺の目撃者」と「白いカラス」の2編を収録している。
「海辺の目撃者」は、少年が目撃した殺人事件のシーン(一人称視点)の本当の意味と、なぜそうなったかを塔馬君が探る。ちょうど話題になった小説家のアレとタイミングがよかったといえないこともない。
「白いカラス」もそういう意味で、それまで描かれていたと思った物語の背景が、ラストでまったく違う意味に変わる作品だ。そこにビジュアル伏線も張られている。おまけとして、冒頭のエピソードの意味もラストで変わってくるというのがニクい。
「C.M.B.」は、「山の医師」「ルバイヤードの物語」「かすみ荘事件」の3編を収録している。
「山の医師」は、チベットの若者が西洋医学を学ぼうとしてチベット医の師匠がバックアップするために用意した物を探す宝探しストーリー。博物ネタは、山サンゴ、曼荼羅図、チャクラなど。
「ルバイヤードの物語」は、オマル・ハイヤームの「ルバイヤード」の原本にまつわる現在の殺人事件と、その背景となるオマル・ハイヤームと暗殺教団のハサン・サッバーフの関係を描く。「問題は『なぜ密室になってしまったか』」。あと、サマルカンド(ウズベキスタン)って美しくていいところだよね。
「かすみ荘事件」は、キックがゲスト登場した話。無人になったアパートの大家が行方不明になって、どこに行ったかを探る。のだけど、なぜ探すのかが最大の謎となっている。キック、伏見警部にかわいがられているなあ。博物ネタは、ヤマトセンブリ。
「捕まえたもん勝ち! 2 量子人間からの手紙」は、「捕まえたもん勝ち!」の続編の小説だ。深海安公(アンコウ)とコンビで(というのは前巻を未読の人にはネタバレだけど)、ちょっと塔馬君と水原さんっぽい感じで事件を追うのが前巻とちょっと雰囲気が違うところだ。とはいえ、ストーリーの表面としては、組織内の足のひっぱりあいや対立を軸にしているのは、前巻に続いて警察小説っぽい部分かも。
ストーリーは、“罪”を負った男女のグループが「そして誰もいなくなった」ばりに順番に殺されていく事件。キックとアンコウは日米を行き来しながら真相を追う。「量子人間」という意味が解決後にわかるのだけど、伏線の部分では英語が苦手なのでまったく気付かなかった。
「泣き虫弱虫諸葛孔明」第伍部
酒見賢一版の三国志が完結した。劉備、関羽、張飛とも亡くなったあとの、南征と北伐、そして孔明の死を描く。
最初のころのハチャメチャさに比べるとおとなしくなった。でも、「三國誌」での戦下手丞相と「三国志演義」での天才軍師とのギャップをメタフィクション的にネタにする路線はずっと一貫していたと思う。