「インターネットのカタチ」
オーム社
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「Geekなぺーじ : インターネットが物理的に壊れる原因いろいろ」は面白かった。酔っぱらったハンターが光ファイバーを射撃したり、クマゼミが光ファイバーに産卵したり、銅線泥棒が区別つかずに光ファイバーを持っていっちゃったりと、けっこう意外な原因でインターネットが物理的に壊れるものだなと。
これらのエピソードは、同じ著者による書籍「インターネットのカタチ」からの抜粋だということで、読んだ。本書では、物理層やルーティング、DNS、エジプトのインターネット遮断、インターネット検閲、ネット渋滞など、さまざまなレイヤーで「インターネットが壊れた」事例をいろいろ紹介。それを糸口に、インターネットの仕組みと「壊れやすさ」を解説している。
障害事例を軸に読み物として話の流れを作っているのが面白い。「チェコ発インターネットバラバラ事件」なんて見出しで始められたら、読んじゃうよね。
で、そうした読み物からつながっているインターネットの仕組みの解説も、平易な説明ながら深い内容で、へーそうなってたのか、と勉強になった。BGPまわりの話とか、ルーターの実装の違いによる問題とか、ルートDNSの構成とか、インターネット遮断の仕組みとか。
あと、けっこうインターネットって、ルーティングとかDNSのレベルで、こまめに壊れてるのだなというのが、へぇだった。著者の言う「報道されると重大事件と認識され、“中国が…”などと変に衝撃的に受け止られたりする」とかいうところなども。
「Software Design」2011年10月号
技術評論社 (2011-09-17)
特集1はFreeBSD。これからFreeBSDに触れる人を対象に、技術的な詳細をつっこむというより、どんな特徴があるかをオーバービューする作り。FreeBSD 9.0の変更点やZFSの最新動向、各種BSDの紹介などが参考になった。ただ、「非常に負荷の高いインターネットサーバーではFreeBSDやSolarisの人気が高く、それ以外(たとえばLinux)の採用が少ない」というのは、この21.1世紀ではどうなんだろう。
特集2は社内ネットワーク管理者向けの話。telnet・nc・opensslという鉄板ツールから、SNMP系ツールの紹介、トラブル事例、ライブドアの社内ネットワークなどを解説している。管理系の話ではほかに、自作インフラ連載で、サンプルを例にChefの設定を解説している。
最近話題のScientific Linuxの記事もあって、特に後半のCentOSとの違いが参考になった。Linuxディストロ系の記事では、Ubuntu連載が、ライブCDのカスタマイズをGNOME 3+GNOME Shell環境を例に解説。
はんだづけカフェ連載で、なにげに128×64ドットのモノクロドットマトリクス液晶にWindowsの画面を表示した例を紹介していて笑った。
連載の最終回がいくつか。松信氏のデータベース技術連載は、スキーマ変更やレンジパーティショニング、Write Onceデータベース、マルチマスタなど。Excel VBA連載は、宇宙旅行パズル(川渡り問題のようなパズル)をVBAで解く話。OpenFlow連載はNOXモジュールの実装の話で、終了ではないけど、来月からTremaの人にバトンタッチと。
ほか、Emacs連載は、Common LispのQuicklispやClackの解説で、Emacs関係ないけど情報がまとまっていてわかりやすい。「SoftwareDesigner」インタビューは、DNSや今のTLDの発祥の話で、エピソードとしてDouglas Engelbartの研究室の様子なども。
「日経Linux」2011年10月号
日経BP社 (2011-09-08)
特別企画「究極のLinux機! スパコン世界一「京」の全貌」が興味深かった。SPARC64アーキテクチャのCPUとLinuxという汎用パーツをベースにして、いかに独自の構成と改造によって世界最速の並列演算を実現するかを解説している。
特集1は自宅サーバー構築特集。WebメールやCMSのようなオーソドックスなものから、古いAndroid端末をchrootでDebian化する話、プラグコンピュータDreamPlugでLAN内の音楽データのインデックスを作る話、Suicaを読んで交通費清算する話、Amazon EC2で将棋ソフトや動画の分散エンコーディングを動かす話まで。基本的にUbuntu Serverで説明しているのが、同誌としては珍しい。
特集2がMeeGo。著者お得意の、Nexus OneでMeeGoを動かす話も載っていた。
マンガで学ぶ「シス管系女子」は、パーミッションとsudoによるファイル操作。そのライバル(?)の美女Linux連載は、ディレクトリ作成とファイルのコピー。
特別連載で、Android 3系のアプリ開発の話が始まっていた。同じくAndroid連載の「Web感覚で作るAndroidアプリ」は、WebAPIからデータを取ってくる話。
プリンタ連載は、CPUSの印刷ダイアログまわりを、CPDを中心に解説。CUPS 1.5の速報も載っていた。
そのほか、Wakame連載は仮想サーバーや仮想ネットワークのあたりの構成の話。Linuxo認証連載は、Active DirectoryをマスターにしてSambaのWinbindを利用する例。「やさしいLinux」はNVIDIAのディスプレイドライバを例にドライバの導入方法。Upstart連載は、Upstartとsysvinitとの比較。カーネル新機能連載はmdの不良ブロックリスト対応。アジア連載は、なぜかコロンビアのイベントとLinaroのハッカソンの話。Matzさん連載はJavaScriptとCoffeeScript。
bash 4.2のmanpageを翻訳
Linuxディストリビューションに付いてくるbashの日本語manpageにはお世話になっています。が、10年前のbash 2.05の翻訳なので、英文と比べると載っていないこともいろいろあります。
なので、現在の最新版であるbash 4.2のmanpageを訳してみました。
全部いちから訳したわけではなくて、bash 4.2のmanpageに、今あるbash 2.05の日本語訳の該当箇所を当てて、差分を訳しました。
現在JM Projectに投げてレビューしていただいているところです。JMのレビュー方式に合わせて、原文をコメントとして埋め込んでいるので、17,204行あります。
ちなみに参考文献。
オライリージャパン
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技術評論社
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「本当は危ない『論語』」
題名は“論語の正しい解釈を論ずる”という面倒そうな印象なのだけど、中身はむしろ“論語は本格的な中国史が始まる前の古代の書物だから、いろいろに解釈できてしまう”という立場だ。
著者の説の中でも、有名な言葉を次のように解釈しているのが、ちょっといい感じ。
14までは学問が好きじゃなかった。29までは自立できなかった。39まで自信がなかった。49まで天命をわきまえなかった。59まで人の言うことを素直に聞けなかった。まあ人生なんて、そんなものだよ。
そうした視点で、孔子とその一門の話から、論語の成立、後世がどのように論語を読んだかまで、いろいろなトピックを解説している。知識のない自分には、「論語は儒教の第一経典ではない」といった成立過程が特に興味深かった。
以下、メモ。
- 漢民族以外で漢字や論語を本気で受け入れたのは、朝鮮半島、ベトナム、17世紀以降の日本など、集約農業の国ばかりだった
- 論語は神もあの世ぬきでも道徳的な社会を築くことができるとした
- そのなまじな近代性が、中国人が近代科学というシステムを作れなかった元にもなった?
- 西洋の学問はプラトンの注釈(ホワイトヘッド)とすると、東洋の学問は論語に注釈をつける積み重ねだった?
- 論語は儒教の第一経典ではない
- 第一経典は「書」こと「書経」
- いにしえの天子の言葉と伝承を収録した書物
- 論語は副読本の扱い
- 第一経典は「書」こと「書経」
- 宋代、新儒教
- 朱子、王陽明
- 四書五経を決め、論語を含む四書を入門テキストに
- 孔子の時代には個人著作という考えはなかった
- 書物は神話や伝説
- 個人の思想を書物で伝えるようになるのは戦国時代から
- 諸子百家の大半は孔子より後の時代
- 孔子は原始的
- 孔子、釈迦、第二イザヤ(旧約聖書)はほぼ同じ時代
- 原「論語」は「伝」とだけ呼ばれていた
- 史記でも論語というタイトルは使っていない
- 「魯論」「斉論」「古論」の3種類あった
- 論語というタイトルは漢の武帝の時代に使われ始め、前漢末に定着
- 魯論を土台に斉論を参考に作られた「張侯論」を、古論と校合して「論語」ができた
- 論語は前半と後半でトーンも変わり、前半と後半との重複も多い
- 孔子は史記において世家に入れられており破格の扱い
- 孔子は歴史書である春秋の編集で知られていた
- 孔子の伝記としては論語より史記のほうが詳細(ただし400年後)
- 孔子の得意分野は有職故実
- タカ派の孔子
- 夾谷の会
- 蒲で孔子が拘留されたときに門人が力戦
- 孔子十哲である魯の冉有が斉軍に勝利したとき「戦争を孔子に学んだ」と答えた
- 孔子の時代である古代は、血縁が最重要視されていたため、志縁集団である孔子一門は異端視されていた?
- 儒教独特の師弟関係
- 儒教が中国を支配するようになった経緯は、必然というより偶然の要素が大きい
- 孔子の最期は、ほかの古代の偉人とは違い、嘆きながら亡くなった
- 「不惑」の言葉は、最も解釈が分かれる
- 説得や商売の上手な子貢が6年も墓の前で無為に過ごしていたとは考えにくい。孔子を顕彰するための布石を打っていた?
- 「ロンゴ」という音は流連系と堅固系の組みあわせ
- 擬音感が孔子の教育観に一致する
- 「仁」の音は柔く、「義」は固い。「仁義」とセットにしたのは戦国時代の孟子
- 現代中国語より日本語の音読みのほうが、論語の擬音感に近い?
- 論語は古代の文章でわかりづらい
- 語彙が少なく、文法が単純で、形容詞も少ない
- 文章は口伝えの補助である半完成品
- 区切りで解釈が変わる
- 「馬を問わず」か「馬を問う」か
- 「まれに問う、利と命と仁と」か「まれに利を言う、命と与にし、仁と与にす」か
- 「民は之を由らしむべし、之を知らしむべからず」か「民の使うべきは之を由らしめよ。使うべからずは之を知らしめよ」か「民、可ならば、之を由らしむ。不可ならば、之を知らしむ」か
- 中国のインターネット上では、2番目か3番目であったはずという説が流行
- 論語の中には、夫人の呼び方やキジが飛んだ話など、わりとどうでもいい話も入っている
- 錯簡説も
- どうとでも解釈できることから、孔子を評価する人も批判する人も論語の同じ部分を根拠にする
- 古代日本に論語が伝わった時期とされる話は、千字文とセットになっている
- 確認されている日本最古の論語は、7世紀ごろの習字木簡
- 律令時代の日本では、漢文レベルが低かったぶん、論語が重要視された
- 政治や文学には反映された形跡はない
- 日本で最初に論語を実践したのは加藤清正
- 家康の策により、江戸時代の武士は論語を含む素読が教養となった
- 江戸幕府は、儒学を奨励したが、儒教を警戒した
- 儒学者も仏教式の葬儀を強要された
- 江戸の出版文化:町人も四書五経に触れた
- 江戸時代後期になると、下級武士や民衆が向上心として論語を学んだ
- 論語と倒幕
- 幕末の志士の思考力も論語の素読から生まれた?
- 「志縁集団」大塩平八郎の乱
- 水戸学
- 「師弟カルト集団」松下村塾
- 「儒将」西郷隆盛
- 論語が真の意味での国民的書物になったのは明治以降
- 渋沢栄一:「士魂商才」
- 零戦を設計した堀越次郎:「和して同せず」
「WEB+DB PRESS」vol.64
技術評論社
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人気ですねえJavaScript。特集2「JavaScript最前線」では、Node.js、CoffeeScript、jQuery Mobileという、JavaScript関連で新しくてホットなテーマを解説。概要だけではなくて、実際に使い始めるための情報がまとまっていて参考になる。あと、Google Spreadsheetsで公開している情報をJavaScriptで取るにはGoogle Visualization APIが簡単、というのは豆知識だった。
特集3は「作って学ぶ日本語入力」。日本語入力の概要に始まり、最短経路問題、構造化パーセプトロンと構造化SVM、トライとダブル配列などを解説している。WEB+DB PRESS plusシリーズの書籍で近刊予定とのこと。
特集1の「UIデザインの基礎知識」は、著者を見たらSleipnirの柏木氏ほかフェンリルの人たちで驚いた。UIデザインについて心得からTipsまで解説している中、「給料日には新しい製品を買って、無心になってUIの快・不快を評価する」というのが、UI評価の大変さを感じた。
「iPhoneヒットアプリ開発記」は、数時間で作ったというiPhoneアプリが大ヒットした現役高校生による体験記。すごいなあ。
あと、.NET連載がLINQメソッドを解説していて面白かった。Arelみたいな感じなのか。
そのほか、mixi連載がインターネット接続のマルチホーム化。Perl連載がPerlで使うジョブキュー。SQL緊急救命室が、ストアドプロシージャをSQLに書き換える話。Java連載がMavenやSpringのひな型を生成するツール。PHP連載が、PHPの入り口としてWebサーバーやCLIなどとつながるSAPIの話。JavaScript連載が、HTML5で比較的地味に規格化されたAPIの話。Ruby連載が、TwitterやFacebookとRailsアプリとの連係。スマートフォン連載が、XperiaのTimescpaeやLiveViewのプラグインの開発。
「Software Design」2011年9月号
技術評論社 (2011-08-18)
第1特集「運用エンジニア『攻め』の仕事術」が面白かった。Web系などの状況変化の激しいインフラを中心に、設備の設計や増強、運用自動化などで先手を打っていく事例を、Webで大きいサービスをやっている各社の人が解説している。一方で異常系に対応する運用エンジニア、必要とあればシステム再起動やメンテナンス画面で凌ぐような泥臭いこともやり、障害時に二次災害を起こさないよう間違いを避ける心得なども語られている。
運用関係の話では、連載「データベース技術の羅針盤」がDeNAのデータベースやクラウドの選択や運用について解説。連載「システム基盤構築記 by mixi」は、mixiでの運用ポリシーを紹介。連載「自作インフラのススメ」では、並河氏がChefを紹介。
第2特集が、「トップエンジニアのお薦め本55」。小飼弾氏とジュンク堂長田氏の対談に始まり、名だたる技術者さんたちが本を紹介している。基本的にオーソドックスなセレクションで参考になる反面、隠れ名著的なサプライズはないんだけど(コンピュータ書でそれは難しいけど)、谷口氏の切り口は驚いた。
「サーバーサイドJavaScript『Node.js』を知る」は、最近流行のNode.jsの解説記事。なぜNode.jsかに始まり、Node.jsとnpmをインストールし、モジュールをインストールしてIRCボットを作っている。
そのほか、OpenFlow連載は、OpenFlowコントローラのモジュールを作って制御ルールを追加する例。Ubuntu連載はKVMで仮想マシンを作ってlibvirtでコントロールする話。Emacs連載は、Common Lisp開発環境を作る話。「はんだづけカフェなう」は、ArduinoにNFCリーダライタをつないで、おさいふケータイにURLを送るところ。「Excel VBAはぐれ技純情派」は、DAOを使ってほかのExcelシートのデータをSQLで取得する例。