「鉄道忌避伝説の謎」
吉川弘文館
売り上げランキング: 415,092
私の出身地では、「江戸時代まで栄えていたわが町では、鉄道を通すときに反対運動が起きて、駅のできた隣の町のほうが栄えるようになった」と言われていた。長じてみると、同様のことが言われている土地があちこちにあると知った。
本書は、そうした「鉄道忌避伝説」について検証する本だ。著者は、鉄道忌避伝説はあくまでも伝説であり事実と異なるとする立場。なのだけど、そのような運動が“なかった”ことを証明するのは、悪魔の証明とかブラックスワンとかいうやつで、難しい。で、著者がいろいろ資料を出していくところが見所だ。
たとえば、中央線が東中野あたりから立川あたりまで直線なのは、もともと甲州街道沿いに作ろうとして反対されたからという伝説について。著者は、最初の計画から現在のルートであり反対運動が記録に残っていないことや、もともと線路は直線が望ましいことなど、間接的な材料を提示する。
また、中央線に先立つ馬車鉄道が反対されていたという資料から、それと混同されたのではないかと推測。さらに、忌避伝説が、第二次対戦後の地方史誌により急に広まったことなどを指摘している。
もっとも、すでに栄えていた土地には鉄道を通しにくく、結果として鉄道が通らないことになる。千葉の船橋の鉄道忌避伝説がそのパターンで、中心部を外れたところに駅が作られている。これも、忌避伝説を調べてみると、むしろ誘致運動の記録が見付かっているという。
そのほか、当時の汽車の性能などから高台にある町を避けた例(上野原)や、川に橋を架ける位置の関係で外れた例(岡崎)なども、間接的な材料として解説。さらには、本当に鉄道忌避運動があった例(伊勢に向かう参宮線)まで紹介されている。
このように、「鉄道忌避なんてあるわけない」と一刀両断する本でなく、否定的なケースもまじえて地道に材料を重ねていく本で、それにより明治時代の鉄道計画が見えてくるところが面白かった。
「王様達のヴァイキング」1巻
ハッカー&クラッカーの主人公が活躍するマンガ。非コミュでおどおどしていて無邪気な少年が、超ハイテンションなエンジェル投資家に拾われて、プログラミングやクラッキングで天才っぷりを発揮する話だ。「ブラッディ・マンデイ」や映画「ソーシャル・ネットワーク」あたりを足したような感じ。
で、コンピュータ好きな人には、ディテールが凝っているのが見所だろう。Ubuntu 12.04 LTS(LightDMが英語UI)をインストールしたThinkPad X41改(キートップ摩耗、ステッカーべたべた)が愛機で、IRCとかも出てくる。主人公が“壊して”しまうエピソードとかも、Web開発を知っている人のネタだし、主人公のキャラが表現されてて面白い。実際に、技術者の人が何人か監修に参加しているらしい。
というのを、Piroさんの紹介文で見て、夜中に電子版で買って面白く読んだ。ちなみに、スピリッツで連載しているらしい。
「日経Linux」2013年12月号
発売から半月たってしまいましたが、執筆に参加しましたので報告と宣伝を。
巻頭レポートで、10月のUbuntu 13.10リリースについて2ページほど書きました。DashのSmart Scopesと、日本語入力まわりの話が中心です。日本語RemixがRC版のときだったので、その旨断わったうえで、全体的に概要を伝えることに絞ってさっくりとまとめています。
自分関係はそれぐらいにして、以下、通読メモ。
特集1が、「サーバー超マスター100ステップ」。入門からはいって、各種サーバーソフトや設定法などを紹介。ownMdmって知らなかった。最後は、DRBDを設定してMySQLのデータを格納したり、KVMを使ったり、KickStart + virt-install + Puppet + GitHubで管理したり、OpenStackやGlusterFSを使ったりと本格的なネタに。このへんはクレジットを見ると、サードウェア黒木氏・びぎねっと宮原氏・レッドハット中井(悦)氏の執筆かな。
その中井氏の連載「サーバー構築の自動化を基礎から伝授」も、今回のテーマはPuppetによるサーバー構築の自動化について。
特集2は、「激安ボードで即はじめる! 知識ゼロから始めるLinuxモノ作り」。PC畑でマイコン工作には詳しくない初学者あたりを対象に、Part 1では格安ボードの「PCボード」「マイコンボード」の分類や、I/Oインターフェイスの基礎、ボードの紹介、Lチカあたりを解説。Part 2では、BeagleBone Blackを使い、温度センサーで測った室温をNode.js経由でブラウザにグラフ表示するのを解説。
そっち方面では、Raspberry Pi連載が最終回で、ネットラジオ端末が完成。LCD表示ドライバの続きと、ImageMagick + GhostScriptによる日本語テキストの画像化、ダンパー抵抗やプルアップ抵抗、ボタン操作、rsyslogの影響など。
特集3は、Chromium OSをビルドして動かす方法の紹介。ソフトの追加やカーネルのカスタマイズなども。そっちのディストロ系では、旧型PC連載が、Core 2 Duo世代のマシンにCentOS + CDHでHadoop体験環境を作る話。
Matz氏連載がJavaScript。JavaScript処理系の高速化への取り組みや、AltJS(TypeScriptやJSX)について。あと、ビッグデータ連載が、CentOSからfluentd経由でログをTreasure Data Platformに送るあたりの話。
LibreOffice連載が、Writerのマクロによるテキスト置換と、Impressのマクロによる画像挿入。Windows XPからの移行連載が、Windowsで使っていたアプリに相当するアプリの紹介や、ブックマークやIME辞書などのデータの移行など。Linux超入門連載は、代表的なアプリの紹介と、ソフトウェアパッケージの概要。
亀澤氏のカーネル連載が、NUMAでkswapdがノード単位で動作することによる問題のあたりについて。LIPC連載が、psやfree、topの、ちょっと便利なオプションのあたり。
そのほか、巻頭レポートで、OSSTechの人による Samba 4.1の記事も。オススメフリーソフトは、テキスト読み上げのGespeaker。メイドさんAndroid開発連載は、変数について。コミュニティ連載がオープンソースカンファレンス(OSC)。
まいどおなじみ「#!シス管系女子 Season 2」は、sshの公開鍵認証。サーバーどこにあるんだかw
「Software Design」2013年11月号
技術評論社 (2013-10-18)
発売から約半月たっちゃったけど、以下、通読メモ。
特集1が、前月のVimに続いて「我が友『Emacs』」。Emacsとの出会いに関する和田祐介氏の軽妙なエッセイに始まり、各人のこだわりの設定を紹介。アリエルの井上誠一郎氏、Rubyのまつもとゆきひろ氏、小飼弾氏によるコラムも。そして最後は「Emacs実践入門」の大竹智也氏による、Web開発者を想定したおすすめライブラリの紹介。
特集2が「サーバサイドフラッシュFusion-io全方位解説」。フュージョンアイオー社の長谷川猛氏が、NANDフラッシュの基礎、フラッシュストレージの基礎、ioDrive2の特徴、フラッシュメモリのAPIであるOpenNVMの順で解説。また、ユーザーサイドでサイバーエージェントの桑野章弘氏と長谷川壮介氏が、ioDrivejのアトミックライトあたりのベンチマーク結果を掲載している。
Ubuntu 13.10の記事も。雑誌発売直前に正式版リリースだったので細かいところの違いはしょうがないとして、Ubuntu Japanese Teamの長南浩氏が詳しく解説していて参考になる。また、Ubuntu連載が、モバイルデバイス向けの「Ubuntu Touch」の概要と試しかた、中身の解説。Debian連載が、DebConf13のレポートと、それに関連して最近のDebian開発のトピック、Deiban 7.2など。エンジニアのレッドハット連載が、精神的な話。
FreeBSDの新連載「チャーリー・ルートからの手紙」も登場。今回は、psの出力の見方。特別企画で「魔法少女リリカルなのはINNOENT」の舞台裏の話の前編が載っていて、イベント期間中の備えの話など。
Linuxカーネル連載が、カーネルパニックなどのログを保存するpstoreと、起動パラメータでパーティションを指定するcommand line partition。ハイパーバイザ連載が、I/Oや割り込みのVMExitのあたり。シェルスクリプト連載が、テキストの表記チェックの例。自宅ラック連載がサーバーの選定。
はんだづけカフェ連載が、DIPマイコンにmbed SDKを載せる話。iOSアプリ開発入門連載が、ボタンによる分岐。Android開発連載が、2013年版アプリ開発入門の続きで、カスタムViewでの手書きやNavigation Drawerの実装。
そのほか、enchant連載が、デザインにからめて樋口真嗣監督登場。キーボード連載がTruly Ergonomic Mechanical Keyboard。Jenkins連載が最終回で、環境のバックアップやコピーについて。Riak連載が、EC2でRiakを動かして冗長&スケールアウト構成を組む話。セキュリティ連載が、UNIXのアクセス制御とwp-config.php問題の話。jus連載が「LLまつり」のレポート。Hack for Japan連載が、「Spending Data Party 2013」レポートと、「税金はどこへ行った? 宮城県石巻市版」に関するコラム。
「ナウシカの飛行具、作ってみた」
幻冬舎
売り上げランキング: 3,103
ポストペットの八谷和彦氏が、「風の谷のナウシカ」のメーヴェをモデルにした飛行機を作る活動を語ったエッセイ形式の本。巻末の謝辞によると聞き書きらしく、語りかけるような文章で綴られている。
2分の1模型に始まり、グライダー機を2機作り、執筆時点ではジェットエンジン機に進化。口絵には、それぞれの時代での写真とともに、ジェットエンジン機「M-02J」の紹介や仕様も。巻末には、あさりよしとお氏による「まんがサイエンス」形式のマンガも。
そうした開発の歴史や裏話、苦労話の中で、飛行機や部品などについてのウンチクや思い入れがいろいろ語られているのも楽しい。“日本で唯一の飛行機開発会社”の「オリンポス」や、そのオリンポスとの共同作業とか。
「忘れ去られたCPU黒歴史」
売り上げランキング: 18,673
Web連載で愛読してたけど、書籍化されてしばらくたってセールで電子書籍を買って読んだら、改めて面白かった。IntelやAMDを中心とするCPUベンダーにとって“黒歴史”な製品について、1回1製品の形式で、開発から黒歴史化までの事情を追って解説する本。技術面と業界状況面の両方が詳しく平易に紹介されていて面白い。
「タブーすぎるトンデモ本の世界」
と学会はどちらかというと、“常識に挑戦”しちゃったりする人をネタにする側だと思うんだけど、タイトルとテーマは編集部のリクエストらしい。ニセ皇室とかカルト宗教とかの社会ネタが中心。だけど、キリストと宿便を結びつけた「キリストの健康法」でストレートに笑った。あと、“サー中松義郎博士”がアパグループの懸賞論文で最優秀賞を受賞した「日本は負けていない」とか。
ニセ皇室関連では、そのちょっと前に発売された「トンデモニセ天皇の世界」が詳しい。現代のニセ皇室事件から、幕末の天皇すり替え説、南北朝と遡り、古代の天皇伝説の章となると著者も怪しい説にノッて書いているのが楽しい。
「武士の家計簿」
売り上げランキング: 4,592
10年前のベストセラーだけど、ふと手にとって、初読してみた。幕末の有能でマメな御算用者(会計官僚)による家計簿と家の履歴書類を分析することにより、一家のドラマと、当時の武士の様子の両方が生き生きと描かれている。なるほどヒットしたのも納得。
以下、本書からのコネタメモ。
- 藩の行政機関は、どこも厳しい身分制と世襲制だったが、ソロバンがかかわる職種だけは例外
- 加賀藩の数学教育には定評があり、海軍向きの人材が思いのほか育っていた
- 江戸時代では結婚期間は実は長くなく、いつ離婚してもいいように夫婦の財産は別に
- 武士は米相場に生活を左右されたため、明治になっって銀行員になったものには意外に旧武士が多い
- 靖国神社の大村益次郎像建立に幹事として奔走したのが、本書で分析されている猪山成之
「諸星大二郎特選集 第1集 男たちの風景」
小学館 (2013-10-30)
諸星大二郎自身が選んだ短編集全3巻の第1巻、とのこと。この第1集では、比較的初期の短編から「アダムの肋骨」「男たちの風景」など、そういう路線を収録。書きおろしで「彼方へ」「眠る男の夢を見る男は夢の中で生きているのか」の2編も。
「それでも町は廻っている」1〜11巻
女子高生の日常系マンガはあまり読んでないけど(避けているわけでもないけど)、“ちょっと「おまかせ! ピース電器店」っぽい”という感想を見て読んでみた。
1巻の表紙や最初のほうのエピソードがメイドさんネタで、最初は、そっち路線なのかなぁと思ったけど、そのメイド喫茶が普通の商店街の喫茶店(ばーちゃんが店主)だったりと、商店街の日常系ほのぼの話になっていって、なるほどと。
ギャグのハズしかた(やる気のない天使とか)や、なにげにシブいネタどり(ぼやき節に「SIONぽいな」「怒られるぞ」とか)など、いい感じ。11巻まで続けて読んだ。