多様化する雇用形態と雇用管理
先月銀座で開催された東京都社労士会中央統括支部の必須研修会の内容について、復習を兼ねてまとめてみました。今野浩一郎学習院大学教授による「多様化する非正規雇用社員及び多様な正社員の雇用管理」と題した講演だったのですが、主題が簡潔・明瞭かつ応用範囲の広い点で浅草社労士好みの内容でした。
1.基本的な考え方
今日、特に大企業などが採用している経営戦略の基本は「高付加価値型経営」であり、この戦略を推し進めていけば、これまでのどちらかといえば「年功型」の人事管理から、仕事と成果に基づく「成果主義型」の人事管理に移行しいていくことは自然の流れであるといえます。中小企業の場合、同じ「高付加価値型経営」を目指すにしても、必ずしも「成果主義」が唯一の答えとはいえないと浅草社労士は考えていますが、大企業の場合、主流の考え方は「成果主義型」で決定的です。
また、従業員の側も、これまでの比較的一律な正社員という概念に加え、パート、高齢継続雇用など雇用形態の多様化が進んできています。加えて、基幹社員であり、無制約を前提とした正社員でも、「介護」、「育児」、「傷病」などによる制約リスクがあることに目が行くようになってきており、正社員の制約社員化ということも重要な課題として採り上げられるようになってきました。このごろ俎上に上せられる「多様な正社員」というのは、正にこの制約のかかる社員の一形態の問題として捉えられます。
そこで、今後の人事管理の方向性は、これまでの会社の業務命令によって、「どこにでも行き」、「どのような業務もこなし」、「現場主義で何でもこなす」式の無制約社員を前提にした人事管理ではなく、「地域」、「時間」、「職種」など何らかの制約がかかる「制約社員」を前提とした人事管理に再編されていかなければならなくなります。
2.「制約社員」を前提とした人事管理の要点
「制約社員を前提にした人事管理とは何か?」、この問いに答える前に、まず認識されるべきは、これまでの無制約の正社員を前提にした人事管理がどのようなものであったか、明確に認識しておく必要があります。一言でまとめるとすれば、「楽な人事管理」ということです。なぜかというと、無制約の正社員というのは、上層部が任意に決めた組織編制や人員配置に応じて柔軟に変化し、自己研鑽も惜しまず、対応してくれることが暗黙の前提条件になっているからです。
これに対して、「制約社員を前提にした人事管理」では、各社員ごとの「仕事内容の明確化」の必要性がより高まることが必至であるため、会社の上層部及び現場における上司と各社員との具体的な仕事内容や目標などに関するすり合せがこれまでになく重要になってきます。このことが導き出す必然的な評価の基準とは、「結果に現れた仕事」基準ということになります。
しかし、ここで注意しなければならないことがあります。それは、「結果に現れた仕事」基準による評価と処遇とが必ずしも完全に一致はしないということです。つまり、「同一労働、同一賃金」の原則は、必ずしも真理ではないのです。なぜなら、企業が将来を託するに値する人材を発掘しようということまで含意して採用される新卒採用の労働とパート社員の労働とが、一時、物理的には全く同一労働であったとしても、この労働の価値を測る基準は企業側にあり、企業にとっての当該労働の価値は、新卒が行う場合とパートが行う場合では異なってくると考えられるのです。
また、制約社員と無制約社員とでは、企業にとっての価値が異なります。社会情勢、経済状況等の変化によって、会社の都合で、「どこにでも行き」、「どのような業務もこなし」、「現場主義で何でもこなす」式の無制約社員には、リスク・プレミアム的な付加価値があると考えることができます。この分のリスク・プレミアム手当とでもいうべきものが、その処遇において考慮されることはあってしかるべきでしょう。
そこで、今野教授は、新卒の正社員などには、仕事原則+育成配慮原則を適用し、パート等非正規には仕事原則+制約配慮原則を適用して当初の処遇を決定し、一定のキャリアを積んだ段階で主に仕事原理で合流させる人事管理を提唱されています。
3.多様な正社員と人事管理
近年紙面をにぎわしている多様な正社員の問題とは、結局は伝統的な無制約の正規社員に対して、「勤務地」、「職務」、あるいは「時間」など、様々な制約がある従業員でも、そのまま正社員として処遇していく場合、どのような人事管理を行えばよいのかという点に収束されてくると考えられます。であるならば、ここまでの議論を基本にそれを応用して行くことで、大方の対処が可能と考えることができます。
ところで、多様な正社員とはいっても、その中身は、「職務限定型」及び「勤務地限定型」がその大部分を占め、さらに職務限定型とは、製造業における工員であるとか、運送業におけるトラック運転手などこれまでも多く存在していた制約社員であるため、今後新たな正社員として特に意識されなければならないのは、「勤務地限定型」の正社員となります。
( 参 考 )
「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告書の概要
「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告書の資料
1.基本的な考え方
今日、特に大企業などが採用している経営戦略の基本は「高付加価値型経営」であり、この戦略を推し進めていけば、これまでのどちらかといえば「年功型」の人事管理から、仕事と成果に基づく「成果主義型」の人事管理に移行しいていくことは自然の流れであるといえます。中小企業の場合、同じ「高付加価値型経営」を目指すにしても、必ずしも「成果主義」が唯一の答えとはいえないと浅草社労士は考えていますが、大企業の場合、主流の考え方は「成果主義型」で決定的です。
また、従業員の側も、これまでの比較的一律な正社員という概念に加え、パート、高齢継続雇用など雇用形態の多様化が進んできています。加えて、基幹社員であり、無制約を前提とした正社員でも、「介護」、「育児」、「傷病」などによる制約リスクがあることに目が行くようになってきており、正社員の制約社員化ということも重要な課題として採り上げられるようになってきました。このごろ俎上に上せられる「多様な正社員」というのは、正にこの制約のかかる社員の一形態の問題として捉えられます。
そこで、今後の人事管理の方向性は、これまでの会社の業務命令によって、「どこにでも行き」、「どのような業務もこなし」、「現場主義で何でもこなす」式の無制約社員を前提にした人事管理ではなく、「地域」、「時間」、「職種」など何らかの制約がかかる「制約社員」を前提とした人事管理に再編されていかなければならなくなります。
2.「制約社員」を前提とした人事管理の要点
「制約社員を前提にした人事管理とは何か?」、この問いに答える前に、まず認識されるべきは、これまでの無制約の正社員を前提にした人事管理がどのようなものであったか、明確に認識しておく必要があります。一言でまとめるとすれば、「楽な人事管理」ということです。なぜかというと、無制約の正社員というのは、上層部が任意に決めた組織編制や人員配置に応じて柔軟に変化し、自己研鑽も惜しまず、対応してくれることが暗黙の前提条件になっているからです。
これに対して、「制約社員を前提にした人事管理」では、各社員ごとの「仕事内容の明確化」の必要性がより高まることが必至であるため、会社の上層部及び現場における上司と各社員との具体的な仕事内容や目標などに関するすり合せがこれまでになく重要になってきます。このことが導き出す必然的な評価の基準とは、「結果に現れた仕事」基準ということになります。
しかし、ここで注意しなければならないことがあります。それは、「結果に現れた仕事」基準による評価と処遇とが必ずしも完全に一致はしないということです。つまり、「同一労働、同一賃金」の原則は、必ずしも真理ではないのです。なぜなら、企業が将来を託するに値する人材を発掘しようということまで含意して採用される新卒採用の労働とパート社員の労働とが、一時、物理的には全く同一労働であったとしても、この労働の価値を測る基準は企業側にあり、企業にとっての当該労働の価値は、新卒が行う場合とパートが行う場合では異なってくると考えられるのです。
また、制約社員と無制約社員とでは、企業にとっての価値が異なります。社会情勢、経済状況等の変化によって、会社の都合で、「どこにでも行き」、「どのような業務もこなし」、「現場主義で何でもこなす」式の無制約社員には、リスク・プレミアム的な付加価値があると考えることができます。この分のリスク・プレミアム手当とでもいうべきものが、その処遇において考慮されることはあってしかるべきでしょう。
そこで、今野教授は、新卒の正社員などには、仕事原則+育成配慮原則を適用し、パート等非正規には仕事原則+制約配慮原則を適用して当初の処遇を決定し、一定のキャリアを積んだ段階で主に仕事原理で合流させる人事管理を提唱されています。
3.多様な正社員と人事管理
近年紙面をにぎわしている多様な正社員の問題とは、結局は伝統的な無制約の正規社員に対して、「勤務地」、「職務」、あるいは「時間」など、様々な制約がある従業員でも、そのまま正社員として処遇していく場合、どのような人事管理を行えばよいのかという点に収束されてくると考えられます。であるならば、ここまでの議論を基本にそれを応用して行くことで、大方の対処が可能と考えることができます。
ところで、多様な正社員とはいっても、その中身は、「職務限定型」及び「勤務地限定型」がその大部分を占め、さらに職務限定型とは、製造業における工員であるとか、運送業におけるトラック運転手などこれまでも多く存在していた制約社員であるため、今後新たな正社員として特に意識されなければならないのは、「勤務地限定型」の正社員となります。
( 参 考 )
「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告書の概要
「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告書の資料
2015年03月06日 06:00 | 人事労務