東芝vs韓国ハイニックス機密漏えい事件
1.東芝vs韓国ハイニックス機密漏えい事件
何とも情けない事件が報じられておりました。13日の日経電子版その他によれば、「東芝の半導体メモリーに関する研究データが韓国企業に漏れていた問題で、警視庁捜査2課は13日、東芝の業務提携先である半導体メーカー『サンディスク』の元技術者、杉田吉隆容疑者(52)=北九州市=を不正競争防止法違反(営業秘密侵害)容疑で逮捕した。杉田容疑者は、サンディスクの技術者として東芝の四日市工場に勤務していた2008年ごろ、東芝の営業秘密であるNAND型フラッシュメモリーの研究データを記録媒体にコピーして持ち出し、韓国半導体大手ハイニックス半導体(現・SKハイニックス)に提供した疑いが持たれている。」とのことです。なお、この事件に関連して東芝側は、「フラッシュメモリーの技術に関する機密情報を不正に取得・使用しているとして、韓国SKハイニックス社に対し、不正競争防止法に基づき損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。」と発表しています。
1980年代世界を席巻した日の丸家電や半導体の時代からは隔世の感に堪えませんが、ここ数年の我が国電氣産業の凋落を象徴するような事件です。技術立国を標榜する我が国の根幹部分を揺るがしかねない問題を含んでいるように思えてなりません。結局、自分のためになるかだけを極端に強調し、「公共心」を軽視する教育で育った人材ばかりでは、技術立国を維持していくことなど夢のまた夢といわざるを得ないということなのでしょう。
労働者の「守秘義務」及び「競業避止義務」については、東京都社労士会の発行する「会報」3月号でも採り上げられておりました。好い機会なので記事にある主要論点を以下にまとめておきたいと思います。
2.退職後の守秘義務
「守秘義務」とは、使用者の営業上の秘密やノウハウなどをその承諾なしに使用又は開示してはならない義務のことをいいます。在職中の守秘義務については、労働者は、労働契約に付随する義務の一つとして、当然に守秘義務を負っていると解されています。労働契約法3条4項は信義則について定めた規定で、「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。」と謳っています。労働者は、信義則に基づく誠実義務の一内容として、在職中当然に守秘義務を負うという訳です。それでは、守秘義務の内容を就業規則等に明記することの意味は何かということですが、これは、本来労働者が負っている労働契約上の義務を労働者に改めて周知し、注意喚起して労働者の自覚を促しているというほどの意味合いです。
しかし、労働契約が終了した後の退職後の守秘義務については、在職中のように労働契約に付随する義務の一つと単純に言い切ることができなくなります。労働契約上の義務は契約終了とともに消滅するのが原則であると考えるのが自然ですから、何らかの契約上の根拠なしに、守秘義務だけが退職後も当然に存続するというのは、労働者の保護に欠けると反論されるでしょう。従って、退職後の守秘義務は、労働契約上の明確な根拠、すなわち、就業規則上の定めや入社時又は退職時に提出する誓約書のような特約等があって始めて発生すると考えられています。
一方、「不正競争防止法」では、労働契約の存続中及び終了後を通じて、労働者が使用者から取得し又は開示された営業秘密について、不正の利益を得る等の目的で使用又は開示することを処罰する規定が置かれています。従って、労働者は、退職後も「不正競争防止法」上の守秘義務を特約等の有無に係らず負っていると考えられます。ただし、同法は処罰規定を伴うものだけに、「営業秘密」の定義ついて「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」というように、(1)秘密管理性、(2)有用性、(3)非公知性の3要件を掲げ、これらの要件全てを満たさなければ同法の保護の対象には当たらないとして厳密に解釈され、制限的な運用が行われています。
3.退職後の競業避止義務
競業避止義務とは、使用者と競業する企業への就職や使用者と競業する事業を自ら営むことを行わない義務をいいます。在職中の競業避止義務については、労働者は、労働契約に付随する義務の一つとして、信義則上、当然にこれを負っていると解されている点は守秘義務と同様です。また、競業避止義務の内容を就業規則等に明記することの意味は何かということですが、これも、本来労働者が負っている労働契約上の義務を労働者に改めて周知し、注意喚起して労働者の自覚を促しているという点、守秘義務と全く同様です。
しかし、労働契約が終了した後の退職後の競業避止義務については、在職中とは異なり、何らかの契約上の根拠なしに、競業避止義務だけが退職後も当然に存続するというのは、職業選択の自由を保障した憲法22条1項に抵触する重大な労働者の権利の制限ということになるでしょう。従って、退職後の競業避止義務については、限定的な解釈及び運用が課されるべきです。
具体的には、フォセコ・ジャパン・リミテッド事件(奈良地裁昭和45年)判決にあるように、退職後の競業避止義務は、合理的範囲にとどめられるべきものであり、合理的範囲の確定は、(1)制限の期間、(2)場所的範囲、(3)制限の対象となる職種の範囲、(4)代償の有無等について、(A)元の使用者の利益、(B)労働者の不利益、(C)社会的利害の3つの視点を踏まえて総合的に判断を下すことになります。
なお、(1)制限の期間については、概ね1年から長くても3年が限度で、5年以上の長期は非現実的です。(2)場所的範囲については、全国展開するFCのような場合、全国であっても過度に制限的とは言えないなど、元の使用者の業務の種類、業容等によって事例ごとの判断がなされるようです。
何とも情けない事件が報じられておりました。13日の日経電子版その他によれば、「東芝の半導体メモリーに関する研究データが韓国企業に漏れていた問題で、警視庁捜査2課は13日、東芝の業務提携先である半導体メーカー『サンディスク』の元技術者、杉田吉隆容疑者(52)=北九州市=を不正競争防止法違反(営業秘密侵害)容疑で逮捕した。杉田容疑者は、サンディスクの技術者として東芝の四日市工場に勤務していた2008年ごろ、東芝の営業秘密であるNAND型フラッシュメモリーの研究データを記録媒体にコピーして持ち出し、韓国半導体大手ハイニックス半導体(現・SKハイニックス)に提供した疑いが持たれている。」とのことです。なお、この事件に関連して東芝側は、「フラッシュメモリーの技術に関する機密情報を不正に取得・使用しているとして、韓国SKハイニックス社に対し、不正競争防止法に基づき損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。」と発表しています。
1980年代世界を席巻した日の丸家電や半導体の時代からは隔世の感に堪えませんが、ここ数年の我が国電氣産業の凋落を象徴するような事件です。技術立国を標榜する我が国の根幹部分を揺るがしかねない問題を含んでいるように思えてなりません。結局、自分のためになるかだけを極端に強調し、「公共心」を軽視する教育で育った人材ばかりでは、技術立国を維持していくことなど夢のまた夢といわざるを得ないということなのでしょう。
労働者の「守秘義務」及び「競業避止義務」については、東京都社労士会の発行する「会報」3月号でも採り上げられておりました。好い機会なので記事にある主要論点を以下にまとめておきたいと思います。
2.退職後の守秘義務
「守秘義務」とは、使用者の営業上の秘密やノウハウなどをその承諾なしに使用又は開示してはならない義務のことをいいます。在職中の守秘義務については、労働者は、労働契約に付随する義務の一つとして、当然に守秘義務を負っていると解されています。労働契約法3条4項は信義則について定めた規定で、「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。」と謳っています。労働者は、信義則に基づく誠実義務の一内容として、在職中当然に守秘義務を負うという訳です。それでは、守秘義務の内容を就業規則等に明記することの意味は何かということですが、これは、本来労働者が負っている労働契約上の義務を労働者に改めて周知し、注意喚起して労働者の自覚を促しているというほどの意味合いです。
しかし、労働契約が終了した後の退職後の守秘義務については、在職中のように労働契約に付随する義務の一つと単純に言い切ることができなくなります。労働契約上の義務は契約終了とともに消滅するのが原則であると考えるのが自然ですから、何らかの契約上の根拠なしに、守秘義務だけが退職後も当然に存続するというのは、労働者の保護に欠けると反論されるでしょう。従って、退職後の守秘義務は、労働契約上の明確な根拠、すなわち、就業規則上の定めや入社時又は退職時に提出する誓約書のような特約等があって始めて発生すると考えられています。
一方、「不正競争防止法」では、労働契約の存続中及び終了後を通じて、労働者が使用者から取得し又は開示された営業秘密について、不正の利益を得る等の目的で使用又は開示することを処罰する規定が置かれています。従って、労働者は、退職後も「不正競争防止法」上の守秘義務を特約等の有無に係らず負っていると考えられます。ただし、同法は処罰規定を伴うものだけに、「営業秘密」の定義ついて「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」というように、(1)秘密管理性、(2)有用性、(3)非公知性の3要件を掲げ、これらの要件全てを満たさなければ同法の保護の対象には当たらないとして厳密に解釈され、制限的な運用が行われています。
3.退職後の競業避止義務
競業避止義務とは、使用者と競業する企業への就職や使用者と競業する事業を自ら営むことを行わない義務をいいます。在職中の競業避止義務については、労働者は、労働契約に付随する義務の一つとして、信義則上、当然にこれを負っていると解されている点は守秘義務と同様です。また、競業避止義務の内容を就業規則等に明記することの意味は何かということですが、これも、本来労働者が負っている労働契約上の義務を労働者に改めて周知し、注意喚起して労働者の自覚を促しているという点、守秘義務と全く同様です。
しかし、労働契約が終了した後の退職後の競業避止義務については、在職中とは異なり、何らかの契約上の根拠なしに、競業避止義務だけが退職後も当然に存続するというのは、職業選択の自由を保障した憲法22条1項に抵触する重大な労働者の権利の制限ということになるでしょう。従って、退職後の競業避止義務については、限定的な解釈及び運用が課されるべきです。
具体的には、フォセコ・ジャパン・リミテッド事件(奈良地裁昭和45年)判決にあるように、退職後の競業避止義務は、合理的範囲にとどめられるべきものであり、合理的範囲の確定は、(1)制限の期間、(2)場所的範囲、(3)制限の対象となる職種の範囲、(4)代償の有無等について、(A)元の使用者の利益、(B)労働者の不利益、(C)社会的利害の3つの視点を踏まえて総合的に判断を下すことになります。
なお、(1)制限の期間については、概ね1年から長くても3年が限度で、5年以上の長期は非現実的です。(2)場所的範囲については、全国展開するFCのような場合、全国であっても過度に制限的とは言えないなど、元の使用者の業務の種類、業容等によって事例ごとの判断がなされるようです。
2014年03月13日 20:00 | 人事労務