「『罪と罰』を読まない」
文藝春秋
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これはタイトルを含めた企画の勝利だなあ。ドストエフスキーの『罪と罰』を読んだことがないと告白した、作家や翻訳家など小説にかかわる4人が、読まずにわいわいと内容を想像する対談だ。
最初は、英語版の最初のページと最後のページを和訳したものからスタート。いろいろ話しては情報を小出しにして、文庫本から適当な1ページを読んで……というのが繰り返される趣向となっている。
その会話が抱腹絶倒に面白い。いきなり、ロシア人の名前がわかりにくいからといって、ラスコーリニコフを「ラスコ」、ドストエフスキーを「ドスト」なんて愛称で呼ぶし。「ラズミーヒン」なんて「馬」よばわり(笑)。
同時代である日本の江戸時代にシチュエーションをたとえて、下級武士の息子が金がなくてカツカツの暮らしとか、それなのに悪所通いしているんじゃないかとか想像したりもする。
『罪と罰』では独り言が多いけど、そのフレーズから何をやったのかを想像していくパターンも多い。そもそも誰が殺されるのかで推測が揺れたり。「倒叙型?」「捨てキャラ?」「ひょっとしてマルチエンディング?」なんて会話がなされたり。
そのアプローチが、まるきり作家の方法なのも興味深い。わずかな手掛りから人物造形や背景をまず想像し、そこからストーリーを組み立てようとする。まるで、自分ならこの材料からこういうストーリーを作ると言っているようだ。全体や各パートの尺から構成を想像するとことも、いかにも作家っぽい。しまいには、派手な結婚式を延々と描写してページ数を水増ししようなんて話も(笑)。書名は「『罪と罰』を読まない」じゃなくて「『罪と罰』を書く」なんじゃないかとも思う。
でも、三浦しをんさんの暴走した想像も面白いな。津山三十人殺しみたいなストーリーになったり(笑)
そして、最後に本当に読んでからの対談で締め括る。それまでさんざん想像してきたこともあって、人物やエピソードの面白いところを的確に分析していて、実に面白そうに語っている。カテリーナさんのはじけっぷりがいいとか、スベ(スヴィドリガイロフ)が超面白いとか。ソーニャがシベリアの教祖で、ラズミーヒンが松岡修造(ただしチャラ男)、ルージンがスティーブ・ブシェミ、刑事コロンボのモデルといわれるポルフィーリーが片岡愛之助、なんて見立ても。
主人公のラスコ(ラスコーリニコフ)なんて、自他どちらでも苦しみに快楽を見出すマゾヒストと分析され、「いきなり帰るマン」「一人にしといてくれマン」「ちょっと抜け作マン」なんて、えらい言われよう(笑)
と私の紹介文ではうまく伝わらないけど、いやー、この最後のパートを読むと、本当に『罪と罰』を読み返したくなるなあ。
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