米大統領選(5日投開票)で、共和党のドナルド・トランプ前大統領(78)は地滑り的勝利を収め、6日未明、支持者を前に「米国を再び偉大な国にする」と宣言した。民主党のカマラ・ハリス副大統領(60)は同日、トランプ氏に電話し、敗北を認めた。トランプ氏は「米国第一」を推進し、日本にもさまざまな要求を突き付けてくる可能性がある。第1次トランプ政権では、安倍晋三首相(当時)がトランプ氏と盟友関係を築き、「日米同盟を深化」させたが、安倍氏に後ろから鉄砲を撃ち続け、衆院選で「国民の信」を得られなかった石破茂首相で日米関係は大丈夫なのか。ニューヨークに滞在中のジャーナリスト、長谷川幸洋氏が緊急寄稿した。
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世界が注目した米大統領選は、トランプ前大統領が圧勝した。ハリス副大統領の勝利を期待していた日本の政府やメディア、識者たちには、衝撃だろう。トランプ氏の復活で、石破政権が苦しい立場に立たされるのは必至だ。
トランプ氏は開票直後から優勢を保ち、開票が進むにつれて、ノースカロライナなど激戦州も制した。接戦が報じられていたが、実際にはトランプ支持でありながら、世論調査にはそう答えない「隠れトランプ」層が相当数いた、とみられる。
トランプ氏の勝利は、日本にどんな影響を及ぼすのか。
それを読み解くには、彼が訴えてきた「米国を再び偉大に(Make America Great Again)」というキャッチフレーズを思い起こす必要がある。裏を返せば、彼の政治活動は「米国は弱体化した」という認識が出発点だった。
2016年には、米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューで、「米国は弱体化した。そうであれば、日本は米国の意向に関係なく、いずれ核武装するだろう」と語っている。
19年には、大阪で開かれたG20(主要20カ国・地域)首脳会議の直前、「米国は日本が攻撃されれば、血を流して全力で守るが、日本は米国が攻撃されても、ソニーのテレビで見ているだけだ」と、日米同盟の片務性に不満を漏らしている。
欧州については、NATO(北大西洋条約機構)からの脱退や、ウクライナ支援から手を引く可能性を示唆してきた。同じように「アジアは日本に任せよう」と言い出しても、おかしくない。
具体的には、岸田文雄前政権が、ジョー・バイデン米政権に約束したGDP(国内総生産)比2%の防衛力強化を1歩進めて、GDP比3%の防衛費を要求してくる可能性もある。
それだけではない。
私は「憲法改正を言い出すのではないか」と思っている。
日本が東アジアの平和と安定に一層貢献し、かつ「日米同盟の片務性」を解消するには、専守防衛を改めて、集団的自衛権の全面的容認が必要になるからだ。
経済政策では、中国からの輸入品に対して60%、その他の国の輸入品に10~20%の関税をかける方針を表明している。だが、日本については、「防衛力の強化」や「在日米軍経費の負担増」などと引き換えに、関税を減免する可能性もあるのではないか。
トランプ氏は「もしも中国が台湾に侵攻すれば、中国の輸入品に150%から200%の関税をかける」と語っている。彼の頭の中では「安全保障と関税が取引材料」になっているからだ。
トランプ氏が交渉相手と認めてきたのは、いずれも「強い指導者」たちだった。安倍元首相はもちろん、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領などの独裁者にも好意的なのは、彼らが強い指導者であるからだ。
それにひきかえ、政権発足直後の衆院選で大敗北を喫した石破政権は、それだけで、トランプ氏からまともに相手にしてもらえないだろう。石破首相が米保守系シンクタンク「ハドソン研究所」への寄稿で「アジア版NATOの創設」や「日米地位協定の改定」を唱えたとなれば、なおさらだ。
彼から見れば、そもそも「米国に守ってもらっている自分の立場を分かっているのか」「それなら、まず憲法を改正しろ」という話になるのは、当然である。
お花畑で平和ボケした日本に喝を入れるのに、トランプ復活が絶好の外圧になるなら、日本は「これもチャンス」と受け止める以外にない。
長谷川幸洋
はせがわ・ゆきひろ ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。