日米にとって、TSMCの工場誘致は一体、どんな意
味があるのか。
経済面で言えば、直接の雇用拡大はもちろん、国内産
業を刺激し、競争力強化につながるのは間違いない。
それ以上に重要なのは、「安全保障上のメリット」で
ある。自国で先端半導体を生産できるようになれば、
仮に台湾が中国に奪われたとしても、困らなくなる。
逆に中国にとっては、日米にTSMCの工場ができる
のは「狙った獲物を奪われた」かたちになる。
政府関係者は、まさか「中国との戦争に備えるためだ
」などとは言えないので、明言しないが、これが「T
SMC誘致の本当の狙い」だ。
実は、それをあけすけに語った人物がいる。米国の大
統領選で共和党から立候補していた実業家のビベック
・ラマスワミ氏である。
同氏は選挙戦で、「中国が台湾に侵攻したら、軍事介
入するか」と聞かれて、「28年までは守る。だが、
その後は事情が変わる。それまでに台湾の半導体工場
を米国に移すからだ」と答えた。
台湾2027年半導体問題、日米安保上
の重要メリット TSMC誘致の
本当の狙い 長谷川幸洋
ニュースの核心
半導体受託生産の世界最大手「台湾積体電路製造(TSMC)」が、米国アリゾナ州に建設中の工場が「当初の計画に比べて、遅れている」と、3月14日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)が報じた。記事は、工場建設に政府が補助金を出した日本と比べて、「ジョー・バイデン政権は、まだ補助金の支給を約束していない」と米政権に批判的だ。
これを読んで、私は「米国は半導体工場の誘致に懸命だったんじゃないのか」と驚いた。バイデン政権は2022年に半導体企業の誘致と研究開発を促進する「CHIPS法」を成立させていたからだ。
ところが、そうでもなかったらしい。
記事によれば、熟練工員の不足や建設費の高騰、地元の労働組合との対立などが遅れの理由で、支給する補助金額をめぐって同社と交渉が続いている、という。
そうだとすると、米国に比べて規模が小さいとはいえ、工場が完成した日本は一歩先んじた形だ。喜ばしい。
日米にとって、TSMCの工場誘致は一体、どんな意味があるのか。
経済面で言えば、直接の雇用拡大はもちろん、国内産業を刺激し、競争力強化につながるのは間違いない。
それ以上に重要なのは、「安全保障上のメリット」である。自国で先端半導体を生産できるようになれば、仮に台湾が中国に奪われたとしても、困らなくなる。逆に中国にとっては、日米にTSMCの工場ができるのは「狙った獲物を奪われた」かたちになる。
政府関係者は、まさか「中国との戦争に備えるためだ」などとは言えないので、明言しないが、これが「TSMC誘致の本当の狙い」だ。
実は、それをあけすけに語った人物がいる。米国の大統領選で共和党から立候補していた実業家のビベック・ラマスワミ氏である。
同氏は選挙戦で、「中国が台湾に侵攻したら、軍事介入するか」と聞かれて、「28年までは守る。だが、その後は事情が変わる。それまでに台湾の半導体工場を米国に移すからだ」と答えた。
ラマスワミ氏はその後、選挙戦から撤退したが、いまやドナルド・トランプ前大統領の政権構想で、最有力な副大統領候補の1人に挙げられている。もともと、トランプ支持者であるだけに、同氏の発言は「トランプ氏の考えに近い」可能性がある。
台湾防衛について明言を避けているトランプ氏自身も、米FOXのインタビューで、「台湾は米国から半導体を奪った」と語っている。
米空軍大学の教授は21年11月、中国が台湾に侵攻したら「台湾は自らTSMC工場を破壊して、敵に戦利品を与えない焦土作戦を検討すべきだ」と提言した。軍事専門家も「台湾問題は半導体問題」と捉えているのである。
アリゾナのTSMC第1工場が稼働するのは25年、第2工場は早くて27年からだ。熊本の第1工場は年内に稼働し、第2工場は27年末の稼働を目指している。つまり、日米とも27年末までには、最新鋭の工場が整うのだ。
そうなると、その後は台湾の重要性が相対的に薄まる。ここをどう見るか。日米の安全保障にとって、「台湾の2027年半導体問題」は、重要な鍵を握る要因の1つになりそうだ。
長谷川幸洋
はせがわ・ゆきひろ ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。