「海外からの支援に頼っている。人々の消費
や企業活動はある程度続けられているが、それ
らに伴う税収や公共資産の売却などによる歳入
は、すべて戦費にあてられている。
年金や公務員への給与、国民生活への支援は
外国からの財政支援でまかなわれている。その
ようななか、日本政府はウクライナ支援のため
に予算を割いてくれたという。本当に感謝して
いる」
――今後のウクライナ経済の見通しは
「戦況がどうなるか、電力インフラがどこま
で影響を受けるかで状況は大きく変化するだろ
う。占領地域をどれだけ奪還できるかも重要だ。
ウクライナ政府は(ロシアの攻撃を受ける)東
部地域から、より安全な西部に企業の拠点を移す
ための支援なども行っている。ウクライナ経済が
2022年より、わずかでも改善することを願う」
――今後日本に期待する経済支援は
「現在は困難だが、ロシア市場から撤退した日本
企業にはウクライナへの進出をぜひ検討してほしい。
われわれは欧州連合(EU)に隣接し、賃金は安い
が英語力が高く、勤勉な労働者が多い。大きな可能
性があると考えている」
露侵攻で経済悪化に苦しむウクライナ
今こそ日本がやるべき支援
ロシアの侵略が続くウクライナ経済が未曽有の悪化に陥っている。ウクライナ政府が1月上旬に発表した2022年の国内総生産(GDP)は速報値で前年比30・4%減となり、1991年の独立以降で最悪の数字となった。ロシア軍が昨年2月24日に全面侵攻を開始して以来、社会、経済活動が厳しい打撃を受け、電力など主要インフラへの攻撃も続いているためだ。ウクライナ政府は海外からの支援で経済を支えているが、戦争の終わりは一向に見えず、綱渡りの対応を強いられている。
「2022年のウクライナ経済はロシアの侵略により、独立以後の歴史で最悪の経済損失に襲われた」。ウクライナのスビリデンコ経済相は今月5日、22年の経済悪化をそう表現した。
同氏は政府と経済界の協力や国際社会の支援により、当初予想されたほどの落ち込みにはならなかったと強調したが、経済の約3分の1が消滅した事実は重い。
ウクライナでは深刻な社会や経済の混乱が続く。戦禍を逃れるため欧州などへの人口流出が続き、ロシア軍の攻撃により、ウクライナの主力産業である鉄鋼産業が集積する東部や、輸出港を抱えるアゾフ海沿岸の都市が破壊、占領されている。
農業分野では、ロシアによる黒海の封鎖で小麦などの輸出が停滞。トルコや国連が仲介して昨年8月に輸出が再開されたが、主要輸出港があるオデッサ州をロシア軍が繰り返し攻撃するなど不安定な状況が続く。
さらにロシア軍が10月に開始した全国規模の電力インフラへの攻撃が、経済に大きな重しとなっている。ロシア軍は送電設備など、防御の脆弱(ぜいじゃく)な施設を標的にミサイルや自爆型ドローン(無人機)による攻撃を実施。ウクライナは厳冬期を迎えたが、首都キーウ(キエフ)を含む全国の主要都市で停電が断続的に発生している。停電時には企業活動が停止し、店舗などでも決済端末が使えなくなるなどして、営業が著しく困難になっている。
ウクライナ経済を支える命綱となっているのが国際社会からの支援だ。ロイター通信によれば、ウクライナが22年に受け取った海外からの金融支援の総額は310億ドル(約4兆1千億円)に達した。23年のウクライナの政府予算の赤字額は380億ドルに達するが、海外からの支援で穴埋めされる計画という。
スビリデンコ経済相は昨年夏の時点では、戦争の状況次第では23年の経済成長率が最大で15・5%の大幅なプラス成長になるとの見方も示していたが、そのような楽観的なシナリオはかき消されつつある。ウクライナの投資会社「ドラゴン・キャピタル」のアナリストは昨年11月、23年のウクライナ経済がロシア軍による電力攻撃の継続により、5%のマイナス成長に陥るとの見方を示している。
訪日議員団に今後の展望聞く
ロシアの侵略で未曽有の打撃を受けるウクライナ経済。同国の最高会議(議会)議員で、昨年10月の訪日議員団のメンバーだったヤロスラフ・ジェレズニャク氏に、その現状と今後の展望、日本の協力への期待を、空爆が続くキーウ市内からオンラインで聞いた。
――ロシア軍による電力インフラへの攻撃が続く。ウクライナ経済への影響は
「非常に広範な影響がある。今こうして取材を受けるさなかもロシア軍によるミサイルや自爆型ドローン(無人機)による攻撃が続き、首都キーウですら停電が起きている。停電すれば企業は活動できなくなり、多くの人々は携帯電話も使えなくなる。彼らの仕事は止まり、収入も減少する。店舗などは持ち運び型の小型発電機を利用して営業を続けているが、非常に高コストだ。これは物価の上昇にもつながる」
――ウクライナ政府はどうやって財政を維持しているのか
「海外からの支援に頼っている。人々の消費や企業活動はある程度続けられているが、それらに伴う税収や公共資産の売却などによる歳入は、すべて戦費にあてられている。
年金や公務員への給与、国民生活への支援は外国からの財政支援でまかなわれている。そのようななか、日本政府はウクライナ支援のために予算を割いてくれたという。本当に感謝している」
――今後のウクライナ経済の見通しは
「戦況がどうなるか、電力インフラがどこまで影響を受けるかで状況は大きく変化するだろう。占領地域をどれだけ奪還できるかも重要だ。ウクライナ政府は(ロシアの攻撃を受ける)東部地域から、より安全な西部に企業の拠点を移すための支援なども行っている。ウクライナ経済が2022年より、わずかでも改善することを願う」
――今後日本に期待する経済支援は
「現在は困難だが、ロシア市場から撤退した日本企業にはウクライナへの進出をぜひ検討してほしい。われわれは欧州連合(EU)に隣接し、賃金は安いが英語力が高く、勤勉な労働者が多い。大きな可能性があると考えている」(黒川信雄)