NHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」が、多くの弁護士から支持されているという。
弁護士で社民党党首の福島瑞穂が、インスタグラムに「毎日見ていて、涙したり元気づけられたりしています。寅ちゃんがんばれ!」と投稿しているほど、その筋の法曹関係者から絶賛されている。
あの福島瑞穂党首も絶賛
そんなもの見たくもない、というあなたはまともだが、先週の平均視聴率は17・6%と結構高い。
ドラマのモデルは、日本初の女性弁護士で戦後は裁判官となり、新潟家庭裁判所所長を務めた三淵嘉子で、NHKの司法担当解説委員が、時代考証をサポートしている。
かくいう私も毎朝、初回から見ていたが、確かに前半の脚本はよくできていて(考え方や歴史の見方にはまったく共感できないが)、主人公「寅ちゃん」を演じている伊藤沙莉をはじめ俳優陣も好演していた。
だが、戦後編になると、実際のモデルや当時の社会環境との乖離(かいり)が激しくなり、夫婦別姓やLGBT(性的少数者)の権利拡大を訴えるプロパガンダ(特定の主義・思想についての宣伝)番組としかいいようがないシロモノになってしまった。
端的な例が、主人公の再婚だ。モデルは再婚後、夫の姓である「三淵」に改姓したが、ドラマの寅ちゃんは「事実婚」を選んだ。
この改変は、ささいなこと、ではない。旧姓のままの「事実婚」だったなら(善しあしは別にして)、その後の「寅ちゃん」の裁判官人生はドラマのようにはならず、全く違ったものになっていたはずである。
実際にあった事件や実在した人物のドラマ化は、本当に難しい。
まず、登場人物を実名にするか仮名にするかに始まって、史実をどこまで忠実に再現し、どこからをフィクションにするかは、決まりがないだけにすべては、制作陣の腕にかかっている。
「地面師たち」とは大違い
ネットフリックスで大ヒットしている「地面師たち」は、平成29年に起きた「積水ハウス地面師詐欺事件」をモデルとしているが、誰もドラマが実際の事件そのものだとは思わない。視聴者は、フィクションという前提で見て、その中に物事の本質を見るわけである。
朝ドラが厄介なのは、高視聴率ゆえに、歴史上の人物がドラマ通りの人生を歩んだ、と誤解してしまう視聴者が続出してしまうことだ。例えば、日本一の女性興行師をモデルにした朝ドラは、彼女をあまりにも爽やかで人格円満な人物に描き、関西人の私は腰を抜かしてしまった。
なにより、「虎に翼」で問題なのは、無邪気なまでに新憲法を礼賛していることだ。登場人物の誰一人として、連合国軍総司令部(GHQ)が草案をつくって押し付けた日本国憲法の制定過程について問題視せず、葛藤もなく新憲法を天から与えられた福音の如(ごと)く扱っている。
これはどう考えてもおかしい。終戦直後は、GHQが徹底的に言論を統制し、新憲法の生みの親がGHQであることを庶民は知る由もなかったが、在京の法曹関係者、しかも中枢に近いところにいた人物が知らなかったわけはない。朝ドラに洗脳されてはいけませんぞ。=敬称略(コラムニスト)