【安倍政権考】安倍晋三首相 欧州歴訪でみせた対北包囲網づくりの手腕 2018.10.30 01:00
アジア欧州会議(ASEM)の開幕セレモニーを前に、各国首脳と握手をする安倍晋三首相(右)=10月18日、ブリュッセル(代表撮影・共同)
安倍晋三首相(64)が16~20日の欧州歴訪で巧みな外交戦術を見せた。ベルギー・ブリュッセルで開かれたアジア欧州会議(ASEM)首脳会議は、北朝鮮に対して「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」を求める文言を盛り込んだ議長声明を採択した。北朝鮮の制裁緩和を目指す中国・韓国の影響で調整は難航したが、安倍首相は北朝鮮の非核化を重視するフランスやドイツを抱き込み、CVIDの明記を押し通した。
「朝鮮半島の非核化に向け、国際社会が結束して国連安全保障理事会決議を完全に履行することが必要だ」
安倍首相は19日のASEM首脳会議でこう述べ、各国首脳に北朝鮮問題に連携して対応するよう呼びかけた。首脳会議は北朝鮮にCVIDを求め、安保理決議の完全な履行を通じた問題解決を支持したうえで、拉致問題にも言及する議長声明を採択して閉幕した。
「議長声明をめぐる交渉では、北朝鮮問題のところは簡単ではなかった」
日本政府関係者はこう明かす。首脳会議では、北朝鮮への圧力を維持し、拉致、核、ミサイル問題の包括的な解決を目指す日本と、制裁緩和に前向きな中国や、南北関係の改善に重点を置く韓国の間で、声明の文言をめぐり激論が交わされたようだ。
戦いは、首脳会議の前から始まっていた。安倍首相は17日、フランスのマクロン大統領と会談し、北朝鮮の非核化に向け、安保理決議の完全な履行の堅持が必要という認識で一致。北朝鮮の制裁逃れを阻止する取り組みを維持し、強化することも申し合わせた。
さらにASEM首脳会議直前の18日にはドイツのメルケル首相と会談し、マクロン氏と同様に安保理決議の完全な履行が必要だとの立場を共有。安倍首相は拉致問題の早期解決への協力も求め、メルケル氏も支持した。
一方、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領も首相と同様に、ASEM首脳会議と合わせて欧州を歴訪した。韓国大統領府によると、文氏は15日に会談したマクロン氏に対し、北朝鮮の非核化が段階的に進展した場合、それに合わせて制裁が緩和されるよう協力を求めた。しかし、マクロン氏は会談後の記者会見でCVIDの実行と制裁維持が必要だと主張。文氏は機先を制するつもりが、当てが外れてしまった。
19日付仏紙ルモンドは、17日に安倍首相が訪仏したことに触れ、北朝鮮をめぐって日韓首脳の立場が異なる中、マクロン氏は「安倍氏の同盟相手」になったと評している。
文氏は19日に欧州連合(EU)などとの首脳会談も行ったが、EUのトゥスク大統領は声明で、北朝鮮について「われわれの目標は完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」として国連安保理決議の完全な履行が必要だと主張。ここでも文氏は巻き返すことができなかった。
最終的に、首脳会議ではCVIDの文言変更を求める中韓を、欧州を味方につけた日本がはねのけることに成功した。EUのモゲリーニ外交安全保障上級代表は会議後の記者会見で、「(朝鮮半島をめぐる)交渉が成功するよう、欧州とアジアは最善の方法で支える」と述べた。
今回は欧州を味方につけて中韓への包囲網を築き、非核化に向けた北朝鮮への厳しい姿勢を維持できたといえる。とはいえ、北朝鮮問題を真に解決するためには、その中韓との連携が欠かせないのも事実だ。
安倍首相は26日に中国・北京で習近平国家主席と会談し、北朝鮮の非核化に向けた連携を確認した。北朝鮮による拉致問題の解決については「理解し、支持する」との言質をとった。中国は北朝鮮最大の支援国であり、中国が厳しい態度をみせなければ、拉致問題解決の扉は簡単には開かない。微妙な外交バランスをどう取るのか、安倍首相のさらなる手腕が問われる。