緊急呼集があれば休暇中であっても帰隊しなければな
らない。その時にかかる交通費は自己負担だ。自衛隊
は「帰省する自由は認めるが、緊急呼集があれば自腹
でも即座に帰隊してね」というスタンスなのだ。
ある関係者は「年末ギリギリまで勤務して、北海道に
帰省した次の日(1月2日)に、(繁忙期で料金が高
い)飛行機で職場に帰ってきた隊員の旅費が出ないこ
とが、本当に不憫(ふびん)だ。この問題は本当にど
うにかしてほしい…」と苦しい胸の内を明かす。
「そう、帰ってきました。3日なので、普段の2倍の
バス代。4日なら、半額だったのに!」と嘆く隊員も
いた。緊急呼集の裏側にはこんな〝悲劇〟があった。
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そもそも、自衛隊から貸与されている装備品、被服な
どの数が少なすぎる。被災地で活動するには性能を十
分満たしていない装備もあり、破損した場合、交換に
も時間や手間がかかる。だから災害派遣に慣れた隊員
たちは私物購入で消耗品を使う。
例えば、能登半島の被災地の写真には、さまざまな形
のヘッドライトを装備した隊員たちの姿がある。両手
を使えるLEDのヘッドライトは必需品だが、官給品
ではない。種類がバラバラなのは私物購入品だからだ。
私物装備は、乾電池代も個人負担となる。
作業用手袋も同様に私物購入が多い。自衛隊の官給品は滑りやすく穴が開きやすいため、丈夫な手袋を多数購入する必要がある。
さらに問題なのは靴である。自衛隊の官給品の靴「戦闘靴(半長靴)」はGORE―TEX(ゴアテックス)などの防水性・透湿性を採用しているが、折り曲げて傷がつくと防水性が落ちる。官給品の靴の交換頻度は低い。
劣化した靴は水が入りやすく、靴の中は水浸しになる。冷
水に長時間浸かったことで起きる寒冷障害を「塹壕足
(トレンチフット)」と呼ぶ。放置すると、痛みが出
て潰瘍(かいよう)となり、最後は組織が壊死(えし)
する。隊員たちは、新品の防水性能の高いコンバット
ブーツを自費で買って、これを防ぐ。
自衛隊、極寒災害派遣 帰省先から
の緊急呼集は自腹「本当に不憫」
能登半島地震で、自衛隊は7000人規模で被災地支援に全力を挙げている。元日の発災直後に統合任務部隊が編成され、当初は約1000人で救命救助活動を展開した。道路が寸断され、孤立した地域での活動は難航を極めた。その後、規模は増強され、物資輸送や給水支援、道路の復旧作業など、活動の幅を広げている。被災者から感謝の声が相次ぐなか、正月休みに緊急呼集された隊員の帰隊費用(交通費)が自腹だったり、極寒の被災地で活動する隊員の劣悪な装備品・消耗品の問題が注目され始めている。国防ジャーナリスト、小笠原理恵氏が緊急寄稿した。
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最大震度7の能登半島地震は、人々が新年を祝う元日夕に発生した。交通アクセスの悪い半島先端部に甚大な被害が確認され、石川県の馳浩知事は発災直後、自衛隊に災害派遣を要請した。
自衛隊は糧食や燃料、物資の輸送を自己完結して行える。道路の寸断や土砂崩れ、火災などが広範囲で確認された被災地での救助・支援活動は、さまざまな状況に即応できる自衛隊でなければ困難だ。
能登半島の被災地で活躍する自衛隊の姿は連日、報道されている。だが、隊員たちが抱えている「問題」を知る人は少ない。
自衛隊では災害派遣のため、「ファスト・フォース(即動待機部隊)」と呼ばれる待機人員だけでなく、営内に居住する隊員がいる。しかし、今回の発災は元日であった。いつもは営内にいる隊員たちも元日は帰省して家族と過ごしていた。
ただ、緊急呼集があれば休暇中であっても帰隊しなければならない。その時にかかる交通費は自己負担だ。自衛隊は「帰省する自由は認めるが、緊急呼集があれば自腹でも即座に帰隊してね」というスタンスなのだ。
ある関係者は「年末ギリギリまで勤務して、北海道に帰省した次の日(1月2日)に、(繁忙期で料金が高い)飛行機で職場に帰ってきた隊員の旅費が出ないことが、本当に不憫(ふびん)だ。この問題は本当にどうにかしてほしい…」と苦しい胸の内を明かす。
「そう、帰ってきました。3日なので、普段の2倍のバス代。4日なら、半額だったのに!」と嘆く隊員もいた。緊急呼集の裏側にはこんな〝悲劇〟があった。
岸田文雄首相はご存じないと思うが、この緊急呼集時の帰隊費用(交通費)だけでも、国が補塡(ほてん)してほしいと思う。
また、被災地で活動する多くの隊員が抱える、「装備品や消耗品の自己負担問題」もあまり知られていない。
そもそも、自衛隊から貸与されている装備品、被服などの数が少なすぎる。被災地で活動するには性能を十分満たしていない装備もあり、破損した場合、交換にも時間や手間がかかる。だから災害派遣に慣れた隊員たちは私物購入で消耗品を使う。
例えば、能登半島の被災地の写真には、さまざまな形のヘッドライトを装備した隊員たちの姿がある。両手を使えるLEDのヘッドライトは必需品だが、官給品ではない。種類がバラバラなのは私物購入品だからだ。私物装備は、乾電池代も個人負担となる。
塹壕足、踏み抜き事故 重大リスクに
作業用手袋も同様に私物購入が多い。自衛隊の官給品は滑りやすく穴が開きやすいため、丈夫な手袋を多数購入する必要がある。
さらに問題なのは靴である。自衛隊の官給品の靴「戦闘靴(半長靴)」はGORE―TEX(ゴアテックス)などの防水性・透湿性を採用しているが、折り曲げて傷がつくと防水性が落ちる。官給品の靴の交換頻度は低い。
劣化した靴は水が入りやすく、靴の中は水浸しになる。冷水に長時間浸かったことで起きる寒冷障害を「塹壕足(トレンチフット)」と呼ぶ。放置すると、痛みが出て潰瘍(かいよう)となり、最後は組織が壊死(えし)する。隊員たちは、新品の防水性能の高いコンバットブーツを自費で買って、これを防ぐ。
さらに、官給品の靴は「踏み抜き防止性能」が十分ではない。
東日本大震災の災害派遣では、クギなどを踏んで足の裏に突き刺してしまう「踏み抜き事故」が多発した。被災地では、倒壊した建物や土砂、がれきが散乱し、捜索や救援活動には危険が伴う。当時は専用インソールを配布したが、それでも万全とは言えない。自らの足を守るため、ステンレス板や鋼鉄のインソールを準備して備える隊員もいる。
「塹壕足」も「踏み抜き事故」も重大なリスクだ。足に障害を持つと一生苦しむことになるため、隊員は自己投資するしかない。装備品の性能は念を入れて最良のものを選ぶしかない。
自衛隊員は災害派遣で、帰隊費用から装備品まで、多くの自己負担をして活動をしている。「被災地の人々を助けたい」という強い思いがあるからだ。
今回の問題については、自民党の和田政宗参院議員と若林洋平参院議員が「すぐ対処する」と手を挙げてくれた。待遇改善に声を上げていくことで、自衛隊への感謝を示したいと思う。
小笠原理恵
おがさわら・りえ 国防ジャーナリスト。1964年、香川県生まれ。関西外国語大学卒。広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動。自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」代表。現在、「月刊Hanadaプラス」で連載中。2022年、第15回「真の近現代史観」懸賞論文で、「ウクライナの先にあるもの~日本は『その時』に備えることができるのか~」で、最優秀藤誠志賞を受賞。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。