自民党が憲法改正の論点整理で、自衛隊明記などの方針を改めて打ち出した。党執行部には総裁選(9月12日告示、27日投開票)の結果、これまでの議論が振り出しに戻ることへの懸念がある。一方、公明党が重視する論点を盛り込んで配慮をにじませつつ、9条改正などの基本方針は堅持した。改憲に関心が高い支持層の反発を避ける狙いが透ける。
9条改正断念なら党もたない
党憲法改正実現本部の古屋圭司本部長は30日、総裁選での改憲の議論は、今回の論点整理が基本になると記者団に述べた。「(議論を)拡散させないために、論点整理の枠内で良い議論ができる」と語った。
古屋氏は9条への自衛隊明記などを掲げた平成30年の改憲4項目を重視する姿勢を強調。「9条に明記しなければ自衛隊違憲論は解消しない」と述べた。
自民は野党時代の24年に策定した党憲法改正草案で「国防軍の保持」を掲げた。ただ、衆参両院で発議に必要な賛同を得ることが難しいと判断し、9条明記案に軌道修正した経緯がある。自民幹部は「神学論争に終止符を打つには9条明記しかない。9条改正を断念すれば党がもたない」と語った。
「ちゃぶ台返し」懸念
とはいえ、次期総裁選に立候補を表明した石破茂元幹事長は、「戦力不保持をうたった9条2項を削除し、自衛隊を『国防軍』に改める」が持論で、24年の改正草案を高く評価している。9月6日に立候補を表明する小泉進次郎元環境相も改憲の必要性には言及するものの、具体的な憲法観は判然としない。
古屋氏の発言について、関係者は「石破氏を念頭に置いているのは間違いない。小泉氏の考え方も分からない中、総裁選後の『ちゃぶ台返し』を心配しているのだろう」と語る。その石破氏は30日、記者団に「岸田政権の路線を引き継ぎたい」と述べ、党の議論を尊重する姿勢を示した。
一方、論点整理では公明が主張する「憲法72条、73条への自衛隊明記」を両論併記としつつ、9条改正が基本路線だと確認した。公明が否定的な緊急政令に関しても必要性を強調した。当初は公明案を丸のみする意見もあったが、「妥協しすぎだ」との声が強まった。(内藤慎二)
自民の憲法改正「論点整理」の内容
判明 9条改正と「緊急政令」導入
打ち出す
自民党の憲法改正の指針となる論点整理の内容が30日、判明した。9条への自衛隊明記や、緊急事態の際に政府の権限を一時的に強める「緊急政令」の制度導入の必要性を打ち出した。衆参両院の実務者でつくる党憲法改正実現本部のワーキングチーム(WT)が同日、取りまとめた。9月2日に岸田文雄首相(自民総裁)が出席する全体会合で正式決定する。
自衛隊に関しては、安倍晋三政権下の平成30年にまとめた自衛隊の9条明記▽緊急事態への対応強化▽参院の合区解消▽教育環境の充実-の改憲4項目で「既に議論が決着」と指摘。4項目の「枠組みを前提とすべきだ」と記した。
連立を組む公明党はシビリアンコントロール(文民統制)を明確化するためとして、首相や内閣の職務を規定した「第5章」の72条や73条への明記を主張している。
論点整理では9条明記に関して「基本的に堅持すべきことが共通認識として確認された」としつつ、文民統制に関しては第5章への規定も「選択肢の一つとして排除されるものではない」との意見を紹介し、議論の余地を残した。妥協案として9条と第5章の双方を改憲する案が浮上している。
緊急時に内閣が法律に代わり発出する緊急政令に関しては、論点整理で「根拠を憲法に規定することは必要」と打ち出した。対象とする緊急事態の類型は「異常かつ大規模な災害」に加え、武力攻撃、テロ・内乱、感染症の蔓延(まんえん)などを挙げた。
一方、公明などが緊急政令に慎重な構えを示していることから、緊急時に国会議員の任期延長を可能にする改憲を優先すべきか否かなどを引き続き議論する方針も確認した。