「財務省悪玉論」は陰謀論であるとか、一つの省庁に政策の失敗を押し付けすぎだという批判をよく耳にする。最近、インターネットで財務省的な緊縮主義への批判の高まりを受けてのものだ。率直にいって、財務省悪玉論はまったく正しい。「財政再建」という美名で行ってきた、財務省による悪しき緊縮主義のもたらした害悪は明白だ。
宮沢洋一議員を筆頭とする自民党税制調査会幹部は、自分たちを〝インナー〟だと特権化しているが、やっていることは財務省の代理でしかない。最近、驚いたことは、自民党と公明党、そして国民民主党の3党での協議で、「年収の壁」103万円の引き上げに関して、自公の提案がたった123万円であったことだ。
自公は123万円案のまま税制改正大綱を取りまとめた。178万円という国民民主党案とかけ離れているのはもちろん、これでは減税効果がないに等しい。まさに緊縮主義丸出しの案だ。
一説では、補正予算案に賛成した日本維新の会を巻き込めば、今後の予算審議など国会運営がうまくいくという思惑が、自公幹部にあるという。つまり国民民主党の切り捨てである。確かに123万円案が、衆院での補正予算成立後に提示されたのはその象徴かもしれない。だが、「年収の壁」引き上げを緊縮的にダメにしてしまえば、維新にはやがて国民からの強烈なしっぺ返しが待っているだろう。維新が党名に反して、「財務省ムラ」を守るような「幕府化」しないかどうかが今後の焦点だろう。
財務省は日銀に対しても影響力を持っている。先週、日銀は利上げを見送った。ただ相変わらず、利上げスタンスの変更はない。今年の日本経済はマイナス成長の可能性もあるほど不振だった。能登半島の震災、自動車の認証不正問題もあったが、なにより消費がふるわなかった。それにもかかわらず、今年2回も日銀は利上げをした。国民生活よりも緊縮主義を優先しているからだ。
先週、日銀が発表した黒田東彦(はるひこ)前総裁時の大規模金融緩和についての「多角的レビュー」をみると、財務省への配慮がにじみ出ている。大規模金融緩和の効果が大きく削減されたのは、2014年の消費税増税が原因だ。だが、それについてはわずかに触れるだけだ。
問題は、その後も一貫して財政政策が緊縮スタンスだったことにある。過大な負担が金融政策だけに向かい、デフレ脱却を困難にした。「多角的レビュー」では、大規模緩和の「弊害」にさまざまなコメントがあったが、「財務省の緊縮政策こそその弊害の最たるものである」という発言はない。要するに日銀も「財務省ムラ」の一員であると白状しているのだ。(上武大学教授)