たかがオートバイ。さよならオートバイ。されどオートバイ。
調子を崩したオートバイをいつもお世話になっているバイク屋さんに持ち込んだ際、修理にかかる費用を聞いて「もういいかな。」と思った。修理は諦めるといってバイク屋さんを後にした。
外出自粛、3密を避けるというコロナの時期を経て、オートバイに乗る機会は減った。コロナが5類になって以前のような生活が戻ってもオートバイに乗って遠出したいと思わなくなった自分がいたし、登山や自転車という新しい趣味に没頭する事で、ますますオートバイに乗る機会は無くなっていった。
「今までいろんなところに連れて行ってくれてありがとう。」という感謝の気持ちで、最後にオートバイをしっかり掃除して、赤ひげ男爵に持ち込んだ。僕より若そうな店長さんは「R100は人気があるから、結構売れるんです。うちの社員が欲しがるかもしれませんね。」と笑いながら、思っていたよりは良い値段をつけてくれたので、そのお金で新しい登山用品か自転車の部品でも買うことにした。
13年間、ありがとう。次のオーナーに大切に乗ってもらえよ。
その1時間後、僕はいつものバイク屋さんにオートバイを預けていた。
気持ちは売却する気満々だったのに、本当に体が勝手にオートバイに乗って赤ひげ男爵から出て行ってしまったのです。
嘘だと思うでしょ?
本当なんです。たぶん店長もびっくりしていたと思います。覚えているのはオートバイに乗りながら「これはあかん、これはあかんわ。」と危ない人のように独り言を繰り返しつぶやいていた事くらい。実際冷静に振り返ってみると、高額な修理費用が頭をかすめ、「なんで売らなかったんだろう。」って何度も後悔しましたから。今でもあの時の自分がよくわかりません。
・・・でも修理を依頼してしまったのだからもうどうにもならない。そんなこんなで、待つこと4か月。今日、オートバイが帰ってきた。
僕のオートバイが製造されて39年、走行距離は20万キロを超えているだろう。僕が走ったのはおそらく8万キロくらいで、その前からも、おそらく一度も手を入れられなかったであろうクラッチがついに利かなくなった。それでフルOHをしてもらったのだが、結果、握力養成装置のようだったクラッチレバーが嘘のように軽くなった。それだけではない。ギアが軽やかに入るのでシフトアップもダウンも非常にスムーズで、よく走る。鈍重に思っていた僕のオートバイに羽が生えたような錯覚に陥るくらい気持ちがよい。まるで別物のオートバイに乗っているようだ。クラッチレバーの軽さよりもその事に一番びっくりしている。
古いからと言って乗りにくいオートバイではなかった。しっかりと手を入れてやると、こんなにも乗りやすいオートバイだったんだ。恥ずかしながら13年目になって、改めて知る羽目になった。