島根に行ってきました、その1
まだ日も落ちていないというのにその集落には人影はなく、ひっそりと静まり返っている。錆びついたとたん家屋と崩れかけている土壁の家屋の間には狭い路地が通っていて、置いてあるのか落ちているのかわからないガラクタのような日用品が乱雑に散らかっている。その隙間から顔を出して、僕の行動をうかがう野良猫が数匹。
路地を抜けると漁港があった。停留船に掲げられた、「大漁」の景気のいい幟とは裏腹に、人気は無い。まるで集落の人間全員が神隠しにでもあったかのようだ。
波打ち際まで歩いて、漠然とはるか向こうの水平線を眺めるていると「今、世界は僕一人だ。」そんな気にさえなる。
身を引き裂くような冷たい風、それは水面を荒々しく揺さぶり幾重にも波という模様を作って、僕の足元まで押し寄せる。なすがまま、その身を上下に揺らしながら浮かぶ無人の停留船。
飾り気もなく愛想もない。ざらついた景色がどうして、こんなにも僕の心を打つのか。
宇龍
OLYMPUS OM-D EM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mmF2.8 PRO