アバスチンの点滴を勧められている患者さんが相談に来られました。
その患者さんは根治手術の直後から、
再発予防の目的で、
軽く100万円を超える高額な代替療法を開始しましたが、
半年で再発を来たしました。
その治療の最中の再発です。
しかし、その後もその治療を続け数百万円の治療費を払い続けています。
手術後再発予防の目的で、
高額な代替療法を行い、
その直後に再発してきている。
この事実だけで、
その代替療法は効果が無いと考えなければなりません。
その後、抗癌剤治療を行ったところ非常に良く効いてくれて、
ガンは上手くコントロールされました。
今回その治療が効かなくなってきたので、
アバスチンを勧められたとのことで、
アバスチンの治療について意見を求めに来られました。
その抗癌剤治療の最中にも、
効いていない代替療法を併用していましたので、
余程のお金持ちかと思いました。
しかし、話をしているうちに、
普通の一般的な家計の患者さんであることが分かりました。
そして、高額な代替療法をはじめてしまった多くの患者さんが
迷い込んでしまうアリ地獄にはまってしまっていることが分かりました。
その患者さん自身、その代替療法が効いていないことは分かっていました。
「それなら何故そんな高額な治療を続けるのか?」
と思われるでしょうが、
それが、患者心理、というより詐欺被害者の心理なのです。
もし、再発の時点で効果が無いことを認めてしまうと、
「その前に投資した数百万円は無駄に使ってしまった」
ということを認めてしまうことになります。
「大金をドブに捨てた」ことを周囲の人間にも知らせしめることになります。
そのことには納得できません。
そのためには、薄々嘘だとは分かっていても投資を続けなければなりません。
現在代替療法を受けていて、止めるか否か悩んでいる患者さんは、
シッカリした知識を持っている医者のもとへセカンドオピニオンを受けに行って下さい。
騙している医者と同じ医者が「それは効きません」といえば納得されるでしょう。
この詐欺被害者の心理は、
詐欺師がよく利用するそうです。
架空の上手い儲け話を持ちかけ
お金を捲きあげた後、
被害者が嘘かもしれないと思い始めた時に、
さらに、架空の話を持ち出し、再び投資させる。
その後、被害者が嘘だと確信しても、
再び話を作る。
それを被害者が蹴ってしまうと、
今まで投資したお金が全部騙し取られていたことを認めてしまう。
その時点で、上手い儲け話の夢は幻と消えていく・・・
そこで踏ん切りがつかず、
全財産を失うまで投資し続ける。
という構図があるそうです。
全財産を失ったという結果だけを見ると、
「何で、途中で気付かない」と傍観者は思うのでしょうけれども、
被害者は気付いているのです。
でも、それを断ち切るだけの勇気が出ない。
という心理状況に追い込まれるそうです。
代替療法を行っている医者が、
患者さんから治療費を詐取しようとしているとは思いたくありませんが、
効果の無い代替療法をはじめてしまった患者さんの心理は
まさに詐欺被害者の心理になってしまいます。
私も、まさにそのような心理状況に陥り、
結局、救われたはずの命まで失った患者さんを見ました。
その患者さんのご遺族はその代替療法の医者を告訴しました。
相談の患者さんもそのとおりでした。
「○×回行わないと効果が無い」
と言われ、百万円以上の投資をして、
その治療を受けた後、
まったく効いていないという実感どおり再発しても、
「あと○回行なった方が良い」と言われると、
そこで止めた場合、
はじめに投資した百万円以上のお金を無駄に捨てることになり、
あと○回、あと○回とドンドン深みにはまってしまいます。
深みにはまればはまるほど、
効果が無いことがはっきりしますが、
そのからの脱却はますます困難になります。
代替療法を受ける時には、
その治療を行っている医者のもとに説明を受けにいっても、
その治療のメリットだけしか宣伝しません。
まったく違う第三者にその治療についての意見を聞いてから
受けるか否か決定するべきです。
その患者さんは、
代替療法は勿論のこと抗癌剤治療も効果が無くなってきたので、
アバスチンを勧められています。
その選択は間違いではないと思いますが、
一月50万円程度かかります。
さらにその上に、効かない代替療法も併用することを勧められています。
アバスチンだけでも経済的に大変なのに、
効かない上に高価な代替療法を勧めるのは・・・・
その患者さんの場合、
健康保険の枠を考えないのであれば、
選択肢はアバスチンだけではなく
何種類もの廉価な治療の道も残されています。
全身状態も良いので、
極めて高額なアバスチンに急いで走ることは無いと思います。
また、その患者さんは大腸ガンではないので、
来年の4月になっても日本では保険適応になることはありません。
先ず廉価な治療から考えるべきだと思います。
十分に経済的な余裕が無い患者さんは
高額な代替療法は受けるべきではないと考えています。
健康保険の枠を考えないのであれば、
代替療法に多額のお金を使うのではなくチョット考えた方が良いように思います。
保険の通らない従来の抗癌剤だけでなく
アバスチンやハーセプチン、アービタックスのような分子標的薬を
自費で使う方が遥かに治療効果が大きいことが証明されており、
有意義にお金を使うことができます。
代替療法が必ずしも悪い治療だとは考えていませんが、
ガンが治る代替療法など存在しません。
すなわちその高額の治療費が終生続くことを忘れてはいけません。
代替療法はお小遣いの範囲で行うべきだと思います。
また、もしお小遣いを超えた治療を始めるのであれば、
止めるタイミングをはじめから確認しておいて、
「イクラまでなら賭けで失っても構わない」
と決めてから始めて下さい。
本日は、代替療法から抜けられない患者さんの相談を受け、
また、今現在も脱却できずに悩んでいる患者さんも診ていますので、
代替療法の欠点について書きました。
代替療法は一定期間だけ試してみて、
それでハッキリとした効果が無いならきっぱりと止める勇気が必要です。
治療効果のまったく不明な代替療法にだらだらとお金を使い続けるくらいなら、
効果が確実に証明されている健康保険外のクスリを使った治療を行うべきだと考えます。
以上 文責 梅澤 充