2024年が終わる。国際経済を振り返ると、中国の衰退が年初から加速したままだ。ところが、知り合いの中国ビジネス・エリートは、「あと2年待てば、中国経済は必ず再浮上する」と言うのである。
このエリートは北京や上海の新興企業経営者たちと緊密に中国の政治・経済情勢について情報交換している。つい半年前までは、「中国経済の不振は10年続くというのがわれわれの一致した見方だ」と口にしていたが、楽観論に転じた。「習近平党総書記・国家主席体制は27年で終わるからだ。後継者は陳吉寧上海市党委員会書記だ」と言い切る。
陳氏は1964年2月生まれ、清華大学卒の環境工程専門家で、英国の大学で土木工学博士号を取得した。2012年には清華大学学長、18年に北京市長、22年10月の共産党大会で中央政治局委員、さらに上海市党書記に抜擢(ばってき)された。実務家として党内の激しい権力闘争を潜(くぐ)り抜けている。仮に陳氏が27年の党大会で党総書記に就任するとしても、習氏は実権を離さないとの見方があるが、エリート氏は「陳氏が党トップになれば経済政策は必ず対西側融和へと修正される」と期待する。
習政権下の中国経済がいかに惨憺(さんたん)たる状況であることは、住宅投資と外国からの対中直接投資の推移を示す本グラフで一目瞭然だ。
20年初め勃発の新型コロナウイルス感染爆発の後、21年末には住宅バブルの崩壊が始まり、住宅投資が激減し始め、今なお前年を下回る。同時並行で外国企業の対中直接投資は減り続けた。バブル崩壊は今年に入ってさらに加速する始末である。
住宅相場の下落が全国に広がる中で、北京と上海は23年までは前年を上回っていたが、24年に入ると両都市とも急落し、前年同期よりも低いままである。外国企業は中国事業の縮小、撤退が相次ぎ、ネット(正味)の新規投資はほぼゼロにまで落ち込んでいる。
習政権は22年あたりから、鉄鋼、電気自動車(EV)、太陽光パネルなど安値輸出攻勢を激化させているが、多くの中国企業は採算割れに苦しんでいる。安値競争に巻き込まれた自動車など外資系各社は中国市場から撤退に追い込まれている。住宅投資に代わる中国経済の牽引(けんいん)役は不在のままなのだ。
にもかかわらず、習政権は大規模な金融緩和や財政出動には背を向けたままである。根本的な障害は共産党が土地とカネを支配する中国特有の経済構造にある。
バブル崩壊で地価は暴落し、その利用権販売収入に頼る地方政府の負債が急膨張している。人民元資金は中国人民銀行が流入する外貨に応じて発行するが、中国からの資本逃避は膨らみ、貿易黒字も縮小している。外貨の裏付けのない人民元は信用を失う恐れがあるので、人民銀行は小出しでしか金融緩和できない。25年1月20日には米国で対中高関税を振りかざす第2次トランプ政権が発足し、中国を追いつめる。改革は待ったなしだが、党の強権に固執する習氏が退場しない限り無理なのだ。(産経新聞特別記者・田村秀男)