ドナルド・トランプ次期米大統領は22日、国防総省のナンバー3となる国防次官(政策担当)に、エルブリッジ・コルビー元国防副次官補を起用すると発表した。ナンバー2の国防副長官には、米投資会社サーベラス共同創業者で最高経営責任者(CEO)のスティーブン・ファインバーグ氏を指名することも明らかにした。
国防長官に指名されたピート・ヘグセス氏は過去の性的暴行疑惑などの醜聞が報じられ、連邦議会上院の人事承認が難航する可能性が高い。ファインバーグ氏は国防総省での勤務経験がない門外漢である。世界最強の軍を率いる同省をまとめるのは実質的にコルビー氏になるだろう。
筆者はコルビー氏と長年、東アジア情勢を含めた安全保障問題に定期的に議論してきた。そのやり取りを振り返り、日本を含めたアジア政策への影響を読み解いていきたい。
コルビー氏との付き合いは筆者がワシントン特派員をしていた2017年にさかのぼる。コルビー氏が策定をしていたトランプ1次政権の「国家安全保障戦略」について意見交換をしばしばしていた。同戦略には初めて、中国を「戦略的競争相手」と位置づけ、政権の対中強硬政策の理論的支柱となった。「わが国の安全保障を脅かすのは、経済力と軍事力を急速に高めている中国だ。すべてのリソースを中国との競争に優先的にあてなければ、取り返しのつかないことになる」
同戦略を策定する過程で、コルビー氏は筆者に熱く語っていたのを思い出す。中でも、コルビー氏が警戒するのが、習近平政権が「歴史的必然」とする「台湾併合」である。
「習政権は『台湾統一』を実現して、アジア太平洋地域の覇権を握ろうと企てている。それを阻止するには米国の力だけでは不十分であり、同盟国とともに『反覇権連合』を形成する必要がある」
コルビー氏が提唱する「反覇権連合」で最も重視をしているのが日本だ。自身も父の仕事の関係で6歳から7年間、東京で暮らしたことがあり、日本への思い入れが強いことがうかがえる。コルビー氏が9月に来日した際、対中政策や日本の安保政策について2時間にわたり意見交換をした。半ば憤るようにこう語っていた。
「先日会ったワシントンの日本大使館幹部は『わが国は27年までに防衛費を国内総生産(GDP)比で2%に上げる』と報告してきた。だが、増額の中身を尋ねるとインフラ整備なども含まれていた。中国の脅威を考えれば3%までの増加は当然で、日本の現行の算出方法ならば4%への増加は必要だろう」
コルビー氏を指名した理由について、トランプ氏はSNSで「米国第一主義の外交・防衛政策の擁護者として高く評価されている」と説明した。次期政権による日本の防衛力強化の要求が強まるのは必至だ。
日本の約6倍になっている中国の国防費を考えれば、当然検討しなければならない。トランプ次期政権が発足する前に、日本独自の防衛力強化策を準備しておくことが急務だろう。(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員・峯村健司)