政治を科学するといったのは(というかキャッチフレーズにしたのは)
鳩山首相だが、「幸福を科学する」といっても大川隆法さんではなく、
社会科学の手法で見つめ直したのがこの本。
「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」と社会の様相を鋭いフレーズで
視覚化してくれる山田昌弘先生が電通チームハピネスと組んで世に問う、
ディスカバー携書の新刊(だったんですが、紹介遅れました)
紹介が遅れたのは、読むたびに紹介した文章、考察したい論点があふれているから。
どこで書こうか、なにを書こうかと考えているうちに時間が経ってしまった。
「幸福の方程式」とあるけど、なにか●+▲=LOVE みたいな公式がある訳ではない。
「幸福=物質的豊かさ」を否定する声が多いけど、
たいてい「物質的豊かさ=幸福」では無い理由は、あまり科学的でも論理的でもない。
だから、「幸福≠物質的豊かさ」を証明する為に、
まず「物質的豊かさを求めるのはなぜか」から考えるという
「科学的な手法」をとっているところが出色なのだ。
ディスカバーHPの紹介ページで説明されている書籍の内容のなかで、
>物質的豊かさと幸福との関係について、社会学者のジグムント・バウマン(一九二五~ ポーランド出身の社会学者)は、「一人当たりGDPが一定水準に満たない場合は〈不幸〉だが、それが一定水準を超えると、一人当たりGDPと幸福度の間に関係は見られなくなる」と述べている。
にもかかわらず、「幸福を生み出すと期待される商品を買い、消費することが、近代社会の幸福の基本」であり、「近代社会における貧困というのは、買い続けることができなくなった状態である」とも。と、この「幸福と消費の物語」について説明されている。
そして、その「物語」が埋め込まれたのが「優れた広告」だったのだ。
幸福を考えるなどという抽象的なことに、なぜ広告界の巨人・電通が乗り出すのか。
それは、幸福と言う物語をマス媒体から提示し消費を促してきたのが彼らだからだ。
物語の核をつかみ損ねれば、消費行動にはつながらない。
つまり、広告で商品が売れない時代と言われる今、原因探しはいろいろあるが
端的なのは、幸福と言う物語を広告がつかみ損なっているからではないか。
そう考えた人がいるところが、電通と言う会社の怖いところ。
どうしようもなく古い考えの人が幅を利かせていながら、
とんでもなく最先端の考え方を提示する人が出てくるのもまた、電通。
その意味では、この本なんかと一緒に読むといいですね。
ということで、この携書は、広告屋さんも読むべきなのだけど、
そんなことは置いておいても、山田先生の考察はあらゆる職種
(消費行動が関係ない職種は無いからね)に有効だと思う。
「パラサイト・シングル」から「婚活」から、なぜ現れたのか、何が変わったのか、
そうした過去の山田先生の考察が、この本の第1章に流れ込んできていますからね。
つまり、山田先生の中では連続した思考の中で到達したのが、
「幸福の方程式」だということ。
そして、物を買うと言う物質的幸福の先に、幸福を得る為にお金を使うという
幸福消費の時代がきていることを指摘している。
精神的幸福のために、やはり消費しなければ得られないのだ。
さらに、電通チームハピネスは恐ろしいことを指摘する。
究極の消費としての仕事
と言う概念だ。
幸福の為に仕事をする、というのはまあいいでしょう。
仕事がまさに幸福の原動力
というのはどういうことなのか。
それは、本を読んでいただきたいのだけど。
ちょっと、オソロシイ本ですよ。
目次(
ディスカバーHpより)
第1章 戦後消費モデルの変化と幸福の物語
1 物質的豊かさと幸福との関係を探る
GDPと幸福/消極的幸福の社会/「商品の消費=幸福」の時代
2 消費社会の「物語」、ふたつの段階
豊かな家庭生活という物語の時代/「家族物語」の牽引役としての広告/ブランド消費──消費の個人化の時代/パラサイト・シングルの出現とブランド消費の時代
3 消費不安の時代
ブランド消費の行き詰まり/消費不安の時代の到来/目論見はずれたパラサイト・シングルと団塊の世代
4 脱・消費社会の幸福
ゼロ成長社会の幸福とは/新しい幸福のストーリー/幸福サポート産業への期待
第2章 幸福が見えれば消費が見える
1 なぜ今、幸福ブームなのか
変わりゆく価値観/商品につけられた二つの値段
2 幸福を解く鍵は何か?
幸福の正体/他人との関係のなかにある幸福/「フローの幸福」と「ストックの幸福」/幸福を解く五つの鍵/幸福のペンタゴン・モデル
3 幸福のペンタゴン・モデルの考え方
�「時間密度」/�「手ごたえ実感」/�「自尊心」/�「承認」/�「裁量の自由」/五つの鍵を商品分析に使う/全部が揃わなくても幸福は得られる
4 消費の物語に代わる新しい幸福の物語
幸福の道具としての消費/�自分を極める物語/�社会に貢献する物語/�人間関係のなかにある物語
第3章 「自分を極める物語」の幸福と消費
1 「揺れ」が消費を創造する
次世代の消費の天才は彼らだ/消費のパラレルワールド/「差異」から「揺れ」へ/オタクの消費視力が支えた食玩ブーム/はまれる人、はまれない人/「はまる」人が消費を牽引する
2 手ごたえ消費
脱・旧物語消費の始まり/無印良品の「シンプル」がうけるわけ/「手間や不便」を消費する/育てる手ごたえを楽しむ/身体の手ごたえを楽しむ/家事も趣味になれば楽しい/快適から素朴へ/手ごたえへの欲求/お金から解放される幸福
3 新しい萌芽
コミックマーケットの先進性/ロックフェスティバルの秩序
第4章 「社会に貢献する物語」の幸福と消費
社会に貢献したい人々/社会を良くするための消費/ギルティ・フリーな生き方/デタッチメントで強くなる/サステナブルな社会のデザイン/生活をソーシャルにデザインする
第5章 「人間関係のなかにある物語」の幸福と消費
わたしたちは「居場所」を求めている/「つながり」を消費する人々/人間関係を育むための消費/ネタを買う/相手の幸せを買う
第6章 究極の消費としての仕事
仕事という「消費」/仕事を「買う」人が現れた/仕事を楽しむために自己投資する/仕事は幸福の五つの鍵を開く/お金から解放されたいと願う人々/ワークライフをバランスさせる/生活満足から人生満足へ/消費の方程式が変わる/みんなが機嫌よく働ける社会に
終章 つながりと幸福の弁証法的関係
あ、あと、紳介が若手芸人に向かって、なぜ「10億円で買いたい」と言ったのか、
それについての答えも、この本にはあるな。
だから、これも一緒に読んでみて。
関連エントリ
負ける戦はしない:自己プロデュース力 島田紳介今年印象に残った本「明日の広告」読了追伸
たまたま同じ日にdankogai さんが書評あげてる。
そちらもどうぞ。
幸福屋さんにご用心 - 書評 - 幸福の方程式@404 Blog Not Found>だいたいあってる。
なのになぜ本書にこれほどのおぞましさを感じるのだろうか。
著者名から来る偏見に違いない。
しかしその偏見が、読者を不幸から遠ざけることもまた確かなのだ。珍しく、歯切れが悪い。
内容はほめたいが、書き手が悪いと言うのだ。
だから、山田先生ののところだけ読めばいいのに。