私が敬愛する
さとなおさんが、初めて出した広告(本業と言える)の本「明日(あした)の広告」を読み終わった。
明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 (アスキー新書 045) (アスキー新書 45)一言で言うと「広告人必読」。今広告に関わる人、広告の世界をめざしている人は必ず読んだ方がよいと思う。ぼんやりと、「なんか変わったなあ」と思っている人は、目の前の霧が晴れます。いや、マジで。(ちょっと、さとなおさんぽくしてみた)
この本の著者である佐藤尚之さん(さとなお)が強く言いたいのは、「広告は消費者のためになっているか」という、考えてみれば基本的なこと、当たり前のことを「広告」は「広告制作者」は忘れていないか、と言うことなのだと思う。
心底、消費者のことを考えてつくっていないから、消費者が変わったのに気が付いていなかったり、消費者の想定が間違っていたりする。
「広告は消費者のソリューションでなければいけない」(本書230ページ)のに、多くの広告がそう機能していないから、消費者に見捨てられかけている。でも、広告が(広告会社と広告マンが)そのことに気が付いていない。
それを、さとなおさんは危機感を持って訴えてきた。
「広告」は驕っている、なかでも広告界の巨人「電通」は驕っていると言われて久しい。クライアントより高いビルを建ててはいけないと説教した電通OBもいるらしい。
確かに広告はクリエイティブだと言われ、広告マンの社会的地位が高まり、社会を動かしているのが広告だとか言われて、広告に携わることがいつの間にか、とてもハイブローで、クリエイティブで、かっこいいことになっていった。そのうち、クライアントより偉そうな広告マンも出てきた。驕っていると言われても仕方がない部分もあったかもしれない。
でも、こうした危機感を持って広告を考えるクリエイティブ・ディレクターが出てくるのもまた電通なのだ。(さとなおさんは、電通マンである)
実は昨日、電通ホールで「OOH Workshop'08」を見てきた。
OOHというのは、アウト・オブ・ホームメディアの略で、交通広告や屋外広告などを担当している部署だ。どちらかというと、マス媒体以外の地味な広告だと思われていたOOH広告に最近話題の物が多い。
海外では大きな賞を受賞する物も増えている。と言うよりも、海外ではOOH部門独自の賞もあるらしい。
日本でも、駅ジャックやバスラッピングあたりから新たな展開が見られるし、話題を仕掛けて、パブリシティ効果を図る物が多くなってきた。広告を載せるよりも、記事にしてもらった方が認知率は跳ね上がるし、人の心に残りやすいからだ。
その中でも、電通という大企業だからできる手法として「メディア担当とクリエイター」が手を組んでOOHに取り組む「OOHタンク」の取組が紹介されていた。
海外では、メディアエージェンシーとクリエイティブエージェンシーは別の会社なので、両方持っている日本の大手代理店のような形態は珍しいと言われるそうだ。
しかし、その両方持っていることを活かして「メディアクリエイティブ」ができるのではないか。クリエイティブの発想をメディア担当がなんとか実現しようと思うのは、両方が手を組んでプロジェクトを進めていける会社(電通)だからではないか、というのだ。
OOHが注目されるのは、ネット社会だからと言う、ちょっと聞くと逆説に聞こえる事実がある。
ブログやケータイでメールする人たちに、現場で起こるハプニングを含んでいたり、そこでしか見られないOOH広告は、格好のネタになる。そして、その広がりを計算してつくられた広告は、非常に遠くまで深く届く。さとなおさんも90ページでOOHについて触れている。
何だか二日続けて、電通の底力というか懐の深さというか、複雑さを知った思いがする。一方でOOHを4マス以外だからと言って差別している営業やクリエイターが多いのも電通なのだろうけど、それを否定して、新たなうねりをつくっているのもまた、電通なのだ。
おととい、仕事仲間の忘年会で、最近の電通マンへの愚痴を言っていた私だけど、それはそれとして、やはりすごい会社というか、すごい人のいる会社だなと思う。
そうした「人」が広告を作っている。それを忘れてはいけないんだなと思う。
自分も広告の世界の片隅で生きている人間として、消費者の変化、メディアバランスの変化というのは、肌で感じている問題だった。でも、プロダクションで仕事をしていると、オリエン受けて提案をつくるときには、そうした消費者分析やメディアプランニングなんて言う問題はとっくに終わっていて、雑誌広告や新聞広告というパーツ製作しかできない。
それでも絶対に忘れてはいけないのは「商品的にも市場的にも圧倒的に不利な二番手を、広告のチカラで一番手に押し上げることこそ広告の醍醐味だし、それを志さなければ広告マンである意味がない」(本書174ページ)という強い意志だ。
広告は消費者の心に価値変容を起こす物だと信じているか、価値変容を起こしてみせると意気込むことなく、ただ仕事をしていないかという自分への問いかけが必要なんだ。
消費者の変容を意識し、メディアのあり方の変化、ネットの使い方などを提案の中に繰り返し忍ばせ、いつかその日が来ることを忘れてない無いつもりだった私にとって、意を強くする本だった。