【読書】脳科学の教科書―こころ編―:2013年7月29日
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色々と必要があって、脳科学の本を読んでいる。
この本は、新刊だと聞いて読んでみた。
理化学研究所脳科学総合研究センターが出した脳科学の本だから、要素還元的な【脳の中に遺伝子が見つかった】的な話なのかと思って読み始めた。
ところが意外なくらいに(失礼)、実にオーソドックスな「こころ」の本で、しかも「おわりに」のなかには
いちばん注意しなければならないのは、「こころを司る脳の場所が見つかった」「こころをコントロールする分子が見つかった」といった、安易な要素還元論です。
とまで書いてある。さらに、
もっといけないのは、ある遺伝子を失わせた動物に行動の異常が見られた時に、「この行動はこの分子によって行われている」と説明しようとしたり、心理的な作業をしている時に脳のある場所が活動していたら、「この脳部位のはたらきは、この心理的作業をおこなうことだ」と結論したりするような、論理的に誤った考え方です。
とさえあるのだ。
いやいや、脳科学の人たちは、そんな話ばっかりじゃないの?
と思った方は、まずは、この本を読んでください。
利根川進MIT教授、「ニセの記憶」をマウスで再現@ハフィントン・ポスト
いったん体験した出来事が、思い出す際に異なる内容に置き換わってしまう「誤った記憶」(過誤記憶)ができる過程をマウスで再現したと、米マサチューセッツ工科大教授で、理化学研究所脳科学総合センター長の利根川進氏らのチームが26日付の米科学誌サイエンスに発表した。共同通信が伝えた。
一方でセンター長はこんな発表をしているわけですが。
理研プレスリリース;記憶の曖昧さに光をあてる
-誤りの記憶を形成できることを、光と遺伝子操作を使って証明-
「脳の研究」と「こころの研究」は、これまで全く別の分野として研究されてきて、クロスオーバーが進んだいまでも、多くの研究者は別々にアプローチしています。
よく「こころが脳の機能」であると言われますが、どうも脳の働き方は他の臓器のようにわかりやすいものではないようです。ある部位が直接ある機能を担当しているのではなく、いくつかの部位が連関し、神経細胞で情報がやり取りされて「こころ」といわれるものになっているようだ、というあたりまではわかってきました。
しかし、まだまだ脳の中を見ることは難しく、脳がどのように動いているのか、脳の中でどのように情報がやり取りされているのかは、直接見ることは難しい状況です。
人間は、やはり「見ること」で理解する事が出来る点が多いので、見えないと理解できないわけですね。
見えなくても、そうなっていると思えばいいんですが、それだとやはり間違いも多いし。
脳とこころの研究がここ10数年飛躍的に進み、また多くの研究者が参入するようになったのは、この「見るための機械」の進歩が大きいでしょう。
その辺の話は、BSIの前作であるコレとか、
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日立製作所で光トポグラフィ―という脳活動を見る装置の開発に携わってきた、小泉先生のこの本とか、
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このへんに詳しいです。
ただ、いくら脳を見ても、こころは見えないわけで、そこをどう結ぶかというのが認知科学や心理学の登場になるわけですね。
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こういう本を読みつつ、こころと脳の問題の難しさを感じるこのごろです。
6年前の本と読み比べると、研究の進歩と限界が見えてくるかもね。
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