土曜日夜の回を見に、久しぶりに下北沢へ行って来ました。
これまでも毎回みている
パニック・シアターの第21回公演「ハムレットの舞台裏」です。
第19回公演:
観劇「タンゴにのせて」フリンジ公演:
「サイレント・メモリー」見ました第20回公演:
クサイ話:ダ・ヴィンチは正しかった!主宰の中村まり子さんの活躍は、2009年はイヨネスコの翻訳やイベントは拝見しましたが、
諸事情でパニック・シアターの本公演はなかったんです。
久しぶりの本公演は、バックステージもの。しかも、イギリスでも一度しか上演してないらしい。
あらすじを読むと。
>イギリス地方都市の小さな劇場。
ハムレット初日1週間前!稽古中の劇団で起きる、様々なトラブルあれこれあれこれ・・・
俳優のワガママ・公演の赤字・劇団内恋愛のもつれ・劇場閉鎖の噂・・・万事休す!!!と、思われたその時、現れた意外な救い主、それは・・・・・???
1986年イギリスでたった一度上演された幻の?逸品。日本初上演!!
客席も巻き込んで舞台作りの裏表、全部お見せしながらハムレットの初日に向けて、下北沢の新しい小空間に、本場の小劇団活動風景を再現・・・しつつ・・・
パニック・シアター・テイスト、ちょっぴり不思議な優しいコメディということで、日曜日に公演も終わったのでネタバレありで書きます。
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客入れの段階から、舞台上では稽古のための建込みや衣装の確認など、
劇場ものらしい演出が行われています。
その稽古場に公演の演出家であるケイトがあらわれるところから舞台の始まりです。
主人公のケイトは、劇団の演出家で主宰。
実は既に赤字続きで運営は大変なのに一人で頑張っている。
もう一人の主人公であるエリック・ベネットは、劇団の看板役者でケイトの元恋人。
まあ、二人でやってきた劇団ということです。
彼の力量で劇団は評価を受けてきたのだけど、年齢が上がると配役も変わってくる。
今回もハムレットなのに、彼の役は亡霊。それが不満でもある。
その劇団の衣装係のリズは、エリックと恋愛中。
結婚を認めてもらうために母親を劇団のある街まで呼んだのに、
その会食の席にエリックはこなかった。
二日酔いで稽古に遅れてきたエリックだが、
オフィーリアを演じる若手女優にもちょっかいを掛けるどうしようも無い男。
公演1週間前の日、ケイトへ制作のルーシーが「電話がかかってきた」と取次に来る。
次の日、その電話の相手である劇場オーナーの秘書マクレディがやってきて、
「公演初日に成果が出ていなかったらば3日で閉め、劇団への援助は打ち切る」という。
ケイトとルーシー以外に、その状況を知るものはなく、
ましてや劇団低迷の主因である看板役者エリックは、相変わらずシャンとしない。
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ここまでが状況説明と登場人物の関係紹介。
ケイト役の中村まり子さんは、パニック・シアターの主宰。
演じている劇場は本多劇場などを保有する
本多一夫さんのシアター711(すずなりの横)。
実は、最後に社長役で本多一夫さんが登場することがわかっているだけに、
実生活での関係と、役がオーバーラップするようになっている。
エリックを演じるのはパニック・シアターに欠かせない
田村連さん。
リズは元宝塚の
香坂千晶さん。
舞台関係者などには、三ツ矢雄二さんの劇団
アルターエゴの若手を配している。
若手が上手になったなあなどという見方もできるのは、長年見てきたからかなあ。
さてお話の続き。
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エリックに会えなかったリズの母親が、ケイトに会いに稽古場にやってきた。
ケイトと二人で話がしたいという。
そして、ケイトが実は夫である名優がある女優に生ませたリズの姉であると告白する。
困惑するケイト。そのケイトに、リズの母親はリズとエリックを別れさせて欲しいと頼む。
エリックの元恋人であり、腹違いの姉であるケイトにしか頼めないことなのだと語る。
ケイトは動揺しながらも、話を受け入れ、二人は笑顔で別れる。
実はリズの父親はイギリスを代表するシェークスピア俳優で、
ハムレットの亡霊の役を演じた際に履いていたブーツを形見としてリズは持っていた。
リズはそのブーツを、今回同じ役を演じるエリックにも履いて欲しいと願っていた。
エリックは、サイズが合わない事を理由にブーツに難癖をつけ、
公演練習中もブーツのせいで演技ができないことを繰り返し訴える。
そして、公演初日の前日に行われたマクレディも見に来た
通し稽古での演技の不首尾の理由も「ブーツのせいだ」と愚痴る。
で、これだけ伏線をいろいろ貼って置いて、結局、公演は大成功に終り、
リズはエリックと別れて家にかえることを決心し、
エリックも昔のように主演俳優としての誇りを取り戻すために努力することを誓って、
この舞台は閉じる。
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リズの母親ミセス・バーカーを演じるのはパニック・シアター常連で重鎮の
原知佐子さん。
この場面、原さんとまり子さんの二人だけで15分くらいあるのですが、
実に見ごたえがある静かな丁々発止の演技。
どう考えてもご都合主義な台本に見事なリアリティを付加して、
そんな偶然あるかもしれないと思わせてしまうのだから、女優は凄い。
大きな声を出さなくても、大げさな表情や身振りをしなくても情感は伝わるのです。
若手は勉強になっただろうなあと思うんですが、このシーンの好評を聞いても
ご本人は「あたし何もしてないのに」とおっしゃっているとか。
マクレディはこちらも常連の
及川ナオキさん。
あまり美味しい役ではなく。憎まれ役だし、2シーンしかないし。
仕方が無いからなのか、話とは関係ない役作りしてましたね。
衣装係助手のトニーに一目惚れするゲイなんだというふくらませ方。
その工夫、無駄な感じが好きです。
さて、この芝居が一度しか上演されなかったのは
たぶん台本に無理があるからだと思うのですが、
続きに行きましょう。
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公演前日、エリックの不首尾もあって絶望の淵にいるケイトの前に老紳士が出てきて、
「あなたの演出作品は初日から見ていますよ」と話しかける。
そして「この公演は大成功に終り、劇団も長く続くでしょう」と予言めいたことを言う。
不審顔のケイト。老紳士は去っていく。
本番当日。
エリックの楽屋。
ケイトにエリックには気を付けるように言われたオフィーリア役の女優だが、
本番前に楽屋挨拶にきた。エリックはまだ来ていない。
前日ケイトから、ブーツのせいで演技ができないと言い訳するのを
「腕の悪い職人は、出来が悪いのを道具のせいにする」と言われ
カッとなってブーツを持って帰り一晩中、ブーツを履いて家で稽古をしたため、
足が痙攣したままのエリックが、そこに入ってくる。
話をするウチに、エリックは彼女に迫るが、誤って転びそうになり、
彼女の胸に手をついてしまう。
驚き楽屋を飛び出すオフィーリア役の女優。
メイクを始めるエリック。
そこに血相を変えたリズが入ってくる。
「彼女に何をしたの」
「何もしていないよ。足がこむら返りを起こしただけさ」
エリックののらりくらりとした態度に業をにやしたリズは
もう、あなたには付いていけないと思うわけだ。
揉め事の合間に、老紳士が音もなく忍び込んできて
メイク中のエリックの部屋からブーツを持っていってしまう。
ブーツが無いことに気づき狼狽するエリック。
しかも、本番直前なのに楽屋のドアが開かない。
本番が始まる。
気を失うエリック。
間があり、遠くからフォーティンブラスのセリフが聞こえてきてハムレットの舞台は終了したらしい。
「本番に穴をあけてしまった」
悄然とするエリック。
そこに走り込んでくるケイト。
謝ろうとするエリックに、賞賛の嵐。
「まるで本物の亡霊のような動き。あなたとは思えない声。素晴らしかった」
次々と公演スタッフが入ってきてエリックを賞賛する。
そこにマクレディと劇場オーナーが入ってきて、
ケイトに初日の成功を祝し今後の支援を約束する。
初日の打上にパブに行くみんな。
残るケイトに、リズがやってきて、劇団を辞めたいと言う。
「エリックと同じ現場にはもういられない」
すべてを理解したケイトは、今後どうするのか聞く。
母のもとに帰ろうと思うが、またこうした仕事につきたいと言うリズ。
そして、リズは、ケイトに本当の姉のように慕っていたと言う。
何かを言いかけるケイトは、言葉を飲み込み、黙って優しくリズを抱きしめる。
リズが去った後、また老紳士があらわれ、初日の成功を祝する。
ケイトはひょっとしてあなたは、と問うと、「ただのファンです」と言って去る老紳士。
エリックが現れ、これまでの暮らしを反省し、明日からの再生を誓う。
そして、二人の関係の再構築を匂わす。考えておくとだけ言うケイト。
すべては、うまく収まり。新しい明日が見えてくるのでした。
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書いていて途中で、どうしようかと思いましたが、
この実にご都合主義で、バックステージ物と言っても、
オフィーリア以外のハムレットの重要な役柄を演じる役者が出てこない、
一見するとどう仕様も無いお話が、
原知佐子さんや老紳士役の
川辺久造さんの演技と存在感のおかげで、
ちっとも嘘くさくない。
ロマンチックでファンタジックなストーリーに思えてしまうのだから芝居は怖い。
どうも毎回のことながら、演出の中村まり子さんが大幅に書き足している様子。
当然劇場オーナーの役はないし、芝居自体もハムレットが上演されたところで終わりだったのだとか。
また老紳士が英雄だったかどうかももっとハッキリしないようです。
つまり、構造だけを借りて、かなり換骨奪胎した中村まり子さんのオリジナルに近いもののよう。
でも、それで面白くなるならいいじゃないですか。
会場の平均年齢も高く、配役も大人がいないと出来ない芝居。
高齢者社会にはこういう大人の芝居がないといけないと思います。
シアター711は、元映画館だっただけ合って椅子が座り心地が良くて、
その意味でも年齢が上の人達には見やすかったのではないかと思います。
芝居のあとは、劇小劇場そばの「
ふるさと」で食事。
下北沢では古くからあるお店で、40年くらいになるとか。
下北はアフターシアターがしやすい店が多いのですが、
ここは本当に昔ながらの和食屋さんで座敷が心地よいです。
二階は、芝居の打上にもよく使われるとか。
こうしたシモキタの良さがいつまであるかなあ。
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