海洋事情に詳しい東海大の山田吉彦教授が都内で産経新聞とのインタビューに応じ、中国漁船が世界の海で魚を乱獲している実態を明らかにした。西側諸国とは異なり労働に厳しい制約がなく、約14億人のたんぱく源獲得に向け、なりふり構わぬ漁法が行われていることが浮き彫りとなった。また、中国政府の肝煎りで富裕層に作らせた大型外洋漁船が、中国海警局の斥候隊の役割を果たしているとも指摘した。一問一答は以下の通り。
――南米チリからエクアドル沖で乱獲が目立つ
「イカやイワシを乱獲している。フカヒレ用のサメは密漁。中国船がこの海域を狙うのは、沿岸国の警戒態勢が緩く、政治的にも中国に親近感を抱き抵抗しないためだ」
――西アフリカ沖でもタコやハタの乱獲が進む
「モーリタニアやモロッコ沖で獲り、欧州へ輸送船で運ぶ。欧州では昔、タコを食べなかったが、宗教的に怪しげなイメージが消え消費が増大。スペインでは日本食ブームで消費がグンと増えた。タコは日本に来ず値段が上がっている」
「中国人は3年ほど船上で働く。労働制限がなく、人権問題にならないからだ。日本なら労働基準法違反だ」
――習近平中国国家主席は就任に際し「海洋強国」になると宣言している
「偉大な漢民族、鄭和の艦隊遠征(15世紀)のころに戻すと強調した。『海の道』を押さえるのは重要だ。中国が恐れるのは国民が飢えること。中国の歴史もこれで動いた。中国人は内陸で魚を獲り、料理店で鯉のカラ揚げも出るが、今は内陸の水が汚染され『ならば無限の海で』となる。海はたんぱく源の宝庫で無尽蔵、と彼らは考える。漁獲高は世界の18~20%。日本は1%未満だ」
--船は日本の排他的経済水域(EEZ)にも侵入する
「海上保安庁は中国船を容易に拿捕(だほ)できない。中国船は海保船の位置をレーダーで見て、やりたい放題。マグロを獲り合う太平洋でも、30キロのエサを付けて走る日本船のロープを中国船は走りながら切断する。太刀打ち不可能だ」
--有効な漁業許可証、漁船登記証、漁船検査証を持たない中国の〝三無漁船〟も徘徊(はいかい)する
「中国当局は彼らをうまく使う。三無漁船は世界の魚の4割を獲っているとされ、批判されないよう公表もしない。大船団が移動するとき、三無漁船も付いていく。密漁時のおとりで、大船団はその間に逃走する。拿捕するのは難しい。現行犯でのみ可能だからだ。魚には出生証明もない」
――中国政府は富裕層に大型の外洋漁船を作らせてきた
「今も続いている。彼らは人民解放軍の予備軍だ。海警局の斥候隊ともいえる」
――南シナ海の油田近くに中国船が姿を見せる
「油田近くはプランクトンが多く、魚もいる。中国漁船がいるなら、人民解放軍や海警局が行き『中国人民を守る』との構図を中国政府は作る。ベトナムの油田であれフィリピンの油田であれ『中国の海に中国の漁民が行って何が悪い、彼らがいるから守る』との大義名分を彼らは作る」
――ポンペオ前米国務長官は中国の乱獲を批判したことがある
「米国が敏感なのは中国船が世界を走り回り、安保上の懸念があるからだ。漁船がいる所に人民解放軍がいつ現れてもおかしくない」