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「毎晩泣いてる ?! どうして電話しないのよ!」
「だって夜中の3時とかだもん」
「あ、そう・・・」
娘は小さい時から泣かないので有名な子で、「怒られても平然としている」と幼稚園の先生がぼやいていたくらいだ。
「変化が過激すぎた」と娘。
「うちから離れ、パリから離れ、家族や友達やボーイフレンドや猫とも離れ、夜8時になったら誰も歩いてないみたいな田舎に来ちゃって・・・」
順位から言えばボーイフレンドと猫のタマが筆頭だけど、私がむくれるので後にもってきたらしい。

それでも学校の授業が面白ければモチベーションになるけど、「かなりがっかり」
娘が今年6月まで通っていたのは、2年間でDMA(Diplôme des métiers d’art/アート技術ディプローム)を取得できる美術学校のひとつ。2年間で色々な画法、版画、製本・・・をみっちり教え、課題制作がひっきりなしに出て、先生が密着して意見やアドバイスをくれた。ところがアングレームのボザールは、課題が出て、
「では6か月後に提出してください。質問があれ僕の部屋に来て」
ところが“僕”は部屋にいた試しがなく、生徒たちはほっぽり出され、みんな勝手なことをやっている。
「その上、課題が何だと思う?『音』をテーマに漫画を描け!美術史は去年やったのと同じことだし(だからさぼる)、英語はシェイクスピアを読むだけだし(これもさぼる)、バンドデシネの先生は『タンタン』で止まってるし、唯一面白い授業は2週間に一度・・・」
自分はここで何をしてるんだろう?と思っても、アパルトマンを契約し、トラックで引っ越ししたあげく「“やめたい”なんて言えない」
「そんな!鬱になったらどうするの?年末までとか期限を決めて見切りをつけたほうがいいよ。時間の無駄」
時間だけじゃない。家賃や光熱費、TGVの往復・・・その上、タマは愛情不足を食べ物で補おうとしてまた太った。

tama camille

娘の心配は、やめたらどこにも行くとこがなく(途中編入はできないから)もっと路頭に迷うんじゃないか・・・それもわかる。
「とにかく。いつでもやめられると思えば、少しは気が楽になるでしょ。やめたって研修とか見つかるわよ」
「そうだね」
娘は“じゃ明日帰る”と電話を切った。

ヤレヤレ・・・フランスの格言『小さい子供、小さい心配。大きい子供、大きい心配』、よく言ったもんだ。


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1852年、ルイ・ナポレオン(ナポレオンⅢ)のクーデターで、村の男たちは一斉逮捕され強制収容所に送られててしまった。残った女たちは、いつか夫や兄弟が戻ってくるのを夢見ながら、きつい畑作業を分担して生活していた。

仏映画『le semeur/種を蒔く人』

こうして2年が経つ。女たちの顔には疲れと欲求不満が隠せない。
適齢期の女子たちは「もし見知らぬ男が村にやってきたらどうしよう?」と相談し始める。その結果、「みんなで共有する。その男が一人と寝たかったら、あとの全員とも寝る。選択の余地は与えない」という協定ができた(セクハラ男性版?)

そこへ、見知らぬ男が通りかかる。久しぶりに見る異性の姿に、女たちは思わず仕事の手を止める。
男はヴィオレットに声をかける。「どこか泊まるところはないだろうか?」
彼女が一番近くにいたからだけど、彼女が一番可愛かったのも確か。村で読み書きができるのもヴィオレットだけだ。

男は村に居ついて畑仕事を手伝うようになった。毎日食事を運ぶヴィオレットと本を貸し合い、当然2人は接近していく・・・

仏映画『le semeur/種を蒔く人』

「あんた、寝たでしょ?」という視線・・・

仏映画『le semeur/種を蒔く人』

マリーヌ・フランセンの初長編『Le Semeur/種を蒔く人』二重の意味を持つタイトル!

仏映画『le semeur/種を蒔く人』
photos:allociné

女だけの(ヒステリックな)世界に男がひとり放り込まれる・・・1971年のドン・シーゲルの作品『白い肌の異常な夜』(原題は『Beguiled/魅せられて』なのに日本語タイトルはダイレクト!)、負傷した兵士(若きクリント・イーストウッド)が女学院の教師と生徒たちに介抱される話が有名だ。ソフィア・コッポラが『ビガイルド 欲望のめざめ』(2017)でリメイクした。

この『Le Semeur/種を蒔く人』で、農婦たちは寡黙で、嫉妬や羨望は表情や視線が語る。それでも欲望の強さは伝わってくる。クラシックな作りで『ビガイルド』の農村ヴァージョンにならず、ご覧のように映像が綺麗で19世紀のタブローのようだ。
主人公のヴィオレット(ポーリーヌ・ビュルレ)の真摯な大胆さもいい。

Le Semeur
監督:マリーヌ・フランセン
主演:ポーリーヌ・ビュルレ、アルバン・ルノアール、ジェラルディン・ペラス
1時間40分
フランスで上映中

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殆どタダの朝市

夫が不在で、娘は友達のうちに泊まりに行ってまだ帰ってこない。
ロベールをお伴に朝市に行こうと思ったら、「今、ご飯食べてる」
「じゃ食べ終わったら市場まで来て」
と私はひとりで魚屋に向かった。
鮭やカジキマグロを買って、お財布を出すと ・・・クレジットカードがない !! うちを出るときちゃんと確認して、お財布はキャディの底に入れたのに・・・どうやって盗めたの ?? 仕方なく現金で払い、さてどうしよう?
朝市はチェックを断る店が増えていて(不渡りの危険)、肉屋、魚屋はカードで払う。つまり現金はそんなに持っていない。
私はチェックを取りに一旦うちに戻り、ロベールを連れ、歩きながら銀行に電話してカードの差し止めを頼んだ。

「どうやって盗んだの?」とロベール。
それが謎・・・魚屋の前はいつもお客が群がっていてキャディもゴチャゴチャと錯綜している。私のキャディに手を突っ込んだ人がいても、誰も気づかなかった・・・そうに違いない。
「現金は取られなかったの?」とロベール。
「それが不思議。私なら現金を取るけどね。だってカードは3度暗証番号を間違えるとブロックされるでしょ」
「でもsans contactで買える」
私はロベールの顔を見た。よく知ってるわね。最近端末に近づけるだけでいいカードが増えている。でも限度額は30ユーロ。

肉屋に赴き、
「チェックで払っていいですか?さっきカードを盗まれたとこなの」
「ええ!そりゃ災難だ。次回払ってくれればいいですよ」
と肉屋のオジサン。
私は子牛や挽肉を買い、ロベールが「シポラタが食べたい」というので2本買い、
「じゃ次回払います。ありがとう!」と言うと、
「まだ買い物があるでしょう、はいコレ」
と50ユーロ貸してくれた。
ロベールはシンジラレナイという顔。
「どうして50ユーロもくれたの ?!」
「くれたんじゃなくて、貸してくれたの。親切ね」

八百屋でも同じ。「払うのはいつでもいいよ」と言われ、野菜や果物を選んでいると、
「シポラタ、今食べていい?」とロベール。
シポラタは、子牛や豚の挽肉のソーセージだ。

シポラタ

「焼かないと食べれないわよ」
「ボク、生のほうが好きなんだ」
「ウソ・・・生で食べたことあるの ?! お母さん、いいって言うの?」
「もちろん」
「後で気持ち悪くなっても知らないわよ」
「なるもんか」
ロベールは買ったばかりのシポラタを美味しそうに食べだした。
シンジラレナイ・・・

「みんな君のこと知ってるからタダでいいの?」
「行きつけのお店にしか行かないから仲良くなったの。おまけしてくれるし、色んなこと教えてくれる」
そういえば祖母も魚屋さんと植木屋さんが親友だった。
その後は夫が行きつけの生ガキ屋とニシン・バーに寄って現金で払う。

グラスワインと生ガキをその場で味わう人も

パリの朝市 生ガキ屋

ポーランド人が2年前に始めて大繁盛のBar à Hareng/ニシン・バー。
色んな野菜とマリネにしたニシンが10種類くらい並ぶ。

パリの朝市 ニシン屋

ロベールは、「げーっ不味そう!」を連発。
「そういうこと言わないの!好きな人も(私とか)たくさんいるし、第一お店の人に悪いでしょ。シポラタ生で食べるほうが気持ち悪い」
と言うと、やっと黙った。

帰り道、ロベールは買いたい電動キックスケーターのことを熱心にしゃべり、うちに着くと8ユーロ受け取って帰って行った。10ユーロは高すぎると交渉して1時間8ユーロになったのだ。

カードを盗まれた怒りより、市場の人の親切と生シポラタの驚きが残った。


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お医者さんもよく処方する咳止めシロップ&顆粒。
ブラックリストの筆頭は:
Bronchokod sans sucre toux grasse adultes(痰の絡む咳止めシロップ、ノーシュガー大人用)
成分のカルボシステインは去痰剤で、咳止めとしての有効性は実証されていない。2006年にHaute Autorité de Santé(健康権力機関)の意見により、健康保険が払い戻しを停止した。その上アルコールとパラベン(防腐剤)入り+副作用(下痢、胃痛、吐き気・・・)。害アリ効果ナシ払い戻しナシ・・・誰が買う?

処方箋ナシで買える薬


Exomuc toux grasse orange
Fluimucil Expectrorant sans sucre orange
この2つもお医者さんがよく処方する顆粒状の薬、処方箋ナシで買えたとは。どちらも合成のオレンジ味。前者と同じくカルボシステイン入りで咳止め効果ナシ。同じく健康保険が払い戻しをやめた。
お医者さんが知らなかったってこと?!

処方箋ナシで買える危険な薬

Toplexil Sans Sucre
Humex toux sèche oxomémazine sans sucre
オキソメマジン(抗ヒスタミン剤)入り、乾いた咳を止めるというシロップ2点。子供が小さい時(3歳から可)から何本Toplexilを買ったことか!大人用が今も3本くらいある(買ったのを忘れてまた買うから)。でも成分に害はなく、粘膜の渇き、目がかすむ、眠気など風邪薬によくある副作用。「次善の策として、時々夜飲むのはいい」そうで、ホッ、捨てなくていい。

処方箋ナシで買える薬

次に喉の痛み編。
Humex mal de gorge
2種の殺菌剤(リドカイン&ベンザルコニウム)入り、前者は局部麻酔薬でアレルギーの人は要注意。後者は喉の痛みへの効果が証明されていない。この手のスプレーは狙い定めないと上手く局部に届かず、舌に噴射して「ギャー不味い!」と、うがいしたり・・・私が方向音痴だからかと思っていたら「スプレーが局部に当たらないと効果がない」
私だけじゃなかった。

フランス、処方箋ナシで買える薬の危険


Angi-Spray mal de gorge
こちらも2種の殺菌剤(リドカイン&クロルヘキシジン)のコンビ。同じく局部麻酔薬(アレルギー注意)と効果が証明されていない殺菌剤。同じく局部に命中させるのが難しい。

Drill
Strepsils Miel Citron(蜂蜜&レモン入り)
この季節、薬局の目につく場所にズラリと並んでいる喉飴。喉が痛いといってひっきりなしに舐めている人がいるけど・・・上記と同じく効果が証明されていない2種の殺菌剤の組み合わせ。パスティーユひとつに2.5gの糖分(角砂糖半分)。
「それならふつうの蜂蜜かレモン入りの飴を舐めたほうが害がない」

処方箋ナシで買える薬

危険なリップクリームとか、害のある製品の検挙が相次ぐのは、私たちの日常が危険物質に囲まれているっていうことだ。
でもフランスで処方箋ナシで買える薬は約13%。スーパーで薬が買えるドイツでは44%、スェーデン41%・・・まぁマシと言うべきか。

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風邪をひいた時、お医者に行かず風邪薬を買って直しちゃおうという人は多い。
私も先週お医者に行かず(第一、かかりつけのお医者は休暇を取っていた)悪寒がひどいとパラセタモールを飲んでいた。1週間以上経っても良くならないので、ついにお医者に行くと、
「ウィルス性の咽頭炎、抗生物質を飲まないと治らないですよ」と言われ、処方された抗生物質を飲みだしたら急速に良くなった。
もっと早く行けばよかった、アホ・・・と思っていたところ、『処方箋ナシで買える危険な薬』が発表された。

掲載したのは『60 millions de consommateurs /6000万人の消費者』、経済・財務省付きの国立消費研究所/Institut National de la consommationが出している月刊誌の号外。
ニュースでも取り上げられたけど、雑誌の営業妨害になるから危険な薬の名前までは言ってくれない。仕方なく買ったけど、買ってよかった。
処方箋ナシで買える薬の筆頭はやっぱり風邪薬。ブラックリストに入ったのは:

処方箋ナシで買える危険な薬

Actifed Rhume Jour&Nuit
“有効成分”のプソイドエフェドリンは副作用が多すぎる(心臓循環系疾患、神経病、半睡状態・・・)上、風邪の症状への有効性は実証されていない。プソイドエフェドリンはアメリカでの覚せい剤作りに欠かせない物質だそう!
風邪ひいて薬局に行ったとき、何度この薬を買ったことか!ヤク中になるとこだった・・・

Dolirhume
頭痛薬の定番Dolipraneのrhume(風邪)ヴァージョンは、パラセタモールとプソイドエフェドリン入り。後者は殆ど覚せい剤で上記の副作用があるし、パラセタモールは頭痛、高熱にしか有効でなく単なる風邪(くしゃみ、鼻づまり、咳)には効かない。すなわち百害あって一利なし。

Neurofen rhume
イブプロフェン(非ステロイド系消炎鎮痛剤)とプソイドエフェドリン(覚せい剤!)入り。この2つは風邪の症状に効き目ナシ。15歳以下禁止、喘息、胃潰瘍、肝不全、腎不全、心不全、高血圧、前立腺障害・・・の人も禁止。心臓循環系疾患、神経病の副作用アリ。風邪を長引かせたほうがよっぽど安全だ。

Rhin Advil
これもイブプロフェン(非ステロイド系消炎鎮痛剤)とプソイドエフェドリン(覚せい剤)の組み合わせ。つまり重症の副作用の長いリスト。

この4つが一番危険で、他は「副作用はあまりないけど効果もない」薬。

友達に紹介されて一度行った一般医は、診察室でタバコを吸うぶっ飛んだ女医さんだけど、
「処方箋書くけど、風邪薬なんて効かないの。暖かくしてゴロゴロしてれば治るわよ」
彼女は正しかった。


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親子離れ日記

娘はスーツケースを引きずって帰ってくる。中身は洗濯物と空のタッパーと絵の道具。
日曜に発つはずが、
「月曜の朝の美術史はもうやったことばかり、先生もつまんないからさぼる」
「・・・」
「午後は“瞑想の会”があるんだって」
「何それ?」
「さっきメールでお知らせが来たの。1時間、瞑想すると自分の姿が見えてくるんだって」
「あなた、学校じゃなくて宗教団体に入ったの!?」
「そうだね、行かない。じゃ月曜の夜のTGVね」
彼女は携帯であっという間にTGVを変更する。TGV MAX(一か月79ユーロでTGV乗り放題のパス、ただし16~27歳)は変更・キャンセルただなのだ。

月曜の夕方、さらに重いスーツケースを引きずって発っていく。洗濯済みの服とぎっしり詰まったタッパー。今回はポタージュ、ラタトゥイユ、ハンバーグ、鶏のバスク風、トンカツ、チリコンカン・・・をアングレームまで運んで行った。
食べることが大好きな子、彼女が発ったあとの冷蔵庫の空っぽさにしばし呆然となる。
その後数日は、
「〇×は冷凍できる?」
「××はいつまでに持つ?」
というSMSを頻繁に送ってくる。
かと思うと、切羽詰まった声で
「水道料金を払ってないんで水を止めるって通知が来た、どーしよう!?」
「それ脅しよ。料金払わなくても水を止めるのは禁じられてるの」

電気・ガス料金は「2週間以内に払わないと止める」という警告が来て、それでも払わないと止める(または供給量を減らす)ことができる。ただし11月1日~3月31日のTrêve hivernale(冬季休止期間)は電気・ガスを止めてはいけない(凍死の危険!)。
同じ理由からこの期間は家賃を払っていない住人を追い出すことも禁じられている。寒い国の知恵。
生きていくのに必要不可欠な水はというと、一年中止めてはいけない。

11月に入ったから、何も払わなくても追い出されたり止められたりしないから気にしない!とは言えないので、
「きっと前の住人から変更になってないのよ、電話してみなさいよ」
果たして変更されてなかったそうだ。

一人暮らしを始めたばかりの娘は、「生活するのってこんなにお金がかかるって知らなかった」(払っているのはこっちだけど)。
電気ガス・水はもちろん、インターネットも電話も“当然ある”ものだったのだ。私だってそうだった・・・


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週末、私はテレビの前に寝そべってCanal+ à la demande(オンデマンド)で映画を観続けた。
Canal+ à la demandeはCanal+でかかった映画だけでなく、古い映画、Arteでかかった映画もリストに加わり、選択肢が多い。

ジャン=ピエール・メルヴィルの『Un Flic/リスボン特急』(1972)はこれで3回目?メルヴィル(『Le Cercle Rouge/仁義』(1970)『Le Samourai/サムライ』(1967)・・・)は何回観てもいい。
シモン(リチャード・クレンナ、写真の真ん中)はナイトクラブのオーナー兼ギャング。ある組織が大量の麻薬をリスボン行き特急で運び出そうとしているという情報を得て、横取りしようとする。

一方腕利きの刑事コールマン(アラン・ドロン)も同じ情報を得て、リスボン特急を追いかける。
コールマンとシモンはかっての戦友で、シモンの愛人カティ(カトリーヌ・ドヌーヴ)はコールマンともできていた。
つまりみなさん、2つの顔を持っていた。

メルヴィルの映画は男たちが美しく、恐ろしくお洒落だ。
銀行強盗をする男たちのトレンチの着方、寝台特急の中のシモンのガウン姿なんて「モードのビデオクリップか?」と言いたくなる。

真ん中がシモン

メルヴィル『リスボン特急』

ドロンもカッコいいけど、この人は「俺は美しい」が顔に出ていて、 メルヴィルの撮り方がナルシズムをさらに助長する、という気がする。
彼が部下の刑事と乗り回している車に本署から電話がかかると、
「わかった。すぐに向かう。その後電話する」と無表情な顔で判を押したような答え。カッコつけすぎ。部下の刑事は電話を渡すだけの役で気の毒になる。

メルヴィル『リスボン特急』

そしてカトリーヌ・ドヌーヴが絶頂の美しさ。今、彼女がこの作品を観たら落ち込むだろう。

メルヴィル『リスボン特急』
photos:allociné

私がテレビを観ていると、必ず猫たちが寄ってくる。タマは私の上に寝て(6㎏が乗るとかなり重い)、リュリュは・・・

リュリュ

これ、字幕のときやられると困る。
他の映画で、ブノア・マジメルにも関心を示していた。リュリュは男の子なんだけどね・・・

リュリュ

週末アングレームから帰ってきた娘がお風呂場から叫んでいる。
「ファンデーションがなくて、授業に行くのやめようかと思った。目のクマが目立つのよ」
どう見たって、誰が見たって、クマなんかないのだ。”大クマ”のある私は「よく生きている」と思われているだろう。
「あ、コーダリーのFrench KIss、なかなかいい色じゃん」
「・・・・」
「持って行っていい?」
「・・・・」
私は返事をしない。声が出ないのもいいもんだ。


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風邪薬は映画!

朝起きると声が出なくなっていた。出そうと思えば出るんだけど、娘が、
「ギャーッ!すごいヘビースモーカーのオバアサンみたいな声」とケラケラ笑う。笑ってる場合だろうが。

前の晩、寒気がして気分が悪かったけど、いきなり声が出なくなるとは。週末に病気になるなんてまことにツイていない。
夫は出張でマラケシュに行っていて、「週末来たら?」と言われていたけど、帰りの飛行機が目から火が出るほど高くて諦めた。

友達と会う約束を断り、でも熱もないし寝込むほどじゃないし、こういう時は映画!
厚着をして、歩いて5分の映画館に赴き、ギリシャ人監督ヨルゴス・ランティモスの『Mise à Mort du Cerf Sacré/神聖な鹿の殺人』(原題『The Killing of a Sacred Deer 』

ヨルゴス・ランティモス『The Killing of a Sacred Deer』

スティーヴン(コリン・ファレル)は腕利きの外科医、眼科医の妻(ニコール・キッドマン)、2人の子供と大きな家に暮らしている。
裕福で幸せそうなブルジョア家族、なんだけど家庭には人間味がなくて会話もマニュアルっぽい。会話だけでなく、夜ベッドに入る時、妻は夫に「全身麻酔?」と尋ね、セックスの間“昏睡状態”を演じるのだ。

彼らのマニュアル生活に15歳のマーティンが登場する。彼の父親はスティーヴン執刀中に死亡した。

ヨルゴス・ランティモス『The Killing of a Sacred Deer』

同情を感じたスティーヴンは、プレゼントをあげたり、家に招待する。マーティンは家や病院に出没しだし、ますます“愛情”を要求し、それは脅しに変わっていく。
目には目を・・・

アメリカの家族にギリシャ悲劇を持ってきた。なぜかカンヌ映画祭でシナリオ賞を取ったけど、ギリシャ悲劇と現実に起こることがかみ合わなく、ストーリーに入り込めない。それを救おうとするのが主役の2人:有能な医師、良き夫、良き父という“殻”から、背徳的な地肌を垣間見せるコリン・ファレル。自分も不安だけど、人も不安にするのが上手く、何考えているのかわからないニコール・キッドマン。

ヨルゴス・ランティモス『The Killing of a Sacred Deer』
photos: allociné

帰って娘に「なんか後味の悪い映画だった」というと、
「ビョーキの時観たからよ。『ロブスター』はよかったのに」
子孫を残すことが義務付けられた近未来。45日以内に配偶者を見つけなければ動物に姿を変えられてしまう・・・という『ロブスター』は発想がオリジナルで、ユーモアもあった。
ヨルゴスさん、模索中?

Mise à mort du Cerf Sacré
ヨルゴス・ランティモス監督作品
主演:コリン・ファレル、ニコール・キッドマン、バリー・コーガン
2時間01分
フランスで上映中

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日曜の夕刻から仏メディアは「パラダイス文書」で持ち切り。国営のニュース専門ラジオ局、フランス・アンフォは特別番組にしていた。
「パラダイス文書」は、2016年末、南ドイツ新聞Süddeutsche Zeitungに匿名で漏らされた(これ、パナマ文書と同じ)電子文書を皮切りに、国際調査報道ジャーナリスト連合(世界の96メディア、400人のジャーナリストのネットワーク)が1350万に上る文書を分析すること11カ月。フランスではル・モンドとラジオ・フランスが調査に加わった。

パラダイス文書

その結果、エリザベス女王、トランプ大統領の側近(商務長官のウィルバー・ロス、国務長官レックス・ティラーソン・・・)、カナダの若い首相ジャスティン・トルドー(写真右)・・・が、ケイマン諸島やバミューダ諸島のタックス・ヘイヴンを利用していた。

パラダイス文書

これは日本でも既に報道されているけど、フランスでは、600万ユーロ以上をケイマン諸島に投資していたエリザベス女王の名前が筆頭に出された。「エリザベスよ、お前もか」。
フランスの政治家(二コラ・サルコジとか)出そうだが、出ていない。

この暴露はフランスで(政府にも)喝采されている。世界のジャーナリストのネットワークの快挙!世界人口の1%が所有する富が、残り99%の富を間もなく超える、という恐るべき不均衡・不平等に歯止めになる。

パラダイス文書によると、ロス商務長官は、就任後も株を保有するケイマン諸島の法人を通じて、ロシアの海運会社の利益を得ていた。大統領選時、ロシアの干渉疑惑が強まっているだけ、トランプ大統領にとってまたヤバい暴露。

そのトランプ大統領、テキサスのバプテスト教会乱射事件について、
「犯人の精神状態が問題で、武器の所持とは関係ない」「銃を持った目撃者が撃たなかったら、もっと重大なことになっていただろう」という発言がフランスでは繰り返して報道された。
ラスベガスの銃乱射での全米ライフル協会の言い分「法を遵守するアメリカ人が銃を所持する権利を、一人の狂人の行動に基づいて禁止しても襲撃事件がなくなるわけではない」と一緒じゃない。ライフル協会のほうが語彙は豊富だ。
武器を買うとき精神鑑定をするわけではないし、武器を持っていなければ無差別殺人など思いつけない、と単純に思うけど。

テキサス銃乱射に対し日本のメディアの多くは、トランプ大統領の「言葉にできないほどの痛みや悲しみを感じている」を報じていた。
安倍首相と仲良くゴルフをしたし、北朝鮮への対応は「完全に一致」したし、米大統領への空気は違うだろう。

フランス人の9割近くはトランプ大統領に「悪いイメージ」というし、第一お金持ちが好きじゃない。米大統領選中は、「億万長者ドナルド・トランプ」と枕詞が必ずついていた。


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伝達を咥えた犬が塹壕の中を走っていく。第一次大戦は休戦を迎えようとしていた。
最後の攻勢命令を犬から受け取ったプラデル中尉は、経験のない兵士を先行させ、死者を増やす。

映画『天国でまた会おう/Au revoir là-haut』

生き埋めになりかけたアルベールは危機一髪でエデユアールに掘り出され、しかしその瞬間、エデュアールは爆弾でぶっ飛んだ。アルベールは重度の火傷を負った“命の恩人”を助けようとする。

顔の下半分が無残に損傷し、軍用病院で痛みに呻くエデュアールにモルヒネを調達し、家には絶対帰りたくないという彼のために、名簿をすり替えてエデュアールが死んだことにする。彼は良家の息子。絵の才能を認めようとしなかった(「画家なんか職業ではない!」)父親にこんな姿は見せたくない。

病院で初めて自分の顔を見て・・・

映画『天国でまた会おう/Au revoir là-haut』

パリにたどり着いた2人は仕事もお金もなく・・・あるのはエデュアールの絵の才能と会計士だったアルベールの計算能力。2人は“復讐”を計画する:自分の保身しか考えず兵士の死を何とも思わなかったプラデル中尉(右)と、エデュアールの父親に代表される「権力」への復讐を。

映画『天国でまた会おう/Au revoir là-haut』

ゴンクール賞をとったピエール・ルメートルの『Au revoir là-haut/天国でまた会おう』

映画『天国でまた会おう/Au revoir là-haut』

本が傑作だったし、監督がアルベール・デュポンテル?これまで低予算・現代が舞台のナンセンスコメディを作った彼が、この歴史ドラマを?・・・と観るか観ないか迷った挙句、結局観たら、すごくよかった。

第一次大戦の戦闘シーン、顔を隠すためにエデュアールが次々と作るマスク、ホテル・リュテシアで繰り広げられる狂乱の時代のパーティ、そして世紀の詐欺計画・・・600ページ近くある原作を映画は2時間弱で駆け抜ける。テンポがよく、デュポンテル&ルメートル共同執筆のシナリオがよく、1920年代はじめのパリが美しく撮られる。

映画『天国でまた会おう/Au revoir là-haut』
photos:allociné

そして俳優がみんなはまり役:エデュアールは『120 battements par minute』(邦題『BPM』2018年3月公開予定)の主役ナウエル・ペレーズ・ビスカヤール。セリフは殆どなく(口を負傷してしゃべれない)すべての感情を目の動きだけで。
夢見がちで不器用なアルベールは、アルベール・デュポンテル(監督して主演だと自己満足っぽくなるのをうまく回避)、
高慢ちきな美男プラデル中尉をロラン・ラフィット。そしてエデュアールの父親はニエル・アレストリュプ(この役は彼しかいない!)。

ピエール・ルメートルはミステリーを1冊読んだら、文体とカミーユ・ヴェルーヴェン警部のキャラにほれ込み、全冊読んで「もう読むもんがない!」という時、この「天国で・・・」が出て、この作家の構成力と文才にぶっ飛んだ。
本も映画もお奨め!

Au revoir là-haut

脚本・監督:アルベール・デュポンテル
主演:ナウエル・ペレーズ・ビスカヤール、アルベール・デュポンテル、ローラン・ラフィット、ニエル・アレストリュプ
1時間57分
フランスで公開中

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11月1日公開になる最新作『D’après une histoire vraie/実話にもとづいて』と連動して、パリのシネマテークで始まるロマン・ポランスキーの回顧映画祭。
ポランスキーと言えば1977年、アメリカで13歳の子役に性的行為をした嫌疑で有罪判決になり、一時釈放のとき国外脱出してフランスに移住している。40年前のスキャンダルがハーヴェイ・ワインスタイン事件で蘇り、シネマテークには「回顧映画祭を止めろ」と叫ぶフェミニズム運動家が集まった。

「強姦がアートなら、すべてのセザール賞をポランスキーにやれ!」

ポランスキー回顧映画祭に抗議
photo:lemonde.fr

ポランスキー回顧映画祭に抗議
photo:nouvel obs

「作品とアーティストを切り離せ、というのはわかるけど、ポランスキーはまだ生きている。彼の作品を観ることには反対しないけど、彼を称える映画祭はやめてほしい。ベルトラン・コンタ(DVでパートナー、マリー・トランティニアンを殴り殺した歌手)と同じ。彼のディスクを買うのはウィ、でも彼が雑誌の表紙を飾るのはノン。ポランスキーの回顧映画祭は、我慢のならないことを我慢しろ、というメッセージの政治行為」
と明確に理由を言う運動家は説得力があるけど、上半身裸で叫ぶ人たちは逆効果な気がする。

「ポランスキーの作品は、私たちの世界、映画というアートを理解するため、これまでになく不可欠だ。不当な同一視からくる圧力で、回顧映画祭を中止しようとは一秒たりとも思わなかった」とシネマテークのプレジデント、コスタ-ガヴラス。映画祭は予定通り始まった。

作品とアーティストを切り離せ・・・映画『ゴーギャン:タヒチの旅』が9月末封切りになったときも、ゴーギャンが最後のタヒチ生活で13歳の少女テフラと暮らしていたことが取り沙汰された。本人が生きていないからそこで止まったけど、一方テフラをモデルにした作品は高く評価されている。

この週末、海の向こうでは俳優アンソニー・ラップが14歳のとき、ケヴィン・スペイシーに性的ハラスメントを受けたと告白し、スペイシー主演の人気TVシリーズ『House of Cards』のプロデューサー(Netflix)はシリーズを打ち切りにすることに決めた。
『ユージュアル・サスペクツ』『アメリカン・ビューティ』など実力派の名優に、わいせつ行為の謝罪を、同性愛の告白にすり替えたと非難の雨。確かに、同性愛とペドフィリアを一緒にするのはヒドイ。

とにかくハーヴェイ・ワインスタイン事件は、今まで“業界の人は知っていたけど口を閉ざしていた”有名人のわいせつ行為を明るみに出した、という皮肉な“功績”。

この日曜日、パリや他の大都市で #Me tooのデモがあり被害者たちに「もう黙るのはやめよう」と呼びかけた。

me tooデモ
photo:ouent-france.fr

会社で「その服、似合うね」と言ってもセクハラになるアメリカとは違うけど、フランスの場合、口説く→相手がのってこない→セクハラに変身、という構図が少なくないそうだ。つまり「え?ただ口説いただけだよ」という逃げ道がある。線引きが難しいのだ。


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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(単純計算しても歳は出ません!)
訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とヴィンテージの服、デビッド・ボウイが趣味。

長谷川たかこ

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