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50年代のロンドン。デザイナー、レイノルド・ウッドコックは、王室、映画スター、上流社会の女性たちのドレスを作り、当時のモード界に君臨していた。
エゴイストで気難しくマニアック、そして美男。独身を通し、気に入った女性を見つけては一緒に住まわせ、服のモデルにし、飽きると妹のシリルが嬉々として“解雇”する。シリルはメゾンのお針子と顧客を仕切り、扱いにくい弟を押さえていた。

ある日、田舎の宿のレストランに入ったレイノルドは、ウェイトレスのアルマに惹かれる。“新しい女”にしようと決め、うちに連れてくるが、ベッドに誘うためではなく、自分の服を着せるためだった。

ファントム・スレッド Phantom Thread

母親と自分のアートしか愛せない彼は、作る服にメッセージを縫い込む習慣があり、自分の服には母親の髪の毛を縫い込んでいた。それでこのタイトル、ファントム・スレッド。見えない糸、幽霊の糸。

レイノルドは自分の魅力と権力でアルマを思い通りにできると思ったら、どっこい一筋縄ではいかない。アルマはこれまでの女たちとは違っていた。勢い、レイノルドはさらに意地悪な言葉で彼女を傷つけようとするが、アルマは凹まない。頬をぽっと紅く染めるだけだ。そして、エゴで子供っぽい男を失うまいと手管を練るのだ。

『There will be blood』の名コンビ、ポール=トーマス・アンダーソン(監督・脚本)&ダニエル・デイ=ルイス(主演)の『ファントム・スレッド』。

ファントム・スレッド Phantom Thread

何事も自分の思い通りにいかないと気が済まないレイノルド。朝食の席で、アルマがトーストとにバターを塗るカリカリという音さえ我慢できない。

ファントム・スレッド Phantom Thread

彼の世界に、ジェーン・エアのように飛び込んでいくアルマ(ヴィッキー・クリープ)。

ファントム・スレッド

ヒッチコックの映画から抜け出たような妹(レズリー・マンヴィル)。

ファントム・スレッド Phantom Thread

当時のロンドン上流社会の女性たち、レイノルドのメゾン兼住居の息詰まるような雰囲気、黙々と手を動かすお針子たち、薄暗い部屋に差し込む光、ティーポットから立ち上る湯気・・・オートクチュールのドレスのように、細部まで計算された作品。食べ物も大事な役割:レストランでアルマに出会ったとき、3人分くらいの朝食を注文するレイノルド。彼女に対する性的欲望の象徴だ。

しかし思いがけない展開は、愛は力関係、これもひとつの愛の形、と思わせる。
フランスでは絶賛され、「ここ3年間で最高の作品」という映評もあった。
この作品を最後に引退、と宣言したダニエル・デイ=ルイス。年取っても(更に?)エレガントで美しいのになんと残念!

ファントム・スレッド Phantom Thread
photos:allociné

日本では5月26日公開。

Phantom Thread
脚本・監督・ポール=トーマス・アンダーソン
主演:ダニエル・デイ=ルイス、ヴィッキー・クリープ、レズリー・マンヴィル
2時間11分
フランスで公開中

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農業市は大統領と生産者の出会いの場。就任後はじめての農業市にエマニュエル・マクロンは朝7時半到着という気合の入れよう。他国から入って来るより安い農作物や肉類のために収入が減っている農畜業者たちは、“金持ちのための大統領”に不満と不信を隠せない。2017年秋の統計によると、彼らの30%が月収350ユーロ(約4万7000円)に満たない。これじゃ食べていけない・・・

とりわけ穀物栽培者はGlyphosate/グリホサート(除草剤)の使用がフランスで禁止されるのに反対。ヨーロッパの他の国(日本でも)では使われているし、禁止後の代替え案も出されていないと、ヤジやブーイングで大統領を迎えた。
マクロンは最初はにこやかに「遠くから叫んだりヤジったりする代わりに、近くに来て冷静に話しましょう」
それでもブーイングが止まないので、「グリホサートが無害だと言っている報告書はない、極めて危険かほどほどに危険というレポートばかりです。・・・・・かってアスベストは危険ではないと言われていた。当時の指導者たちはアスベスト被害者たちに釈明すべきだ。明日、生産者や消費者から“グリホサートが危険だったと知っていたのになぜ何もしなかった?”と抗議されるのは私だ。あなたたちに文句を言いには行きませんよ」
と、マクロンは特にアグレッシヴな穀物生産者を指さして詰め寄った。

エマニュエル・マクロン 農業市
photo:ladepeche.fr

「おっと、僕たちは冷静だ、落ち着いてください」
落ち着けと言われてマクロンは更に苛立った。
「ノン!ちょっと待った、あなたたちが冷静?ノンノン、さっきから私の背後でヤジを飛ばしているのは誰ですか?」
危ういとこでマクロンは鎮まり「背後からヤジられるのは好きじゃないので怒鳴った。あなたに会いに行きますから説明し合いましょう」

「君はヤジったりしないよね」

エマニュエル・マクロン 農業市
photo:l'express

2013年、就任後はじめての農業市に赴いたオランド大統領は、10時間いて最高記録を作ったけど、あちこちのスタンドで試食している写真ばかりだった。

フランソワ・オランド 農業市
photo:ouest-france.fr

「ニコラ・サルコジは見たことない」という子供に、「もう見ないよ」という返事も有名だ。
7時半に到着したエマニュエル・マクロンは夜の7時半退場=12時間!で記録更新。生産者と話し合って(口論して?)いる写真が多い。
サロンはヴィジターで2時間フラフラしても疲れるのに12時間・・・若いって何かしら?マクロン!


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アパルトマン物語3

中庭の、雨に濡れた敷石にA4の紙が貼りついていた。落としたら何で拾って捨てないの?両手が塞がっていた私はブツブツ言いながら通り過ぎた。
その後で、娘が「ママン、こんなのが落ちてた!」と、さっき私が拾わなかった紙を持ってきた:子供の字で「誘拐されてる!4階」
「ロベールの筆跡?」
「さぁ・・・でもロベールのいたずらじゃない?」
「あたしもそう思うけど、でも、もし万が一ほんとだったらどうする?」
と言われると、私も揺らぐ。第一ロベールが4階か5階かも定かじゃない。

私たちが4階のアパルトマン(この棟は1フロアにアパルトマン1つ)のベルを押すと、
「どなた?」
名前を言うとロベールの「あ、タイミング悪い!」という声が聞こえた。
なんだ、無事じゃない。
ドアを開けたのは、いつもより更に怖い顔のお母さん。
「これを拾ったので気になって」と言いかけると、
「私も限界で、ソーシャルワーカーの人を呼んだんです」
2人の女性に挟まれたロベールは、母親とは対照的にあっけらかんとして、
「ほんの冗談だよ」
「あなたには冗談でも、読む人には違うわよ!」と私。
ロベールはソーシャルワーカーの女性たちに連れていかれるとこで、何があったかはそれ以上聞けなかった。

どこに“連行”されていくんだろうと心配で、帰ってネットで調べると、子供が手に負えないと、親や先生が、区の担当者に援助を頼めるそうだ。担当者はアドバイスや定期的な面接などの対策をしてくれるらしい。
少し安心した。最近、少し落ち着いたように見えたのに・・・でも第三者が介入したほうがいいんだろう。

後日、ロベールに「何したのよ?」と聞くと、キックスケーターでパリの城壁の外を一周する計画をしたんだと。出かけようとしたら母親に「ダメ」と言われた。家から出てはいけない、と。
そりゃ私だってダメって言うわよ。あなた12歳でしょ?
「だからちょっとヒステリー起こしただけだよ」
「“ちょっと” ?!それで『誘拐された』の紙を落としたの?」
ロベールはニヤニヤ笑って、大したことじゃないという顔で去っていった。

禁止されると徹底的に反抗する子なのね。私もそれに近かったけど。これからアドレッサンの反抗期になるし、先が大変だ・・・
「また買い物手伝ってね!」とロベールの背中に叫ぶと、ハイハイというように手を上げた。

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エリゼ宮に引っ越してからマクロン夫妻が受け取った手紙は20万通以上。でも宛先はエマニュエルとブリジットだけじゃない。ネモ宛もある。マクロンがSPA(動物愛護協会)から引き取ったラブラドールとグリフォンテリアの雑種。

エマニュエル&ブリジット・マクロンの犬
photo: Animaux-online

ネモは、フランス初の手紙をもらう犬となった。手紙だけではなく、ドッグフードやオモチャのプレゼント、犬猫グッズサロンの招待、犬専門の歌手(犬が好きそうな歌を歌う?)からはCD・・・ネモのニュースが少ないと嘆くファンもいるそうだ。

これまでの大統領は血統書つきの犬を飼っていたけど、ここでもマクロンは他の大統領とは違うことを見せたかったのかな?
と言っても2歳を過ぎ、野良犬も体験しているネモが選ばれたわけは、ひとえに彼の人柄(犬柄):“エリゼ宮のお客さんやブリジットのお孫さんたちにも安全な性格”のおかげ。でも生まれたときからしつけられた犬と違うのはしょうがない。エリゼ宮の暖炉にオシッコしたり、大統領の靴を食べようとしたり・・・

あの靴、高かったのに!

エマニュエル&ブリジット・マクロンの犬
photo:Marianne

うちのリュリュも捨て猫協会の出身で、ネコ好きの家庭で生まれたタマとは性格がずいぶん違う。
警戒心が強く(知らない人が来ると隠れて出てこない)、今でもご飯は「今食べておかないと、次にいつ食べれるかわからん!」という勢いで食べる。そして野性的。自分の身体の2倍はあるハトを捕まえて見せに来たときは仰天した。

落ちるよ!これをデブのタマがマネしたら、椅子がひっくり返る・・・

リュリュ


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失敗は成功の母?

土曜日の午後。映画観に行かない?と娘を誘ったら、
「うん」
「何がいい?」
「ココ」
「どこ?」
ああ、ピクサーのアニメ『Coco』ね(邦題は『リメンバー・ミー』)それにしよう!
午後4時過ぎだというのにまだパジャマだった娘は急いでメイクして着替えて出かけた。

2か月半前に公開になったアニメだから誰もいないだろうと思ったら大間違いで、満席。
がっかりした私は他の映画を探したけど、娘は「ココを観るという心構えで来たから、他の映画を観る準備はできていない」
レアールにいるんだから、お店を見ようということで一致した。のはいいけど、土曜日の午後のForum des Halles/フォロム・デアル(シャレではない)は新宿駅のような混み方で、前に進むのだけで疲れる。アイライナーを探していたんでセフォラに行ったら、質問しようにも店員さんはいない、欲しい製品は品切れ。次にZARAに入ったら試着室は長蛇の列。

映画を観そこない、アイライナーも試着もダメでガックリ。どっかに座ってお茶を飲もう、でもとにかくここから出たい。
表に出て、巨大なフォラムを振り返ったら、ひとつの町のようで美しい。

フォルム・デアル

改造に何年かかったか忘れたけど、ショッピングモールが流行りにくいパリで、フォロム・デアルは稀な成功例だ。

前を見れば夕暮れの空を背にサントゥスタッシュ教会。

eglise.jpg

新と旧が隣り合ったなかなか素敵な眺めだった。
賑やかな通りを、私たちはポンピドーセンター近くまで歩いて「すごくヘルシーで抹茶ラテもある」と娘が宣伝するEXKI/エクスキに入る。
なるほどクリーンで、店員さんたちが感じよく、色々なボリュームサラダ、スープ、タルト・・・とメニューがえらく豊富。

エクスキ

キャロットケーキ(真ん中の奥)とライム入りグリーンティでひと休み。

エクスキ

その後、バスに乗らずに歩いて帰ろうと言う娘に従い、スタスタ歩いていたら、イタリアのメイクブランドKIKOがあった。閉店間際のお店はセフォラと違って誰もいない。
「アイライナー6.95ユーロ!どうしてこんなに安いの?ふつうこの2倍か3倍じゃない」と懐疑的になる私に、
「他のブランドがどうしてあんなに高いのかって疑問を持つべき」
なるほど。娘はリップペンシルを買った。
結局、前半の“失敗”を取り戻した母と娘・・・


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12月5日亡くなったジョニー・アリデー。彼のファミリーが集い、現妻、前妻、前々妻、実子、養子・・・が抱き合って泣いていた図は記憶に新しい。それなのに、月曜日、娘のローラ・スメット(ナタリー・バイとの子供)が遺言状に異議を申し立てた。家族みんなで分けろ、という前の遺言状は書き換えられ、現妻のレティシアに全財産を残す、とあったのだ。
デヴィッド・アリデー(シルヴィー・ヴァルタンとの息子)がローラに同調した。

左からレティシアと2人の養子、ローラ・スメット、ダヴィッド・アリデー

ジョニー・アリデー遺産相続争い
photo:JDD

サングラスなしのローラ

ジョニー・アリデー遺産相続争い
photo:voici

フランスでギャラが一番高い歌手だったジョニーは大変な浪費家で、彼の生活レベルを維持するのに月に20万~40万ユーロ(2700~5400万円 !!)。収入は差が激しく、2010年の年収は(たった)120万ユーロ、つまり生活費の3~6カ月分だった。彼の生涯は借金の返済に追われていたらしい。
それでもジョニーの全財産は1億ユーロ(約135億円)と言われる。その内訳は
不動産:ジョニーが息を引き取ったパリ郊外マルヌ・ラ・コケットの900㎡の邸宅。400万ユーロで購入し、2010年から2600万ユーロで売りに出したけど、買い手がついていない。

ジョニー・アリデー遺産相続争い
photo:l'express

一家が一年の大半を過ごしていたロザンゼルスの邸宅は1000万ユーロを下らない、と言われ、カリブ海、サン・バルテレミー島の500㎡の家は、一泊( !?)5000~8000ユーロで貸している。スイスの税制に惹かれて買ったシャレーは、数年前の推定額950万ユーロで、すでに売れている。
それらを足すと(どういう足し算だかよくわからないけど)約5000万ユーロ(約67億5000万円)と推定される。

著作権
1000曲近い歌の著作権、実演権、レコード&CDの売り上げパーセンテージは年に200万ユーロ。その他、ジョニーは93曲の権利を所有していてその使用権が年間約20万ユーロ。
その他、車のコレクション、バイク、ヨットなどなど。

借金額は不明・・・
「ジョニーはお金が何であるかわかっていなかった。実業家の要素がない類まれな芸能人」と以前のマネージャー。
お金のかかる生活を止められなかった彼は、税金を払ったり、マルヌ・ラ・コケットの家やヨットを買うためにユニヴァーサル ・フランスから総額1500万ユーロを超える借金をした。その返済として、ユニヴァーサルに二次使用権や商標を譲渡した。借金がいくら残っているかは不明。
節税のため、ベルギー、スイス、そしてアメリカに移住したジョニー、2011年の時点でフランスの税務署に900万ユーロの未払いがあるとフィガロ紙。

借金はあるものの、不動産や著作権を丸ごとレティシアに、という遺言状はカリフォルニアの法律に基づいて作成された。フランスの法律では相続者の誰かを優遇することはできても「xxと○○には何もあげない」は禁止されている。
実子が抗議するのももっともだ。もともと、レティシアはローラとダヴィッドと折り合いが悪く、遠ざけていたらしい。ローラは父親の死に際にも会えなかった。
ローラの異議申し立てを知ったレティシアは「すごくがっかりした」というコメント。
セリフが適切じゃない気がするけど・・・相続争いは始まったばかり。

P.S. ユーロ円換算(また)間違えてました。生活費までは合ってましたが、桁が増えると現実味がなくて・・・すみません。訂正しました。教えていただいた方、ありがとうございます。


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判事の部屋に、離婚しようとしているミリアムとアントワーヌ、それぞれの弁護士。暴力夫と別れようとしているミリアムの弁護士は、11歳のジュリアンの独占的親権を主張する。ジュリアンも父親にはもう会いたくないという。
アントワーヌの弁護士は「会社の同僚に尋ねても、アントワーヌは優しくて寛大と評判がいい。奥さんの言い分とは矛盾する。彼は息子に会えなくなるのが耐えられない」と親権共有を主張する。

映画『Jusqu'a la garde/親権まで』

判事は迷う。どっちの言い分を信じていいのか?本当に暴力夫なのか?妻がでっち上げて親権を取ろうとしているのか?

後日下った審判は「保護権共有」:2週置きの週末とバカンスの半分。
土曜日に迎えに来る父親とジュリアンは渋々出かけていく。アントワーヌは息子に会えて嬉しそうだけど、息子は絶えずビクビクしている。父親がいろいろ聞き出そうとするのをはぐらかし、必死で母親を護ろうとする。
なぜなら母ミリアムは別れた夫に絶対会おうとしない。電話にも出ない。引っ越し先も教えない。

フランスではDAで週に約3人の女性が亡くなっているのに、それをテーマにした作品は稀だ。
グザヴィエ・ルグランの『Jusqu’à la garde/親権まで』

映画『Jusqu'a la garde/親権まで』

観客も迷う。夫は途方に暮れた子供のように見え、妻は硬い表情で武装している。本当に夫が黒で妻は白なんだろうか?
真実が次第にわかってくるのは、息子ジュリアンの態度からだ。それにつれてテンションも上がっていく。
この子役(トマ・ジオリア)がめちゃくちゃ上手い。

映画『Jusqu'a la garde/親権まで』

スリラー仕立ての作品はスリラーより怖い。冒頭の判事の場面もやりとりがとてもリアルで、つまり最初から最後まで現実にありうる話だからハラハラする。
決して楽しいテーマではないけど、シナリオがとてもよくできていて観てよかったと思える作品。

Jusqu’à la garde
監督:グザヴィエ・ルグラン
主演:トマ・ジオリア、レア・ドゥリュカー、ドニ・メノシェ
1時間33分
フランスで公開中


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会社とアパートの往復、孤独で味気ない生活を送っている節子は40代半ば。ある日、姪の美花に頼み事をされる:個人英会話学校に登録したけど行けなくなってしまった。払い戻しは不可能だけど、人が代わるのはOKなんで、代わりに払って行ってくれない?
「いくら?」
「60万 」
「ろくじゅうまん ?!」

母親とはうまくいかず、節子になついている美佳。可愛い姪の頼みは断れない。
節子は会社の帰りにその個人英会話学校に赴いた。学校にしてはいかがわしい雰囲気、並んだ個室のひとつに入ると、ジョンという教師が待っていた。“アメリカ人になりきるため”節子はブロンドのカツラをかぶせられ、名前はルシー。授業はハグから始まった。

『Oh Lucy!』

この体験は、閉じていた節子の心を目覚めさせる。
2回目の授業に行くと、ジョンは急に辞めたと告げられる。ショック。さらにショックはジョンと美佳はできていて、2人で西海岸に発ったところだった。
節子は2人を追いかけてアメリカに行くことを決める。姉(美佳の母)が自分も行くと言い出し、犬猿の仲の姉妹の珍道中が始まる。ひとりは娘を探しに、もうひとりは“目覚めた心”を見極めようと・・・

価値観の違う2人は悉くぶつかり合う。

『Oh Lucy!』

サンフランシスコ在住の平柳敦子監督の『Oh Lucy !』
2017年カンヌの国際批評家週間に選出され、グランプリにノミネートまで行った。

『Oh Lucy!』
photos:allociné

日本より一足先に1月31日にフランスで公開。批評もなかなかで「2つのカルチャーのズレを描き、ソフィア・コッポラの『Lost in Translation』を彷彿させる」
そうかも・・・私には彷彿としなかったけど。何より、テーマがオリジナル:真面目で地味なOLが閉じ込めていた感情が、ひょんなことから“蓋”に穴が開いてどっと溢れ出す。溢れ方は四方八方、ナイーヴでダイレクトで、観ている方がハラハラする。
強そうで、同時に脆く、無鉄砲で内気・・・節子に共感し、自分を投影する女性は多いだろうと。寺島しのぶが上手いってことだ。ジョン役のジョッシュ・ハートネットもいい。

批評のひとつに「閉鎖的で無慈悲な日本社会の横顔」。うーん、たしかに。女も男も、もっと自由に感情を吐露したら、激しい爆発にならないのでは。
封切りの週、カンヌ映画祭まで行ったのに上映館が少ない、と文句を言っていたら、2週目に上映館が倍に増えた。よしよし・・・

Oh Lucy !
監督:平柳敦子
主演:寺島しのぶ、南果歩、忽那汐里、ジョッシュ・ハートネット、役所広司
日米合作
1時間35分
フランスで上映中

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アパルトマン物語2

そのディディエは、入居者の出入りがあったり、苦情が出たりするとパリにやってくる。先日うちを出たら、若い女性といる彼にばったり。
「あ、Takako、こちら新しく住人になるxxさん」
xxさんを見ると、アラ、映画で見たことがある。
「お顔に見覚えがありますけど」と言うと、にっこり笑って、
「ええ、女優です」
「Takakoは長く住んでるから、わからないことがあったら聞いて」とディディエ。
自分の仕事、押しつけないでよ・・・

帰ってから、あの女優さん、どこで見たっけ?と記憶を辿ったら、マイウェンの『Mon roi/私の王様』、オゾンの『彼は秘密の女友達』に出ていたイジルド・ル・ベスコ。

イジルド・ル・ベスコ
photo:paris match

マイウェンの妹だ。確かに似てる。

マイウェン
photo:gala.fr

「ふーん」と興味なさそうに娘。
「どっちも観てない」と息子。
「王様?ルイ何世の話だ?」と夫。話にならん。

数日後、立派な自転車を押しながら帰ってくるイジルドさんに声をかけられた。
「あの、昨日、義理の息子さんに聞いたんですけど・・・」
「ギリノムスコ?!」
あ、娘のボーイフレンドのこと?
「まだそこまで行ってないですけど、それで?」
彼女は、“義理息子”が自転車を物置に入れるのを目撃し、自分のも置かせてもらえないか?と聞いたところ、私に聞けと言われたそうだ。
“娘のボーイフレンド”は日曜日にレストラン宅配のバイトをしていて、週末だけ自転車をうちの物置に入れている。
「あそこ、自転車置き場じゃなくて、段ボールが積み重なってる物置なんです。お役に立てなくて悪いけど」
20年前に引っ越したときの段ボールがそのまま置いてあるのだ。恐ろしいことに。
「みんな中庭に置いているけど、今まで盗まれたって話は聞いてませんよ」
「あ、そうなんだ。あの例えば長期で留守にするときは置かせてもらえますか?」
「ええ、その時はご相談ください」

以来、彼女は自転車を鉄策にワイヤー錠でつないでいる。
「あの電動自転車は高い。2000ユーロ以上するヤツだ」と夫。少し前から電動自転車を欲しがっているんで詳しい。
物置に置かせてくれ、と言われた話をすると、
「最近、家主組合から『自転車を中庭に放置するな』とお達しがあったらしい」
「お金取れば?一日5ユーロとか」と冗談半分に息子。

数日後、彼女が小学生くらいの男の子2人を連れて帰って来るのに出会った。
へぇー子供がいるんだ。子供の父親と別れて、一週間交代なんだろうか?
なんだかほんとに管理人のオバサンぽくなってきた・・・


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アパルトマン物語

私の住む建物にアパルトマンとスチュディオを3つも持っているディディエ、3つとも貸して自分は南仏に住んでいる優雅な方だ。
私たちが越してきた20年前はここに住んでいて、住居人組合の代表者をしていた。水漏れがあると彼に文句を言えたし、夏には中庭でアペリティフをして仲良くしていた。

“マレ最後の娼婦”と言われた60歳近いミッシェルが、スチュディオのひとつを仕事場にしていたのもその時代。
管理人のオバサンと言われていた子供たちは、数年後に真相を知り、
「掃除とか全然しないんでヘンだと思った!」
「ミニスカートに網タイツも怪しかった」

そのミッシェルが60歳で定年退職し“仕事場”を売りに出した。細長いワンルームにシャワーとキチネットの15㎡。マレの地価が高騰する前、破格の値段で「お子さんが大きくなったときにいかが?」と勧められたけど。
「”お子さん”が大きくなったら、もう少し離れたとこに住みたいんじゃない?」
「それにスチュディオの前歴にちょっと抵抗あり・・・」と私たちが話しているうちにディディエがさっさと買ってしまった。
壁のペンキを塗りなおし、家具付き(大体、この狭さだと家具もたかが知れている)で家賃600ユーロ。
今ではアノンスを出すと2日で100人の希望者、という人気物件になっている。儲ける人はタイミングを逃さないのだ。

さて20年の間に、仲良くしていた子供連れ夫婦は離婚して去り、小さいスチュディオにひとりで住んでいた人たちはカップルになって去り、ご老人は亡くなり、ディディエはすべて貸して南仏に引っ越し・・・気が付くと一番の古株になっていた。おかげで私は“東洋人の管理人のオバサン”に間違えられたりする。

新しい持ち主の殆どは、自分は他所に住み、Airbnbに登録しているので、毎週のように外国人旅行者がスーツケースを引きずってやってくる(まだ日本人にはお目にかからない)。困るのはゴミを所かまわず捨てたり、夜中まで音楽をガンガンかけて騒ぐこと。
一度ならず、パジャマの上からコートを着て文句を言いに・・・でも行く前に何語で文句を言えばいいんだろう?
「英語で言えばいいじゃん」と娘。
「今、英語で怒鳴ったけど、効き目ないのよ」
「発音悪いからじゃない」
「うるさい!イタリア語で『静かに!』って何て言うの?」
「知るか。ネットで調べたら?」

住人をみんな知っていて、「カナヅチ貸してくれる?」「うちのネコ、お邪魔してません?」などと言っていた頃が懐かしい。


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去年の10月末、オート・ソーヌ県で。ジョギングに出かけた妻アレクシアが帰ってこない、とジョナサン・ダヴァルが警察署に通報した。2日後、彼女の焦げた死体がグレの森の中で見つかった。絞殺で殴られた痕もあった。
アレクシアは29歳、スポーツ大好きな銀行員。
こういう事件の場合、まず疑われるのは配偶者だけど、ジョナサンは否定し、アレクシアの両親も「模範的な娘婿、ありえない」職場の同僚も「すごく優しい性格」(この辺から怪しい)

11月5日、家族や友人、地元の住民800人余りが『Marche blanche/白の行進』を行ったとき、ジョナサンは、
「妻は私を一番支えてくれた人、私の“酸素”だった。2人の結束でこれまでやってこれた。あの充実した関係が恐ろしく恋しい」と涙ながらに語り、参加者ももらい泣きした。

アレクシアの両親とジョナサン

ジョガー殺人事件の犯人
photo:francesoir.fr

3か月後の1月28日、警察はジョナサンを拘留。彼の弁護士は「なーに2時間くらいで解放されますよ、ハハハ」と言っていたが、拘留は延長。2日後にジョナサンは「“偶然”絞め殺してしまった」と白状した。

証拠はすべてジョナサンを指さしていた-事件当日、彼がひっかき傷を負っていた、アレクシアが包まれていた毛布が夫婦のものだった、夫婦がよく激しい口論をしていた・・・-にも拘らず、3か月間、“妻を殺され悲嘆に暮れる夫”を信じていた人たちは愕然。

そこへ「ハハハ」の弁護士が記者会見で、

ジョガー殺人事件犯人の弁護士

「我々は、ジョナサンを“殺人者”と呼びたくない。彼は自分のしたことの悲劇的な結果を自覚し、打ちひしがれている[・・・・]夫婦の関係は非常に緊迫していた。アレクシアは支配的な性格で、ジョナサンは過小評価され、押しつぶされていた」
「誰にも限界があるように、ジョナサンにも限界があった。あの日、口論が悪化し偶然に殺してしまった。この事件には2人の犠牲者がいる:アレクシアとジョナサンだ」
私は耳を疑った。アレクシアが支配的な性格だったので、殺されて当然みたいな言い方!
彼も犠牲者だ ?! “偶然殺した”って、過失致死に持っていこうとしているわけ?
果たしてこの発言は非難を浴びる。当然。

ジョナサンは絞殺は認めたけど、燃やそうとしたのは「自分じゃない」
つまりたまたま通りかかった誰かが死体に火をつけたってこと?いや、その前に彼らのうちに侵入して毛布を盗んでこなくちゃ・・・

アレクシアの両親は二重のショック:娘を殺され、殺したのが信頼していた義理の息子。
「アレクシアは、2人の仲がうまく行っていないことを両親に言っていなかったのかしら?」と私。
「第一、親なら感づくだろうに」と言うと、夫は
「不仲になったらすぐ言うようにうちの子供たちにも言っておかないと」
「・・・・」


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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(単純計算しても歳は出ません!)
訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とヴィンテージの服、デビッド・ボウイが趣味。

長谷川たかこ

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