長谷川たかこのパリのふつうの生活

着いて４日目に、コンタクトレンズがあと４日分しかないことに気づいた。
なぜこんな必需品を忘れてくるの！どうかしてる！と騒いでいたら、
「ここで買えばいいじゃん」と息子。
そうか。わたしはコンタクト生産国にいるのだ。
「でも保険が…」
「自分で忘れたんだから仕方ない」
「････」

フランスでは眼科医や皮膚科…の専門医が足りなくて、２か月後しか予約が取れなかったりする。
息子行きつけの眼科は「コンタクト」「眼科診療」が分かれていて２日後に予約が取れた。
土曜日で医院は混んでいたけど10分と待たせず、テキパキ視力の検査をしてくれる。
わたしは今、使っているのと同じものを処方してもらおうと思っていたが、
「少し度が強いので一段階下げるとどうでしょう？」
「カーヴが少しきついので一段階緩やかにするとどうでしょう？」
と、なんと前より見え方も着け心地もいいコンタクトに決まった。
パリで行きつけの眼科は１回90ユーロもとって、毎回同じ処方箋を出す。怠慢。
コンタクトが決まった後、眼科医の診療が５分ほど。ヒアルロン酸入りの目薬を出してくれて6500円（保険なし）。

同じ階にEYECITYというコンタクト専門チェーン店があり、そこに処方を持って行く。



先客は3人なのに、そこはなぜか時間がかかった。
「メンバーカードをお持ちですか？（いいえ）失礼いたしました。ではお作りいたしますので少々お待ちください」
「ご記入はアプリでよろしいですか？（いいえ、紙でお願いします）かしこまりました。少々お待ちください」
・・・用紙が出てくるまで10分くらいかかる。
でも文句は言えない。初回なので何パーセント引き、「まぁ！」
紹介者（息子）に2500円プレゼントに「ほぉ！」
30個入りのコンタクト（わたしは片目しか入れない）が3500円だった。
これで日本がよく見える。


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息子とその彼女と、とろろ屋で晩ごはんを食べる。
わたしは３種焼き魚定食。サバとキンメダイと…３つ目は不明。



麦ごはんにとろろをかけて食べる。若い息子たちがこういうごはんが好きとは渋いわね。
飛行機のへんな機内食に疲れたお腹に、ほっとする味で美味しい。ひじきのお代わりがしたかった。

翌朝、息子が仕事に行こうとすると、財布がない！
「中には会社のカードも入っているんだ。家中探してもない。道で落としたのかもって、駅の隣の交番に行ってみた。期待はしなかったけど。そしたら『何色のお財布ですか？』って」
誰かが、名前も告げず、届けてくれたのだ。現金もそのまま。
「フランスじゃあり得ない」と息子。
フランスだけじゃない。
「なくしたお財布が出てくる世界で唯一の国じゃない？」とわたし。

その日は息子たちのアパートに行き、帰りは駅まで息子の自転車の荷台に乗せてもらった（実は違反だそう）。
片手に荷物を、わたしを後ろに乗せて、息子はけっこうスピードを出す。
「きゃっ落ちる！」と叫びながらしがみつく息子の胴は前より厚みがあり、でも中年太りでもなさそうだ。
「なんか逞しくなったね」
「ジムに行ってるんだよ」
クリーニング屋の角を曲がって、道なりにまっすぐ行って…と息子は道を説明するけど、わたしには広い背中しか見えない。
駅前の商店街が近づくと、「ここで降りて。この先、お巡りさんがよくいるから」

東京に住んで３年になる息子は、わたしより遥かに物慣れて、アパートもきちんとしてるし、可愛い子には旅をさせろ、というのは本当なんだわ。と親バカの独り言。
お財布落としたのも忘れて…


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１週間前に東京に着いた息子が「あっという間に出れた」。
３か月前、成田を出るのに５時間かかった悪夢を思い出し、本当だろうか？

千葉県が見えてきた。こんなに畑があるのね。やっと着いた嬉しさと、成田不安が半々になる。



６月１日からの水際対策緩和で、入国には72時間以内のPCR検査結果、ワクチン証明、アプリMySOSが必要。
アプリは個人情報やPCR検査結果を打ち込むと“色が変わる”ことになっている。

PCR検査結果待ちは前回よりドキドキした。前の週に会った12歳の生徒さんがコロナになり、家族はもちろん、会った人みんな感染するという強力ウィルスだったからだ。夜10時過ぎに「ネガティヴ」通知が来たときは飛び上がって喜んだ。

さて成田に着くと、すでに前回の物々しさはなく、１ｍ間隔におかれた椅子もなく、「みなさん、まっすぐ進んでください」
言われた通り進んでいくと、アプリの画面の色で、右と左に行き先が分かれる。青、緑は左（大多数）、赤は右。
わたしはなぜか赤で、ああ、また運命の分かれ道、わたしは本当に水際運がないんだ。
何が起こるんだろう？と進んでいくと、「ああ、QRコード出てますね、大丈夫です」
「じゃなんで赤なんですか？」
「色は関係ないです」
そういうことは早く言ってほしい。赤＝危険信号のイメージがあるじゃない…
わたしは青＆緑の列に合流でき、各証明書とパスポートを見せ、40分くらいで外に出られた。
証明書のチェックも前よりサラッとしていて、この態度の変化、夢みたい。
成田スカイライナーに乗り、息子が迎えに来てくれる渋谷に向かった。


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再び東京に発つことになった。
エールフランスは満席ばかり、エミレーツはなぜかバカ高い。
JALは許せる値段だったので、ヘルシンキ経由、フィンエアーとのコードシェア便にした。
フィンエアーは2019年秋、つまりコロナ前の時代に一度乗ったっけ。

３月に比べて、ずいぶん旅行者が増えた。



パリを12時20分発。お昼ごはんが出る時間帯、と期待したら、水かブルーベリージュースの選択しかない。コーヒーも有料。ケチ。
ゲート前でごはんを食べている人が複数いたけど、彼らは知っていたのね。

飛行機が大幅に遅れて飛び立ったので、ヘルシンキに着いたら、成田行のゲートが既に開いていた。
日本人の乗客はすぐにゲートに向かっているので、わたしも歩き出す。
掲示板にはFinnair になっていた。わたしは、ヘルシンキまでFinnairで、そこからJALと思っていたら、そうじゃないのだ。コードシェア便のシェアの仕方はどうなっているんだろう？
JALのほうが食事がいいに決まっているから、同じ料金ならJALに乗りたかった…

パリを出る時はやたら待たせたのに、今度はすごく速やかに離陸した。周りを見回すと空席あり！早い者勝ちだ。ベルトサインが消えるとすぐ席を変わる人がいたので、わたしも乗務員に聞いて前の座席に引っ越した。夢の３席確保がやっと実現。

知らない地名ばかりのフライトマップ。ロシアの上、北極海上を飛ぶ。落ちたら寒そう…



さて間もなく出てきたご飯は、シンプルというか簡素というか…写真ではヴォリュームありそうだけど、量は軽食サイズだ。
ニシンとジャガイモと判別不可能な野菜のサワークリーム和え、チキンのトマトソース、シリアルとカリフラワー添え。
デザートはチョコバー。
ナイフ＆フォークは使い捨ての木製。盗めない、でもエコロジック。



味は悪くなかった。とにかくお腹が空いいていたからきれいに食べた。
アナウンスで、食事のときのワイン＆ビールは無料だけど、その後は有料。着陸前に「軽食をサーブします」
これだって軽食なので、さらに軽食？

夕食から約10時間後に出てきた朝食：オムレツ、ほうれん草少々、ジャガイモのギャレット（クリームソースなしのほうがよかったのに）＋シリアル入りパンのドライトマト、モツァレラのサンドイッチ。



フィンエアーの感想は「質実剛健」。乗務員も（日本人を除いて）最小限のサービス。
映画のチョイスもイマイチ、言語選択肢が少ない。
でも３席確保できたから、それだけで満足だ。

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「誕生日に何が欲しい？」と娘に聞かれ（息子は聞くのすら忘れている）迷わず「３つ目のピアス！」。
両耳に穴をあけたのは大学生の頃。最近、２つでは物足りなく、片耳にもうひとつ穴をあけたくなった。
娘は３つどころか合計７つで、もうひとつ耳が欲しいところだ。彼女の影響かもしれない。
彼女は最近、両肩にタトゥーも入れた。
「後で後悔したら、取るのが大変だよ」と反対はしたけど、大人だし、やりたければやるのだ。
まさか背中に竜はしないだろうけど、

事前に図柄と大きさチェックを要請したら、



「これ、JALのロゴじゃない！」
「えええー？？！！」
と、危ういところで“一生タダでJALの宣伝”は免れた。
要するに、日本の紋が入れたかったわけね。

「タトゥー？そんなものしたら一緒に歩かん」というパパには内緒。だから彼の前ではいつもタトゥーが隠れる服を着ている。

ピアス＆タトゥーのプロである娘が行きつけのお店は、レピュブリック近くのドロレス・パリ。



タトゥーは小さくてごちゃごちゃした店が多いのに、ここは正反対。日本人経営かと思うほど衛生的で、感じがいい。
年齢不明で丁寧な男性が、
穴を開けたあとは６か月くらいピアスを変えないこと。素材はゴールドがチタン。
最初の１週間は触ってはいけない。消毒剤は必要なく、シャワーか生理食塩水…と説明してくれる。
娘から「チタンにしてよ」と釘を刺されていたので、チタン＋スワロフスキーのピアスが35ユーロを選ぶ。穴開け代は20ユーロ。
開け終わったあと、受け付けで待っていた娘に「やっぱりホワイトゴールドにしちゃった！」と言ったら、一瞬顔が引きつった。
するわけないでしょ。


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12日はフランス総選挙の第一回投票日。棄権者数は52.5％、過半数が投票しなかった。
2002年35.6％、2007年39.6％、2012年42.8％、2017年51.3％…と、棄権者数は毎回、記録を更新。

なぜ投票しないかというと、
「候補者が、国民の心配事に言及しない」
「選挙運動がない」（この国で、候補者がスピーカーで「○○××をよろしくお願いしまーす」というような選挙運動を見たことがない）
「この選挙は、国民の生活や国の情勢に何の影響も及ぼさない」
そして何より、候補者を知らない、というのが大きい。
大統領選はいくらなんでも顔と名前を知っているけど、地方議員の候補者はどんな人物なのかわからないことが多い。
以前、娘の友達の母親が出馬して、唯一“知ってる立候補者”だった。その人は２度か３度落ちて諦めたけど。

立候補者どころか聞いたこともない党も：
2016年に生まれた、動物保護を掲げるParti Animalisteアニマリスト党。「動物たちも、あなたの一票に期待しています」
猫にすればよかったのに、なぜアヒルなの？



夫がひっくり返った“フランス初の快楽主義政党”Parti du plaisir/喜びの党のポスター。



2001年にストリッパーのシンディ・リーが立ち上げた
集団より、個人の充足を大切にし、政治に遊び心と色気を、がモットー。
ボトックス顔のシンディさんは2002年から何度も立候補（大統領選まで！）していて、幸い殆ど票が取れていない。

さて第一回投票の結果は、『服従しないフランス』のメランションを中心にまとまった左派連合NUPES/ニュプスが、大統領支持の連合Ensembleとほぼ同点で並び、厄介なことになっている。
国会という船の舵を取るのに、敵対する政策の２つの政治勢力･･･船はどこへ行くんだろうか？


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NY州で18歳男子が10人銃殺、テキサス州では別の男子が、18歳になるのを待って武器屋に走り、小学校で21人（うち19人が子供）を銃殺…
偶然のように、この事件の直後に開かれた全米ライフル協会（アメリカ最強のロビイスト）会議で、トランプ元大統領は、
「社会悪に立ち向かうためには善良な市民が武器を持たなければならない」
と、逆にけしかける発言。
フィガロの記事、『銃はアメリカのDNA』に載った写真には、唖然、を通り過ぎてゾッとする。
あんた達、ふつうじゃない…
屋根の上まで！これで全コレクションの80％


photo:lefigaro.fr


photo:lefogaro.fr

アメリカの武器数は人口より多く（人口約３億人、銃４億丁）、武器フェアなどで簡単に－前科者でも！－買え、身分証明書も求められないことさえある。
アメリカの“銃愛好家”は、切手のコレクションでもするように銃を集められるのだ。

フランスはどうなのか、心配になって探したら、正規の武器数は76万2331。
狩猟や射撃用に銃を買うときは、前科がないか、精神状態は正常かを調べられ、飲酒運転の前科も“買えない”原因になるそうだ。
黄色いヴェスト以来、デモもアグレッシブになってるし、武器が簡単に手に入らないのはいいことだ。

武器代わりに登場するのが…
北フランスの街で遊説中のマリーヌ・ルペンの頭に卵（複数）が命中。


photo:actu.orange.fr

教育改革が不評だった元教育相、ジャン＝ミッシェル・ブロンカーは、教員２人からシャンティイクリームを吹き付けられた。


photo:leparisien.fr

２人とも「訴える」と言っているけど、発砲されるよりずっといいでしょ。


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誕生日に友人から「お祝いに一杯飲もう」と電話。
どうやら近くで用事があったらしく、うちまで迎えに来てくれたので、近くのカフェに行った。
夜の７時でも昼間のように明るく、テラス席は混んでいて、ウェイトレスはうんざりした顔をしている。



パリでは珍しいことじゃないけど。
「ぼくはブラディ・メアリー」
「わたしも同じもの。でもウォッカを少しにして」
「じゃその分、ぼくのに入れて」
「うちのバーマンはきっちり計って作るから、それはちょっと」とウェイトレス。
「おたくのバーマンはマシンかね？」
「ほとんど」
「なんなら、ぼくが一緒に行って頼もうか？」
「けっこうです。頼んでみます」
お客の冗談につき合う気分じゃないのだ。

ぼくは親父のようにはなれないんだ、と彼。
「親父はレストランに行くと待っていられなくて、すぐにメニューを頼んで、ほかの人を待たずに自分だけさっさと決めて注文する人だった。でもどこへ行ってもウェイトレスにモテたんだ」
ふーん。
「ある日、親父は、料理を運んできたウェイトレスに『あなたのような美しい人にサーヴしてもらえるのは幸せじゃ』と彼女の腕を撫でたんだ。今ならセクハラで訴えられるとこだ。さすがに、すみませんって謝ったら『あら、どうして？とっても素敵な人じゃないですか』って親父の頭を撫でるんだ」
お父さんが毎週通っていたお菓子屋に行き、店員さん（女性）に亡くなったことを告げると、ワッと泣き伏した、とか、行く先々でモテて、
「Homme à femmeだった」
オム・ア・ファム（女のための男？）は、辞書を見ると「プレイボーイ」とか「女たらし」とあるけど、彼のお父さんの場合は浮気には至らず、ただ女性にとって魅力的な男性だったらしい。
「お父さんとお知り合いになりたかったわね」とわたし。

ところで、ブラディ・メアリーの願いは聞き入れられ、わたしのはウォッカ２㏄、彼のは６㏄だった。
お父さんに負けてないじゃない。

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