防衛省が各国軍の部隊運用の基盤である人工衛星の電波を妨害する能力を備えるための研究に着手したことが21日、分かった。
音声や画像・映像データを中継する衛星通信と、衛星利用測位システム(GPS)は地球上と衛星の電波の送受信で機能しており、妨害による電波遮断で敵部隊を機能停止に陥らせる装備の保有を目指す。
宇宙領域で先行する中国とロシアを念頭に置いた攻撃機能の研究が具体化したのは初めて。
自衛隊や各国軍は自国部隊と装備の位置情報を把握したり、ミサイルを精密に誘導したりするのに米国が運用するGPSや中国版、ロシア版のGPSを活用している。
遠方の部隊への通信中継や指揮統制は衛星通信が支えている。
衛星電波への妨害能力の研究は、海上自衛隊が2月、「護衛艦のEA(エレクトロニック・アタック=電子攻撃)能力向上に関する調査研究」との名目で三菱電機に依頼した。
電波探知妨害装置と衛星通信装置などの器材に関する技術情報の収集・分析を求め、海自は今年度末をめどに研究成果を受け取る。
海上幕僚監部は研究について「対象脅威に対する妨害能力向上」に資するものと説明する。
一方、宇宙分野を統括する防衛省戦略企画課によると、研究は海自護衛艦の衛星通信装置などが他国軍の妨害を受けた場合、どのような影響があるかに主眼を置くという。
各国軍の妨害手法を検証し、それを参考に自衛隊の妨害能力の保有につなげていく構想といえる。
衛星電波への妨害は実例がある。2018年に北大西洋条約機構(NATO)の大規模軍事演習がノルウェーを中心に行われている間、同国などで米国が運用するGPSの電波が妨害を受けた。
GPSの電波には時刻と位置情報が含まれ、それを受信することで地球上の物体の位置を測定できるが、妨害で民間航空機の運航にも危険が生じた。
妨害は北極圏のコラ半島を拠点にするロシア軍部隊が関与したとされる。
中国も衛星と地上の通信を妨害する装備を開発し、中露は米国とその同盟国の宇宙利用を妨げる能力を強化している。
海自の研究はこうした実例や中露の装備と妨害手法を分析し、衛星と地球上の間で送受信される電波に護衛艦から同じ周波数の電波を照射するなどして混信を起こさせる攻撃に必要な装備の保有につなげる。