民主主義に欠かせない「納得感」とは 宇野重規・東大教授が示す道
政治への不信が渦巻き、投票率の低下が著しい。
戦後80年を経て揺らぐようにも見える日本の民主主義に、処方箋はあるのだろうか。どんなアップデートが求められるのか。そんな疑問を携え、一人の大家を訪ねた。
かねて「民主主義を信じることが学問的信条」と語る政治学者、宇野重規さん(57)。政治思想史、政治哲学を専門にする東京大教授だ。
「社会の底が抜けた気はしますよね」
そんな言葉を用いつつ、困惑と確信の入り交じる話が始まった。【聞き手・春増翔太】
この記事の後半では、次のことを語っています。
・民主主義への実感はいかにして得られるか
・自分と対立する意見への納得の仕方
次の関連記事があります。
私たちのことは自分で決める
くじ引きで選ぶ議会はあり?
「政治不信」の根底にあるものとは……
――そもそも、日本の民主主義は危機にあるのでしょうか。
◆投票率が低いから、直ちに危機かというと分かりません。
でも、そもそも民主主義とは「みんなで意思決定に参加して、結果が出れば、それが自分の思い通りでなくても自発的に従いましょう」という仕組みです。
それが、選挙に行かない人が多ければ「これは誰が勝手に決めた? みんなで決めたわけじゃないのに、なぜ従う必要がある?」と、政府の決定に従わなくなります。
社会は強制では動かず、自発性によっているので、長期的には徐々に民主制の機能は発揮されなくなるとは思います。
一方で、国民が投票に行かない理由は政府に「お任せ」しているからというわけでもありません。お任せするには「政府は一応やることはやってくれるだろう」という最低限の信頼が前提です。
でも実際には、政府の悪いパフォーマンスに不満と不安がありますよね。政府への信頼が低く、選挙にも行かない現象は何と名づければいいのか……。
――加えて、日本では専制的な権威的指導体制を望む声が少しずつ高まっています。
◆新型コロナウイルス禍では、対策が遅い日本に比べ、中国は早くて良いと言われました。民主的に右往左往するより専制の方が良いという言説がはやりました。
でも、世界の比較政治学者の間では結論は出ています。
専制国家がうまくやれるかは、独裁的な指導者次第です。長いスパンで見るとパフォーマンスは悪い。それに政府の決定が国民に理解されて実行されるかは、互いの信頼関係に基づきます。専制君主の下でみんなが従う社会の信頼関係はもろく、長期的には民主社会の方が合理的です。
――日本はせっかく民主制なのに政治不信が深い。根底にあるものは何でしょう。
◆ある種の「裏切られた感」だと思います。
元々、日本人は政府にや…
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