DSCユニット Continental DSCIII MK60 分解調査
先日故障により交換したZ4のDSCユニット。せっかくなので、故障品を回収して分解、簡単だが調査してみた。
結論から言えば、基本的にDSCユニットは分解修理できる構造にはなってなかった。制御回路部は完全密閉の接着式。ブレーキフルードが通るアルミブロック部は、殆どがワンタイムの嵌め込み式で、嵌め込んでしまうと破壊する以外に分解することは不可能であった。
DSCユニットはBMW製ではなく、コンティネンタルオートモーティブ(Continental)製のDSCIII MK60。Webを探したところ、メーカーが公開していたMK60の英文解説があったのでそれを抜粋。基本的な構造と、DSCユニットの機能の一つであるABSがどのように動作するかは以下の通りである。
DSCユニットは、12個のソレノイドバルブと2つのプレッシャーアキュームレーター、リターンポンプを含んだアルミニウムブロックからから構成されている。12個のソレノイドバルブは以下の通り。
4つ Inlet ソレノイドバルブ(通常開)
4つの Outlet ソレノイドバルブ(通常閉)
2つの Changeover ソレノイドバルブ(通常開)
2つの Intake ソレノイドバルブ(通常閉)
ソレノイドバルブは、コントロールユニットに万が一障害が生じた場合でも、正常なブレーキ動作を保証するようになっている。
ABS制御時、ポンプはマスターシリンダーへオイルを引き戻す。ブレーキ動作介入のASC/DSC制御時は、ポンプは前後ブレーキ回路で必要とされるブレーキ圧力を増化させる。
ABS制御時の動作は以下の通り。ブレーキング中にホイールがロックされたか、またはコントロールユニット内にプログラムされた閾値以下に速度が落ちた場合、ABSブレーキ機能が開始する。ABSは下記の3つのフェーズを遷移する。
圧力構築
圧力保持
圧力解放
圧力構築は、既にノーマルブレーキングでブレーキペダルを踏むことで発生しており、ABSが最初に介入する時、Inletバルブを閉じることで圧力保持が開始される。例えば、右後輪がロックした場合、両方のInletバルブが閉じられ、両輪が同時に制御される。前輪は、ロックされないよう、必要に応じて個別に制御される。Inletバルブは、キャリパーと現在の油圧を維持するためのオイルの通路を閉じ、それによりこれ以上油圧が上昇しないようにする。
もしホイールスピードが上昇しない(車輪がロックしたまま)の場合は、油圧の解放が始まる。コントロールユニットがInletバルブを閉じた状態を続けている間に、Outletバルブを開く事で、圧力の解放が発生する。閉じ込められたブレーキフルードがキャリパー外へ解放され、ブレーキの圧力が低下する。同時に、ポンプのスイッチがONになり、解放されたブレーキフルードを引き込み、そしてInletバルブ手前のブレーキフルード量を復元するためのプレッシャービルド回路へブレーキフルードを送り返す。
ABSシステムに依存するが、ホイールをロックさせないようにこれらの3つのフェーズが3〜12回繰り返す。
という訳で、実機を分解してみる。
4つのトルクスボルトを外すと、制御回路部とアルミブロックの2つに分割される。基本的に再度組立て出来るレベルで分解できるのはここまでである。
向かって左側の黒い部分が制御回路とソレノイドコイル、右側のアルミブロックには、リターンポンプとソレノイドバルブ、ブレーキフルードの通り道が作られている。
12個のソレノイドコイル。下部の端子は、ソレノイドバルブが正常に動作したかどうかの検知用、もしくはソレノイドバルブのアンロック用信号だろうか。ブロック図も回路図も無いので詳細は不明。
アルミブロック側。上部がソレノイドバルブ。ソレノイドバルブはロックされているのか、ペンチ等で挟んで動かそうとしても全く動かない。フェイルセーフ機能により、動作しない場合でも通常のブレーキが支障なく動作するようにロックされているのだろうと推測。
それにしても、普段あまり見慣れない構造が新鮮であった。
リターンポンプはアルミブロックにカシメ留め。ネジを使わないのは振動による緩み防止なのか、それとも修理をさせないためなのか…
カシメ部分をグラインダーで根こそぎ削り取った。
ポンプモーターが外れた。アルミブロックには、上下に突起がある。指で押せる重さで伸縮する。モーターの軸には偏心軸となっており、この突起を上下運動させることで、前輪部と後輪部のブレーキ圧力構築を行っている。
ポンプモーターの偏心軸。写真では右側に偏っているのがわかる。
制御回路部分。フタは完全に接着されており、大型カッターの歯を噛ませ、金槌で叩いてフタを裂いた。
特に使っているデバイス類に目新しさはないが、コネクタの端子の接続方法には驚いた。
何とコネクタやソレノイドコイルからの端子と基板とはハンダ付けではなくて嵌め込み式なのである。車載機では常識なのかどうかは知らないが、振動対策なのだろうか。経年劣化で酸化して数年も経過すると接触不良を起こす様な気がするのだが、大丈夫なのだろうか。というか、今回の故障もここにハンダを盛ったら直りそうな気がしてならない。
しかも嵌め込みとは行っても弓矢の矢の様に返しがあるため、壊す以外に基板とコネクタ、ソレノイドコイルを分離する方法が無い。仕方が無いので、ニッパーで先の部分をカットし、無理矢理こじ開けた。
ソレノイドコイルとコネクタ端子側。
基板の裏側はアルミブロックが接着してあった。ソレノイドコイルからのノイズ防止兼、放熱対策か。
構造を見ると確かに複雑で、且つ、高信頼性を確保しなければならない部品であるのは理解できた。分解が出来ない構造にしたのは、中途半端に直されて誤動作することを防ぐためなのだろう。ある期間正常に動作し、異常があれば自己診断機能で異常を検知し、奇麗さっぱり丸ごと交換していつでも高信頼性を維持したい、というのがメーカーの設計ポリシーなのだろう。
結論から言えば、基本的にDSCユニットは分解修理できる構造にはなってなかった。制御回路部は完全密閉の接着式。ブレーキフルードが通るアルミブロック部は、殆どがワンタイムの嵌め込み式で、嵌め込んでしまうと破壊する以外に分解することは不可能であった。
DSCユニットはBMW製ではなく、コンティネンタルオートモーティブ(Continental)製のDSCIII MK60。Webを探したところ、メーカーが公開していたMK60の英文解説があったのでそれを抜粋。基本的な構造と、DSCユニットの機能の一つであるABSがどのように動作するかは以下の通りである。
DSCユニットは、12個のソレノイドバルブと2つのプレッシャーアキュームレーター、リターンポンプを含んだアルミニウムブロックからから構成されている。12個のソレノイドバルブは以下の通り。
4つ Inlet ソレノイドバルブ(通常開)
4つの Outlet ソレノイドバルブ(通常閉)
2つの Changeover ソレノイドバルブ(通常開)
2つの Intake ソレノイドバルブ(通常閉)
ソレノイドバルブは、コントロールユニットに万が一障害が生じた場合でも、正常なブレーキ動作を保証するようになっている。
ABS制御時、ポンプはマスターシリンダーへオイルを引き戻す。ブレーキ動作介入のASC/DSC制御時は、ポンプは前後ブレーキ回路で必要とされるブレーキ圧力を増化させる。
ABS制御時の動作は以下の通り。ブレーキング中にホイールがロックされたか、またはコントロールユニット内にプログラムされた閾値以下に速度が落ちた場合、ABSブレーキ機能が開始する。ABSは下記の3つのフェーズを遷移する。
圧力構築
圧力保持
圧力解放
圧力構築は、既にノーマルブレーキングでブレーキペダルを踏むことで発生しており、ABSが最初に介入する時、Inletバルブを閉じることで圧力保持が開始される。例えば、右後輪がロックした場合、両方のInletバルブが閉じられ、両輪が同時に制御される。前輪は、ロックされないよう、必要に応じて個別に制御される。Inletバルブは、キャリパーと現在の油圧を維持するためのオイルの通路を閉じ、それによりこれ以上油圧が上昇しないようにする。
もしホイールスピードが上昇しない(車輪がロックしたまま)の場合は、油圧の解放が始まる。コントロールユニットがInletバルブを閉じた状態を続けている間に、Outletバルブを開く事で、圧力の解放が発生する。閉じ込められたブレーキフルードがキャリパー外へ解放され、ブレーキの圧力が低下する。同時に、ポンプのスイッチがONになり、解放されたブレーキフルードを引き込み、そしてInletバルブ手前のブレーキフルード量を復元するためのプレッシャービルド回路へブレーキフルードを送り返す。
ABSシステムに依存するが、ホイールをロックさせないようにこれらの3つのフェーズが3〜12回繰り返す。
という訳で、実機を分解してみる。
4つのトルクスボルトを外すと、制御回路部とアルミブロックの2つに分割される。基本的に再度組立て出来るレベルで分解できるのはここまでである。
向かって左側の黒い部分が制御回路とソレノイドコイル、右側のアルミブロックには、リターンポンプとソレノイドバルブ、ブレーキフルードの通り道が作られている。
12個のソレノイドコイル。下部の端子は、ソレノイドバルブが正常に動作したかどうかの検知用、もしくはソレノイドバルブのアンロック用信号だろうか。ブロック図も回路図も無いので詳細は不明。
アルミブロック側。上部がソレノイドバルブ。ソレノイドバルブはロックされているのか、ペンチ等で挟んで動かそうとしても全く動かない。フェイルセーフ機能により、動作しない場合でも通常のブレーキが支障なく動作するようにロックされているのだろうと推測。
それにしても、普段あまり見慣れない構造が新鮮であった。
リターンポンプはアルミブロックにカシメ留め。ネジを使わないのは振動による緩み防止なのか、それとも修理をさせないためなのか…
カシメ部分をグラインダーで根こそぎ削り取った。
ポンプモーターが外れた。アルミブロックには、上下に突起がある。指で押せる重さで伸縮する。モーターの軸には偏心軸となっており、この突起を上下運動させることで、前輪部と後輪部のブレーキ圧力構築を行っている。
ポンプモーターの偏心軸。写真では右側に偏っているのがわかる。
制御回路部分。フタは完全に接着されており、大型カッターの歯を噛ませ、金槌で叩いてフタを裂いた。
特に使っているデバイス類に目新しさはないが、コネクタの端子の接続方法には驚いた。
何とコネクタやソレノイドコイルからの端子と基板とはハンダ付けではなくて嵌め込み式なのである。車載機では常識なのかどうかは知らないが、振動対策なのだろうか。経年劣化で酸化して数年も経過すると接触不良を起こす様な気がするのだが、大丈夫なのだろうか。というか、今回の故障もここにハンダを盛ったら直りそうな気がしてならない。
しかも嵌め込みとは行っても弓矢の矢の様に返しがあるため、壊す以外に基板とコネクタ、ソレノイドコイルを分離する方法が無い。仕方が無いので、ニッパーで先の部分をカットし、無理矢理こじ開けた。
ソレノイドコイルとコネクタ端子側。
基板の裏側はアルミブロックが接着してあった。ソレノイドコイルからのノイズ防止兼、放熱対策か。
構造を見ると確かに複雑で、且つ、高信頼性を確保しなければならない部品であるのは理解できた。分解が出来ない構造にしたのは、中途半端に直されて誤動作することを防ぐためなのだろう。ある期間正常に動作し、異常があれば自己診断機能で異常を検知し、奇麗さっぱり丸ごと交換していつでも高信頼性を維持したい、というのがメーカーの設計ポリシーなのだろう。