2019/11/08
本15 木嶋 利男「伝承農法を活かす家庭菜園の科学」
木嶋利男「伝承農法を活かす家庭菜園の科学」講談社ブルーバックス
内容・・・・後半 (内容が豊富なので前半と後半に分けました)
第5章 病害虫から作物を保護する
5-1 病害虫はどうして発生するか
病原菌を大量に培養し、あるいは害虫を大量に飼育し、これを野菜に直接散布しても病害虫による被害は発生しません。植物の体質が弱く、気温、湿度、光線などの条件が病害虫の発生条件に合致したとき病害虫は発生するのです。
5-2 害虫・益虫・ただの虫
土着天敵は、その地域にもともといる害虫の天敵です。土着天敵を繁殖させるためには、土着天敵のえさとなる虫と、虫を繁殖させる植物が農作物のそばに必要となります。ヨモギ、ソルゴー、エンバク、コスモス、ヒマワリなどで、こうした植物をバンカープランツといいます。
5-3 病原菌と、それを抑える拮抗微生物
5-4 草と共栄する栽培方法
農業では栄養や生育環境の競合などから農作物以外の植物は雑草と考え、すべてを取り除くことを原則にし、多くの除草剤が開発されました。しかし、農作物に大きな害を与える強害雑草は意外と少なく、繁茂してもほとんど害を与えない草が多いです。このため、草と共栄する叢生栽培や共栄植物として利用されている草も数多くあります。
5-5 動物を防除する方法
5-6 実際に用いられている作物保護技術
最近、連作は土壌微生物を単純化しないことが明らかになりました。同じ野菜の根や残渣が分解されるのは一種類の微生物によって行われるのではなく、分解の過程で微生物は次々と遷移するため、「連作=微生物の単純化」にはつながらないことが実証されました。
日本においても各地に多くの連作事例があり、一次的に連作障害は発生するものの、連作が生産を安定させたと思われる事例が数多くあります。ダイコン、キャベツ、トマト、ナス、ジャガイモ、ニンジン、キュウリ、スイカ、イチゴなど野菜で10~30年間の連作が報告されています。しかし、連作を可能にしているメカニズムについてはほとんどが未解明のままです。
三浦半島のダイコンは連作されていますが、萎黄病などの土壌病害はほとんど発生しません。
このように、家庭菜園では連作もまた有効な栽培技術と考えられます。
フザリウム菌やリゾクトニア菌の細胞膜はキチンによって作られています。キチンに富むカニガラや廃菌床が土壌中に施用されると、これを分解するため、放線菌がキチナーゼを産生します。キチナーゼは細胞膜がキチンでできている萎ちょう病菌や立ち枯れ病菌にも働き、これを分解します。また放線菌は多くの抗生物質を産生し、病原菌を抑える働きもあります。
疫病をおこすファイトフィトラ菌や根腐れ病をおこすピシウム菌の細胞膜はセルロースで作られています。セルロースに富むイナワラやムギワラが土壌中に施用されると、これを分解するため、トリコデルマ菌がセルラーゼを産生します。セルラーゼは疫病菌や根腐れ病菌の細胞膜にも働き、これを分解します。
5-7 雑草を防除する技術
・収穫後の畑にヘアリーベッチをまく
ヘアリーベッチにはシアナミドが含まれ、多くの雑草を抑える働きがあります。ただ、ヘアリーベッチを混植したり間作で利用すると、野菜の生育を抑えてしまうため、輪作に用います。
第6章 コンパニオンプランツ
6-1 コンパニオンプランツの考え方
一般的に、一緒に植えると互いによい影響を与えあう植物同士をコンパニオンプランツ(共栄植物)と呼びます。
たとえば、長ネギとイチゴを混植すると、萎黄病を防除します。
天敵類を温存あるいは繁殖させるバンカープランツは、間接的に野菜類に良い影響を与えます。
6-2 混植・間作・輪作
6-3 バンカープランツを利用した障壁・縁取り
障壁作物や縁取り作物になるもの(障壁により、害虫の飛来を防止し、クモ類、カブリダニ類、クサカゲロウ類、テントウムシ類などの天敵を繁殖させる)
コスモス
マリーゴールド
ヒマワリ
ソルゴー
エンバク
クリムソンクローバー
ヨモギ
ニラ
長ネギ
6-4 科学的に証明されているコンパニオンプランツ
・長ネギとユウガオの混植
ネギ属植物の根に拮抗微生物が繁殖し、抗菌物質を土壌中に拡散することで防除効果が発現する。
長ネギでメロン、スイカ、キュウリのつる割れ病防除
ホウレンソウと葉ネギ
カボチャと長ネギ
イチゴと長ネギ
・アブラナ科とレタスで病害防除
キャベツ、ハクサイ、ブロッコリーなどのアブラナ科野菜の近くに、レタスやシュンギクなどのキク科野菜があると、害虫の被害が少なくなる。モンシロチョウは嫌いな野菜が近くにあると、避けて飛翔します。 モンシロチョウ、ヨトウガ、コナガが嫌う野菜類はレタスなどのキク科です。
・マメ科の混植・間作・輪作
混植に利用されるマメ科はラッカセイ、インゲンマメ、ダイズ、ハッショウマメなどです。
トマト、ナス、ピーマンなどナス科野菜には落花生を混植します。定植後、活着したら株元に播種します。トマト、ナスの生育が促進され、雑草も少なくなります。
サツマイモは5月上旬~6月下旬、畑にさし木し、株の両側にダイズを播種します。相互に生育が促進されます。ダイズは7月中旬にエダマメとして収穫できます。サツマイモはさし木後、110日が収穫の目安になります。
・ヒガンバナ、スイセンでネズミ、モグラが忌避
家庭菜園では畑の周囲をヒガンバナあるいはスイセンで囲み、モグラとネズミの進入を防ぎます。
・オオバコ、クローバーでウリ類ウドンコ病防除
顕微鏡で調べてみると、ウドンコ病菌の菌糸に別の微生物が寄生しているのが観察されます。ウドンコ病菌に寄生しているのはアンペロマイセスで、病原菌に寄生する微生物です。
ウドンコ病が発生しやすいキュウリやカボチャを栽培する場合、オオバコなどの雑草を叢生させ、雑草にウドンコ病を発生させます。雑草のウドンコ病菌は作物には感染しません。雑草にウドンコ病が発生していない場合は、野原でウドンコ病に発病した同じ雑草の葉を集め、畑の雑草に散布(接種)します。やがて、雑草のウドンコ病菌にはアンペロマイセスが寄生します。雑草で増殖したアンペロマイセスはキュウリやカボチャにウドンコ病が発生したら、すぐにウドンコ病菌に寄生してこれを防除します。
第7章 植物の整理・生態を利用した栽培技術
7-1 植物の生存戦略を利用した栽培技術
キャベツが多種の植物と共栄できることは、家庭菜園の苗づくりや定植にも応用できます。キャベツは苗がやや不揃いでも、弱い株を排除することはありませんので、他の野菜より苗づくりが簡単です。
定植も一般的な野菜は株間をやや広げて栽培しますが、キャベツの場合は逆に株間を狭めて植え付けます。こうすることによって、互いに助け合って生育が促進されます。また、草はキャベツにとって雑草とはならず、逆に草が共栄植物として働きますので、抜き取らないようにします。
根圏微生物と共栄できることは、土つくりにも応用できます。一般的に有機物は完熟したものを使うべきとされますが、キャベツは有機物の分解を微生物が助けてくれるため、やや未熟な有機物の方が良い働きをします。さらに、土に石が混じっていても、ミネラルの供給源として、これを上手に利用します。
7-2 植物のストレスを利用した病害虫防除
・胚軸切断挿し木法
健全な植物の組織内は無菌状態にありますが、シクラメンやサツマイモの組織内には病原性を持たない微生物が共生します。この微生物がいつ植物に入り込むか調べたところ、発芽し、種子からの養分転流が終了すると,胚軸部から微生物を取り込み有菌状態になることが明らかになりました。
これを応用し、病原性を持たない微生物を植物の組織内に定着させることが可能になりました。すなわち、発芽し、本葉展開~本葉3枚の時期に胚軸を切断し、微生物を接種した後挿し木すると、組織内に微生物が定着させることができます。
具体的には、双子葉野菜類を播種し、子葉が展開し、本葉が1.5~3枚の時期に胚軸を切断します。次に、 微生物を浮遊させた液に切り口を2時間浸漬して接種後、これを挿し木して苗を育成します。この方法で育成した植物は病害虫に抵抗性を示します。また、接種する微生物の種類によっては生育が促進されます。
この技術は、キュウリ、スイカ、マスクメロン、メロン、カボチャ、マクワウリ、ニガウリなどのウリ類、トマト、ナスなどのナス科野菜、キャベツ、ハクサイなどのアブラナ科野菜、ダイズ、アズキなどのマメ科野菜など多くの野菜類や花卉類に応用可能です。
7-3 作物に合わせた敷き料と畝
支柱栽培のキュウリやメロンは、株の周囲にワラや草を敷き根を守ります。敷きワラや敷き草は厚く敷くと根に障害を与えてしまうため、地面がやや見える程度に薄く敷きます。
7-4 耐陰性と光要求性
ネギは「自分の影も嫌う」というように、太陽光を好みます。そこで、ネギ自身の影を作らないように、南北畝に、畝間90センチ×株間10センチで植え付け、自身の作る日陰に入らないようにします。
ジャガイモは茎が肥大したものであるため、深植えはジャガイモの肥大を悪くします。そこで、浅く植え、生育に合わせて土を寄せて、緑化を防ぎます。
7-5 遺伝的多様性を維持する
F1品種は優良な形質で、表現型も均一になります。農業には適しているので、育成に力が注がれてきており、現在では、市販されている野菜のほとんどがF1品種です。F1品種は制御された環境では生産量や品質を向上させます。しかし、表現型が均一であることは環境適応性を弱めることにもなります。このため、天候などの影響を受けやすく、病害虫の発生や生育不良などの障害が発生しやすくなります。
家庭菜園では栽培環境の均一化が不十分なため、農家が使用するF1品種を用いることは生産の不安定要因にもなります。家庭菜園で自家採取が好成績を上げている話をよく耳にすることがありますが、これはそれぞれの農園に適応して、品種と遺伝的に多様なことから生ずると思われます。そこでk、遺伝的に多様性を持った環境適応性の高い品種を、自家採取で育成していくことを考えましょう。
市販のF1品種から種採りすると、次の年、同じ品質の野菜とならず、形、色、早晩性などがバラバラになってしまいます。これは、生業とする農業では困ることですが、家庭菜園では何種類もの品種を作るよりは、1種類の種子で多様な品質の野菜が得られた方が利用価値は高いと思われます。また、F1品種には、世界各地から収集された多様な遺伝資源が交じっていますので、それを得られることにもなります。ですから、F1品種で種採りしても問題有りません。農業で用いられる品種と家庭菜園で求められる品種は異なるのです。家庭菜園では自家採種は重要な栽培技術になります。
第8章 上手な家庭菜園
8-1 畑の準備
最近は、耕耘機などの農業機械を家庭菜園で利用する人も増えていますが、耕耘機では、土壌は均一に耕せますが、硬盤を発達させて上層土と下層土を分離させ、水はけを悪くさせることがあります。
8-2 家庭菜園の設計
いろいろな野菜類や草花類が栽培されている菜園は、多様な生物が生息している場所でもあり、小さなビオトープです。
8-3 有機質肥料の種類と施用方法
有機質肥料を10~15センチに位置に層状あるいは土壌全体に混和すると、分解が遅れ肥効が長続きしますので元肥として施用します。また、土壌表面に塊あるいはすじ状で施用すると、分解が速く肥効が速く現れるので追肥として施用します。
8-4 土壌改良剤の使い方
・ワラ
ワラのセルロースは土アオカビの産生するセルラーゼによって分解されますが、同じようにセルロースで作られている病原菌の細胞膜にもはたらきます。これで疫病や根腐れ病を防除できます。
・炭
炭を住み処に菌根菌が繁殖し、野菜の根と共栄します。菌根菌が共栄した野菜は微生物から鉄やリン酸などのミネラルの供給を受けます。また、菌根菌のはたらきで病気にかかりにくくなります。
8-5 種まきと苗
・苗の選び方
大きい苗を選びがちですが、大苗は徒長している場合が多いので、葉と葉の間がつまった小さめの苗を選びます。また、葉色が濃い株は病害虫に弱い傾向がありますので、葉色のやや淡い株を選びます。植物は大小に関係なく、葉と葉の間の細胞の数はほぼ決まっています。このため、節間が長いものは細胞が大きくなって徒長しているのです。
8-6 活着を良くする定植方法
・夏野菜の定植
トマト、ナス、ピーマンなどの夏野菜は晴天の朝、起きたら、まず苗が植えられたポットを、水をはった バケツの中に入れます。ポットの中の空気がゴボゴボと抜けるまでポットの部分を水に浸すのです。ポットの中に水が十分にしみこんだら,ポットを水から上げ、日陰に3~4時間放置します。こうすると、野菜は葉の先端まで十分に吸水し、2~3日はかん水を必要としません。9~10時、いよいよ定植です。畑にポットよりやや大きめの穴を掘り、ポットから採り出した苗を、根と土が密着するように植え付けます。晴天の午前中に植え付けますので、日中やや萎れますが、水は与えません。夕方、日が落ちてくると、植え付けられた苗は萎れが解消されてピンとします。次の日も晴天ならば萎れますが、そのまま放置します。3~4日経過し、日中萎れなくなると活着です。
・秋野菜の定植
ハクサイ、キャベツ、ブロッコリーなど秋野菜は曇天の夕方、定植します。ただし、秋野菜は定植後、気温が低下し、日が短くなってきますので、十分生育した苗を定植することが重要です。特に秋の彼岸を過ぎると、生育が極端に遅れますので、彼岸以降の定植は苗の大きさと質に注意する必要があります。
8-7 上手な栽培管理
・間引き
ダイズやインゲンマメは本葉2~3枚のころ2本を残し、大根は本葉3~4枚の頃1本を残して他は間引きします。
ニンジン、ホウレンソウ、コマツナは本葉1~2枚の頃第1回を株間2~3センチ、第2回を草丈7~8センチのころ株間5~6センチになるように間引きます。
・剪定
剪定は結果枝(果実が実る枝)を育てるために行うので、生育旺盛な枝は弱く、生育貧弱な枝は強く剪定するなど、春に発生する芽の強弱を考えて剪定の程度を調整します。なお、剪定した枝から発生する結果枝には剪定の3年後に結実しますので、3年先の樹形を考えて剪定することが大切です。
8-8 収穫後の保存
・夏、秋野菜の保温と保存
夏から秋に収穫された多くの野菜類は自然の外気温で保存しますが、外気温が低下したら、断熱材などで凍害を受けないように保温します。
①タマネギとニンニクは10月下旬~11月下旬まで保存できます。
②ジャガイモとサツマイモは通気性のあるコンテナあるいは新聞紙に広げて保存しますが、サツマイモは外気温が18℃以下、ジャガイモは4℃以下に低下したら、コンテナに移し、周囲を断熱材で囲んで保温すれば、3月下旬まで保存が可能です。
④キャベツは結球すると冬の寒さから花芽を守るため気温が上昇する春先まで生育を止めますので、収穫しないで畑にそのまま放置するのがベストです。
・保存した方がおいしくなる野菜
収穫直後のタマネギ、サツマイモ、ジャガイモなどは旨みや甘みが少なくおいしくありません。収穫後、10~15日間、乾燥した条件の室温で保存すると、デンプンが糖化し、甘くおいしくなります。
終章 未来への展望
収穫が遅れた野菜はそのまま畑に放置します。やがて野菜は花を咲かせ実を結びます。そうしたら、種子をとりましょう。その地域(自分の畑)に適応した世界に一つの、自分だけの品種ができあがります。
平成22年3月
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