本15  木嶋 利男「伝承農法を活かす家庭菜園の科学」

木嶋利男「伝承農法を活かす家庭菜園の科学」
講談社ブルーバックス
伝統農法を活かす家庭菜園の科学
内容・・・・前半  (内容が豊富なので前半と後半に分けます)

第1章 家庭菜園とは何か

1-1 家庭菜園の野菜
 家庭菜園では苗は購入となることが多いようです。苗はおおむね適期に販売されますが、必ずしも土作りなど畑の準備と一致しないため、不順な天候下での耕起や定植が遅れてしまう場合があります。そうなると、老化苗を用いて活着に影響が出るなどの問題が発生します。
 また販売される品種は、環境が整備された均一な圃場で栽培されることを前提に育成されています。ところが、家庭菜園は少量・多品目で栽培されることが多いため、栽培条件がまったく異なる野菜類が同じ畑に栽培されます。このため、驚くほど立派に生育する野菜や、見るも無惨な野菜が見られます。

1-2 誤解の多い家庭菜園
 家庭菜園の肥料は化学肥料よりも有機質肥料を多く用いる傾向があります。有機質肥料は微生物の分解によって窒素などが生じて初めて肥効を発揮するため、遅効性となります。このため、知らず知らずに多肥栽培となり、病害虫の発生原因や品質の低下にもつながります

1-3 家庭菜園のメリット、デメリット
 健康志向の強い家庭茶園では原種に近い野菜類も栽培されることがあり、逆に健康に悪影響を及ぼす場合があります。実際、アトピーを悪化させた例もあります。
 家庭菜園の新鮮な野菜は生で食べたくなりますが、これも害になる場合があります。伝統食では「茹でる、漬ける、水にさらす」などで健康に悪影響を与える物質を抜いてから食べました。生の野菜は刺身のツマや薬味程度でした。野菜は食べた方が健康によいですが、生野菜は食べない方が健康によいのかもしれません。
 野菜類は居住する地域で不足するミネラルやビタミンを補給するために利用されてきた種類も少なくありません。そのような野菜は多少毒性があっても、健康上必要であるため食されてきた種類もあります。

第2章 家庭菜園を知るための農法

2-1 農法を理解する
 農薬や化学肥料を用いた栽培は、土壌や気候条件を無視しても生産を容易にした技術です。しかし家庭菜園では、無農薬・無化学肥料で栽培されることが多くなります。そうなると、病害虫の発生や栄養不足などで不安定になります。そのために過去に開発された農法を学ぶことは価値があります。

2-2 自然のしくみを活用する「自然農法」
 昭和10年岡田茂吉、昭和22年福岡正信、昭和53年川口由一の三氏によって提唱された。
・岡田茂吉(1882-1955)
 「自然尊重」と「土の偉力を発揮する」が基本になっている。
・福岡正信(1913-2008)
 「不耕起」「無肥料」「無農薬」「無除草」を四大原則にしている。
・川口由一(1939-)
 「農薬や化学肥料を止め」、次に「耕さず」へと独自の農法を確立しました。
・三氏の共通点と相違点
 除草対策では福岡氏と川口氏は不除草とし、岡田氏は草の生えない管理に重点をおきます。
 耕起では福岡氏と川口氏は不耕起であり、岡田氏は耕起する。
 自然農法は生産性や収益性よりも、自然環境や安全性を重視するため、農業としては成立しにくく、このため、信念を持った人々によって、各地に点在して継承されてきました。また、その土地の自然のしくみを活用するため、標準的な栽培技術はほとんどなく、地域ごとの土壌や気候条件に合わせて、圃場ごとにさまざまな工夫や各種の栽培技術が考案されています。

2-3 化学肥料に頼らない「有機農法」
 リービッヒの考え方は近代農法の基礎となり、テーアの考え方は有機農法の基礎となりました。

2-4 農家の経験が活かされた「伝承農法」
・残雪の形で種まき時期を知る
 近代農法では、有機物が未分解で、地力窒素が発言されていない低温期においても、化学肥料によって播種や定植を可能にしてきました。いっぽうで、無肥料や有機質肥料を用いた栽培は、気温や地温の影響を直接的に受けるため、適温にならなければ播種も定植もできません。
 伝承農法では、播種などの適期を正確に知る必要があり、そのための方法が生物指標の利用です。
・雑草を抑える方法
 農作物を同じ圃場で栽培を続けると、アレロパシー関係で、その作物に選ばれた草だけが残り、雑草を減少させます。また、輪作も雑草を抑える働きのあることが経験的に知られています。イネ科とマメ科の輪作、ソバと野菜の輪作などは雑草を少なくすることが明らかになっています。

2-5 病害虫に強い農法
 病害虫の発生と肥料の関係には正の相関関係があり、多肥は病害虫に弱く、小肥は病害虫に強くなることから、自然農法、有機農法、伝承農法は病害虫に強い農法と言えます。
 また、自然農法、有機農法、伝承農法は自然生態系を重視する農法であるため、土壌中の小動物や微生物、飛来する昆虫など生物の多様性が維持され、病害虫など特定の生物が優先して繁殖することを抑制しています。

第3章 野菜作りの基本

3-1 野菜の分類
8つの科の特徴
①アブラナ科
  ほとんどが地中海沿岸原産。
  秋に発芽し冬に生育し、春に開花する二年草。
  他殖性であるため交雑種が数多くある。
  吸肥力が強く、肥沃な土壌を好む。
  連作畑では、プラズモデオフォーラ菌による根こぶ病が発生する。
キャベツ、ハクサイ、ダイコン、カブ、コマツナ
②ウリ科
  原産地は中アメフリカ、インド、アフリカなどに分散。
 比較的高温を好み、多くは一年草。
  雌雄異花が多く、多くは他殖性。
つる性で浅い位置に根を伸ばし、水を好むが過湿を嫌うので水はけのよい土壌を好む。
カリウム肥料を好む。
連作畑では、ネコブセンチュウが発生する。
キュウリ、スイカ、カボチャなどの実物野菜。
③ナス科
原産地は中央アメリカ、南アメリカ、インドなどに分散。
自殖性が強く、交雑することはほとんどない。
ジャガイモ、トマトは貧栄養でも育ち、ナス、ピーマンは高栄養を好む。
連作畑ではラルストニア、ソラナセアルム菌による青枯病が発生。
ナス、ピーマン、トマト、ジャガイモ
④ユリ科
原産地は地中海沿岸、ヨーロッパ、東南アジア、中国などに分散。
比較的冷涼な気候を好み、多年草や二年草が多い。タマネギやネギなどの実生繁殖系は他殖性であるため、交雑種が数多くある。単子葉であるためアンモニアを好み、未熟な有機物でも育てることができる。
根に菌根菌が共生するため、荒れ地でも生育できる。
ネギ、タマネギ、ニラなど
⑤マメ科
  原産地は中央アメリカ、南アメリカ、地中海沿岸、サバンナ、中国などに分散。
  一年草が多く、自殖性。
  根に根粒菌や菌根菌を共生するため、荒れ地でも生育できる。
エンドウ、インゲンマメ、ラッカセイなど。
⑥キク科
原産地は地中海沿岸、ヨーロッパ、中央アジア、日本など。
主に多年草と二年草。
根に菌根菌が共生し、地力の低い畑でも育つ。
害虫はあまり寄生しないか、キク科のみに寄生するため、バンカープランツや害虫忌避植物として利用される。
ゴボウ、アーティチョーク、レタス、サンチュ、フキなど。
⑦セリ科
原産地は地中海沿岸、中央アジア、日本など
比較的冷涼な気候を好み、耐陰性の強い野菜が多い。
主に二年草と多年草。
菌根菌と共生し、地力の低い畑でも育つ。独特の香りがあるため、セルリーやパセリのように香辛料として利用される場合もある。
ニンジン、セリ、ミツバ、アシタバなど
⑧シソ科
原産地はヨーロッパ、インド、中国などで生育環境は大きく異なる。
多年草が多く、シソやスイートバジルは1年草。
独特の香りがあるため、香辛料として利用される。バンカープランツや忌避植物としても利用される。

3-2 野菜の原産地が生育条件を決める
・地中海型野菜
 地中海気候は、冬に雨が多く温暖で、夏は暑く乾燥します。このため、秋に発芽して冬期間生育し、春~夏開花する野菜が生育する。キャベツ、ブロッコリー、ダイコン、コマツナなど多くのアブラナ科野菜、ホウレンソウ、タマネギ、エンドウなどが含まれる。
・湿潤熱帯型野菜
 ナス、キュウリ、サトイモなど雨が多く暑い地帯が原産地。春に定植または播種し、夏から秋に収穫する。
・乾燥熱帯型野菜
 雨が少なく、暑い地帯を原産地とする野菜で、スイカ、トウモロコシ、サツマイモ、カボチャ、ピーマンなど。
 スイカは根を深く伸ばすことのできる砂質の土壌が適地になる。
 中央アメリカの乾燥した痩せ地を原産とするサツマイモは、有機物の多い肥沃な土壌を嫌います。
・数少ない日本原産の野菜
 フキ、アサツキ、ハマボウフウ、アシタバなど。
 無肥料、無農薬でもよく生育する。

3-3 旬と適期
 地力窒素の発現する時期に野菜類を播種あるいは定植した場合、肥料はほとんど必要とせず、病害虫による被害もほとんど発生しません。このような時期に栽培することを適期栽培といいます。伝承農法では生物指標や自然指標から適期を知って利用してきました。

第4章 作物栄養の基礎知識

4-1 土作りの基本
 気温が低く有機物の分解が遅い地区では、春に耕します。気温が高く有機物の分解の早い地域や、地力が低い畑では、地力を高めるためや、消費される有機物を補うため、有機物を投入して秋に耕起します。
 不耕起はまったく耕さないのではなく、農作物の根が季節により伸張と枯死を繰り返すことによって、作物の根で土を耕す方法です。有機物の分解の速い熱帯や、温帯の叢生栽培、果樹園、茶樹園で利用されます。
 耕起によって地力が増進した畑では、双子葉雑草が生えます。耕起によって地力の消耗した畑では、単子葉雑草が生えます。このため、前もって畑の雑草を調べ、これを指標に耕す方法を決めます。

 自然生態系では、植物によって生産された有機物が、鳥や昆虫によって餌として消費される量は少なく、枯れるなどしてから土壌動物によって分解される量がほとんどです。同じように農地生態系においても、土壌動物は収穫残渣や投入された有機物の重要な第一次分解者と考えられます。このため、有機物の施用は、野菜だけでなく、土壌動物に餌を与えて育てることにもなります。

4-2 土壌微生物の大きな役割
・分解菌
・菌根菌
・窒素固定菌
・根圏微生物
・土壌動物

4-3 育苗床の土作り
 種子は発芽するための養分をもっているため、播種床は栄養分をほとんど必要としません。しかし、親からの従属栄養が切れると、肥料分必要となります。この時期は種類によって多少異なりますが、本葉0.5~3枚の時期です。
 播種床は無肥料の用土をセルトレーに詰め、これに播種します。本葉0.5~3枚の時期に完熟した有機物を混和した用土を詰めたポットに移植します。
 播種後は十分に水を与えて発芽揃いをよくします。本葉展開後は根をポットの土全体に伸張させるため、灌水はやや控えめにします。

4-4 菜園内で物質循環を活性化させる
 畑は裸地にせず、植物を繁殖させることが大切になります。冬期間は野菜作りに向かないため、裸地になりやすい傾向があります。そこでエンバクやライムギのような麦類や、クローバーやヘアリーベッチのような豆類などを、緑肥として栽培します。
 また、場合によっては雑草を繁茂させます。植物が繁殖している畑は気温の変化が少なく、土が乾燥から守られるため、微生物の活性が高く、有機物の分解が促進されます。また、微生物の働きによって、植物のない畑より土壌温度が高くなります。
(前半終わり  内容が豊富なので後半は明日公開します)

平成22年3月

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Author:blogst66
 教職在職中に木村秋則氏の「奇跡のリンゴ」を読んで感銘を受け、無農薬農法に関心を持ち、200冊以上の農業書を読み漁りました。本を読んで農業の知識が深まるにつれ、自分でも農業をやってみたくなり、一年早く教職を退き就農しました。(2013年)
 農業は8年間続けることができましたが、持病の腰痛の悪化により、農業活動を継続することが難しくなり、一線から退きました。(2021年)
 一昨年から趣味として「個別株投資」を始め、ブログの中身も投資に関することが増えてきました。投資はまだわからないことが多く、初心者が陥りやすい失敗例などを発信しながら経験を積み上げていこうと思っています。(2022年)
 2年半続けた個別株投資に限界が見えてきました。しばらく個別株投資に距離を置きます。(2023年6月)
 植物の写真集「みちばたの花」をはじめました。過去に散歩の途中で撮った植物の写真の中から、毎日ひとつずつ紹介します。(2023年6月)

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