2021/05/20
藤原俊六郎「堆肥のつくり方・使い方」原理から実際まで
農文協(2003年刊)
藤原俊六郎
昭和22年岡山県倉敷市生まれ。
昭和45年島根大学農学部農芸化学科卒。
神奈川県農業総合研究所、神奈川県園芸試験場、神奈川県農政部農業技術課など。
パート1 堆肥利用の基礎=堆肥はなぜ必要か第1章 堆肥とは
1 堆肥とは何か
かつては、ワラ、落ち葉、野草などを堆積し分解させたものを「堆肥」、家畜ふん尿を主原料とするものを「きゅう肥」農業系以外の有機系廃棄物を堆積発酵したものを「コンポスト」、全てを総称する「有機物」と区分することもあった。しかし、現在ではいろいろな有機物資材が原料として用いられるようになる、しかも、単独原料だけで堆肥化することは少なく、家畜ふんにワラやオガクズを混合するなど、複数の原料で堆肥化することが多くなっている。このため、特に区分せず「堆肥」とよぶことが適切といえる。そして、単独原料では「牛ふん堆肥」、複合原料による堆肥は、「オガクズ混合牛ふん堆肥」のように表現することが主流になっている。
2 堆肥と肥料との違い
堆肥は作物が育つ土壌環境を改善する役割があるのに対し、肥料は作物が育つのに必要な養分を供給する役割(肥料効果)がある。
また、堆肥が肥料と大きく違うのは、効果が徐々に現れるとともに、連年施用することによってその効果が累積していくことである。堆肥を連用すると、分解されにくい有機物が土壌中に蓄積され、土壌有機物となって長期的な養分供給力がしだいに高まる。この効果は肥料には見られない。
3 堆肥と有機肥料の違い
有機肥料は原料を乾燥したり蒸したりして製造し、微生物が関与していないので、微生物が分解しやすい有機物を多量に含んでいる。そのため、土壌施用後に微生物が急増し肥料効果が出やすい。
しかし、微生物活動によってつくられた堆肥は、分解しやすい有機物のほとんどが堆肥のできる過程で分解しており、残りが土壌中でゆっくり分解する。そのため肥料効果が出にくい半面、効果は持続する。
4 有機肥料と化学肥料の違い
有機肥料は魚カス、骨粉、植物油のカスなど、動植物に由来する有機物を原料としたもので、肥料成分が高いものをいう。動物性のものはリン酸が多くカリが少なく、植物性のものはリン酸が少なくカリの多い傾向があるため、数種の肥料を混合して使うことが大切になる。有機肥料は、窒素、リン酸、カリ以外に微量要素も含んでいるため、作物栽培には適した肥料だが、化学肥料に比べると肥料成分が少ないので多量に施用する必要があり、作業が大変になる。また、有機物であるため、微生物が急激に活動すると、根傷みやタネバエなど虫害の原因になることがあるので、作物を植える二週間以上前に施用し、土壌と混合するなどの注意が必要である。
化学肥料は、作物に必要な肥料成分だけをつくっているため、成分含量が高く、有機肥料の数倍以上含まれており、使用量は少なくてすみ作業が楽である。
5 なぜ堆肥にするのか
あらかじめ微生物によって、分解しやすい有機物や作物生理に有害な物質を分解しておくことが、堆肥化の大きな目的である。堆肥化による発熱によって70~80℃程度まで温度を上げることができれば、乾燥した扱いやすい堆肥ができるだけでなく病原菌や寄生虫の卵、雑草種子などを死滅させることができ、安心して使える農業資材に変えることができる。
6 堆肥に必要な四つの条件
① 作物に障害がないこと
有機酸やフェノール性酸などの有害な成分や雑草 の種子も含んでいてはいけない。
② 環境に有害でないこと
有害な重金属や病原菌を含んでいないこと。
③ 製品が安定していること
④ 取り扱いやすいこと
有機物を農耕地に散布する場合は、10アール当 たり一トン以上の大量の散布を必要とするため、取 り扱いやすく作業が効率的に行えることが大切。
7 ボカシ肥と堆肥の違いは
堆肥はアルカリ条件下で好気的に温度を高めて分解させるため、窒素がアンモニアとなって揮散する。これに対し、有機物を土と混ぜ低温でゆっくり熟成させ、肥料成分の揮散を防いでつくったのがボカシ肥である。
ボカシ肥は油カスや魚粉などの有機肥料を直接施用するとタネバエや野ネズミの被害が出るが、この害をなくすことをねらって、有機肥料をあらかじめ好気的に短期間分解したことから始まったもので、肥料の効きを「ぼかした肥料」の意味である。
第2章 堆肥の効果とは何か
1 堆肥をなぜ使うのか
肥料がなければ作物は育たないが、堆肥を使わなくても作物は栽培できる。しかし、堆肥を全く使わないで作物を栽培していると、年々作物がつくりにくくなってくるが、毎年堆肥を施用している農地では生産が安定してくる。堆肥の効果としては増収、品質向上、安定生産の三つがあげられる。
増収効果>
窒素、リン酸、カリだけでなく、微量要素の適性供給にも効果がある。堆肥から出るホルモン用物質による生育促進効果もあるといわれている。
<品質向上>
作物は根から養分吸収を行うため、根に供給される肥料成分や水が適切であれば、品質は向上する。堆肥の養分保持力による適切な養分供給とともに、団粒化を促進して土壌を膨軟にすることによって、作物への過剰な水分供給が防げる。
<安定生産>
連作障害は土壌中に存在する有害微生物によることが多く、生産安定のためには堆肥による土壌生物性の改良が重要な要因といえる。
2 団粒をつくり物理性を改善する
3 リン酸の活性化など化学性の改善
日本に広く分布する火山灰土壌や酸性土壌には活性アルミニウムが多く含まれており、施肥したリン酸が土壌に強く吸着されて、作物が吸収できなくなることがある。堆肥を施用することによって、腐植酸、有機酸、各種糖類などがキレート作用(有機化合物と金属イオンが結合する化学反応)によって活性アルミニウムと結合し、リン酸を離す。そのため、堆肥の施用により、土壌のリン酸吸収係数が低下し、作物に吸収されやすい可吸態リン酸が増加する。
4 多様な土壌微生物をふやし生物性を改善
堆肥を施用すると、それをエサに土壌中の微生物が増殖し、施用した堆肥だけでなく、それまでに土壌中に蓄積されていた有機物の分解も促進される。これはプライミング効果(起爆効果)と呼ばれ、分解により窒素をはじめ多くの養分が放出される。
5 堆肥に期待されている作物品質の向上
農作物の品質には、外観、日持ち、食味、内容成分などがあるが、とりわけ、日持ちと食味の向上が期待されている。その理由は、食味に関係が深い糖は、窒素肥料と水が少ない条件で蓄積する傾向にあるが、窒素肥料が多いとタンパク質が合成される回路がはたらくために、糖成分が減って味や貯蔵性が低下する。化学肥料では急に効くので糖が減少しやすい傾向があるのに対して、堆肥は土壌中で分解して徐々に窒素を放出するので、食味が向上すると考えられている。
6 堆肥による病害虫の抑止効果
このように、堆肥の持つ効果はあいまいであり、生物的緩衝作用に対する堆肥施用の有効性を過信することは危険である。土壌病害の抑制を期待して堆肥を多量に施用するよりも、むしろ腐熟した良質を適切に施用することによって土壌の化学性・物理性を改善し、作物の土壌病害に対する抵抗性を高めることを考えた方が無難といえよう。
7 堆肥施用の環境への影響
堆肥に含まれる窒素成分は何年も分解が継続するので、土壌中に蓄積した有機物が多いと、地下水の硝酸汚染の原因になることがある。
8 堆肥と肥料の使い分け
(1) 堆肥と肥料は相互に補い合うように使う
堆肥の効果は緩効的なため、堆肥だけでは作物の初期生育が不良になることがあるので、速効性の化学肥料を併用するなどして、作物に必要な養分を適切に与える必要がある。
(2) 堆肥の肥料成分量も組み込んだ利用が大切
安全を見込めば、堆肥による基肥窒素の代替率は30%をめやすとする。それは、堆肥中の窒素の肥効が温度(地温)に左右されるため、代替率が高いと肥効が不安定になりやすいからである。しかし、作物によっては100%代替の可能なものもある。また、窒素以外の肥料成分(リン酸、カリ、石灰、苦土)については、作物に対する影響が窒素ほど大きくないため、100%代替しても大丈夫である。
9 未熟堆肥はなぜ悪いか
未熟堆肥による障害は、土壌施用後1~2週間目が著しいので、一ヶ月以上経過してから栽培すれば問題はなくなる。また障害物質は好気条件で分解されるため、未熟有機物は深く施用せず、浅めに施用するかマルチ施用するとよい。
(1) 過剰な窒素が環境汚染の原因に
未熟な堆肥を多量に施用すると、土壌中で急激に分解されて無機態窒素(特にアンモニア態窒素)の濃度が高まり、作物根が濃度障害を起こすことがある。また、土壌中の窒素濃度が高まれば、作物体中の硝酸態窒素の含有率が高くなる。
アンモニウムイオンは陽イオンであるため土壌によって保持されるが、硝酸イオンは陰イオンであるため土壌に保持されず、雨水によって容易に洗い流される。つまり、肥料でも堆肥でも過剰に施用すれば、環境汚染の原因になるのである。
(2) 窒素飢餓による生育不良
オガクズなどを大量に混入した炭素率の高い堆肥を施用すると、窒素飢餓になることがある。これは、堆肥の分解のために増殖した微生物が、その菌体成分を合成するために、堆肥から分解されて出てくる窒素だけでなく、土壌中の窒素も取り込んでしまい、作物が吸収できる窒素が不足するため、生育不良を起こす現象である。
(3) 生育阻害物質が含まれている
堆肥化が適切に行われないで嫌気発酵した場合、有機酸や低級脂肪酸が多量に生成される。この結果、作物の生育が阻害される。
(4) 土壌の異常還元で根腐れや生育不良に
易分解性有機物が土壌中に大量に入ると、微生物が急激に増殖し、土壌中の酸素を消費して土壌が極度の還元状態になることがある。特に排水の不良な粘土質土壌ではこの傾向が顕著で、作物は根腐れをおこしやすくなる。
(5) 無機成分の過剰やバランスの悪化
家畜ふん堆肥は無機成分を豊富に含むが、その構成比は作物が吸収する無機成分の構成比とは必ずしも一致しない。このため多量施用を繰り返すと、土壌中の無機成分のバランスが悪化したり、塩類集積を引き起こす。
(6) 土壌の物理性悪化にもつながる
水分の多い未熟堆肥を多量に施用した畑で、トラクターなどの大型機械を運行させると、土壌の圧密化が促進され,通気や排水が不良になる。
10 堆肥にすると窒素は効かなくなる?
堆肥化により分解されやすいものは分解され腐植のような分解しにくいものが残っているため、窒素は効きにくくなるが、そのために、堆肥を多量に土の中に入れても、急激に窒素を放出することはない。
パート2 堆肥作りの基礎と実際第3章 知っておきたい堆肥と微生物の働き
1 堆肥は「発酵」それとも「分解」?
堆肥化には、一部には嫌気性菌も働くが、大部分が好気性菌の働きで、有機物を二酸化炭素と水に分解しながら進んでいく。嫌気的な条件で堆肥作りをすると、黄色がかった色になり悪臭が発生し「腐敗」状態になる。このため、厳密には堆肥作りに「発酵」を用いるのは好ましくなく、「分解」を用いるのが正しいが、ここでは慣例通り堆肥化は「発酵」とする。
堆肥が発酵しないで腐敗しやすくなるのは、空気が十分に供給されないときである。含水率が高いとき、積み込みが強くてすき間がなく空気が入り込みにくいときに起こりやすく、空気さえ十分に供給できれば、好気性菌の力が強いので好気発酵になる。
2 堆肥をつくる微生物の働き
(1) 第一段階=タンパク質や低分子の糖類を分解
デンプンは、糸状菌や細菌の中でも特殊な種類の働きによって、最後にはグルコースに変わり、他の微生物によって分解される。
(2) 第二段階=セルロースやヘミセルロースを分解
ヘミセルロースはペクチン様の物質であり、多くの微生物が分解することができる。セルロースは、好気性細菌や糸状菌によって分解される。
(3) 第三段階=リグニンを分解
リグニンは難分解物質とされている。リグニンの分解は、糸状菌や担子菌などのやや大型の微生物が行う。 リグニン分解が起こる頃になると,堆肥は黒褐色の良好な状態となり、堆肥の表面に担子菌が、堆肥の中にはミミズが生息するようになり、この状態を完熟という。
3 微生物の働く条件を整える
(1) 適した水分率は50~60%
水分が多いと酸素の供給不足から嫌気状態になるため、嫌気発酵が行われる。
微生物の活動には、すき間を確保して空気との接触率を高めることが必要である。
(2) 炭素率(C/N比)20~30が最適
炭素率が高いときは家畜ふんや米ぬかなど窒素成分の多い原料を混合し、炭素率が低いときは木質やモミガラのように炭素の多い原料を混合しなければならない。
堆肥化が進むと炭素率は低下する。完成した堆肥として適した炭素率は15~20程度である。
(3) 十分な酸素の供給は不可欠
堆肥原料の通気性を改善し、かくはん・切り返し、あるいは強制通気によって、十分な酸素を供給することが必要である。
酸素が不足した状態で放置されると、堆積した内部は嫌気的となり、嫌気性微生物の働きによって有機酸などの生育阻害物質や、硫黄化合物や揮発性脂肪酸などの悪臭物質が多量に生成され、そのままでは堆肥化はすすまなくなる。
しかし、過剰に空気が供給されると、冷却され十分な蓄熱ができないため、堆肥の温度が上昇しなくなり、発酵が進まなくなる。
(4) pHが7~8で微生物活性が最大に
堆肥化過程でアンモニアが発生するため堆肥化はアルカリ性の状態で行われる。pHは7~8程度の弱アルカリ性で活性が最大になる。pHは微生物活性に大きく影響するが、堆肥化過程でpHを積極的に制御することはあまり行われない。
(5) 発熱は70℃程度が目標
発熱を利用して水分の蒸散と病原菌、寄生虫の卵、雑草の種子などを死滅させるため、70℃程度の発熱は必要である。
外部から熱を加えてやれば、堆肥化が促進されると誤解されることがある。しかし、堆肥が高温になるのは微生物活動の結果であって、水分や酸素など他の条件が整っていれば、強制的に熱を加える必要はない。加熱は、過剰な水分を除去するだけの効果しか期待できないと考えた方がよい。
(6) 多様な微生物を増やす
堆肥化促進をうたった数多くの微生物資材が販売されているが、このような資材の利用よりも、完成した堆肥を種菌として混合する方法の法が確実性が高いといえる。
(7) 原料と目標に合わせた時間が必要
ある種の装置を用いれば、数日で堆肥が完了するという話を聞くこともあるが、これはごく初期の発酵と乾燥によって取り扱い性をよくする程度のものであって、作物や土壌環境にとって安全な、いわゆる完熟堆肥になることはない。
第4章 堆肥作りの実際
1 原料の選び方と組合せ方 - 主原料と副原料
(1) 原料は炭素率と水分含量で判断
(2) 副原料と組み合わせて調節する
(3) 副原料の第一条件は通気性の向上
2 水分と炭素率の調整方法
(1) 副原料による調節
(2) 化学肥料や戻し堆肥による調節
3 堆積方法と切り返しのポイント
(1) 場所の選び方と堆積規模、堆積方法
堆積場所は、しぼり水が排水できるよう工夫された場所が適している。簡易には数㎝盛り土するか、コンクリート製の堆肥盤をつくればよい。スノコのようなものが最高である。
堆積規模は5~6立方メートルとする(2x2.5x1.2=6, 2x2.2x1.2=5.28)。これ以上の規模で堆積するときは強制通気をするか麦わらやカヤのような孔隙の多い資材を用い、空気の流通をよくする必要がある。
微生物の活動には、30~40℃がもっとも適している。このため、冬期に積み込むと、初期の微生物活性が低くなる。
一定の木枠をつくって、それを利用しながら堆積すると堆肥の容量がわかるので便利である。
微生物は紫外線に弱いので、直射日光に当たらない工夫をすることも大切である。屋根付きの堆肥舎が望ましいが、屋外のときはシートやムシロで覆うとよい。
(2) 均一な発酵に欠かせないかくはん・切り返し
かくはん・切り返しの要点は、堆積物を混合して均一化をはかることと、積み替えて膨軟化をはかることである。また、かくはん・切り返しによって、堆積場所を移動することもできる。
回数は、稲わら堆肥やきゅう肥では2~3回でよいが、オガクズのような難分解性の原料を含むときは、堆積初期には、月二回、中期以後は月一回は必要である。もっと効果的に行うには最初の一ヶ月間は週一回、その後は月に一回程度行うのがよい。
発酵温度は70℃程度がよく、堆積規模と切り返しによって温度管理することができる。温度を上げるには、できるだけ表面積を少なくする形(円筒形)がよい。
4 稲わらや青草の積み肥の作り方
(1) 原料と堆積場所
原料は、稲わらや青草類を用いる。稲わらや青草類だけでもよいが、ふつうは家畜ふん尿を窒素源として混合する。青草を使うときは、刈り取り後数日乾燥させてから用いる。また、刈り取りは種子ができる前に行う。
① 仮積み
まず稲わらを敷き、その上に稲わらと容積で等量程度の糞尿を混ぜて積み込む。これを仮積みといい、切り返しをしないで一ヶ月ほど堆積しておく。
② 本積み
本積みにあたって土台(堆肥盤)をつくる。土台は土を20㎝ほど盛ることもあるし、丸太または竹を敷き詰めるた水切り台をつくることもある。
その上に稲わらを30㎝ほど積む。その上に仮積み物と家畜ふん尿を混合して30㎝ほど堆積し、さらに稲わらを30㎝ほど積む。このように、稲わらと家畜ふん尿混合物を交互に積み、約1.5~1.8mの高さに堆積する。
③ 切り返し
堆積後一週間以内に発熱する。発熱が80℃を超えると窒素の揮散が著しくなるので、適当に水をかけ、60~70℃に保つ。一ヶ月目に切り返しを行うが、内部の物を外部に、外部の物を内部にし、均一になるようにする。その後すぐに発熱するが、数週間ほどで温度が下がり、3~4ヶ月後に完熟したものができる。この間、一~二回切り返しを行う。
5 促成堆肥の作り方
(1) 原料と堆積場所
(2) 堆肥の作り方
①仮積み
②本積み
③切り返し
6 家畜ふん堆肥の作り方 かつてはきゅう肥と呼ばれていた
7 連続堆肥化法(戻し堆肥化法)
8 剪定くず堆肥の作り方
9 食品カス堆肥の作り方
パート3 堆肥施用の基礎と実際第5章 効果の現れ方と使い方の基礎
1 土の中での堆肥の分解 -堆肥を分解する微生物
(1) タンパク質や低分子の糖から分解される
(2) 最後には腐植が残り団粒構造をつくる
堆肥にはセルロースやリグニンが多く含まれているため、この分解が数年にわたって継続する。堆肥の効果が比較的長く続くのは、この分解がゆるやかに長期間にわたって行われるためである。最後には、分解しにくいリグニンがタンパク質などと結合し、複雑な構造を持った腐植に変化する。腐植は微生物がほとんど分解できないため、土壌中に蓄積して粘土粒子と結合して団粒構造をつくる。
堆肥化の過程で、微生物によって比較的分解しやすい物質があらかじめ分解されているため、生の有機物を土壌中にすきこむよりも、ゆるやかな分解が長期間続く。堆肥化は、あらかじめ有害物を分解除去するとともに、土壌中で効果を長持ちさせるための工夫だともいえる。
(3) 分解は好気性菌によって行われる
畑地では十分な酸素が供給されるため問題はないが、水を張った水田では有機物の急激な分解が起こると、微生物が急速に増殖することによって酸素を消費し、土壌が嫌気状態になる。この結果、根腐れを起こすため、植えつけ直前に未熟堆肥を施用してはならない。また、畑地においても浅めに施用すると分解が速い。
2 肥料効果はどう現れるか
(1) 微生物に分解されて肥料効果を発揮=無機化
堆肥に含まれる肥料成分のうち、カリは無機態で存在しているため、堆肥に含まれる量のほとんどが作物に利用できる。これに対し、窒素とリン酸は有機化合物に組み込まれた有機態のものが多く、そのままでは利用できない。土の中で微生物によって分解されて無機態になり、はじめて肥料効果を発揮する。
土壌中で堆肥を分解する微生物は、堆肥に含まれる炭素の三分の二を呼吸で消費し、残り三分の一で自分の体をつくる。また微生物の体の炭素率(C/N比)は6.7程度である。かりに炭素率20の堆肥を使用したとすると、窒素1に対し炭素が20あったものが、微生物分解後は窒素1に対し炭素が6.7になるのである。この間に13.3の炭素が二酸化炭素として失われたことによる。
そのため、炭素率が20以上で炭素が過剰な堆肥が土壌中の分解を受けると、炭素に対して窒素が少ないため、微生物は不足分を土壌中に存在する無機窒素を吸収して補う。これを窒素の有機化といい、結果として作物の吸収できる窒素が不足し、作物は窒素不足で生育不良になる。
逆に、炭素率が20以下であれば、微生物が必要とする炭素に比べて窒素が余分にあるので、微生物は余分な窒素をアンモニアとして体外に放出する。これを窒素の無機化といい、作物が吸収できる窒素が増えることになる。
(2) 炭素率が小さいほど無機化率は高い
(3) 牛ふん窒素の無機化には数年かかる
家畜ふんに含まれる窒素には分解しやすいものと分解しにくいものがある。鶏糞では大部分の窒素が一年で分解して無機化するが、牛ふんでは半分の量が蓄積する。それを毎年施用すれば、鶏糞では三年目、牛ふんでは10年目に、施用した窒素量のほぼ100%に相当する量が無機化されることになる。
これは牛ふんの場合であり、堆肥にするともっと一年に分解する量が少なくなり蓄積量が増加する。
3 有効成分量から見た堆肥の施用量
堆肥や有機物の施用で重要なことは、含まれている成分量をあらかじめ知った上で、肥料の施用量を加減することである。たとえば、有効成分量をみると豚ぷん堆肥や鶏糞堆肥では、一トン当たり窒素、リン酸、カリがいずれも10キロ以上あり、作物によっては基肥が不要であることがわかる。また、鶏糞堆肥では一トン中に石灰が127キロ含まれるので、あらかじめ土壌のpHを知った上で堆肥や有機物の施用量を決めることが必要である。
4 季節による違い
微生物によって最適温度は違うが、一般に土壌微生物の活性が最大になるのは、30~35℃である。このため、夏作に比べ冬作では堆肥の分解がゆっくりであり、窒素成分の発生量が少ない。
5 土壌条件と施用法
微生物の活性は温度だけでなく、土壌水分含量やpH、土壌の種類によって異なるため、堆肥の分解力もちがってくる。
6 使用目的にあった堆肥を使う
(1) 肥料成分の供給に適した堆肥
(2) 物理性改善に適した堆肥
(3) 生物性改善に適した堆肥
第6章 堆肥施用量の決め方
1 堆肥施用量の決め方 -完熟堆肥の使い方
2 使用方法と効果のねらい
(評)
堆肥の教科書である。パート1では堆肥の定義に始まって、堆肥と肥料の違い、ボカシ肥と堆肥の違いなどがわかりやすく説明されている。
パート2は堆肥のつくり方で、パート3は堆肥の施用の仕方となっていて、堆肥に関するほぼ全てのことがこの本でわかる。
堆肥自体がその成分はアバウトであり、作物ごとに組み合わせる肥料成分の計算をするとなると、相当マメな人でも混乱するに違いない。そのようなことも可能であると知った上で、やはり、堆肥の利用は腐植と微生物による畑の化学性、物理性、生物性の改善を主眼とし、ある程度のアバウトな見込みで、肥料過多にならないことを注意しながら施用することが大切であることがよくわかる。
平成24年2月