未来を信じ、未来に生きる。

今に流されず、正論を認識し、社会貢献していく人生を切り拓くブログ道。

東京・秋葉原殺傷:ネットにあふれた事件 目撃者ら情報発信、報道に新たな展開

2008-06-30 04:45:20 | 国内報道
 東京・秋葉原殺傷:ネットにあふれた事件 目撃者ら情報発信、報道に新たな展開

 IT(情報技術)文化の発信基地として栄える東京・秋葉原を舞台にした無差別殺傷事件では、多くの事件情報がインターネット上にあふれ出した。目撃者がネットに情報発信し、容疑者自身が犯行に至るまでの心境をつづった。そして報道機関はネット情報を事件に迫る重要な取材源として活用した。ネット時代を迎え、事件報道は新たな展開を見せている。【臺宏士、本橋由紀】

 ●通行人の撮影画像

 6月9日付毎日新聞夕刊(東京本社版)は前日に逮捕された派遣社員、加藤智大(ともひろ)容疑者(25)が、警察官に身柄を確保されパトカーに乗せられる瞬間を写した写真を1面に掲載した。写真説明には「通行人提供」。毎日新聞記者による撮影ではなかった。

 写真を入手した神澤龍二社会部記者によると、買い物客らでごった返す事件現場付近で目撃者捜しをしていたところ、容疑者の写った写真を持っているという女性を捜し出した。

 女性によると、事件現場近くを歩いていた際に、ある男性が「犯人が捕まったぞ」と声を上げたという。周りには写真のコピーを求める人々が殺到。携帯電話の「赤外線送受信」を使うと、5秒程度で写真を自身の携帯に取り込むことができる。その場であっという間に容疑者の画像は不特定多数の通行人に広まったという。女性は「若い男性だったがもう帰った」と話し、撮影者を特定できなかった。

 著作権法は、写真などの著作物について報道目的の引用や、時事の事件の報道のための利用を認めているが、決定的な瞬間を写したニュース写真を紙面に掲載すべきかどうか。

 写真部は当初、掲載に慎重だった。渡部聡写真部長は「掲載に当たっては、撮影者の許諾を得ることを原則としてきた。例外を作るには、読者にきちんと説明する必要があった」と振り返る。

 社内の議論の結果、写真を掲載することに決まった。小川一社会部長は「秋葉原というIT社会を象徴する場で、写真がみるみるコピーされて広まった。その事象そのものがニュースだ。読者にも説明したうえで、写真を掲載すべきだと考えた」と説明する。

 毎日新聞は加藤容疑者が携帯電話サイトに書き込んだ内容も紙面化している。加藤容疑者が今月初めに出社した際、自分のつなぎ(作業着)がないことで解雇の不安が増し、会社を飛び出した詳細な経緯などを書き込んだ内容を、毎日新聞の分析と合わせて掲載した。

 その記事について、桂敬一・元東京情報大教授(メディア論)はネット上の評論「メディアは今 何を問われているか」で「『社会的背景』の一部を理解させる重要な手がかりとして、目を引いた」と評価した。

 ただ、撮影者不詳の写真や、書き込みについては、その信ぴょう性を疑わせるケースも予想され、社内でも取り扱いについて新たに議論を始めている。

 園田寿・甲南大法科大学院教授(刑法、情報法)は「デジタルデータの場合、『入力』や『出力』の真正性と、『内容』の非改ざん性が保障されてこそ、証明力が認められる。今回の事件の場合、撮影者(入力)が分からなくても、あの状況で映像の改ざん可能性はなかったと思われる。携帯サイトの書き込みなどの文字情報の場合、改ざんが比較的容易でもある。デジタル情報の取り扱いは、本人の了解とは別に、より慎重な吟味が欠かせない」と指摘する。

 ●個人が動画中継

 日曜日の昼下がり。秋葉原で起きた事件現場に居合わせた人には、容疑者の身柄を確保した瞬間や被害者に人工呼吸をする様子などを撮影した写真を私的に交換するだけでなく、インターネットを使って動画中継や動画投稿サイトで公開する人もいた。

 情報通信機器の発達や通信環境の向上は、不特定多数に向けた映像による情報発信を報道機関だけでなく一人一人の個人にまで広げた。

 ネット上では、こうした行為を報道と比較して論じたり、緊迫した現場の惨状を理解する上で参考になったとして支持する意見や、一方で被害者の撮影に対して不謹慎だとしてモラルを問う意見が飛び交った。これらの論議は、ブロガーをはじめネットニュースや週刊誌もこぞって取り上げている。

 当事者たちはどのように受け止めているのか。毎日新聞は事件当日に動画配信サイトで中継したという2人に取材を申し込んだが、応じてもらえなかった。

 一人は「取材に応じるとネットでたたかれかねない」と不安をもらした。現場から中継した一人は、「不謹慎だ」という指摘があることに衝撃を受けたと、自分のブログで告白している。この人は「ただ、その場での出来事を、あの場の空気を中継したかったからした。それだけでした。やじ馬根性がなかったとは言い切れません。ある種の高揚感があったのも認めます。そんな私は不謹慎なのでしょうか。私の行動は、正しかったんでしょうか」と自問する。

 後日のブログで動画中継については、「せっかく自分のやりたいことを表現できる手段があるのにそれを放棄するのはもったいないし、嫌です」と今後も行っていく考えを明らかにしながらも「また同じようなことがあったら……少し考えるかもしれません」と揺れる胸の内を明かした。

 ●「自分はどうするか」

 ネット社会に詳しいジャーナリストの歌田明弘さんは、誰もが情報発信できるようになった事例として前向きに受け止めている。

 歌田さんは「不特定多数に情報発信する行為は、マスメディアと個人の間では差がなくなりつつあることを示した」と指摘したうえで「事件現場の周辺にいて、そして自分も被害者になった可能性がある当事者の一人として伝えたいという気持ちを持ちながら情報発信について考えるのであれば、それは単なるやじ馬とは違う。ブログでも動画でも読者や、視聴者に伝える責任を考えながら情報発信している人は多くなっていると思う。次に起きた時に自分はどうするのかと考えることが大切だ」と述べる。

 水島久光・東海大教授(情報学)は「今回の事件では、容疑者が犯行に至るまでを携帯サイトに直前まで書き込み続けたり、事件現場に居合わせた人がリアルタイムに中継してみたり、現在のインターネットの仕組みを前提としたデジタルメディア社会で起こり得るすべての現象が一気に顕在化した感じだ」と考えている。

 水島教授は「中継した人のブログから自問自答している様子がうかがえた。中継した人だっていつかは撮影されて配信される側になるかもしれない。誰もが本人の意思とは無関係に参加せざるをえないネット社会を我々は選択したわけだ。大切なのは、このように自問自答しながらネット社会での振る舞いを身につけることではないか」と話している。

(出所:毎日新聞 2008年6月23日 東京朝刊)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

警察官不祥事:匿名や非公表の正当性を問う 警察発表実態調査から浮かぶ問題点

2008-06-30 04:43:29 | 国内警察
 警察官不祥事:匿名や非公表の正当性を問う 警察発表実態調査から浮かぶ問題点

 毎日新聞は、昨年4月から1年間の警察における匿名発表の実態を全国調査した。警察官の不祥事を「任意事件だから」などの理由で匿名(あるいは非公表)にしたり、被害者の意向がくまれなかった例を報告する。【まとめ・本橋由紀】

 (1)不祥事--飲酒事故でも名前を明かさず

 岩手県警が県警関係者の不祥事2件を公表していなかったことが07年11月、分かった。06年に男性警部補を同僚女性へのセクハラで戒告処分としたケースと、05年に男性事務職員を盗撮行為で書類送検し、6カ月の減給処分にしたケース。警部補は、女性が被害届を出していないため刑事事件にならず、事務職員は任意の取り調べで盗撮を認めたため逮捕しなかった。

 県警は「私的行為による懲戒処分は停職以上を公表するという警察庁の指針に沿って対処した」と説明。指針では「発表基準に該当しないものでも、警察の信頼確保のため必要な場合は発表する」との規定がある。しかし「隠ぺいの意図はない。指針で対象外だからだ」との説明を繰り返した。

 香川県警自動車警ら隊の巡査(23)が昨年9月、酒を飲んで乗用車を運転し当て逃げ事故を起こした。県警は道交法違反(酒酔い運転、事故不申告)容疑で書類送検した。この件では、巡査を懲戒免職処分にしたものの、県警は「身柄を取っていない」との理由で、記者が求めたにもかかわらず巡査の名前を最後まで発表しなかった。

 金沢市内のアパートで07年5月、石川県警警部補(44)がナイフを腹に刺された状態で見つかった。県警は「殺人未遂事件の発生」と事件を発表。被害者を「県警本部勤務 警部補(44)」とした。発生から10日後、県警は「警部補が自分で刺したことが分かった」と発表したが、匿名だった。「軽犯罪法違反(虚偽申告)で、通常は発表していない」との理由。その後、警部補を懲戒戒告処分としたが、その際も匿名だった。

 北海道警根室署員4人が任意聴取中の男性に暴行を加えた。釧路地検が昨年6月、4人を起訴猶予処分とすると発表したが、名前は明かさなかった。

 (2)書類送検--公選法違反でも広報せず

 昨年7月の参院選で証紙を張っていない違法ビラを配布したとして、自民党山梨県連の事務局長と幹事長の県議(その後、失職)が公職選挙法違反(文書頒布)の容疑で書類送検され、略式起訴された。2人には罰金20万円、公民権停止3年の略式命令が下った。

 県警は書類送検をしたものの発表せず、甲府地検が08年3月28日、事務局長と県議の略式起訴事実と略式命令の内容についてのみ発表した。県警は「他県でも同様の事案は広報していない」と説明した。

 この事件では複数の県議や事務局長の関与がうわさされていたため、各社は県警に「書類送検でも広報を」と要請していた。

 青森県三沢市で07年10月、米軍三沢基地所属の米兵が起こした軽傷ひき逃げ事故を、県警三沢署が「証拠隠滅や逃亡の恐れがない」と任意で調べ、08年3月に道路交通法違反(ひき逃げ)容疑で青森地検八戸支部に書類送検した。事故自体は発表したが書類送検は伏せられた。「書類送致事件は公表していない」という理由。報道で事実が明らかになった。

 昨年11月、福島市の庭坂郵便局で、元職員の男性が定額貯金約200万円を着服したことが発覚。福島署が業務上横領事件として書類送検したが発表しなかった。

 地検への取材で送検が判明し、福島署に確認したところ「任意事件だから」との回答だった。

 (3)被害者の希望--実名での取材に応じる人も

 3月23日、茨城県土浦市のJR荒川沖駅周辺で8人が殺傷された事件で、茨城県警は被害者の氏名を発表する際、被害者の「希望」をつけた。「実名は勘弁してください」などと書かれている被害者の中には、実名で取材に応じた人もいた。

 知的障害を持つ安永健太さん(当時25歳)が、佐賀市の国道を自転車で蛇行していたとして、5人の警察官に取り押さえられた直後に急死した。県警は匿名で発表。佐賀署は「遺族が名前を出さないでくれと言っている」と説明した。

 ところが、遺族を取材すると「当日は、匿名を希望した。佐賀署が『バイクをけって逃げた』という説明をしたからだ」と話した。その後、安永さんが警察官に取り押さえられる最中に意識をなくしていたことが判明し、遺族は実名での報道を希望。毎日新聞も実名報道に転じた。

 食卓を震撼(しんかん)させた中国産ギョーザの中毒事件(今年1月)では、千葉市で2人、市川市で5人の入院患者が出た。しかし、千葉県警は、入院した被害者の氏名を匿名で発表した。「被害者に取材が及ぶと迷惑する」「氏名を公表する事案ではない」との理由で、報道側は実名公表を求めたが対応は変わらなかった。

    ×  ×

 事件・事故が起きた時、被害者名の発表を実名・匿名のどちらにするかの判断を警察に委ねるとした項目を盛り込んだ犯罪被害者等基本計画が05年12月に閣議決定された。

 その項目は「警察による被害者の実名発表、匿名発表については、犯罪被害者等の匿名発表を望む意見と、マスコミによる報道の自由、国民の知る権利を理由とする実名発表に対する要望を踏まえ、プライバシーの保護、発表することの公益性等の事情を勘案しつつ、個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮していく」というものだった。これについて、政府の基本計画検討会が当時▽取材・報道の自由に規制を加えるものではない▽実名発表を求める被害者まで匿名にはしない▽警察の恣意(しい)的な判断や安易な匿名発表の拡大を認めるものではない▽匿名発表とする場合はその都度、マスコミに理由を説明し、議論に応じる--との見解を示したが、必ずしも見解が守られていない実態が浮き彫りになった。

 ◇隠ぺいの疑い招く--服部孝章・立教大教授(メディア法)
 公人による不祥事の匿名での発表や、不祥事自体の不公表は「隠ぺいをしているのではないか」との疑いを招くもので、捜査機関への信頼確保の点からも看過できない。公人は、国民の知る権利の対象であり、懲戒処分、書類送検のいずれの場合も警察官がかかわった事件は、社会的な公益性は高く、一般私人より厳しい扱いは当然で、実名発表すべきだ。事件の被害者・遺族側の希望を理由にした匿名発表についても警察が十分な説明をしていない疑いがある。報道機関による検証にふたをすることにつながる。

 ◇個人情報の混乱続く--鈴木正朝・新潟大法科大学院教授(情報法)
 現在起きている個人情報の保護に名を借りた過剰反応や情報隠しは、啓発活動によって一般国民が専門家と同じように法律を解釈できれば収まるという問題ではない。そもそも法律の規定があいまいなため、解釈で解決することは無理なのだ。個人情報保護法の改正を見送った政府や国民生活審議会・個人情報保護部会の委員が力不足を認めず、保護法制全体の抜本的な見直しに及び腰なままでは、一連の「混乱」は今後も続くだろう。

(出所:毎日新聞 2008年6月16日 東京朝刊)

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

クローズアップ2008:たばこ購入カード「タスポ」1日から全国で

2008-06-30 04:39:09 | 国内社会
 クローズアップ2008:たばこ購入カード「タスポ」1日から全国で

■ことば

 ◇taspo(タスポ)
 日本たばこ協会、全国たばこ販売協同組合連合会、日本自動販売機工業会が主体となって導入した成人識別ICカード。自販機にタッチし成人と確認できなければたばこを購入できない。プリペイド方式の電子マネー「ピデル」としても使える。日本たばこ協会に郵送で申し込む。有効期限は10年。財務省が認定した成人識別機能は、タスポと運転免許証の2種のみ。

 ◇自販機頼みの小売店は悲鳴--申請面倒、普及まだ2割
 未成年者の喫煙防止を目的にした成人識別ICカード「taspo(タスポ)」の運用が7月1日から首都圏などでも始まり、タスポの全国網が完成する。カードがないと、自動販売機でたばこが買えなくなる。だが手続きが面倒なこともあり、たばこ業界の思惑に反しカードの普及率はまだ2割程度。今後、愛煙家の購入場所が自販機からコンビニエンスストアなどにシフトする可能性が高く、自販機収入に頼ってきたたばこ店からは「死活問題」と悲鳴が聞こえる。【大坪信剛、望月麻紀、小原擁】

 ●深夜解禁要望も

 社団法人・日本たばこ協会は、推定2600万人の成人喫煙者のうち常に自販機で購入している人は3~4割とみて、タスポ発行枚数の目標を1000万枚に設定している。しかし、14日現在の発行枚数は574万579枚にとどまり、普及率は22%。全国に先駆けて3月に稼働した宮崎、鹿児島県はようやく33%に達したが、7月に稼働する9都県ではまだ15%に過ぎない。

 普及が伸び悩む中、先行導入された地域では喫煙者の自販機離れが進む。客の多くはコンビニに流れる一方、経営難に陥る個人小売店が相次いでいる。

 福岡県では導入された5月、約1万1600店のたばこ小売店のうち69店が廃業した。07年5月の約2・4倍に上る。大野城市のたばこ店長、児島和則さん(42)は「対面販売の売り上げは2割増えたが、自販機は9割減。全体では8割減った」と嘆く。店頭での対面販売の営業時間を2時間延ばし、売り上げ回復を目指している。

 7月から導入される東京都。70代の販売店主は「売り上げ減を食い止められるだろうか。全国で安定稼働が確認されたら、業界全体で自粛している深夜の自販機稼働を解禁してほしい」と訴える。

 全国たばこ販売協同組合連合会は96年4月から、未成年者の購入防止のため午後11時~午前5時の自販機での販売を自粛している。タスポ導入で未成年者は自販機で購入できないため、連合会は、8月にも深夜販売の解禁に踏み切りたい考えで、自販機の大半を所有するたばこメーカー各社に協力を求めている。

 ◇コンビニで購入、増加も 未成年防止、年齢確認などカギ
 ●先行県で「効果」

 警察庁のまとめでは、07年に喫煙で補導された未成年者は全国で約60万人。93年の約30万人と比べて約2倍に増えている。タスポ導入で果たしてどの程度、未成年者の喫煙を防げるのか。

 3月に先行導入された宮崎県では導入後、未成年者の喫煙補導数が減少傾向となった。県警によると2月の補導数は266人。ところが3月は203人、4月は197人と減り、3~4月の補導数は07年同期比で123人減だった。県警は「導入効果もあったのではないか」と分析する。

 政府の04年度全国調査(複数回答)では、未成年者がたばこを購入する場合、78%が自販機を利用、34%がコンビニ、スーパーなどの販売店で買っていた。自販機で買えない未成年者が今後、コンビニなどで購入する動きが強まる可能性がある。

 マールボロやラークなどを製造販売するフィリップモリスジャパン(東京都千代田区)は06年、外見上未成年に見える成人調査員を500店舗に派遣して購入が可能か調べた。

 この結果、「何も聞かれずに購入できた」が99%以上の496店に上り、未成年に見えてもほぼノーチェックで購入できたという。

 このため同社は、タスポ導入を機に「証明書による年齢確認」を店の方針として確立することや、年齢確認を嫌がったり、気の短い客への接し方などを盛り込んだマニュアルのCDを製作し、販売店に配布し始めた。また、店のカウンターに「証明書の提示」を明記した表示板を置いたり、ステッカーを張るよう指導している。

 同社の福原ひとみマネジャーは「自販機に成人識別機能が付くことで、対面販売の重要性が一層増す。店頭でのトラブルがないよう未成年者が買いにくい店にしていくことが必要」と話している。

 ◇各国から批判受け導入 たばこメーカー、メリット少なく
 05年に発効した「たばこの規制に関する世界保健機関枠組み条約」では、「自販機が未成年者に利用されないこと」「自販機で未成年者に対する製品の販売が促進されないこと」を求めており、日本も批准している。

 日本自動販売機工業会によると、たばこ自販機の普及台数は07年末で約52万台。世界的にも自販機での販売数が目立って多く、国際会議などで日本に対する批判が強かった。

 政府の働きかけを受け、日本たばこ協会などはタスポ導入を決定。3月に宮崎、鹿児島県で試験導入され、5月、6月も地域ごとに順次実施。7月1日からは9都県(東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城、栃木、群馬、山梨、沖縄)に導入され、全国を網羅する。

 タスポ機能付き自販機の開発・整備費用は総額800億~900億円で、自販機を貸与するたばこメーカーが大半を負担する。メーカーは費用捻出(ねんしゅつ)のため、06年に商品を値上げした。これも一因となり、販売量は年々減少。たばこの製造・販売サイドにとってメリットは大きくない。

 一方、こうした動きから新たなビジネスチャンスも生まれている。自販機を製造販売するフジタカ(京都府長岡京市)は、目や口の大きさや配置などで年代層を判別する独自の「顔認証システム」を搭載した成人識別自販機を開発した。顔認証について財務省は「機能を確認中」としているが、見切り発車ながら全国で約4800台が稼働し、予約待ちの人気ぶりだ。

==============

 ■ことば

 ◇taspo(タスポ)
 日本たばこ協会、全国たばこ販売協同組合連合会、日本自動販売機工業会が主体となって導入した成人識別ICカード。自販機にタッチし成人と確認できなければたばこを購入できない。プリペイド方式の電子マネー「ピデル」としても使える。日本たばこ協会に郵送で申し込む。有効期限は10年。財務省が認定した成人識別機能は、タスポと運転免許証の2種のみ。

(出所:毎日新聞 2008年6月29日 東京朝刊)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

離婚後300日規定:300日内に出生 前夫の子、半数以下--毎日新聞調査

2008-06-30 04:36:45 | 民事裁判
離婚後300日規定:300日内に出生 前夫の子、半数以下--毎日新聞調査

■ことば

 ◇離婚後300日規定
 「離婚後300日以内に誕生した子は前夫の子」と推定する民法の規定。父親を早期に定めて子供の立場を守る狙いがある。前夫以外を親とするためには、前夫を巻き込んだ調停や裁判で確定する必要があり、前夫と連絡を取れない場合、出生届が受理されず子供が無戸籍となっている。法務省は07年5月、離婚後妊娠に限り、前夫以外を親とする出生届を認める通達を出した。

 ◇法、実態反映せず
 離婚後300日以内に生まれた子のうち、半数以上が「現夫の子」とみられることが、毎日新聞の自治体調査で分かった。実際は「現夫の子」が多いのに、離婚後300日規定が「前夫の子」を事実上強要していることを示す結果だ。実態を反映していない規定の存在意義が改めて問われそうだ。【まとめ・工藤哲】

 調査は、道府県庁所在市と政令市、東京23区の計219市区が対象。離婚後300日以内に生まれた子の出生届で、「現夫の子」と主張した件数と、「前夫の子」を納得して受け入れた件数を比べた(概数での回答を含む、調査方法は上欄参照)。東京都大田区では前夫の子に納得したケースは「ない」としたのに対し通達で現夫としたのは4件、現夫とするため裁判手続きなどを取らなければならないのは「5件以上で10件より少ない」と回答するなど多くの自治体で現夫の届けが上回った。

 一方、堺市南区は、前夫の子に納得したのが「5件以上で10件より少ない」、現夫とするための裁判手続きなどを取らなければならないのは「5件より少ない」、通達で現夫としたのは1件と回答。前夫の子に納得したとする方が多い自治体もあった。

 概数回答の「5件より少ない」は2件とし、「5件以上10件より少ない」は7件とするなど、中間の数字で計算すると、通達と裁判などの手続きで「現夫の子」としたのは329件、「前夫の子」に納得した届けは211件で、「前夫の子」は、「現夫の子」の3分の2程度にとどまった。

 また、「前夫の子」について概数回答の「5件より少ない」は4件、「5件以上10件より少ない」は9件と、最大の数字で計算すると337件となり、この場合でも「現夫の子」とほぼ同数となった。

 法務省は昨年、法務局や家庭裁判所を通じ実態調査をし、離婚後300日以内に生まれた子は全国で年間約3000人と推定。しかし、規定通り「前夫の子」として出生届を出した件数などは「把握できない」としている。

 法務省民事局は「調査結果のような実態があるとすれば、規定について法の精神に抵触しない範囲の改正が考えられるか検討が必要だ」と話している。

  ■  ■

 調査結果について、専門家からは規定の見直しを求める声が出ている。家族法に詳しい棚村政行・早稲田大教授は「前夫の子として届けた人は、本音は不承不承届け出たのに、窓口の担当者が事務的に受理した例も含まれるとみられる。前夫の子は実際はもっと少ないのでは」とみている。

 300日問題に詳しい榊原富士子弁護士は「一律に前夫の子と推定するのではなく、前夫が『現夫の子ではなく自分の子だ』と異議を申し立てた時に裁判手続きをする方が、当事者だけでなく、裁判所の負担軽減にもなる」と話している。

==============

 <調査方法>

(1)通達に基づき「現夫の子(前夫以外が親)」とした(2)離婚前妊娠のため、「現夫の子」とするため裁判などをしなければならない(3)「前夫の子」に納得した--の各件数を尋ねた。(2)と(3)について件数把握が困難な場合は▽5件より少ない▽5件以上10件より少ない--などの概数を選んで答えてもらった。「現夫の子」と主張したケースは(1)と(2)を足し合わせた件数。(2)や(3)が「不明」で概数回答がない場合は、その自治体を集計から除き、最終的に141自治体を比べた。

==============

 ■ことば

 ◇離婚後300日規定
 「離婚後300日以内に誕生した子は前夫の子」と推定する民法の規定。父親を早期に定めて子供の立場を守る狙いがある。前夫以外を親とするためには、前夫を巻き込んだ調停や裁判で確定する必要があり、前夫と連絡を取れない場合、出生届が受理されず子供が無戸籍となっている。法務省は07年5月、離婚後妊娠に限り、前夫以外を親とする出生届を認める通達を出した。

(出所:毎日新聞 2008年6月29日 東京朝刊)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする