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NHK特番問題:取材対象者逆転敗訴 「政治圧力」判断せず--最高裁判決

2008-06-20 01:19:44 | 憲法裁判
 NHK特番問題:賠償訴訟 最高裁「期待権」認めず 取材対象者が逆転敗訴

 戦時下の性暴力に関するNHK番組の取材に協力した市民団体が「事前説明と異なる番組内容に改変された」として、NHKと制作会社2社に1000万円の賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(横尾和子裁判長)は12日、「取材対象者の番組内容への期待や信頼は原則として法的保護の対象にならない」との初判断を示した。その上でNHK側に200万円の支払いを命じた2審・東京高裁判決(07年1月)を破棄し、請求を棄却した。団体側の逆転敗訴が確定した。

 原告の「戦争と女性への暴力」日本ネットワークは00年12月、いわゆる従軍慰安婦問題をテーマに「女性国際戦犯法廷」を共催。NHKは01年1月、教育テレビの「ETV2001」で同法廷を放送した。団体側は「ありのまま伝えると言われたのに、一部がカットされるなど、番組への期待・信頼を裏切られた」と主張していた。

 小法廷は「憲法が定める表現の自由の保障の下、番組の編集は放送事業者の自律的判断に委ねられる」と指摘。取材対象者の「期待・信頼」が法的に保護され得るのは取材に応じることで著しい負担が生じ取材側が「必ず取り上げる」と説明したような極めて例外的な場合に限られるとし、団体側の主張する「期待権」を認めなかった。

 1、2審は「番組内容に期待を抱く『特段の事情』がある場合、編集の自由は一定の制約を受ける」と指摘し、NHK側に賠償を命じた。2審は「安倍晋三前首相(当時は官房副長官)らの発言をNHK幹部が必要以上に重く受け止め、意図をそんたくして当たり障りのない番組にすることを考え、改変を指示した」と指摘したが、最高裁はこの点について判断しなかった。【北村和巳】

 ◇NHK広報局の話
 正当な判断と受け止めている。今後も自律した編集に基づく番組制作を進め、報道機関としての責務を果たしていく。

 NHK特番問題:取材対象者逆転敗訴 「政治圧力」判断せず--最高裁判決

 ◇原告「不当」と批判
 「政治家の圧力・介入を正面から取り上げない不当判決だ」。NHK番組改変訴訟の最高裁判決で逆転敗訴したことを受け、市民団体「戦争と女性への暴力」日本ネットワークのメンバーらが12日、東京都内で記者会見を開き判決を批判した。

 市民団体側は「安倍晋三前首相(当時は官房副長官)ら自民党政治家が番組放送前にNHK幹部と面会し、意見を述べたことが番組改変につながった」と主張してきたが、最高裁は「政治圧力」について判断しなかった。西野瑠美子共同代表は「司法の公平、公正性に大変失望した。一部政治家の意向に沿うようにゆがめて放送していいのか」と話した。

 飯田正剛弁護団長も「判決は具体的な事実を離れて一般論に終始している。NHKを勝たせようという結論が先にあったのではないか」と不満を述べた。

 一方、安倍晋三前首相は「最高裁判決は政治的圧力を加えたことを明確に否定した東京高裁判決を踏襲しており、(政治家介入があったとする)朝日新聞の報道が捏造(ねつぞう)であったことを再度確認できた」とコメントを出した。

 朝日新聞社広報部は「訴訟の当事者ではなく、判決も番組改変と政治家とのかかわりについて具体的に判断していないので、コメントする立場にない」と話している。【臺宏士】

 ◇倫理的義務果たせ--ジャーナリストの原寿雄さんの話
 取材協力者の期待権が法的に保護されない場合でも、番組内容に大きな変更などがある場合、取材側としてはできる限り相手に事情を伝える努力は倫理的義務として心がけたい。

 放送前にNHK上層部が有力政治家と会ってから、慰安婦問題に対するその政治家の意向に沿うような大幅な番組改変があった事実は否定できないと思う。公共放送としてのNHKの自由な編集として、放送法の趣旨に沿っていると私には思えない。判決はNHKの対応がジャーナリズムとして正しかったと認めたわけではない。

 ◇個別判断なく残念--砂川浩慶・立教大准教授(メディア論)の話
 取材協力者が抱く期待や信頼が法的保護に該当するケースを限定的にとらえたのは、番組編集や報道の自由を保障する観点からみて妥当だと思う。しかし、内部告発者や取材協力者がメディアへの情報提供について萎縮(いしゅく)効果を招かないかの心配は残った。

 また、高裁判決のように、政治家の意向をくんだNHK幹部による編集作業への異例の関与が番組改変につながったかどうかは大きな論点だった。判決は全体に一般論に終始し、事実上の門前払いの印象で、個別判断を避けたのは残念だ。

 ◇NHKと朝日、改変巡り応酬
 番組を巡っては、朝日新聞が05年1月、「当時官房副長官だった安倍晋三氏らがNHK幹部を呼んで『偏った内容だ』と指摘し、番組内容が変わった」と報道した。制作にかかわったNHK職員も「政治介入が恒常化している」と述べた。

 NHKや安倍氏らは全面否定し、朝日とNHKは互いに抗議や訂正要求、質問状送付などを繰り返した。朝日は同9月、報道について「不確実な情報が含まれていたが、訂正する必要はない」との最終見解を公表した。

 また、2審判決を報じたNHKのニュース番組について、BRCは今月10日、原告側主張に触れずにNHKの解釈だけを報じたことは公平性に欠け、放送倫理に違反するとの決定を出している。

==============

 ■解説

 ◇編集の自由、最大限に尊重
 最高裁判決は、憲法の「表現の自由」から導かれる放送事業者の「編集の自由」を最大限に尊重した。放送番組に対する判断だが、マスメディア全体に波及するだろう。

 1、2審は「編集の自由」を重視しつつ、「特段の事情」があれば、取材対象者の「期待・信頼」への侵害が不法行為になるとの判断を示した。拡大解釈の余地を残す指摘で、メディア全体の萎縮(いしゅく)を招きかねない危険性をはらんでいた。多角的な取材の結果、当初の狙いと異なる番組や記事になるケースはままあるからだ。

 これに対し最高裁は、「期待・信頼」は原則として法的に保護されないと判断しただけでなく、番組内容の変更についても、事前の合意や約束がない限り、取材対象者に説明する義務はないと述べた。

 今回の訴訟は、政治家の言動がNHKの番組改変にどう影響したのか、あいまいなまま終わったが、取材対象者や視聴者の不信を招いたという事実は残った。司法のお墨付きを得たとは言っても、節度ある取材が報道機関に求められるのは当然だ。それが安易な報道規制を防ぐことにもつながる。【北村和巳】

(出所:毎日新聞 2008年6月13日 東京朝刊)

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誰でもよかった:秋葉原通り魔事件/下 若者引き込む仮想の世界

2008-06-20 01:16:42 | 国内社会
 誰でもよかった:秋葉原通り魔事件/下 若者引き込む仮想の世界

 ◇<本当の友達がほしい> 破滅、止める者なく
 東京・秋葉原の17人殺傷事件で、加藤智大(ともひろ)容疑者(25)が携帯サイトに設けたとみられる掲示板には、5月31日、2分間に5本の連続的な書き込みがあった。

 <上辺だけの友達>

 <言葉だけの友達 実際は他人>

 <みんな敵>

 <友達がほしい>

 <本当の友達がほしい>

 とげとげしい言葉の奥から表れた心情に対し、厳しい匿名の書き込みが2件続く。

 <自分を救う気ないなら死ねよ>

 <友達できるはずがない。しねよ>

 加藤容疑者はその日、静岡県裾野市から列車を乗り継いで東京へ向かう。最後にたどり着いたのが秋葉原だった。その時の感想と思われる書き込み。<秋葉原もカップルだらけだった 意味わからん>

 低い梅雨空の下、事件現場の祭壇に11日も献花が続く。

 近くの雑居ビルの4階に、対戦用カードゲームのカードを売る店がある。加藤容疑者に刺されて亡くなった会社員、宮本直樹さん(31)=埼玉県蕨市=は店の常連だった。ここ1年顔を見せず、男性経営者(44)は気にかけていたが、テレビで悲報を知った。「あの日、来ていたんですね。大好きな場所だったから」

 ゲーム愛好家の間で「世界の宮本」と呼ばれる伝説的プレーヤーだった。「自分もカードの店を開きたい」。経営者は5年前、相談を持ちかけられた。宮本さんは東京・池袋で開店するが、盗難にも遭い、半年後に店をたたんだ。「一度埼玉に戻るけど、またやりますよ」。その時の笑顔が今もよみがえる。

 東京情報大2年、川口隆裕さん(19)=千葉県流山市=は、友人3人とアニメ映画を鑑賞した新宿から秋葉原に向かった。ゲームの話をしながら歩行者天国を歩いている時、東京電機大2年、藤野和倫(かずのり)さん(19)=埼玉県熊谷市=と共に加藤容疑者のトラックに命を奪われた。

 大学でコンピュータープログラムを学ぶ川口さんにとって、秋葉原は情報収集の場でもあった。友人の一人は事件後ブログでこう書く。「行くあてもなく適当に歩いていた。いつも通りのグダグダな雑談」

 全国から若者たちを引き寄せ、仮想の世界へ誘うアキバ。現実の世界で劣等感に押しつぶされた25歳の容疑者も、引き寄せられた一人だ。

 破滅に向けて走る自分を誰かに止めてほしい--。掲示板での「実況中継」は、そのためのものだったのか。

 加藤容疑者の掲示板は事件直前まで少なからず注目され、携帯サイトの管理会社には警告も寄せられた。それでも掲示板上に「やめろ」といさめる書き込みは現れなかった。

 事件当日の夜、展開を予想していたかのような匿名の書き込みがあった。<ザマアみんな騙(だま)された>

 加藤容疑者は結局、本当の友を見つけられなかった。

(出所:毎日新聞 2008年6月12日 東京朝刊)
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誰でもよかった:秋葉原通り魔事件/中 青森の有名進学高、挫折した優等生

2008-06-20 01:14:48 | 国内社会
 誰でもよかった:秋葉原通り魔事件/中 青森の有名進学高、挫折した優等生

 ◇<負けっぱなしの人生> 短大出て職を転々
 東京・秋葉原で17人が殺傷された事件の4日前。携帯サイトの掲示板に、加藤智大(ともひろ)容疑者(25)のものとみられる書き込みがあった。

 <県内トップの進学校に入って、あとはずっとビリ 高校出てから8年、負けっぱなしの人生>

 青森市の金融機関幹部の父と、専業主婦の母、3歳下の弟の4人の家庭で育った。中学では成績がよく、絵が得意で、ソフトテニス部で活躍する万能の優等生だった。中学時代の文集では剣を持ったアニメキャラクターの絵とともに、英語で趣味や特技を書いた。

 両親は教育熱心でしつけに厳しかった。父が2人の息子を怒鳴る声を近所の人は何度も聞いている。書き込みには、両親との関係のくだりがある。

 <親が書いた作文で賞を取り、親が書いた絵で賞を取り、親に無理やり勉強させられてたから勉強は完璧(かんぺき)>

 <親が周りに自分の息子を自慢したいから、完璧に仕上げたわけだ 俺(おれ)が書いた作文とかは全部親の検閲が入ってたっけ>

 <中学生になった頃(ころ)には親の力が足りなくなって、捨てられた より優秀な弟に全力を注いでいた>

 このあと、冒頭の書き込みが登場する。

 加藤容疑者が進学した県立青森高校は、県立八戸、県立弘前と並ぶ有名進学校だ。地元では「せいこう」と呼ばれ、作家の太宰治や寺山修司も学んだ。「9割は東大に入ろうと思って入学する」(元教頭)というエリートの卵たちの中で、加藤容疑者は理系クラスの目立たない存在だった。

 所属していた将棋部の顧問の教諭は「アルバムを見ると載っているが、思い出せない」と話す。

 加藤容疑者は高校時代、車に興味を持った。「F1に夢中になり、『リアルな車のゲームがある』とゲームセンターに誘われた」と、同級生は振り返る。

 「トヨタで自動車を設計したい」と担任に夢を語り、整備士を養成する中日本自動車短期大学(岐阜県坂祝町)の自動車工学科に進んだ。卒業間際になって「弘前大に行く」と短大事務室に進路を告げた。しかし、実際には仙台、さいたま、茨城県常総市を転々とし、派遣会社を通じて自動車工場などで働いた。

 <トヨタの期間工(期間契約で働く作業員)に応募して落ちた>と掲示板で打ち明けてもいる。地元で正社員のトラック運転手に採用されたが、8カ月で辞めた。その後、静岡県裾野市の関東自動車工業に派遣され、事件を起こした。

 実家の近所の人が、印象的な場面を今も記憶する。冬の朝、雪を側溝へ流していると背中から声がした。「おはようございます」。小学校低学年のかわいらしい男の子が、体を直角に折り曲げてお辞儀している。それが加藤容疑者だった。

 事件前日にはこんな書き込みがある。

 <小さいころから「いい子」を演じさせられていたし、騙(だま)すのには慣れている>

(出所:毎日新聞 2008年6月11日 東京朝刊)
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山口組五菱会ヤミ金融事件:2審破棄、元本分も賠償命令--最高裁が初判断

2008-06-20 01:09:38 | 民事裁判
 山口組五菱会ヤミ金融事件:2審破棄、元本分も賠償命令--最高裁が初判断

 指定暴力団山口組旧五菱会系のヤミ金融事件を巡り、愛媛県の被害者11人が「ヤミ金の帝王」と呼ばれた梶山進受刑者(58)に約3500万円の賠償を求めた訴訟で、最高裁第3小法廷(那須弘平裁判長)は10日、著しい高金利の取り立てを受けた被害者に対しては、利息分だけでなく元本分も返すべきだとの初判断を示した。その上で利息分のみの支払いを命じた2審・高松高裁判決(06年12月)を破棄し、賠償額を算定し直させるため審理を差し戻した。

 民法は、不法な行為で渡した(不法原因給付)財産は返還請求できないと定める。小法廷は「不法原因給付により被害者が得た利益を賠償額と相殺するのは、法の趣旨に反する」と指摘。出資法の上限金利の年29・2%を大幅に上回る年数百~数千%の暴利で貸し付けた今回のケースは不法原因給付に当たり、賠償額から元本分を控除するのは許されないと判断した。

 2審は元本分は被害者の利益になっているとして賠償額から控除し、計約1400万円の支払いを命じていた。【北村和巳】

==============

 ■解説

 ◇消費者保護重視、ヤミ金撲滅狙う
 元本分も含めた返済全額の賠償を認めた最高裁判決は、端的に言えば「暴利のヤミ金融から借りた金は返す必要がない」というものだ。多重債務者の増加を受け、最高裁は借り手側の救済範囲を広げてきたが、業者の手元に資金を残さない今回の判決は、ヤミ金融撲滅への強い意思を示し、消費者保護を重視する姿勢を一層明確にしたと言える。

 多重債務者を標的に超高金利で貸し付けて脅迫的に取り立てるヤミ金融を巡っては、借り手の自殺や心中などが社会問題化した。貸金業規制関連法が06年末に改正され、無登録営業や超高金利融資への罰則は引き上げられた。しかし、ヤミ金融業者の特定は難しく、責任追及もままならないケースがある。判決は、法外金利での貸し付けは保護の対象に値しないと断じ、業者に心理的圧迫を与えるとみられる。【北村和巳】

(出所:毎日新聞 2008年6月11日 東京朝刊)

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誰でもよかった:秋葉原通り魔事件/上(その2止)「後ろにいた二人がいない」

2008-06-20 01:07:49 | 国内社会
 誰でもよかった:秋葉原通り魔事件/上(その2止)「後ろにいた二人がいない」

 ◇川口さん・藤野さんの友人、ブログに
 その時、秋葉原に偶然居合わせたというだけで、理由もなく突然命を絶たれた被害者たち。あきらめきれない夢や将来があった。友や家族らは深い悲しみにくれながら、それぞれの言葉で愛する人への思いを語った。

 東京電機大2年の藤野和倫さん(19)と東京情報大2年の川口隆裕さん(19)は、歩行者天国の交差点で加藤容疑者のトラックにはねられるなどして亡くなった。一緒にいた電機大の友人2人のうち1人がその瞬間を会員制サイトのブログに書き込んでいた。会員仲間からは励ましの書き込みが相次いだが、友人は「(加藤容疑者が)誰でもよかったと言っていることが許せない」と泣き崩れた。

 4人は8日朝、映画を見るためJR新宿駅で待ち合わせた。その後「食事でもしよう」と秋葉原へ向かったという。2人ずつ並んで歩いている時、トラックが右前から飛び込んできた。蛇行運転しタイヤがきしむ音が聞こえ、4人ともはねられた。

 友人はブログに「後ろにいた友達二人が…いない。ゾッとした」と書いた。藤野さんと川口さんはその場に倒れたまま帰らぬ人となった。

 「運命だから? そんなの残酷過ぎる…」友を失った悲しみと理不尽さを率直に書いたブログ。「かける言葉が見つからない」「無理すんなよ」「お友達のご冥福を祈ります」。哀悼と励ましの言葉が仲間から贈られた。【神足俊輔、倉田陶子、弘田恭子】

 ◇歯科医を勇退、余生楽しみに--中村さん
 中村勝彦さん(74)は、歯の矯正を専門とする腕利きの歯科医だった。開業していた歯科医院があった東京都府中市の医師仲間らは「後進の育成や地域医療に尽力した立派な方だった」と実直な性格をしのんだ。

 中村さんは日本歯科大を卒業して開業。しかし、大学の医局に入って矯正学に挑戦し、自らの専門分野を確立したという。自らの医院で若手を育てる一方、日大歯学部で03年までの約20年間、兼任講師を務めた。

 講師を依頼した納村晋吉・日大名誉教授は「勉強熱心の硬骨漢。患者を大切にし、知識も豊富だから話がおもしろい。若手からも患者からも人気があったと思う」と語った。医師会の記念誌につづった「カラオケには二度行きましたが、小生にはあわないとさとりました」との文章からは、まじめさと愛嬌(あいきょう)を兼ね備えた人柄が伝わってくる。

 今春、教え子に医院を託し、半世紀近い医師人生にピリオドを打った。歯科医仲間らが開いた慰労会では「これからは勇退して好きなことをやりたい」と照れながら話したという。納村さんは「役目を終え、趣味の写真や旅行などで余生を過ごすはずだったろうに」と唇をかんだ。【木村健二、大場弘行】

 ◇音楽の夢絶たれ--武藤さん
 「音楽で人を喜ばせたい」。武藤舞さん(21)はクラシックコンサートのプロデューサーを夢見ていた。在学していた東京芸大音楽学部では録音や音響を勉強し、音楽関連会社に就職が内定していた。アルバイト先の量販店店頭で携帯電話を販売していて刺された。

 指導する亀川徹准教授(47)は「彼女なら素晴らしいコンサートを企画できたはず。残念」と声を落とした。

 優しい性格とリーダーシップで親しまれた。都立日比谷高校の同級生(21)は「バンドでボーカルやキーボードを頑張っていた。カラオケで洋楽を歌うのがうまかった」と振り返る。最近は財団法人が開催するミニコンサートに参加し、高知県や山口県の老人ホームなどを回っていた。財団の小沢桜作さん(36)は「子供やお年寄りに人気だった。音楽の舞台に生きる舞台人としての一歩を踏み出したばかりだった」と悔しそうに話した。

 中学2年の時、中学生海外交流事業で米サンフランシスコに短期留学した。文集には「おいしかったのは生の果実をシェークのようにした飲み物。アメリカンサイズで飲みきれなくてもったいなかった」と現地での生活を描いた。

 一緒に留学した私立大4年、本間和基さん(21)は「1月に最後に会った時は、音楽の仕事の夢を語っていたのに」と話した。【杉本修作】

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 ◇亡くなった方々
 武藤舞さん(21)=東京都北区浮間3、大学生▽小岩和弘さん(47)=板橋区新河岸1、無職▽中村勝彦さん(74)=杉並区下高井戸4、無職▽松井満さん(33)=神奈川県厚木市森の里1、調理師▽藤野和倫さん(19)=埼玉県熊谷市河原町2、大学生▽宮本直樹さん(31)=同県蕨市北町2、会社員▽川口隆裕さん(19)=千葉県流山市南流山8、大学生

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 ◆川口さん、藤野さんの友人のブログ◆

今日は人生で、生涯で一番最悪な日だろう。

僕は大切な人を二人失いました。

大学の友達…

こんなにもあっさりと…

今日は行くあてもなく適当に歩いていた。

緑信号の横断歩道。

いつも通りのグダグダな雑談。

どこにでもある平和で普通な話。

思い出すと涙が止まらない。

…トラックが自分らに猛スピードで突っ込んできた。

…ほんの一瞬だった。

隣にいた友達と俺(おれ)はぎりぎりでよけて腰の打撲だけで済んだ。本当に死線だった。

すぐ振り返った。

後ろにいた友達二人が…いない。

ゾッとした。

震えがとまらなかった。

その直後発せられた「逃げろ!」

ナイフを持った男?通り魔?

意味がわからなかった。

直後ひかれた友達にすぐさま駆け寄った。

…立ち尽くした。

素人でも分かる、重体。

自分はなにもできなくて

ただ大声で、何度も何度もそいつの名前を呼んだ。

事故にあった友達の携帯を

自分が預かっていた。

その携帯が鳴った。

…友達の親だった。

「□□君?あのね、○○…死んじゃった…。」

号泣でいわれた。

涙が止まらない。

神様…僕らが何をしたの?

運命だから?

そんなの残酷すぎる…

 (原文のままだが一部省略。□はブログの筆者名)

(出所:毎日新聞 2008年6月10日 東京朝刊)
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誰でもよかった:秋葉原通り魔事件/上(その1) 孤独な心情、サイトに

2008-06-20 01:06:34 | 国内社会
 誰でもよかった:秋葉原通り魔事件/上(その1) 孤独な心情、サイトに

 ◇<希望ある奴にはわかるまい> 派遣先「削減」が引き金
 <彼女がいれば、仕事を辞めることも(中略)携帯依存になることもなかった 希望がある奴(やつ)にはわかるまい>。東京・秋葉原で起きた通り魔事件。逮捕された加藤智大(ともひろ)容疑者(25)は、昼夜を分かたず携帯サイトの掲示板に心の軌跡をつづっていた。加藤容疑者が書き込んだとみられる掲示板をたどった。

 <希望がある奴にはわかるまい>。アクセス記録によると6日午前3時9分。犯罪者の気持ちに理解を示す表現もある。<「誰でもよかった」 なんかわかる気がする>(5日午後0時5分)。無差別にナイフを振り上げるに至るまでの孤独な「実況中継」は、凶行直前まで続いた。

 加藤容疑者は人材派遣会社から07年11月、静岡県裾野市の関東自動車工業の東富士工場に派遣され、車体の塗装面のチェックなどを担当してきた。時給1300円だが、仕事ぶりはまじめで勤務評価は「中の上」。今年も契約は更新され、派遣ではベテランだった。

 だが、工場は今月2日、派遣社員200人のうち150人を削減すると発表した。加藤容疑者は翌3日、「青森に帰って安い時給の仕事でもするか」と同僚に語っていた。直後に、偶然工場前で出会った派遣元の担当者に「あなたは契約継続です」と伝えられた。

 加藤容疑者は5日朝、まじめな態度をひょう変させる。「おれのつなぎ(作業着)がないぞ」。出社し更衣室で突然叫んだ。「会社はなめている」。手近にあったハンガーを投げ散らし、姿を消した。

 掲示板には6日、こう書き込まれた。<人が足りないから来いと電話が来る 俺(おれ)が必要だから、じゃなくて、人が足りないから 誰が行くかよ>

 関東自動車工業幹部は9日の会見で、派遣社員削減について「切る」と口を滑らせ、慌てて「契約解除」と言い直した。

 <平日の昼間からふらふらしている俺ってなんなんだろうね><いつも悪いのは全部俺>。自虐的な言葉が続くが、ネット上で励まされたこともあった。

 5月下旬、匿名の相手から<自分に値段をつけたら?>と聞かれて<無価値です ゴミ以下です リサイクルできる分、ゴミの方がマシです>と答える。それでも<努力は人を成長させてくれるよ>などと元気付けられた。匿名の仲間から励まされた男が恋を成就させるネット小説「電車男」のようなやり取りが続く。だが、小説の主人公とは逆に徐々に心を閉ざしていった。

 高校時代の担任教諭は、テレビに映った教え子の姿を見て「ほおがこけたな」と思った。記憶ではもっとふっくらし、柔和だった。

 「あんな目つきではなかった」

 ◇加藤容疑者か、別掲示板にも--事件前5~7日の様子
 携帯電話のサイトに通り魔事件を予告する書き込みをしていた加藤容疑者とみられる人物が、同じサイトの別の掲示板にも、事件前の5~7日の行動や心の軌跡を書き込んでいた。「工場で大暴れした」など、加藤容疑者の供述や事件直前の行動と符合するものが多い。書き込みは5日午前11時51分の「犯罪者予備軍って、日本にはたくさん居る気がする」を皮切りに「やりたいこと…殺人 夢…ワイドショー独占」などと続いている。

 ◇携帯電話の履歴消す
 警視庁万世橋署捜査本部の調べで、加藤智大容疑者(25)の携帯電話のアドレス帳から、電話番号やメールアドレスが消去されていたことが分かった。メール送受信の履歴も消去されていた。

 加藤容疑者が通り魔事件の実行前に、自分の関係先を分からないようにしたとみられる。

 捜査本部は、履歴などを消去した目的などを追及する。

 ◇ダガーナイフ、法の規制外
 東京・秋葉原の通り魔事件で使われた凶器は、野外で日常用具として使われる片刃のサバイバルナイフでなく、武器として設計された両刃のダガーナイフ(短剣、刃渡り13センチ)だった。刃渡り15センチ以上の刃物所持を許可対象とする銃刀法の規制外で、販売店やインターネットで容易に購入が可能だ。日常用具ではない対人武器が若者にも販売されている。

 東京都中野区で刃物販売店を経営する丹羽義典さん(46)によると、ダガーナイフは野外の日常用具としても使う片刃のサバイバルナイフに比べ、刃の切れ味は劣るが、突き刺して相手を殺傷する能力は優れている。2500円程度から、デザインの凝った1本数十万円の物まである。ミリタリーファンを中心に人気があるという。

 銃刀法は刃渡り6センチ以上の刃物を理由なく持ち歩くことを禁じているが、15センチ未満だと所持には規制がない。15センチを超える場合は都道府県公安委員会の許可が必要になる。

 警察庁は昨年12月に銃刀法を改正し、刃物の不法携帯を「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」から「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」にした。今回の事件で、警察庁は「ナイフの一律な規制強化は難しい」と規制には否定的だ。【遠山和彦】

==============

 ■事件予告とは別の掲示板に加藤容疑者が書き込んだとみられる記述要旨(原文のまま)

<5日>

午前11時51分 犯罪者予備軍って、日本にはたくさん居る気がする

午後 0時05分 「誰でもよかった」 なんかわかる気がする

午後 0時33分 トラックで行くのは無謀かもしれん

<6日>

午前 1時44分 あ、住所不定無職になったのか ますます絶望的だ

午前 2時48分 やりたいこと…殺人 夢…ワイドショー独占

午前 2時54分 工場で大暴れした

午前 3時10分 いつも悪いのは全部俺

午前 5時04分 出勤時間になると目がさめてしまう もう行かないんだから寝かせてくれ

午前 6時41分 とりあえず出発しよう

午前 7時06分 飛び込み自殺で東海道線がとまりました 何もかもが私の邪魔をします

午前11時01分 福井に向かってみる

午前11時14分 買い物 通販だと遅いから福井まででてきた

午後 1時09分 買い物終了 たったこれだけのために往復2万とか、バカじゃないですよ

午後 2時39分 店員さん、いい人だった

午後 2時42分 人間と話すのって、いいね

午後 7時27分 帰ってくると現実に引き戻される気がして嫌だ

午後 8時49分 ナイフを5本買ってきました

<7日>

午前 6時37分 さあ出かけよう

午前 8時03分 今日は秋葉原 お金をつくりに行く

午前 9時14分 隣の椅子が開いてるのに座らなかった女の人が、2つ隣が開いたら座った さすが、嫌われ者の俺だ

午前 9時19分 そういうことされると、殺したくなる

午前10時45分 秋葉原ついた

午前11時14分 買取32000は舐めてるだろ

午前11時41分 定価より高く売れるソフトもあった さすが秋葉原

午後 1時14分 レンタカーに空きがなかったトラックじゃ仕方ないかも

午後 1時43分 さあ帰ろう 電車に乗るのもこれが最後だ

午後 1時50分 大きいのが無かったら普通のでいいや できれば4tが良かったんだけど

午後 3時35分 大きい車を借りるにはクレジットカードが要るようです どうせ俺は社会的信用無しですよ

午後 4時01分 小さいころから「いい子」を演じさせられてたし、騙(だま)すのには慣れてる 悪いね、店員さん

午後 4時03分 無事借りれた 準備完了だ

午後 8時34分 もっと高揚するかと思ったら、意外に冷静な自分にびっくりしてる

午後 8時53分 中止はしない、したくない

英訳

(出所:毎日新聞 2008年6月10日 東京朝刊)

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クローズアップ2008:「予告・実況」、東京・秋葉原殺傷 ゆがんだ自己顕示

2008-06-20 01:05:04 | 国内社会
 クローズアップ2008:「予告・実況」、東京・秋葉原殺傷 ゆがんだ自己顕示

 東京・秋葉原の通り魔事件で、容疑者の男は、事件を起こすまでの経緯を携帯電話サイトの掲示板に克明に記していた。過去にも犯行を予告する殺人事件はあったが、実況中継のように事件に至る経緯をつづるのは異例だ。アクセス方法さえ知っていれば、誰でも見ることができる手段を使って凶行に及んだ意図は。未然に防ぐことはできなかったのか。【清水健二、河嶋浩司、工藤哲、奥山智己】

 ◇一方通行、危うく--サイト掲示板
 希望する携帯電話サイトを探す方法は、パソコンでインターネット検索するのと同じだ。加藤智大(ともひろ)容疑者(25)が事件予告の書き込みをしていたのは、携帯電話でしか接続できないサイト「究極交流掲示板(改)」(究改)だった。

 サイトを開くと、さらにスレッド(特定の話題に関する投稿の集まり)の表示があり、今回「事件予告」をした書き込みは、「秋葉原で人を殺します」と表示されたスレッドにあった。掲示板は事件後アクセスが制限されている。

 「書き込みは、誰かに気付いてほしいという思いの表れだ」。そう分析するのは、NPO法人・東京自殺防止センター創設者の西原由記子さんだ。加藤容疑者にもそんな思いがあったのか。「友達できない」と題する、5月19日に立ち上がったスレッドには、仕事の不満や将来の不安について本人が書き込んだとみられる記述がある。

 当初は「冗談抜きで友達になりたい」と励ましの投稿もあった。事件当日までの書き込みは約3000件に上ったが、「私と友達になっても何のメリットもありませんよ」などと後ろ向きな発信を繰り返すうち、利用者が離れていったようだ。

 そして、当日の予告スレッドには本人以外の書き込みは見当たらない。本来なら不特定多数と接点を作ることができるのがネットだ。西原さんは「ネットの掲示板は、コミュニケーションが一方通行になり、追い詰められる危険がある」と話し、加藤容疑者が関与したとみられるサイトの状況が事件へと駆り立てたとの見方だ。

 教育カウンセラーの富田富士也さんの見解も同じだ。「孤独な若者は誰かとつながりたいと思っても、メッセージの伝え方が分からず、ネットの掲示板に書き込みをする。そこで返事がないと、孤独感が一層募る」。そのうえで、「誰かが『バカ』とひと言でも書き込めば、事件は起きなかった可能性もある。中傷が飛び交う掲示板の方が健全かもしれない」と指摘する。

 一方、今回の予告を、過去の事件と同様の「自己顕示性の表れ」ととらえる見方もある。小宮信夫・立正大教授(犯罪社会学)は「予告で、強いメッセージを発し自分も盛り上がる。若者の街の秋葉原を現場に選んでおり、社会への復讐(ふくしゅう)や反撃の意味が込められている」と分析する。

 福島章・上智大名誉教授(犯罪心理学)も、自己顕示性を指摘したうえで「携帯やネット社会の発達で、自分の存在を簡単に伝えられるようになった」とし、同様の犯罪が繰り返される危険性をはらんだ社会に警鐘を鳴らす。

 ◇届かなかった監視の目
 加藤容疑者が書き込んだと認める「事件予告」や、本人が書き込んだとみられる掲示板は、いずれも警察などの監視の網にかからなかったという。

 事件に関連する可能性のあるものとしては、先月27日にインターネットの掲示板にあった「5日以降に秋葉原で忍者姿の痴漢が刀を振り回し大惨事!」との書き込みだ。加藤容疑者によるものかどうかは不明だ。

 この書き込みに関する情報は、警視庁広報課経由で秋葉原を管轄する万世橋署に伝えられた。しかし、「捜査に動き出す具体的な情報ではなかった」(警視庁幹部)との理由から捜査の手が及ぶことはなかった。

 事件で仲間を募る際に使われる闇サイト、自殺の方法などを紹介するサイト……。ネットや携帯サイト上の違法・有害情報については、全国の警察個々による「サイバーパトロール」と、警察が財団法人「インターネット協会」に委託して行っている「インターネット・ホットラインセンター」が目を光らせている。

 闇サイトでの薬物売買や児童買春などについては、センターからの情報に基づき捜査しているが、今回の予告のように時間的余裕がないケースで参考になるのが、自殺サイトへの取り組みだ。警察庁は05年以降、接続業者などから成る団体に協力を求めて、自殺阻止に役立てている。07年には、121人の予告情報の通報を団体から受け、72人を救助している。

 元警察庁生活安全局長の瀬川勝久氏は「通信の秘密や表現の自由の兼ね合いもあり、国が絶対的な監視に乗り出すのも好ましくないが、新たな議論が必要な時期に来ている」と指摘している。

==============

 ◆事件当日にサイトに書き込まれた内容(抜粋)◆

 5時21分 秋葉原で人を殺します 車でつっこんで、車が使えなくなったらナイフを使います みんなさようなら

   44分 途中で捕まるのが一番しょぼいパターンかな

 6時02分 いい人を演じるのには慣れてる みんな簡単に騙(だま)される

   03分 大人には評判の良い子だった 大人には 友達は、できないよね

   04分 ほんの数人、こんな俺(おれ)に長いことつきあってくれてた奴(やつ)らがいる

   05分 全員一斉送信でメールをくれる そのメンバーの中にまだ入っていることが少し嬉(うれ)しかった

   10分 使う予定の道路が封鎖中とか やっぱり、全(すべ)てが俺の邪魔をする

   31分 時間だ出かけよう

 7時12分 一本早い電車に乗れてしまった

   30分 これは酷(ひど)い雨 全部完璧(かんぺき)に準備したのに

   47分 まあいいや 規模が小さくても、雨天決行

10時53分 酷い渋滞 時間までに着くかしら

11時17分 こっちは晴れてるね

   45分 秋葉原ついた

12時10分 時間です

==============

 ◆過去の主な予告型事件と予告内容◆

 ※年月は事件発生

97年 5月 神戸市の小学6年男児殺人事件

       「1週間に三つの野菜を壊します。ボクが子供しか殺せない幼稚な犯罪者と思ったら大間違いである」などと記した手紙が新聞社に届いた=新たな事件は発生せず

99年 9月 東京・池袋の通り魔事件(死亡2人)

       「わし以外のまともな人がボケナスのアホ殺しとるけえのお。わしもアホ全部殺すけえのお」などと記した紙が部屋に張られていた

04年11月 奈良の女児誘拐殺人事件

       女児の母親の携帯電話などに、女児の携帯から女児の写真を添付し「娘はもらった」とのメールを送信、後に「今度は妹をもらう」などの内容=妹を対象とした事件は発生せず

07年12月 長崎・佐世保の散弾銃乱射事件(死亡2人)

       現場のスポーツクラブに誘った同級生らに「おれは大きなことができる」と発言

08年 3月 茨城・土浦のJR荒川沖駅周辺殺傷事件(死亡1人)

       母親の携帯電話に「犠牲者が増えるよ」とのメールを送る

英訳

(出所:毎日新聞 2008年6月10日 東京朝刊)

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通り魔:東京・秋葉原で7人死亡、10人重軽傷 トラックではね、次々刺す

2008-06-20 01:03:01 | 国内社会
 通り魔:東京・秋葉原で7人死亡、10人重軽傷 トラックではね、次々刺す

 ◇25歳男逮捕「誰でもよかった」
 8日午後0時半ごろ、東京都千代田区外神田1の秋葉原電気街の交差点で、2トントラックが突進し、横断中の通行人3人をはねた。運転していた男は車を降り殺傷能力が高い両刃のダガーナイフ(刃渡り約13センチ)で通行人らを次々に刺し、7人が死亡し、10人が重軽傷を負った。男は駆け付けた警視庁万世橋署署員らに取り押さえられ、殺人未遂容疑で現行犯逮捕された。

 逮捕されたのは、静岡県裾野市富沢、派遣社員、加藤智大(ともひろ)容疑者(25)。「人を殺すため、静岡から来た。誰でもよかった」「世の中が嫌になった。生活に疲れた」などと供述した。警視庁捜査1課は、通り魔事件として同署に捜査本部を設置し、殺人・殺人未遂容疑で捜査を進める。

 亡くなったのは、神奈川県厚木市森の里の調理師、松井満さん(33)ら男性6人と、東京都北区浮間の大学生、武藤舞さん(21)の計7人。はねられ、全身打撲で亡くなった人も複数いるという。重軽傷は、万世橋署交通課の男性警部補(53)を含む男性8人、女性2人。背中などを刺された。

 勤務先によると、加藤容疑者は今月5、6の両日、派遣先の部品工場を休んだ。5日朝に「自分の仕事着がない」と騒ぎ、その後職場から姿を消したという。捜査本部の調べでは、事件当日は午前7時に自宅を出て、JR裾野駅から電車で沼津駅まで移動し駅前のレンタカー会社営業所に向かった。「引っ越しに使う」と、8日午前8時から午後8時までの契約でトラックを借りた。当初はより大きなトラックを希望していたという。

 その後、東名高速道路の裾野インターチェンジ(IC)から横浜青葉ICまで進み、国道246号を通って秋葉原に来たとみられる。「秋葉原には何度か来た。2、3日前に事件を起こそうと思い、人がたくさんいる秋葉原を目指した」と供述しているという。

 目撃者によると、トラックが通行人をはねたのは、歩行者天国となっている南北の中央通りと、車が通行可能な東西の神田明神通りが交わる交差点。横断歩道を渡っていた歩行者をはねた。加藤容疑者はトラックを止めて降り、はねられた歩行者の介抱をしていた万世橋署の警部補に後ろから切りつけた。さらに、歩行者らに馬乗りになるなどして刺したが、「ワー」「キャー」などと叫んだり笑いながら追い回したという。

 加藤容疑者は逃走したが他の署員らが追跡。ナイフで抵抗したが、署員が拳銃を構え「武器を捨てろ」と警告すると、ナイフを路上に置いたため、取り押さえたという。

 現場はJR秋葉原駅の近く。正午からの歩行者天国が始まったばかりで、周辺は騒然となった。【川上晃弘、佐々木洋、古関俊樹】

 ■亡くなった方々(敬称略)

 武藤舞(21)=東京都北区浮間3、大学生▽小岩和弘(47)=板橋区新河岸1、無職▽中村勝彦(74)=杉並区下高井戸4、無職▽松井満(33)=神奈川県厚木市森の里1、調理師▽藤野和倫(19)=埼玉県熊谷市河原町2、大学生▽宮本直樹(31)=同県蕨市北町2、会社員▽川口隆裕(19)=千葉県流山市南流山8、大学生

 ◇携帯掲示板に予告
 加藤容疑者が警視庁捜査本部の調べに対し、事件直前の8日早朝から正午過ぎ、携帯電話サイトの掲示板に、今回の通り魔事件を予告する書き込みをしたことを認める供述をした。容疑者が実際に予告していたことが判明するのは異例。

 警視庁には、この携帯専用掲示板とは別のインターネットの掲示板に「5日以降に秋葉原で惨事」などの書き込みがあるとの情報が寄せられ、万世橋署にも参考連絡していたが、予防はできなかった。

 捜査本部は加藤容疑者の携帯電話を押収し、分析を進めている。

 書き込みは、8日午前5時21分の「秋葉原で人を殺します」という題名で「車でつっこんで、車が使えなくなったらナイフを使います みんなさようなら」という内容から始まった。その後「時間だ出かけよう」(同6時31分)「まあいいや 規模が小さくても、雨天決行」(同7時47分)「秋葉原ついた 今日は歩行者天国の日だよね?」(同11時45分)などと続き、「時間です」(午後0時10分)と、事件20分前まで断続的に続いていた。

 ■携帯電話サイトに書きこんだ内容(原文のまま)

午前 5時21分 秋葉原で人を殺します 車でつっこんで、車が使えなくなったらナイフを使います みんなさようなら

午前 5時21分 ねむい

午前 5時34分 頭痛が治らなかった

午前 5時35分 しかも、予報が雨 最悪

午前 5時44分 途中で捕まるのが一番しょぼいパターンかな

午前 6時00分 俺(おれ)が騙(だま)されてるんじゃない 俺が騙してるのか

午前 6時02分 いい人を演じるのには慣れてる みんな簡単に騙される

午前 6時03分 大人には評判の良い子だった 大人には

午前 6時03分 友達は、できないよね

午前 6時04分 ほんの数人、こんな俺に長いことつきあってくれてた奴(やつ)らがいる

午前 6時05分 全員一斉送信でメールをくれる そのメンバーの中にまだ入っていることが、少し嬉(うれ)しかった

午前 6時10分 使う予定の道路が封鎖中とか やっぱり、全(すべ)てが俺の邪魔をする

午前 6時31分 時間だ出かけよう

午前 6時39分 頭痛との闘いになりそうだ

午前 6時49分 雨とも

午前 6時50分 時間とも

午前 7時12分 一本早い電車に乗れてしまった

午前 7時24分 30分余ってるぜ

午前 7時30分 これは酷(ひど)い雨 全部完璧(かんぺき)に準備したのに

午前 7時47分 まあいいや 規模が小さくても、雨天決行

午前 9時41分 晴れればいいな

午前 9時48分 神奈川入って休憩 今のとこ順調かな

午前10時53分 酷い渋滞 時間までに着くかしら

午前11時07分 渋谷ひどい

午前11時17分 こっちは晴れてるね

午前11時45分 秋葉原ついた

午前11時45分 今日は歩行者天国の日だよね?

午後 0時10分 時間です

(出所:毎日新聞 2008年6月9日 東京夕刊)
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東京・秋葉原通り魔:奇声発し「ニヤリ」笑み/無差別の凶刃「許せぬ」(その2止)

2008-06-20 01:01:13 | 国内社会
 東京・秋葉原通り魔:奇声発し「ニヤリ」笑み/無差別の凶刃「許せぬ」(その2止)

 ◇夢奪われた若者 長男と買い物の74歳も
 ◇悲しみの遺族
 無差別に襲われた被害者たちは、東京都内の救急病院に次々と運び込まれたが、8日夜までに7人が亡くなった。「無念だったはず」。遺族らは怒りと悲しみにくれた。

 ◇大学生・武藤舞さん(21)
 通学していた北区立浮間中によると、武藤さんはテニス部に所属し、3年時には都大会にも出場した。テニス部の顧問だった荒木秀治教諭は9日、取材に「誰からも好かれる子だった。『人違いであってほしい』と思ったが本当に残念」と話した。都立日比谷高時代の同級生だった男子大学生(22)は「ムードメーカーだった。悔しい気持ちでいっぱい」と事件への怒りをあらわにした。武藤さんは東京芸大の音楽学部に進み、音響や録音の技術を学んでいた。

 ◇無職・中村勝彦さん(74)
 今年3月に引退するまで東京都府中市で夫婦で歯科医院を開いていた。当日は、秋葉原に長男とパソコンの買い物のため出かけたという。妻(74)は「無念としか言いようがない。まだ主人はやりたいことがたくさんあったと思います。たぶん、こういうことが二度とないようにと思ってるかなと思います」と悲しみを押し殺し語った。

 ◇大学生・藤野和倫(かずのり)さん(19)
 父親によると「友達とパソコンの部品を見に行く」と午前中から出かけたという。両親は9日午前1時過ぎ、都内の病院からタクシーで帰宅した。父親は「あまりにも突然のことで悔しくて仕方ありません。悪い夢を見ているよう」と言葉を詰まらせた。

 ◇大学生・川口隆裕さん(19)
 父で会社員の健さん(53)によると、隆裕さんは友人ら4人で買い物に出掛けて事件に遭った。健さんは「夢であってほしい。悔しい気持ちでいっぱい。たとえ生活などがいかに苦しい状況であっても、八つ当たりのように人を殺したりしてはいけない。同情の余地はない」と話した。

 ◇調理師・松井満さん(33)
 神奈川県厚木市の小学校時代の担任だった浅見照枝さん(58)は「荷物を持っていたりすると『手伝うよ』と言ってくれるような、優しくて繊細なお子さんだった」と肩を落とした。

 ◇無職・小岩和弘さん(47)
 遺族は警視庁を通じてコメントを出した。「大切な家族をこのような事件で突然失った思いは、皆様のご推察とたがうことはないと存じます。とにかく今は憔悴(しょうすい)し、夜も眠ることができません。私達は故人をしのんで静かに見送りたいと存じます。一切の取材についてお受けできかねますので、どうか主意をおくみとりいただきたく存じます」と記されていた。

 ◇会社員・宮本直樹さん(31)
 埼玉県蕨市の自宅アパートには9日午前11時前、父親という男性が訪れた。「残念だ。こういうことが二度と起きない社会になってほしい」と怒りを込めた。

 ◇携帯で撮影映像、瞬時に駆け巡る 若者らが救護活動
 秋葉原はJR秋葉原駅を中心に家電製品の量販店が建ち並ぶ世界有数の電気街として知られるが、近年はゲームやアニメのマニアが集まる「オタクの街」として、独特の若者文化の発信地にもなっている。今回の事件も、現場に居合わせた若者らが携帯電話などを使い、瞬く間に現場の情報や映像が広がった。負傷した被害者を救護する若者の姿も目立った。

 事件現場となった「中央通り」(道幅約30メートル)沿いには、アマチュア無線やパソコン周辺機器など以前からの専門店が建ち並ぶ一方、ウエートレスがアニメキャラクターの衣装をまとった「メイドカフェ」なども点在する。05年に茨城県つくば市とを結ぶ「つくばエクスプレス」が開通してからは、秋葉原の人出はさらに増えた。

 警視庁などによると、秋葉原で歩行者天国が実施されるようになったのは1973年からで、現在は日曜・祝日に中央通りの約800メートルが対象。多い時には8000人もの人でごった返すという。

 事件当日、たまたま遊びに来ていた千葉市の新聞販売店の男性店員(24)は、倒れた男性に駆け寄り介抱した。「どうしてこんな場所で、こんな事件が起きるのか」。男性店員は、そう言って脈を取る右手を震わせた。止血のためにタオルを差し出したり、人工呼吸や心臓マッサージを試みる若者も多数いた。

 秋葉原では、最近、路上で「撮影会」と称して下着を見せるパフォーマンスなどが目立つようになり、多数の苦情が寄せられていた。警察がパトロールを強化する中で事件は起きた。【工藤哲】

 ◇過去の主な通り魔・無差別殺傷事件
98年 1月 堺市の路上で、無職少年(19)が女児(5)を包丁で刺殺。2人負傷

99年 9月 東京・池袋の繁華街で、元新聞販売店員の男(23)が包丁などで通行人を襲い2人殺害、6人重軽傷

  同    山口県下関市のJR下関駅に運送業の男(35)が車で突っ込み、人をはねたり、降りて包丁で刺すなどして5人殺害、10人重軽傷

00年12月 東京・JR渋谷駅近くの百貨店前で、高校2年の少年(17)が通行人をバットで襲い8人重軽傷

01年 6月 大阪府池田市の大阪教育大付属池田小で、無職の男(37)が児童8人を包丁で刺殺、教師を含む15人が重軽傷

05年 2月 愛知県安城市のショッピングセンターで仮釈放中の無職の男(34)が11カ月の男児を殺害し、2人が負傷

05年 4月 仙台市青葉区の国道やアーケード街で、無職の男(38)がトラックを暴走させ、3人死亡4人重傷

08年 1月 東京・品川の戸越銀座商店街で、高校2年の少年(16)が両手に包丁を持って通行人5人を襲い、2人軽傷

    3月 茨城県土浦市のJR荒川沖駅前で別の殺人事件で手配中の男(24) が通行人や警察官計8人を刃物で刺し、1人死亡。7人が重軽傷を負った(肩書、年齢は発生当時)

(出所:毎日新聞 2008年6月9日 東京夕刊)

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東京・秋葉原通り魔:奇声発し「ニヤリ」笑み/無差別の凶刃「許せぬ」(その1)

2008-06-20 00:59:10 | 国内社会
東京・秋葉原通り魔:奇声発し「ニヤリ」笑み/無差別の凶刃「許せぬ」(その1)

 ◇わずか数分の惨劇 アキバのホコ天パニック
 無差別の殺意が、日曜日の「アキバ」を戦慄(せんりつ)させた。東京都千代田区の秋葉原電気街で8日起きた通り魔事件は、わずか数分の間に買い物客ら17人を巻き込み、7人の命が理不尽に奪われた。若者や家族連れらが行き交う歩行者天国での惨劇。逮捕された加藤智大(ともひろ)容疑者(25)は「生活に疲れてやった。だれでもよかった」と供述、携帯電話のサイトで事件を予告してもいた。「おとなしくて優秀だった」という容疑者の凶刃は現代の何に向けられたのか。現場には9日、犠牲者を悼む花が手向けられた。【高島博之、杉本修作、町田徳丈】

 事件は、歩行者天国になっていた南北の目抜き通り「中央通り」と、東西の「神田明神通り」の交差点付近で起きた。

 警視庁万世橋署の調べや目撃者の証言では、加藤容疑者が白いトラックで現場に現れたのは午後0時半ごろとみられる。神田明神通りを西から東に猛スピードで走り抜けて交差点に突っ込み、数人をはねた。トラックは約30メートル進んで停止。加藤容疑者は車を乗り捨てて徒歩で引き返し、「わあー」と奇声を発しながら、ナイフで数人に切りつけた。「ニヤリと笑みを浮かべていた」との証言もある。さらに逃げまどう人たちを追い立て、体当たりするようにして襲いながら交差点を南に折れる。1本目の路地の入り口付近で警察官ともみ合いになり、西に入ったところでようやく制止された。走った距離は約200メートル。被害者は悲鳴を上げ、路上に次々と倒れた。歩行者天国は逃げまどう人で騒然とし、「救急車を呼べ」「逃げろ」と叫び声が上がった。

 何十人もの人が走ってくるのを見て外に出たという免税店の男性店員(30)は、逮捕の瞬間を見た。路地に追い詰められた加藤容疑者はナイフを振り回して抵抗したものの、制服警官に拳銃を向けられると、観念したようにナイフを置いた。直前まで携帯サイトに事件の予告を書き込んでいた加藤容疑者。孤独をうかがわせる文面には「途中で捕まるのが一番しょぼいパターンかな」との記述もあった。ベージュのジャケットの胸元は返り血で赤く染まっていたという。午後0時35分、逮捕。事件はわずか数分間の出来事だった。

 交差点付近にいた江東区の会社員の男性(41)によると、「ドーン」という音で振り向くと、数人がトラックにはねられ倒れていたという。「男性2人の意識はなく、『頑張れ』と声をかけていたら、今度は警察官が刺され、『うわっ』と悲鳴を上げて交差点内に倒れた」と話した。

 大田区のフリーターの男性(19)は「男が、はねられて倒れた人に馬乗りになり、胸や背中めがけナイフを何度も振り下ろした」と証言した。中野区の無職の男性(34)は心臓マッサージをして若い男性を救護した。「意識はなかった。あの人はどうなったろう」と安否を気にかけた。

 ◇加藤容疑者「作業着ない」騒ぐ 派遣先職場、解雇と誤解か
 加藤容疑者は青森県出身で、東京都内の人材派遣会社に登録し、自動車組み立て・生産大手の関東自動車工業の東富士工場(静岡県裾野市)で働いていた。

 同工場の橋本直之・庶務広報室長(54)や人材派遣会社によると、加藤容疑者は昨年11月11日に面接で採用が決まり、同月14日から工場で働いていた。広告を見て応募。面接の際は「以前も派遣社員として自動車工場で組み立てをやったことがある」と話したという。

 工場での担当は塗装ライン。月曜から金曜の週5日勤務で1週間交代で日勤と夜勤についていたが、勤務態度はまじめで、公休以外は休まなかった。時給1300円で月約20万円の収入があった。契約期間は今年3月31日までだったが、1年間更新されていた。

 派遣社員を6月末で200人から50人に減らす計画があったが、加藤容疑者は、自分が対象ではないことを派遣会社から知らされていたという。

 一方で、加藤容疑者は5日の始業直前の午前6時ごろ「自分のつなぎ(作業着)がない」と大声を出して騒いだため、同僚がリーダーに報告。リーダーが駆けつけたときには、姿を消していた。

 この日、加藤容疑者が「犯行予告」をした携帯電話サイトの別の掲示板に「作業場行ったらツナギが無かった 辞めろってか」(午前6時17分)▽「やっかい払いができた会社としては万々歳なんだろうな」(午前7時44分)とあり、午後0時5分には「『誰でもよかった』 なんかわかる気がする」との記述もあった。つなぎのくだりは、加藤容疑者が騒いだ時間と近接しており、加藤容疑者が「解雇された」と誤解して書き込んだ可能性もある。

 加藤容疑者の裾野市富沢の自宅は人材派遣会社借り上げの4階建てワンルームマンション。3階で1人暮らしをしていた。管理会社によると、04年12月から派遣会社が32部屋のうち5部屋を借り上げている。入れ替わりが激しく、加藤容疑者の居住は把握していなかった。

 住民によると、加藤容疑者は半年から1年ほど前から住んでおり、時折、軽装で午後11時ごろに帰宅する姿が目撃されていた。ただ、約1カ月前から本人と乗っていた青森ナンバーの軽自動車が見られなくなった。住民の付き合いはなく、トラブルもなかったという。

 青森市にある2階建ての実家はひっそり。加藤容疑者の弟と中学時代の同級生だったという男性(22)は「(弟は兄のことを)『引きこもりじゃないけど、ちょっとオタクっぽいところがある』と言っていた」と評した。

 加藤容疑者は、市立佃中から県内屈指の進学校の県立青森高校に進学した。知人の娘が加藤容疑者と中学、高校で一緒だった青森市議によると、実家周辺はJR社員やサラリーマンなど転勤族や公務員家庭が多いという。「エリート校の佃中から青森高。まさにエリートだ」と話した。近所の女性も「小学生の時はあいさつをしてくれた。おとなしくて成績がいいというイメージがある」と話した。

 ◇受験失敗し1浪、専門学校に進学
 しかし、高校関係者などによると、加藤容疑者は理工系大学進学を目指したが失敗し、1年間浪人の後、静岡県内の自動車専門学校に進学したという。

 小学校の卒業アルバムによると、加藤容疑者は陸上部や将棋クラブに所属。自分の性格を「短気、ごうじょう」と記載していた。クラスで得意なものがある人を紹介するコーナーでは「多く本を読む」「足が速い」の欄でトップだった。【鈴木久美、山田毅、村上尊一】

 ◇社会意識が希薄--野田正彰・関西学院大教授(精神病理学)の話
 メールの中身を見ると、「いい人を演じるのには慣れてる」、「大人には評判の良い子だった」と装って生きてきた自分を語る一方、「メンバーの中に入っていることが少しうれしかった」とつづるなど、装うことでは生きる実感がなかったことを伝えている。死にあたってもなお、メール返信がうれしいという感情を持っている。この男性にとっての社会は、人間とつながっているという意識は希薄で、むしろ「群衆の社会」でしかなく、激しく葛藤(かっとう)していたことが見て取れる。最近、「どうせ絶望した人生ならこの世界もなくなってしまえ」と他者も攻撃し、自分も自殺する傾向が表れてきた。この容疑者にとっての社会とは一体何だったのか、きちんと分析しないといけない。

(出所:毎日新聞 2008年6月9日 東京夕刊)

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