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「もっともっと欲しい」の貪欲の経済から、「足るを知る」知足の経済へ。さらにいのちを尊重する「持続の経済」へ。日本は幸せをとりもどすことができるでしょうか、考え、提言し、みなさんと語り合いたいと思います。(京都・龍安寺の石庭)
日米首脳会談後の日米同盟の行方は
大手メディアと沖縄紙が論じたこと

安原和雄
 安倍首相の訪米による初の日米首脳会談後の日米同盟は何を目指すのか。メディアはどう論じているか。新聞社説の見出しを紹介すると、「懐の深い同盟を」、「安全運転を外交でも」、「アジア安定へ同盟強化を」、「同盟強化というけれど」、「犠牲強いる同盟」など日米同盟強化論から同盟批判まで多様である。
 この新聞論調から見えてくるのは、日米同盟そのものが大きな転機に直面しているという事実である。特に沖縄紙からは「長年にわたって沖縄が強いられている構造的差別を解消する方向に直ちにかじを切ってもらいたい」という切実な声が伝わってくる。「日米軍事同盟時代の終わり」の始まりを示唆しているとはいえないか。(2013年2月25日掲載。公共空間「ちきゅう座」、インターネット新聞「日刊ベリタ」に転載)

 本土の大手5紙と沖縄の琉球新報の社説は日米首脳会談をどのように論評しているのか。まず各紙社説の見出しは以下の通り。なお東京新聞は2月25日付、他の各紙は24日付である。
*朝日新聞=TPPは消費者の視点で 懐の深い同盟関係を
*毎日新聞=「安全運転」を外交でも TPPで早く存在感を
*讀賣新聞=アジア安定へ同盟を強化せよ TPP参加の国内調整が急務だ
*日本経済新聞=同盟強化へ首相が行動するときだ
*東京新聞=日米首脳会談 同盟強化というけれど
*琉球新報=日米首脳会談 犠牲強いる“同盟”は幻想
 以下、各紙社説の要点を紹介し、それぞれに安原のコメントをつける。

▽朝日新聞社説
 日米同盟が大切であることには、私たちも同意する。だからといって、中国との対立を深めては、日本の利益を損なう。敵味方を分ける冷戦型ではなく、懐の深い戦略を描くよう首相に求める。
 首相は、軍事面の同盟強化に前のめりだった。首脳会談では、防衛費の増額や、集団的自衛権行使の検討を始めたことを紹介し、日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しの検討を進めると述べた。一方で、中国を牽制(けんせい)した。
 そういう首相と、米国側の姿勢には温度差があった。オバマ大統領は記者団の前で「日米同盟はアジア太平洋地域の礎だ」と語ったが、子細には踏み込まず、「両国にとって一番重要な分野は経済成長だ」と力点の違いものぞかせた。
 いまは、経済の相互依存が進み、米国は中国と敵対したくない。米中よりも日中のあつれきのほうが大きく、米国には日中の争いに巻き込まれることを懸念する声が強い。

<安原のコメント>「結びつき」を阻む策謀
 朝日社説は次のようにも指摘している。「日米同盟を大切にしつつ、いろんな国とヒト、モノ、カネの結びを深め、相手を傷つけたら自身が立ちゆかぬ深い関係を築く。日中や日米中だけで力みあわぬよう、多様な地域連携の枠組みを作るのが得策だ。対立より結びつきで安全を図る戦略を構想しないと、日本は世界に取り残される」と。
 「結びつきで安全を図る戦略」は一つの選択肢といえよう。従来とかく日米安保体制を足場にして、「結びつき」に背を向ける対立抗争を好んだ。その陰には米日両国好戦派の軍産複合体の策謀が潜んでいた。この策謀を果たしてどこまで抑え込むことが出来るかが「安全を図る戦略」のカギとなる。

▽毎日新聞社説
 日米同盟を基軸に「強い日本」を目指すという安倍外交が、本格的なスタートを切った。北朝鮮の核開発や尖閣諸島をめぐる中国との対立など深刻な不安定要因を抱える日本にとって、今ほど外交力が試される時はない。その基盤となるのが米国との連携である。必要なのは、「強固な日米同盟」を背景にした賢明で注意深い外交だ。
 日本から対立をあおるようなことはしない。領土をめぐる問題は力ではなく対話で解決する。この2点を日米両首脳が世界に向かって発信したことを、中国は重く受け止めるべきだ。一方、日米同盟強化は他国とことさら対立するためではなく、アジアに安定をもたらすためのものでなければならない。安倍氏にはタカ派色を抑制しながら、現実主義的な外交をこれからも続けてもらいたい。外交の「安全運転」は、米国が望んでいることでもある。

<安原のコメント> 「強固な日米同盟」と「外交の安全運転」
前段に「強い日本」、「強固な日米同盟」という認識が強調されている。しかも日米同盟に支えられた「強い」であり、「強固」である。「強い精神力」という意味だろうか。そういう理解はここではむずかしい。やはり軍事力に支えられた「強い日本」であり、「強固な日米同盟」と理解できる。
しかし一方では「日本から対立をあおるようなことはしない」、「日米同盟強化は他国とことさら対立するためではなく、・・・」という釈明が付け加わっている。これが<外交の「安全運転」を>とつながっている。「強い日本」と「外交の安全運転」とが表裏一体の関係にある。軍事力のみに依存する時代ではもはやないということか。

▽讀賣新聞社説
 オバマ米政権も、安倍政権との間で日米関係を再構築することがアジア全体の安定につながり、自らのアジア重視戦略にも資する、と判断しているのだろう。
 焦点だった日本の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加について、日米両首脳は共同声明を発表した。全品目を交渉対象にするとの原則を堅持しながら、全ての関税撤廃を事前に約束する必要はないことを確認した。首相は訪米前、「聖域なき関税撤廃を前提とする交渉参加には反対する」との自民党政権公約を順守する方針を強調していた。
 公約と交渉参加を両立させる今回の日米合意の意義は大きい。成長著しいアジアの活力を取り込むTPP参加は、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の成長戦略の重要な柱となり、経済再生を促進する効果が期待されよう。

<安原のコメント> アベノミクス始動の必要条件
 「いよいよアベノミクス始動」へ、という大いなる期待を込めた社説である。しかし本当のところ、どこまで期待できるのだろうか。アベノミクスとは、「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「成長戦略」という3本の柱からなっている。とくに日本銀行には物価上昇率2%を目標に金融緩和を進めることを期待している。
重要なことは新規需要をどこに求めるかである。首相の頭にあるのは、成長著しいアジアの活力を取り込むためのTPP参加である。しかしあえて指摘すれば、なぜ国内需要に目を向けないのか。例えば300兆円ともいわれる大企業中心の内部留保を賃金として還元することだ。これこそがアベノミクス始動の必要条件であるべきではないか。

▽日本経済新聞社説
 今回の訪米で日米関係を強める道筋を敷くことはできた。だが、それが実を結ぶかどうかは、今後の行動にかかっている。その最たるものが、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉への参加問題だ。そもそも、日米両国にとっての最大の課題は、台頭する中国にどう向き合い、協力を引き出していくかである。TPPはそのための経済の枠組みだ。両国は同様に、外交・安全保障面でも協力の足場を固めなければならない。
 日米同盟を深めるためには、言葉だけでなく、行動が必要だ。米国の国防予算は大幅に削られようとしている。米軍のアジア関与が息切れしないよう、日本として支えていく努力が大切だ。では、どうすればよいのか。まずは、安倍首相が会談でも約束した日本の防衛力強化だ。日本を守るための負担が減れば、米軍はアジアの他の地域に余力を回せる。

<安原のコメント>「日本の防衛力強化」は疑問
 「日本の防衛力強化」というお人好しの主張もいい加減にして貰いたい ― この日経社説を一読して得た印象である。かつて経済記者は防衛力(=軍事力)の強化にはそれなりの距離をおいて観察していたものだ。なぜなら日常の国民生活に貢献しない軍需生産が活発になれば、民生圧迫で、経済の不健全化を招くと考えたからである。
 しかし最近は発想に変化が生じているらしい。「日米同盟深化」を大義名分として「日本の防衛力強化」に乗り出せ、とそそのかしているだけではない。「日本を守るための負担が減れば、米軍はアジアの他の地域に余力を回せる」と負担の肩代わりまで提案している。「防衛力強化」論は、好戦派の意図するところで、それとは一線を画して、なぜ軍縮への提唱を試みようとはしないのか、不思議である。

▽東京新聞社説
 民主党政権時代に日米関係が悪化し、自民党政権に代わって改善したという幻想を振りまくのは建設的ではない。
 首相が同盟の信頼を強めるというのなら、むしろ安保体制の脆弱(ぜいじゃく)性克服に力を入れるべきである。それは在日米軍基地の74%が集中する沖縄県の基地負担軽減だ。国外・県外移設など抜本的な解決策を模索し始める時期ではないか。住民の反発が基地を囲む同盟関係が強固とは言えまい。
 中国の台頭は日米のみならず、アジア・太平洋の国々にとって関心事項だ。首相が尖閣諸島をめぐる問題で「冷静に対処する考え」を伝えたことは評価したい。毅然(きぜん)とした対応は必要だが、緊張をいたずらに高めないことも、日米同盟における日本の重い役割だ。

<安原のコメント> 中国にどう対応するか ― 日中米ソ平和同盟へ
 中国にどう対応し、アジアの平和をどう確立するかを思案するとき、「悲劇の宰相」として知られる石橋湛山(1884~1973年)を想い起こさずにはいられない。湛山は「日中米ソ平和同盟」を提唱したことで知られる。日米間の日米安保条約を中国、ソ連にまで広げ、相互安全保障条約に格上げする構想で、現在なら、南北朝鮮の参加も視野に入れたい。
 目下のところ、残念ながらこのような構想には目が届かず、目先の対立抗争に神経をとがらせているのは、決して智慧ある所業とはいえない。社説が指摘するように「緊張をいたずらに高めないことも、日米同盟における日本の重い役割」だとすれば、湛山流の平和同盟志向は、「戦争放棄」の平和憲法を持つ日本の歴史的役割とはいえないか。

▽琉球新報社説
 懸案の普天間問題で日米両首脳は、名護市辺野古移設の推進方針で一致した。だが、県内移設は知事が事実上不可能との立場を鮮明にし、県内全41市町村長が明確に反対している。日米合意自体が有名無実化している現実を、両首脳は直視すべきだ。
 首相の日米同盟復活宣言は、基地の過重負担の軽減を切望する県民からすれば、対米追従路線の拡充・強化としか映らない。長年にわたって沖縄が強いられている構造的差別を解消する方向に直ちにかじを切ってもらいたい。
 首脳会談で、辺野古の埋め立て申請時期に触れなかったことが、沖縄に対する免罪符になると考えているとすれば、思い違いも甚だしい。日米安全保障体制が沖縄の犠牲の上に成り立っている状況を抜本的に改善しない限り、日米関係の強化も完全復活も、幻想にすぎないと自覚すべきだ。

<安原のコメント> 構造的差別の解消を
 冒頭で紹介した琉球新報社説の見出しを再録すれば、<日米首脳会談 犠牲強いる“同盟”は幻想>となっている。なぜ首相の日米同盟復活宣言は幻想なのか。それはこの宣言からは「長年にわたって沖縄が強いられている構造的差別」を解消する方向がみえてこないからである。ここでの構造的差別とは、沖縄県民にとっての米軍基地の加重負担であり、対米追従路線の拡充・強化であり、さらに沖縄の犠牲を強いる日米安保体制そのものから生じている。
 沖縄に見るこの構造的差別は、基地と無関係に暮らす本土のかなりの人々には実感しにくいことは否めないかも知れない。私(安原)自身は、かつて軍事問題担当記者として沖縄の米軍基地を訪ねたというささやかな体験があることを付記しておく。


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デフレ不況脱出のカギは賃上げ
企業内部留保の還元を社員にも

安原 和雄
 信用金庫の経営トップが「デフレ不況脱出のカギは賃上げであり、逆に給与を削減すれば、消費が減り、企業の業績も悪化する」と指摘している。これは大企業経営者たちの「賃上げは、コスト負担増となって経営を圧迫する」という賃金抑制策への反旗というべきだろう。
 どちらに軍配を挙げるべきだろうか。前者の賃上げ是認説に賛成したい。率直に採点すれば、後者の大企業経営者群は怠惰な集団である。これに反し、前者の信用金庫トップこそが勤勉な存在といえる。勤勉な発想は日本経済の再生、発展に貢献できると評価したい。(2013年2月7日掲載。公共空間「ちきゅう座」、インターネット新聞「日刊ベリタ」に転載)

▽ 異色経営者の賃上げのすすめ

 城南信用金庫(本店・東京都品川区)理事長の吉原 毅(つよし)氏は、デフレ不況脱出のカギは所得増、つまり「賃上げ」であり、いいかえれば企業内部留保の還元を社員にも、と指摘している。他方、企業が好む「賃金抑制」は内需を落ち込ませるという現状認識を率直に語っている。異色経営者の「賃上げ説」を「しんぶん赤旗・日曜版 2013年2月3日付」から紹介する。その大要は以下の通り。

 アベノミクスに欠けているのは、賃上げと、雇用の安定のための政策だ。金融緩和で日銀がお金をいくら供給しても、実際に社会の中でお金が回らなければ、景気は良くならない。
一番問題なのは、賃上げのできる企業でさえ、上げていないことだ。利益を上げている企業や内部留保の大きい企業は、そのもうけを社員にも還元すべきだ。そのためにもいま発想の転換が必要だ。本当の競争力を強くするのは、目先の利益を追いかけるコスト削減ではない。

 国内外で価格競争が激しくなり、企業はコストカットのために賃金を抑え、正社員を減らして非正規社員を増やしてきた。
 その結果、国民の購買力が落ちてしまった。雇用の安定がなければ、結婚して子供をつくろうという前向きの意欲も起こらなくなる。少子化もますますひどくなっている。
 各企業は先行きが不透明だから、コスト削減は当然というかもしれない。しかしみんなが給与を削減すれば、消費が減り、日本全体の内需が落ち、企業の業績も悪化する。これが「合成(ごうせい)の誤謬(ごびゅう)」で、大局的観点から見ないと、物事は失敗する。

 消費税増税も反対だ。いま需要が減ってモノが売れないために景気が悪いのに、消費税を上げたらますます需要が落ち込む。
 安さを競うのではなく、他にはない製品・サービスを産み出して、新しい需要をつくることが必要だ。この方向しか日本の生きる道はないと思う。
 いま私たちも(金融機関として)お金を貸すだけでなく、それを使って、こういうことをやりましょうと、ビジネスの提案に相当力を入れている。

 これからは就業斡旋(あっせん)もするつもりだ。城南信金の主催で「よい仕事おこし」フェア第2弾を8月6、7日に東京国際フォーラムで行うが、そこでは求職中の人と中小企業との出合いの場を設ける。
 うちの経営方針は「人を大切にする、思いやりを大切にする」である。長い目で見れば、その方がはるかに企業の発展につながるということは、歴史が示している。

▽ 経営者は<反「合成の誤謬」>を実践する能力を

 吉原理事長は、企業経営者でありながら、私企業の枠を超えて、いわば公共の視点を強調しているところがユニークといえるのではないか。大企業をはじめ、多くの企業が不況を口実にして企業の目先の損得にこだわり、内に閉じこもる傾向が強いのと対照的である。理事長発言の具体例をいくつか挙げてみよう。

(1)賃上げのできる企業でさえ、賃金を上げていないことは問題だ。利益を上げている企業や内部留保の大きい企業は、そのもうけを社員にも還元すべきだ。(利益の還元重視=安原の一言コメント。以下同じ)
(2)各企業は先行きが不透明だから、コスト削減は当然というかもしれない。しかしみんなが給与を削減すれば、消費が減り、日本全体の内需が落ち、企業の業績も悪化する。これが「合成の誤謬(ごびゅう)」で、大局的観点から判断しないと、物事は失敗する。(「合成の誤謬」を超えて)
(3)消費税増税も反対だ。いま需要が減ってモノが売れないために景気が悪いのに、消費税を上げたらますます需要が落ち込む。(消費税増は悪税)
(4)うちの経営方針は「人を大切にする、思いやりを大切にする」である。長い目で見れば、その方がはるかに企業の発展につながる。(人間尊重の経営)

<安原の感想>「合成の誤謬」から脱出して不況克服を!
 ここでは「合成の誤謬」をどう評価すべきかに触れておきたい。吉原理事長は次のように指摘している。
 各企業は先行きが不透明だから、コスト削減は当然というかもしれない。しかしみんなが給与(コスト)を削減すれば、消費が減り、日本全体の内需が落ち、企業の業績も悪化する。これが「合成の誤謬(ごびゅう)」で、大局的観点から見ないと、物事は失敗する、と。

 合成の誤謬とは、企業経営上の個々の現象、行動(例えば不況対策としての賃金の引き下げ)は間違ってはいないように見えても、日本経済全体としては、矛盾(賃金引き下げによる消費の減退、景気の悪化)が深まる、という意味である。
 「合成の誤謬」を避けるためには、給与の削減は好ましくないのである。だからこそ有能な経営者は賃上げを目指して<反「合成の誤謬」>を実践するだけの能力と決断力を身につけなければならない。
 しかし現状ではあえて賃下げを拒否し、賃上げを実践できる経営者は少ない。そのことがかえって不況からの脱出を困難にしている。「合成の誤謬」から脱出し、不況克服を図ろうではないか。「人」、「思いやり」を大切にする「人間尊重の経営」を心掛けるためには企業経営者の広い見識と柔軟な決断力が不可欠である。


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アベノミクスは人びとの生活を破壊
新政党「緑の党」が安倍政権を批判

安原和雄
 2012年夏発足した新政党「緑の党」が最近、安倍政権を手厳しく批判する姿勢を打ち出した。「アベノミクスは人々の生活を破壊する」というのだ。正論であり、支持したい。ただ「緑の党」といってもまだ広く知れ渡っているわけではない。
 しかしその政策は、変革意欲にあふれている。「いのち」尊重を軸に脱「経済成長」、脱「原発・放射能」、脱「軍事同盟・日米安保」を目指すだけではない。重要な政策については官僚などにゆだねないで、<市民自ら決定し、行動する「参加する民主主義」実践>の旗を掲げている。今2013年夏の参院選で果たしてどれほどの存在感を印象づけることが出来るか、そこに注目したい。(2013年2月3日掲載。公共空間「ちきゅう座」、インターネット新聞「日刊ベリタ」に転載)

▽ 「緑の党」がアベノミクスを批判

 「緑の党」は2013年1月末日、「アベノミクスは人びとの生活を破壊する」と題して、安倍政権を批判する見解を公表した。その内容は以下の通り。

  安倍政権は、アベノミクスと呼ばれるデフレ脱却・経済再生の政策を華々しく打ち出してきている。この政策は(1)公共事業(「機動的な財政出動」)、(2)大胆な金融緩和、(3)成長戦略 の「3本の矢」から成り、その第1弾として緊急経済対策が決定された。

 緊急経済対策は、補正予算案として国が10.3兆円(基礎年金の国庫負担分を含めると13.1兆円)を出し、自治体なども合わせた事業費が20兆円に上るという大がかりなもので、その中心は4.7兆円を費やす公共事業である。「防災・減災」のために、老朽化した道路や橋の改修に取り組むが、必要性に疑問のあるものなどが含まれ、従来型の公共事業の全面的な復活が目論まれている。また、緊急経済対策には「成長による富の創出」や「暮らしの安心」のための支出も含まれているが、後者には自衛隊の装備強化まで入っている。

 安倍政権は、公共事業中心の財政出動が民間の投資や雇用の増加に波及し、景気回復をもたらすとしている。しかし、バブル崩壊後の90年代にも採られたこの手法は、まったく効果がなく巨額の借金だけを積み残した。今回も、主たる財源を7.8兆円の国債発行に求めており、そのため本年度の国債発行額は52兆円にまで増え、すでに1000兆円に達している政府債務はますます膨らむ。
 それによって長期金利が上昇し、国債の利払い額が雪だるま式に増える危険がある。

 安倍政権は、財政出動と同時に無制限の金融緩和(注)を進めるために、日銀と政策協定を結び、日銀に2%の物価上昇率目標(インフレ・ターゲット)を定めて無制限の資金供給を行なうように強要した。
しかし、すでに日銀による金融緩和は十分すぎるほど行なわれているが、企業や個人による資金需要が低調なため、金融機関の手元に大量の資金が滞留している。安倍政権の狙いは、政府が増発する国債を金融機関がいったん購入し、それを日銀に全額買い取らせることによって財政赤字を穴埋めさせることにある。これは、日銀が戦時中に国債を直接引き受けたのと同様で、財政赤字の膨張に対する歯止めは失われる。

 安倍政権のブレーンたちは、日銀の無制限の資金供給や大胆な金融緩和によるインフレの進行が予想されると、企業は投資のための借入を増やし、個人はモノを早めに買おうとするから経済が活性化し景気が回復すると説いている。しかし、この20年間で日本の物価上昇率が2%を越えたのは、消費税を5%に引き上げた97年と食料品やガソリンの値段が急騰した08年だけだ。金融緩和に伴う円安の進行は、自動車や電機部門の企業の輸出を伸ばしその株価を上昇させるが、やがて燃料など輸入価格の上昇を引き起こす。
 インフレが人びとにもたらすのは、食料品や燃料の値上がりと消費増税分の価格への転化だけであり、けっして給料が上がったり生活が楽になったりするわけではない。
 それは、2000年代に入って、企業利益が好調な時期にあっても働く人々の所得はむしろ低下していた事実を見れば明らかだ。

 安倍政権は、アベノミクスが景気を回復させて実質GDPを2%押し上げ、60万人の雇用を創出すると豪語している。しかし、すでに経済成長の時代は終わり、仮に一時的に経済成長しても、増えるのは低賃金の非正規雇用と正社員の長時間労働だけなのだ。
 また、「借金を増やさずに社会保障を拡充するために消費税率を引き上げる」と言いながら、国債増発で借金を増やし、社会保障は拡充どころか削減しようとしていることも批判されるべきだ。

 いま求められている経済政策は、従来型の公共事業の復活でも国債増発を支える金融緩和でもない。私たちは、質の良い雇用と仕事を再生可能エネルギー、農業と食、医療・介護・子育ての分野で創り出し、地域のなかでモノと仕事と資金が回る循環型経済をめざしていく。

(注)金融緩和:(1)金利の引き下げや (2)民間の金融機関から国債などを日銀が買い取ることによって、市場に回る通貨を増やすこと。現在、金利はゼロに近く、(1)は限界に達しており、(2)の施策が取られようとしている。

▽ 「緑の党」はどういう政党か

 「緑の党」は2012年7月結成された新政党で、地方議員はかなりの数で活躍しているが、衆参両院の議員はまだいない。2013年7月の参議院選挙に候補者を立て、議席獲得をめざす。同党の共同代表4氏は次の通り。
*すぐろ奈緒(なお)=東京都・杉並区議会議員
*高坂 勝(こうさか・まさる)=東京都・『減速して生きる ダウンシフターズ』著者
*長谷川羽衣子(はせがわ・ういこ)=京都府・NGOe-みらい構想代表
*中山 均(なかやま・ひとし)=新潟県・新潟市議会議員

 この「緑の党」はどういう政策を掲げているのか。同党の「緑の社会ビジョン」によると、その骨子は以下の通りである。
(1)経済成長優先主義から抜け出し、「いのち」を重んじ、自然と共生する循環型経済を創り出す。
(2)プロの政治家、官僚、専門家に重要な決定を預ける「おまかせ民主主義」にサヨナラし、市民が自ら決定し、行動する「参加する民主主義」を実践する。
(3)原発のない社会、エコロジカルで持続可能な、公正で平等な、多様性のある社会、平和な世界をめざす。
(4)いのちと放射能は共存できない!「地産・地消」の再生エネルギーで暮らす。
(5)競争とサヨナラし、スロー・スモール・シンプルで豊かに生きる。
(6)すべての人が性別にとらわれず、「自分らしく」生きられることをめざす。
(7)平和と非暴力の北東アジアを創る。沖縄と日本本土の米軍基地をなくし、徹底的な軍縮を進め、軍事同盟としての日米安保のすみやかな解消を図る。

▽ メール交換による活発な党内議論

 緑の党は、メール交換によって活発な党内議論を繰り広げている。その典型例が憲法をめぐる意見交換である。以下にその一例を仮名で紹介する。なおメールによる意見交換は実名で行われている。

*信州竜援塾のNさん(男性)から
 憲法についての私見です。9条だ、96条だ、xx条だという運動からは、そろそろ卒業しなければなりません。「xx条を守ろう!」という運動から「憲法で想定した日本国の姿を実現しよう!」という、運動に転換しませんか。
 憲法を守るべきは天皇、官僚、議員、公務員です。末端公務員の体育教師が、弱者である生徒に日常的に暴力をふるうことが容認されるような組織のあり方を、日本国憲法は想定していません。国家と企業がぐるみになって地方を中央に隷属させ、金の力で無理無体を押し通し、挙句に大事故を起こしても国家や企業が責任を取らなくてもいいような社会を日本国憲法は想定していません。

 ところが現実は、憲法が想定するのとは正反対の政策が堂々とまかり通っています。となれば憲法の内容などほとんだ知らない大半の人のなかでは、「ろくでもない憲法だから、何の役にも立たない」と考える人が、日々少しづつ増えています。
 みどりの党には従来の護憲政党のような「9条を守る」運動ではなく、「憲法が想定する社会の実現」を掲げていただきたい。

*「緑の大阪」豊中のYさん(女性)の返信
 貴重なご意見ありがとう。私は、10年ほど前から、大阪の北摂地域にて「活かそう憲法!北摂市民ネットワーク」という会をつくって、現在の憲法の実現に向けて活動して来ました。

 Nさんがおっしゃるとおり、憲法を「守る」べきは、天皇、官僚、議員、公務員です。しかし、その守るべき議員が「憲法9条」をないがしろにして、軍備を増強し「国防軍」にしようとしています。
 私は、最低限このような動きに対して黙っているわけにはいきません。安易に、「憲法を創る」という改憲派の議論に巻き込まれるわけにはいかないと思っています。実現すべきは、「憲法」の「基本的人権の尊重」であり、「平和主義」であり、「国民主権」です。

 更に言えば、私はこの「憲法」の理念を活かし発展させるべく、「緑の党」の理念に賛同し、活動をしています。今の「憲法」の基本が「個人の尊厳」なら、「緑の党」の基本的なスタンスは、「命の尊厳」であると思っています。その意味で、安倍内閣などの改憲派とは一線を引いて、「緑の党」の社会的ビジョンの実現に向けた活動を行うべきだと思っています。

今の「安倍政権」の改憲の動きは止めるべきです。「安倍政権」の憲法9条・憲法96条改悪の動きを止める意味で「守る」という言葉を使いました。決して憲法を守る活動だけをしている訳ではありません。

<安原の感想> 変革力を持続させる存在感のある政党へ

 右翼反動の安倍政権をしっかり批判する立場を打ち出している政党としては、日本共産党以外では「緑の党」を挙げたい。緑の党は伸びてほしい政党であり、新しい時代を創る意欲に燃える政党、という評価もできる。
 緑の党の特質としては、アベノミクス(安倍政権の経済成長策などのデフレ脱却・経済再生の政策)への批判も見逃せないが、同時に注目すべきは、「緑の社会ビジョン」である。そこには「いのち」尊重を軸に脱「経済成長」、脱「原発・放射能」、脱「軍事同盟・日米安保」などを掲げている。このことはめざす政策のあり方として重要である。

 それだけではなく、「自分らしく」という主張に注目したい。<「おまかせ民主主義」にサヨナラし、市民が自ら決定し、行動する「参加する民主主義」の実践>を宣言すると同時に、<すべての人が性別にとらわれず、「自分らしく」生きられることをめざす>としている。この姿勢が<公正で平等な、多様性のある社会、平和な世界をめざす>こととつながっている。

 政党の政策論に「自分らしく」という発想を盛り込むところなど、いかにも緑の党らしい。一人ひとりの日常的な生き方と、政党として目指すべき政策とが切り離せない形でつながっているところが既存の政党とは異質といえる。だからこそメール交換による活発な党内議論も可能となり、これは新しい政治スタイルと評価できるだろう。
 ともかくユニークで存在感があり、変革力を持続させる政党に成長していくことを期待したい。


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