2019/11/18
本17 大久保増太郎「野菜と果物のちょっといい話」
大久保増太郎「野菜と果物のちょっといい話」新光社
内容
はしがき
野菜や果物の品種や栽培技術の話でもなく、野菜の生理的な話でもない、栄養学や食品化学の話でもない、いってみれば、生産(栽培)と消費の接点のどちらともつかないまま、今まであまり顧みられることのなかった「青果物の流通中の品質やその管理技術」という分野を専門としてきた者の目を通したときの「野菜や果物」の姿や内容をそれらしく読者に伝えられたらという気持ちからこの本は生まれた。
・青果物の呼吸は、大きく三つのタイプがある
一つ目は、とってすぐの呼吸がもっとも大きく、日がたつにつれて低下するタイプ。キャベツ、ホウレン草など多くの野菜がこれに属している。
二つ目は、収穫直後は低く、時間がたつにつれて呼吸が旺盛になるもの。イチゴがこのタイプで末期上昇型と呼ばれる。
三つ目は、収穫後いったん下がった呼吸が、ある時点から急速に上昇し、しばらくして最大にとなって、その後は低下するという特異な呼吸のパターンを示すもの。リンゴ、バナナ、一部のナシ・モモ・ウメ・アボガド・トマトなど。追熟するときエチレンが発生する。
・緑黄色野菜
緑黄色野菜というのは、生の野菜100g当たりビタミンAが1000国際単位以上含まれている野菜のことをさす。ビタミンAは熱に安定で、加熱しても壊れにくい。また、脂溶性なので、料理するときに油類と一緒に摂れるようにしたほうが吸収率がよい。
緑や黄橙色が濃いからというわけではない。
・イチゴとバイオテクノロジー
イチゴはビタミンCの王様と言われている。100gのイチゴには約80mgのビタミンCを含んでいる。少し大粒のイチゴを5,6個食べれば一日に必要なビタミンCは十分補給される。
うまいイチゴを食べるには畑で完熟したものをとって、すぐその場で食べるのが一番である。イチゴにはアミノ酸も比較的多く、なかでもアスパラギンが際立って多いのが特徴である。
・ダイコン
ダイコンは野菜の中で一番と言われるほど品種の数は大変多く、野生種が長い間に、それぞれの地方で、との土地にあったように育成され、分化を遂げたようである。
ハクサイはコメ離れにつれて、需要が減退し続けている。昭和35年頃には、ダイコンに次いで第二位の消費量を誇っていたハクサイは、58年にはキュウリの後じんをあびて6位に転落してしまった。ダイコンはキャベツに一位の座をゆずったとはいえ、依然として第二位の地位を確保している。
ダイコンの葉は多くのビタミンを含んでいる。ビタミンAが1500国際単位、B1は0.1mg、B2が0.13mg、ビタミンCは70mgと野菜の中では多い。それに、カルシウムをふんだんに含み、鉄分も多い。
・カット野菜の功罪
カット野菜は現在業務用(ホテル・レストラン・総菜産業)が中心のようだが、デパートの青果売り場からスーパーマーケットへと販売のルートは急速に広がり、家庭の台所に入り始めた。その延長線上には、まな板と包丁のない家庭の食卓が見えかくれする。
・野菜の発熱
野菜を切断すると呼吸は旺盛になる。キャベツを例に取ると、おおざっぱに言って四分の一に切断で呼吸は1.5倍に、3センチ角に切ると約2.5倍、1.5センチ角で5倍、3ミリの細切りだと8倍に達する。
・マリーアントワネットとバレイショ
フランス王朝ルイ16世の頃、まだジャガイモは一般には食用として用いられておらず、花が観賞用とされていた。ルイ16世は妻のマリーアントワネットにジャガイモの花を飾らせ、庶民の関心を深めようとした。ジャガイモ普及に対するルイ16世の果たした役割は大きなものであった。
・トウモロコシの品種改良にみるロマンと現実
コムギ、イネと並んで世界三大食用作物とされているトウモロコシは、新大陸が原産でコロンブス(の部下)により発見され、ヨーロッパに持ち帰られ、その後は世界の熱帯から温帯地方にまたがる広い地域にかなりの速度で広まった。
最近のスイートコーンの品種改良は目覚ましいものがある。一昔前の主要品種であったゴールデン・クロスバンダムの糖分はおよそ4%であったが、ここ数年の間に出荷されたハニーバンダムに代表される新品種の糖分量は8~10%もあり、ものによっては11%以上の値を示すものもある。
・低温に弱い野菜
キュウリ、ナス、ピーマン、トマト(青い部分)、メロン、ショウガ、サトイモ、サツマイモ、バナナは冷温障害を受けやすい。これらは二、三日だったら5℃程度冷蔵庫貯蔵しておくと鮮度を保てるが、うっかりして2週間も経つとカビが生えて腐ってしまうものが多い。15℃くらいだと少々しなってもまだ十分食べられる。
・香辛野菜あれこれ
ワサビは学名を Wasabia japonica といい、日本原産の多年生植物で、九州から北海道にいたる各地の山谷に自生している。
魚を生で食べる日本人。ワサビの自生。主菜と脇役のまれに見る自然な、そして見事な出会いである。
・縄文の主食・里の芋
サトイモは高温多湿を好むので、乾燥地や寒冷地以外では栽培が容易で、農耕の歴史の中では最も古いものの一つとされている。
原産地はインド・スリランカ・マレー半島・スマトラ・インドシナ半島などとされている。
食べ物の中で主食的扱いを受けるものの条件は、作りやすく、比較的安価で供給でき、長く食べ続けても飽きないためにはあまり特別な味や匂いもなく、そして貯蔵性がよいということである。コメしかり、ムギしかり、ジャガイモしかりである。その点、サトイモは貯蔵性がやや劣ると言う点では、主食になりにくいと思われる。
大方の人が、速すぎてついてゆかれないと思うほど科学の進歩のめざましい今日でも、サトイモを年間貯蔵するといったごく簡単に思われる技術がまだできていないのである。
サトイモの貯蔵適温は8~10℃とみれば間違いなかろう。5℃まで下げると外観は立派でも、冷温障害を受けて、割ってみると中に褐色のすじが入ったりして肉質が悪化する。
サトイモの恒温(8~10℃)貯蔵で問題なのは、無駄と分かっている親いもも一緒に貯蔵しなければならないところにある。親いも付きのまま小型のコンテナに入れて貯蔵すると、必要な小いもや孫いもは半分かそれ以下しかはいらない。そうかといって小いもだけを貯蔵しようとすると、その切り口から腐敗菌が侵入していもは腐りやすくなる。
・ヤマノイモととろろ汁の音
あの特殊技術で取ってくるヤマイモは自然薯といって、スーパーマーケットで真空パックされているナガイモとは「種」が違う。
ヤマノイモ科には10属650種もあって、その中のヤマノイモ属のオポシッタといわれる属のものがわが国で栽培されているヤマノイモである。
ナガイモ・イチョウイモ・ツクネイモといろいろ呼び名のあるヤマノイモ(オポシッタ)は、日本の山野に自生している自然薯をわが国で改良したものでないらしく、栽培種として中国から渡来したといわれている。
・野菜のフィルム包装
ポリエチレンは酸素も炭酸ガスも適度に通すため、あまり低酸素になると外から酸素が供給され、逆に袋の中の炭酸ガスは外に出て、適度の低酸素(5%前後)、高炭酸ガス(3~5%くらい)で袋の中のガス濃度が平衡状態になり、大変好都合なフィルムである。
ガス透過性の悪いビニル袋などを使うと、低酸素-高炭酸ガス条件がきつくなりすぎて、青果物は呼吸困難で腐ってしまう。
・冷蔵庫の中を、酸素5%、炭酸ガス3%、窒素92%という組成に変えて、冷蔵と組み合わせて貯蔵する方法をCA貯蔵(Controlled Atomosphere Storage)という。この方法では、多くの青果物は、普通の冷蔵庫より、1.5~2倍近くも貯蔵期間が延長される。
・救荒食から嗜好食品への転身 サツマイモ
サツマイモにはビタミンCが意外と多く含まれている。ビタミンCは熱で壊れやすいといわれているが、石焼きいもキュウリの二倍くらいのビタミンCを含んでいる。ビタミンB群も多い。
・古くて新しい「焼きイモ」
サツマイモがイネに比べてもっとも劣る点は貯蔵性にあるといってよかろう。
モミが少し低温に保つくらいで一年や二年はそれほど大きな変化もなく保存されるのに対して、サツマイモは、一年間の貯蔵は無理で、春の出芽期までがせいぜいというところである。出てきた芽が生長した苗を植えて、秋にいもを収穫し、それを土中深く貯蔵して、翌春の苗づくりに備えるという繰り返しで、サツマイモは一見耐えることなく栽培され続けているが、実は苗を取るために苗床に伏せ込んだ残りのいもを出してから、早掘りいもが出荷されるまでの三、四ヶ月は食用に回せるようなサツマイモは、ほとんどスーパーマーケットの野菜売り場から姿を消すのが普通であった。 最近では、「キュアリング貯蔵」という技術が確立されたために、ほとんど一年中、品質の良いサツマイモが手に入るようになった。
キュアリングの cure は、治癒、治療の意味で、貯蔵中の腐敗を防ぐために傷口治療のことを指している。サツマイモは収穫のときに擦り傷や切り傷ができやすく、そこに菌がついて貯蔵中に腐ることが多い。そこで、収穫してから貯蔵する前にその傷口をふさいでやり、病原菌の侵入を防ごうというのがサツマイモのキュアリングである。
電子レンジで加熱した蒸しいもより、焼きいもや蒸し器を使ってふかしたいものほうが甘くておいしい。蒸し器や焼き石で加熱するといもの温度が徐々に上がってデンプンが糊化し、それにベーター・アミラーゼが作用してマルトースという甘み物質がつくられる。だんだん温度が上がって、100℃にもなると、ベーター・アミラーゼは活性を失い、それ以上甘くならない。ふかしいもや焼きいもの場合は、このベーター・アミラーゼが作用する時間が20分以上と長いのの対し、電子レンジを使うと2,3分で100℃になってしまう。そのため甘みもそれほど高くならない。
・ビタミンCの話
同じホウレンソウでも、冬と夏とではビタミンCの含量が極端に異なることが最近分かってきた。夏のホウレンソウは冬のものに比べてその含量はかなり低い上、室温に一日おかれると急速に減少して、ときには半分にも減ってしまう。そのホウレンソウを低温(1℃くらい)に置けば、1~2日くらいはほとんどとりたてに近い含量のままで保持される。
発がん性の強い「ニトロソアミン」は、動物性の食品によく含まれているアミンと野菜などに含まれている亜硝酸が胃の中と同じような産生条件下で反応して生成することが知られている。ビタミンCは、その「ニトロソアミン」の生成を阻止する効果があるとされているところから、ガンの予防に効果があるといわれれている。
チロシンの代謝が異常になるとメラニン色素が皮膚に沈着して、シミやソバカスの原因となるが、このチロシンの正常な代謝にビタミンCが関係しているといわれている。こんなところから、ビタミンCは女性の美容によいとされている。
イチゴはビタミンCの王様といわれているだけあって、たしかに含量が多い(100g中に80mg)。しかし、カキがそれに匹敵するほどのビタミンCを含んでいることは案外と知られていない。
・ブドウ糖と果糖
砂糖の甘さを1とした場合、ブドウ糖はおよそ0.6~0.7くらいで、果糖は1.3~1.5もあり、砂糖より甘い上、味が比較的さわやかでさっぱりしている。
ただ、果糖はしるこなどの熱い状態で食べる食品に入れると、甘味が減少するので、冷たい状態で食べる食品に向く。
・糖分と糖度
糖分は化学分析によって得たしょ糖やブドウ糖や果糖などの値を100g中の百分率で表す。一方糖度は、携帯用の屈折計で測った示度をそのまま使う。この数値は、塩類などの光を屈折させるのもが影響を及ぼすので、正確に糖分だけを測っているわけではない。多くの青果物は、糖度計の値から2を引けば、本当の糖分に近い値になるが、リンゴでは1.5、スイカでは0.5を引く。スイートコーンはとんでもない値が出てはかれない。
・コマツナ礼賛論
緑黄色野菜の大切さは、いろいろなところで指摘されているが、そのとき必ず出てくる野菜にホウレンソウがある。ホウレンソウは野菜の中では、いろいろな栄養素を比較的まんべんなく、しかも多く含んでいる。ところで、コマツナがホウレンソウに勝るとも劣らない野菜であることに、気がついた。
コマツナは油炒めにして、洋食の付け合わせにもなるし、油で炒めてから油揚げなどと一緒に、しょうゆとほんの少しの砂糖であっさりと煮たコマツナをおさいの一品に加えたときには、いかにも緑黄色野菜をしっかり食べたという気持ちになる。ゆがいておひたしにしてもよし。味噌汁の実に、コマツナをたっぷりと入れてもよい。
・野菜・果物ちょっといい話
メロンは自分からエチレンを放出して、そのエチレンで熟度が進んで食べ頃の肉質になる性質をもっている。だから、堅いものでも、はだかのまま室内の放っておけば、いつか追熟してちょうどよい食べ頃となる。 人間は寝ている方が立っているより楽であるが、シュンギクやアスパラガスは、逆である。アスパラガスは立てておくより寝せておく方が先が立ち上がろうとして大変なエネルギーを消耗する。ホウレンソウやシュンギクも寝かせておくと消耗が速い。
平成22年3月
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