長谷川たかこのパリのふつうの生活

誕生日に友人から「お祝いに一杯飲もう」と電話。
どうやら近くで用事があったらしく、うちまで迎えに来てくれたので、近くのカフェに行った。
夜の７時でも昼間のように明るく、テラス席は混んでいて、ウェイトレスはうんざりした顔をしている。



パリでは珍しいことじゃないけど。
「ぼくはブラディ・メアリー」
「わたしも同じもの。でもウォッカを少しにして」
「じゃその分、ぼくのに入れて」
「うちのバーマンはきっちり計って作るから、それはちょっと」とウェイトレス。
「おたくのバーマンはマシンかね？」
「ほとんど」
「なんなら、ぼくが一緒に行って頼もうか？」
「けっこうです。頼んでみます」
お客の冗談につき合う気分じゃないのだ。

ぼくは親父のようにはなれないんだ、と彼。
「親父はレストランに行くと待っていられなくて、すぐにメニューを頼んで、ほかの人を待たずに自分だけさっさと決めて注文する人だった。でもどこへ行ってもウェイトレスにモテたんだ」
ふーん。
「ある日、親父は、料理を運んできたウェイトレスに『あなたのような美しい人にサーヴしてもらえるのは幸せじゃ』と彼女の腕を撫でたんだ。今ならセクハラで訴えられるとこだ。さすがに、すみませんって謝ったら『あら、どうして？とっても素敵な人じゃないですか』って親父の頭を撫でるんだ」
お父さんが毎週通っていたお菓子屋に行き、店員さん（女性）に亡くなったことを告げると、ワッと泣き伏した、とか、行く先々でモテて、
「Homme à femmeだった」
オム・ア・ファム（女のための男？）は、辞書を見ると「プレイボーイ」とか「女たらし」とあるけど、彼のお父さんの場合は浮気には至らず、ただ女性にとって魅力的な男性だったらしい。
「お父さんとお知り合いになりたかったわね」とわたし。

ところで、ブラディ・メアリーの願いは聞き入れられ、わたしのはウォッカ２㏄、彼のは６㏄だった。
お父さんに負けてないじゃない。

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