2019/10/31
本14 中河原俊雄・石綿薫「自家採種入門」
中河原俊雄・石綿薫 「自家採種入門」農文協
内容
第1章 自然に学ぶ自家採種入門
1 タネ採りのすすめ
(1)「自然生え」できる作物できない作物
よく発芽してくるもの
シソ、オカノリ、カラシナ、ナタネ、ニラ、ツルナ、カオヒジキ
これらは一度大量にタネをこぼすと、毎年発芽してきて雑草化する。
タネ採りが容易な作物
ミニトマト、地ダイコン、在来カブ、ニンジン、ゴボウ、ツケナ類、アズキ、ササゲ、アワ、キビ、ライ麦
少し管理してやると自然生えする作物
カボチャ、キュウリ、マクワウリ、スイカ、トマト、ナス、ビーマン、ネギ、ヒエ、コムギ、ダイズ、インゲン
自然生えがほとんど見られないもの
レタス、キャベツ、ハクサイ、タマネギ、カリフラワー、ブロッコリー、ホウレンソウ、セロリー、ソラマメ、エンドウ、スイートコーン
自然生えは、根張りがよく病害虫に強いなど、作物自身が環境に適応し定着しようとしている姿と見ることができる。
(2)自然生えトマトは自立を目指す
(3)人の力を利用して生き残ってきた作物
(4)自生の力を奪ってきた近代育種
純系の親同士を交配して育成されたF1品種は、均一であるがために、それに合わせて栽培も均一化が求められ農薬・肥料・資材がセットされた形でなければ特性が発揮できないタネに変貌してしまったのである。
(5)地域の食文化が育んだ在来品種
野沢菜
天王寺カブ
アブラナ科作物は交雑しやすく、たえず形を変えながら生き残っていく作物の典型である。
人間が自然と向かいあって生きていくところには、必ず独特の食文化とそれに結びついた農業のスタイルが発達する。作物は元来変異しやすい植物であり、人間の農耕スタイルと食文化と変異の方向付けに合わせてその姿を変化させ、多様化させてきたのである。
結球性や縮緬状の葉を持つ野生植物は見られず、これらの性質は作物だけがもつ形質である。たとえば結球生(キャベツ、ハクサイ、レタス)、縮緬状の葉(レタス、ハクサイ、ホウレンソウ)や肥大した根(ダイコン、カブ、ビーツ)などの農業形質が、分類学上は類縁関係のない作物に共通して見られる。これは起源を異にした作物が、人間の創り出す農耕地という環境に対して、共通の適応を起こしてきた証しである。
(6)タネの力で有機農業を推進
キャベツは一年中需要があり、周年供給されている露地野菜の代表である。現在の野菜としてのキャベツは、明治以降日本に入ってきたものである。キャベツの原産地はヨーロッパなので、キャベツは本来冷涼な気候を好む植物であるが、高温多湿な日本の夏でも栽培が可能になっている。それは、選抜を繰り返し、日本の風土に適応する品種が育成されたからである。
2007年12月に有機農業推進法が成立した。有機農業推進法は基本法であり、具体的な推進支援策は、今後順次整理されていくと思われる。これは日本農業にとって新しいスタイルを模索する時代が始まったことを意味している。
財団法人自然農法国際研究開発センターでは、1991年より自然農法の栽培研究の一環として、品種改良について研究をはじめた。育成された品種は有機農業者に頒布している。 ( http://www.infrc.or.jp/ )
2 タネ採りから知る野菜の本性
(1)自立をめざす野菜の一生
野菜の一生は、幼苗期、伸張期、茎葉繁茂期、成熟期に分けられ、各生育段階で利用されている。
モヤシ、カイワレダイコン
↓
コマツナ、ホウレンソウ、ダイコン、ニンジン
↓
キュウリ、ナス、ピーマン、スイートコーン
↓
トマト、カボチャ、メロン、スイカ
収量を上げるのにふさわしい野菜の姿と充実したタネを実らせるのに相応しい野菜の姿は異なる。前者は肥料と農薬を多く必要とするが、後者には肥料・農薬はいらない。
(2)野菜の生育ステージと健全生育
①幼苗期
②伸張期
根をよく育てるためには、低めの気温、少なめの水分、少なめの養分など地上部の生育にとってはむしろ厳しい条件を体験させることが必要だ。
③成熟期
(3)栄養生長偏重の青果栽培の問題点
(4)栄養生長型品種と生殖成長型品種の見分け方、生かし方
①栄養生長型品種と生殖成長型品種の生態的特性
作物は気候条件が生育に適し、生育期間にゆとりがある環境では、根をなるべく広範囲に張らせて生活圏を広げるように栄養生長型の生育に向かうが、気候条件が不良で生育期間が短い環境では、早く開花結実させて確実に子孫を残すよう生殖成長型の生長に向かうと考える。
②栄養成長型品種と生殖成長型品種の形態的特性
③栄養生長型・生殖成長型の栽培特性
作物はさまざまな情報を生育のしかたや草姿の変化を通して人間に発信している。熟練すれば作物の成長過程から畑の状態や気象条件の変化などを察知することができる。ペットを飼い始めて最初はわからなくても長いつきあいの中で自然に愛犬の表情が読み取れるように、毎年タネをとり続けていけば、自然に作物の顔がわかるようになる。いつも気をつけてみること、愛情をもって接することが大事である。
3 自家採種の基礎知識
(1)自家受精か他家受精か
- 自分の子孫を残す植物の遺伝性と変異性
(2)他殖性と自殖性で異なる母本数と情報遺伝戦略
(3)自然交雑の難易と交雑を防ぐ対策
(4)育成品種の種類と特徴
①在来種
在来種とは、ある地域に適応している品種のことである。在来種はその地域風土に適応しており、他所に移しても能力を発揮できないことも多い。品種の存在の仕方も多様であり、一軒の農家や種苗店が細々と採種を続けているような品種もあれば、地域の多くの農家や家庭菜園で自家採種されている場合もある。
②固定種
固定種とは、交配種に対する非交配種という意味であり、遺伝的に形質が固定している(純系)という意味ではない。
③交配種
F1のことである。雑種強勢を利用してつくる。
(5)育種の手順
①育種目標の設定と育種素材・育種手法の検討
②選抜と固定
③種子の増殖と適応性検定
(6)育種方法の種類と選択
①導入育種法
②分離育種法
③交雑育種法
④雑種強勢育種法
⑤突然変異育種法
⑥遠縁交雑育種法
⑦組織培養による育種法
⑧栄養繁殖作物の育種
4 生命力の強いタネを育てる自家育種法
(1)根張り重視の育種
(2)母本選抜の着眼点
①地上部の姿でわかる根張り
土壌環境はむしろ厳しい条件の方が根がよく伸びることを自然樹は教えてくれる。
②根張りを強くする栽培条件
作物は樹木と異なり生育期間が短いが、根の張り方と草姿の関係は同じと考える。地上部が伸びにくい条件(小肥・乾燥・低温)で育成された品種は根が深く広く張る性質が強くなり、地上部を少しでも伸ばそうとする栄養生長の強い特性になる。逆に地上部が伸びやすい条件(多肥・多湿・高温)で育成された品種は早く成熟する性質が強くなり、根を浅く張らせて地上部の伸びを抑えようとする特性が強い。
(3)タネの強さとは
純血犬に比べて雑種犬の方が丈夫でストレスに強く、飼うのが容易である。野菜についてもいっせいに収穫できて品質が揃っている方が利用しやすいが、栽培上からは強健で病害虫に強いものが求められる。
タネの均一性と強さをどのように折り合いを付けるかが自家採種の大きなポイントになろう。
(4)根張りと生命力を育成する家系選抜法
①自家育種に向く家系選抜法
②母本選抜の留意点
③品種になるまでの年数
④家系選抜法によるF1種の固定種育成法
⑤固定系統からのF1品種育成法
(5)F2、F3は自然生え育種で自然選抜
自然生えから選抜したタネは総じて根張りがよく、 繁殖力が旺盛で、育種目標にかなったものが多く見いだされ、優良系統が育成されている。また自然生えは面積に応じた個体しか残らないため、小面積で選抜できる利点がある。たとえば1坪に10個のトマトを埋め込んでも、発芽してきた数千株の中で最終的に果実を実らせるのは1坪の面積にあった1~3株程度で、他の株は途中で生育がとまってしまう。
耕耘や肥料が施されている畑から自然生えしてくる野菜は、栄養生長が旺盛になり密生状態になって自然選択がはたらかず、共倒れを起こす場合が多い。自生させる場所は耕さず無肥料にして自然条件に近づけた方が、自然選択がはたらきやすい。トマトやナスなどの果菜類は、熟した果実を土に埋め込み翌年春に発芽させる。果実の埋め込みは晩秋に入り平均気温が10℃以下になってから行う。
土中で冬を越した果実から発芽が始まるのは、翌春の桃の開花期から初夏頃である。発芽してきた苗は間引きや整枝を行わず、そのまま生育させ、自然に株が選ばれるのを待つ。果実が肥大したところで果実調査を行い、育種素材候補を選抜する。
(6)タネの力を引き出す
無肥料・不耕起・草生・無整枝栽培
①採種圃場の環境設計と土壌管理
同じ雑草でも乾いた荒れ地と耕された畑で生育の仕方が異なる。荒れ地の草は四方に枝を伸ばし茎葉が硬く、根張りが強く抜こうとしてもなかなか抜けない。畑の草は背が高く大柄な草姿で柔らかく根が浅いので簡単に抜くことができる。
作物も栽培環境のよい圃場で育種するよりむしろ厳しい条件の方が、根張りや自律的に生育できる強さを備えたタネを育成できる。
②おすすめ栽培法
巣まき法
トマトの日だまり育苗
果菜類の無整枝自然形
(7)採種の基本技術
①人工交配
②人工交配の種類
③採種果の収穫
④採種果の追熟
⑤種子の取り出しと調整
⑥種子の保管と寿命
種子は翌年の播種時期までは、乾燥した場所なら常温で保存できる。しかし、1年以上保管する場合には、低温と乾燥が必要である。乾燥剤と共に密閉容器に入れて冷蔵庫で保存する。種子の保存袋には、品種名、採種年、採種地、人工交配の種類、選抜した特性、プライオリティ(家宝級、来年使用、予備、交換用など)を記しておく。
第2章 生命力の強いタネを育てる自家採種の実際
(1)果菜・豆類
・キュウリ
・カボチャ
・スイカ
・マクワウリ・露地メロン
・トマト
・ナス
・ピーマン
・スイートコーン
・オクラ
・サヤインゲン
・エダマメ
(2)根菜類
・ニンジン
・ダイコン
・カブ
(3)葉菜類
・レタス
・玉キャベツ
・ハクサイ
・ツケナ類
・ルッコラ
・オカノリ
・エゴマ
第3章 自然生えを生かしたタネの育成
1 自然生え育種法の基本
(1)タネまき前の準備
・1品目一坪くらいからスタートする。肥料を入れず、耕さないで自然に近い条件をつくる。
(2)タネまきと栽培管理
(3)自生菜園の1年
2 自然生え育種の実際
(1)自生キュウリ
(2)自生カボチャ
(3)自生マクワウリ
(4)自生スイカ
(5)自生トマト
(6)自生ナス
(7)自生ピーマン
(8)自生ダイコン
(9)自生レタス
(10)自生ケール
(11)自生ルッコラ
(12)自生オカノリ
(13)自生ツルナ
(14)自生かき菜
(15)自生マーシュ
(16)自生アマランサス
(17)自生ササゲ
平成22年3月
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