2021/03/10
本107 雑誌「やさい畑」 畑の微生物入門講座
雑誌「やさい畑」家の光協会
前回の「野菜だより」とよく似た園芸雑誌です。
こちらの出版社は家の光協会です。雑誌「家の光」は私が幼い頃、家で定期購読していました。大人のための農業雑誌で、子供にはわからない記事が多かったのですが、活字文化の少ない田舎の農家では唯一の文化財であったかもしれません。私は写真や漫画の載っている部分を隅から隅まで読んでいたことを思い出します。おかげで他の子供よりも早く字を覚えたそうです。
今回は平成23年秋号に掲載された「畑の微生物入門講座」の内容を紹介します。
「畑の微生物入門講座」
平成23年秋号
豊田剛己
東京農工大学大学院農学研究院准教授
1限目 微生物とは何ものか?
土壌微生物はどこに多くいるのですか?
3つ挙げられます。森などで落ち葉が降り積もった層。畑にはありませんが、有機物が多い場所とかんがえるとよいでしょう。
次は土壌動物の周りです。ミミズが出す体液が付着する通り道や、糞などの周りでは微生物がいっぱい増殖します。
もうひとつは植物の根の周りで根圏と呼ばれるところです。植物は根からその有機物の1~2割を排泄しています。根の周りにべたべたしたものを出して、土の中を根が伸びやすくしたり、根と土を密着させて、養分を吸収しやすくしたりしています。その有機物を利用して微生物が繁殖するのです。畑の中で多いのは土の表層から20㎝ほどの深さのところです。
2限目 その働きとは?
植物が育つために絶対必要ですか?
微生物のいない土壌で化学肥料だけで、植物を育てた実験があります。微生物のいない土壌でも植物は育ちました。ところが、こうして育てられた植物は、病原菌が入ってくると、あっという間に広がり、感染して病気になってしまいます。現実には、植物はさまざまな微生物に囲まれて育っていて、免疫ができ、病気になりにくい体になっているのです。
また、植物は施した肥料の半分ほどしか利用していません。しかし、植物は微生物の働きによって土の中に保たれている養分も利用しています。有機質の堆肥を与え、土壌微生物を増やすことで、植物は微生物からも養分を得られるようになります。
3限目 どうすればふえる?
土壌微生物は多いほどよいということですか?
土壌微生物の中で病原菌は、だいたいバクテリアが100種、カビが1000種程度です。地球上にはカビだけで100万種ほどいると考えられていますから、病原菌は一部だといえます。
病原菌を実験室で近縁でない微生物と一緒に培養しても、たいして変化はありません。ところが近縁の微生物の種類を増やしていくと、病原菌はあまり繁殖しなくなるのです。病原菌と近い仲間ほど、同じような成分を利用して繁殖するため、食べ残しが少なくなり、思うように繁殖できないのです。つまり、さまざまな土壌微生物がいるほうが、病原菌は繁殖しづらいのです。
どうすれば土壌微生物は増えますか
まず、有機物をたっぷりと与えることです。有機物には炭素が含まれていて食べやすい状態にあること。つまり、リグニンなどの分解しにくい状態ではなく、セルロース、セミセルロースといった多糖質の高分子になった状態の有機物が望ましいのです。堆肥や腐葉土と呼ばれる状態が代表的なものです。米ぬか、ダイズ粕、魚粉など、肥料として用いられる有機物は一時的に特定の微生物が増減します。
微生物が多いほどよいのは、微生物が養分のプールとして機能しているからともいえます。
春から夏にかけて温度が上がると、生物の活性が高まり、微生物が盛んに生まれては死にますが、ちょうどその頃は植物もよく育つ時期で、その微生物に含まれていた養分をうまく取り入れることができるわけです。
こうして毎年、一定量の有機物を施して、4~5年たつと、土壌微生物の多様性はあまり変わらなくなり、安定した収穫が望める畑になります。
特別授業
野菜を育てる微生物!?エンドファイト研究の最前線
成澤才彦 茨城大学農学部資源生物科学科准教授
エンドファイトとは「内生菌」と訳されますが、植物の体の中に住み、植物と共生関係を持つ菌のことです。エンドファイトの範囲は広く、根粒菌や菌根菌もありますが、他の植物に広く共生関係を持つ菌がたくさん見つかってきたのです。そこで、根粒菌、菌根菌以外の内生菌を示す言葉としてエンドファイトが用いられることもあります。
あるエンドファイトは、アミノ酸を好んで吸収する性質がありますが、このエンドファイトが共生していると、植物は間接的にアミノ酸を利用できることになります。一方でこのエンドファイトは糖を植物からもらっています。したがって、エンドファイトの実力が発揮されるのは、最初から養分たっぷりの土壌よりも、どちらかというと、やせた土壌で植物の生育には不利な環境の方だとも言えるでしょう。
エンドファイトが進入できるのは、表皮と皮層までで、維管束の手前と決まっています。もし、維管束に菌糸が入ると目づまりを起こし、植物が育たなくなります。エンドファイトは植物に悪影響を与えず、あくまで共生関係。病原菌とは違うのです。
エンドファイトを加えた土壌と加えない土壌で生育試験をすると、種まきから2週間は違いが出ません。ふつう、エンドファイトは発芽から一〇日くらいで植物の根に進入し始め、植物との関係ができるのはおよそ2週間後ぐらいです。ですから、3週間たつと、エンドファイトを加えた土壌の植物はぐんぐん大きくなっていきます。エンドファイトは植物に必要な養分を与えるばかりでなく、植物ホルモンを産出することもわかってきました。
エンドファイトが病原菌を死滅させたり、増殖を止める物質を出したりするなどして、病原菌に直接作用するわけではありません。病原菌より先に植物に住みつくことで、いわば予防接種のような効果があると考えられています。
エンドファイトを探すために、いろいろな場所の土壌を採取したところ、おもしろいことに、化学肥料で育てた畑ではほとんど見つかりませんでした。有機栽培の畑でも全体の菌の0.3%ぐらいしか含まれていません。それにたいしてエンドファイトが多いのは森林の土壌です。
菌類はまだまだ未知のものが多く、命名されているのは9万種ぐらいで、全体として100万種以上いるといわれていますが、エンドファイトはその中の数%。数万程度ということでしょう。
実験室での培養は簡単で、ムギなどの穀物粒を使って培養し、乾燥させた後、使用する培土に混ぜて育苗します。
自宅の畑でエンドファイトを活用するには
エンドファイトを活用するためには、化学肥料を施さず 、有機質を多用することです。堆肥に限らなくても植物性の有機質ならなんでもかまいません。徐々に土壌微生物が分解し、肥料分にしてくれます。化学肥料と違って、植物質のものであれば量が多くても障害を及ぼすことはありません。必要な分だけ微生物が分解してくれるからです。
2番目に、石灰分などをまいて、無理に酸度調整しないことです。もともと酸性土壌で共生していたエンドファイトなら、酸性土壌のままでかまわないのです。実際、トマトの実験をすると、エンドファイトを加えた土壌では、pHが3~5でもよく生育し、差は見られませんでした。
また、雑草が一本もなく、畑が乾燥しやすい条件では、エンドファイトはまず生き残れません。
エンドファイトを活かすと自然農法になる?
一般的な慣行農法を否定するわけではありませんが、土壌微生物、なかでもエンドファイトにこだわって、それをできるだけ活かす条件を考えていくと、結果として、無農薬で化学肥料を施さない、そしてできれば不耕作の自然農法に近くなるわけです。
エンドファイトの研究も自然のメカニズムに学んで、それを栽培技術にとり入れる、ひとつの方法に他ならないと思っています。
平成23年10月
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