私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

スティーブン・ホーキングとイスラエル

2013-05-15 16:32:25 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 
 パレスチナ、シリア、イラン、リビア、エリトリア、ハイチ、コンゴなど私が特に注目している地域についての日本での報道や論評を、私はますます走り読みするだけになってきました。為にする記事が多過ぎます。無益というよりも積極的に有害だと感じることが多いからです。政治的情報の操作のもう一つの有効な手段は意識的な組織的な無視です。
 スティーブン・ホーキングがイスラエルのペレス大統領からの招待をことわったというニュースは、NHKの一般ニュース番組、朝日新聞、西日本新聞をざっと見ていたところでは見当たりませんでしたが、ネットで探してみると毎日新聞(5月9日)に次のような記事が出ていました。:
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 【ロンドン小倉孝保】「車いすの天才理論物理学者」として知られる英国のスティーブン・ホーキング博士(71)が、イスラエルのパレスチナ人への対応に抗議し、エルサレムで6月に開かれる国際会議への出席を拒否することを決めた。アイルランドの学者らが呼びかける学術分野でのイスラエル・ボイコットに賛同した形だ。
 英ガーディアン紙によると、6月18日から3日間、学者や芸術家などが参加してシンポジウムなどが行われる。博士はイスラエルのペレス大統領から招待を受け、いったんは出席を伝えたが、先週、大統領に手紙を書き、出席取りやめを伝えたという。
 手紙の内容は明らかになっていないが、同紙によると、「パレスチナの状況を考え、(イスラエル)ボイコットを尊重し決定した」という。知人のパレスチナ人学者からアドバイスされたとみられている。
 アイルランドの大学教員などが4月、学術分野でのイスラエルとの交流拒否(ボイコット)を決め、他の欧州の大学教員などにボイコットを呼びかけている。ホーキング博士は過去に4回、イスラエルを訪問している。
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 上の記事にある英国のガーディアン紙も、以前に書きましたように、切り込みの鋭さに昔日の精彩はありませんが、それでも,字数にすると膨大な量の報道発言が今度のホーキンス事件について掲載されています。
http://www.guardian.co.uk/world/2013/may/08/stephen-hawking-israel-academic-boycott
上の「毎日」の記事には、ホーキンスがペレス大統領に送った手紙の内容はあきらかになっていないとありますが、ガーディアン紙の次の記事には
http://www.guardian.co.uk/science/2013/may/08/hawking-israel-boycott-furore
その内容が出ています。そこだけをコピーします。勇気ある発言です:

■ “I accepted the invitation to the Presidential Conference with the intention that this would not only allow me to express my opinion on the prospects for a peace settlement but also because it would allow me to lecture on the West Bank. However, I have received a number of emails from Palestinian academics. They are unanimous that I should respect the boycott. In view of this, I must withdraw from the conference. Had I attended, I would have stated my opinion that the policy of the present Israeli government is likely to lead to disaster.”(私は大統領主宰会議への招待を、これを機会にパレスチナ問題の平和的解決の可能性についての私の意見を表明することが許されるだけでなく、ウエスト・バンクでも講演が出来るだろうと考えて、お受けしたのでした。しかしながら、私はパレスチナの学者たちから多数のイーメールを受け取りました。それらは私がボイコットを守るべきだという点で一致しています。これに鑑みて、私は会議出席を撤回しなければなりません。たとえ出席していたにしても、現在のイスラエル政府の政策は大惨事を結果するであろうという私の見解を述べることになったでありましょう。)■
このイスラエルの大統領主宰会議というのは大変派手で絢爛たる国際会議のようで、特に今年(2013年)の会議は主宰者であるシモン・ペレス大統領の90歳祝賀の意味も重なって五千人の参加者が予想されています。スティーブン・ホーキング博士はその基調講演者の華として招待を受けていました。この会議に就いては英語版のウィキペディアの「Israeli Presidential Conference」
http://en.wikipedia.org/wiki/Israeli_Presidential_Conference
をご覧下さい。私が判断する限り、豊かで十分公正な説明がなされています。この中にノーム・チョムスキーや物理学者のマルコム・レヴィットなど20人の学者たちがホーキンスに出席しないことを要請したとありますが、これに就いても、ガーディアンの長い記事があります。賛否両論が交錯沸騰しています。
http://www.guardian.co.uk/world/2013/may/10/noam-chomsky-stephen-hawking-israel-boycott
 今度のスティーブン・ホーキングの決断を称賛するにしろ、非難するにしろ、あるいは、中立的立場から論ずるにしろ、これを取り上げるには、重い決意が必要です。パレスチナについての立場を明確にする覚悟が要ります。現在の日本で評論を職業とする人たちは、この時点でスティーブン・ホーキングを論じることが商売的にはマイナスだと踏んでいるのでしょう。寂として声なし。
 私は、現在の、目にも眩しいほどの栄光の中で無惨な腐敗の死臭を放つシモン・ペレスという男の過去を記憶しています。これが年の功というものです。その昔、シモン・ペレスはナチ・ホロコーストをヒロシマ・ナガサキと同列に論じる重罪を犯して、イスラエルの保守派からひどく叱られたことがあったのです。長い人生を立派に全うするのはとても難しいことのようです。

藤永 茂 (2013年5月15日)



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 ホーキング博士らのとった行動についての今回の... (桜井元)
2013-05-16 00:14:19
 ホーキング博士らのとった行動についての今回の記事から思い出すのは、村上春樹氏のことです。2009年、イスラエルによるガザ侵攻で同国への非難が高まるなか、エルサレム賞を受賞し授賞式への招きに応じた行為と、その際に放ったスピーチの内容をです。
 スピーチ全文(英語)は下記サイトから閲覧できます。こちらは英語学習用サイトで英単語などの解説付き。サイトの管理人の方は、村上氏にどうも好意的のようですが。

http://www.where-are-we-going.com/beyond_exams/paperback_reader/2009/02/haruki-speech-in-jerusalem/

 村上氏のとった言動については、文芸評論家・斎藤美奈子氏の批判が鋭かったのが印象的ですが、斎藤氏の見解については、下記ブログに見ることができます。

http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/e2eeb74fc28c7a1ed4d46e9c3edb2037

 なお、ネット上では他にも、ブログをとおして村上氏の言動を鋭く批判している方がいらっしゃいます。下記ブログの各記事をご参照ください。

「村上春樹 エルサレム賞受賞スピーチ これがイスラエル批判?」
http://electric-heel.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/post-ee7f.html

「村上春樹 エルサレム賞受賞スピーチ 現実逃避の茶番」
http://electric-heel.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/2-8a8f.html

 尖閣や竹島の領有権をめぐり日本が中国・韓国ともめたときに村上氏が放ったメッセージも、いかにも彼らしい側面が出ていて、こちらも上記ブロガーの方が鋭く批判されていました。

「村上春樹、またも幼稚な寄稿文でノーベル賞狙い」
http://electric-heel.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-2994.html

 日本人で最もノーベル文学賞に近い作家と言われ、新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』も、長引く出版不況のなか久々のミリオンセラーだとか。

 とはいえ、村上氏の場合、上記の政治的(非政治的? 反政治的?)言動の問題もさることながら、「文学」の質そのものもどうもアヤシイようです。アマゾンで、新作につき「もっとも参考になったカスタマーレビュー」の文章が傑作でした。

 村上氏は、「チョムスキー、バレンボイム、ホーキング博士等々」とは違って、自分の専門領域以外の世界、外の世界に目を向けることができない人ではないでしょうか。狭い意味での文学の殻(ある意味、安全で特権的な領域)に閉じこもりながら、かといって、そこに閉じこもっているだけではカッコがつかないので、偉大な文学者よろしく外の世界についてなんらかのメッセージを発してはみるものの、それは、八方美人的に敵をつくらぬよう慎重に配慮され抜かれた、実にもってまわった言い回しで、一言で言えば毒にも薬にもならないものになるのです。
 世界中の読者(マーケット)と世界中の評価(ノーベル賞)が欲しいので、悲しいかな、そういう言動にならざるを得ないのでしょう。

藤永先生の記事をとおして、世界の偉大なる真の知識人の方々と、わが国が誇る文学者・村上センセイとの落差をあらためて感じた次第です。
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新規の読者のために。外相シモン・ペレスの発言記... (大橋晴夫)
2013-05-16 19:01:50
新規の読者のために。外相シモン・ペレスの発言記事は、核抑止と核廃絶(6)2010/05/26のブログにあります。
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桜井元氏のコメントに深く賛同します。 (elan)
2013-05-17 02:51:26
桜井元氏のコメントに深く賛同します。

村上春樹の異常な著書教伝は出版社とマスコミ合作の人為そのものだと感じます。初期数冊迄は若者の実存不安(古いですね)の問い(実はこれも過去の踏襲)として多少心揺さぶる工夫があったのではないかと感じ好感を持ちましたが、以降は残念ながら知りませんので、ノルウエーの森(!)とかナントカのカフカ(!)とかに至っては、タイトル自体が極めて不愉快なので内容は知りませんので、作品について語る資格は全くありませんが、思想を語る作家る考えた事は全くありません。
池上夏樹が朝日が作った坊ちゃんエッセイイストだった事は有名ですが、本の売り上げだけで世評を賑わして居れば充分ではないでしょうか。

問題は村上センセイがその役に値しないボンクラでは困る事にあると思います。

実は、福島原発事故に対する日本の原発村(売国政府を大元としてます)への発言はおちゃら物語書きには荷が重過ぎると思っていますが、村上センセイは似非売り上げ(実数算定前に直ぐ数字が出て便利)で舞い上がったか、数年前バルセロナで不思議なご高説を披瀝しました。(日本語訳)

http://grnba.com/iiyama/img99/bk/MurakamiBarcelona.html

これは、一見大過無しのようですが、本質を見抜いた素朴な親父(志布志の賢人)飯山一郎が怒り、阿修羅という掲示板で指弾した処、バカ扱いされ、がっかりして、自分で阿修羅に替わる掲示板を作るに至った契機と成りました。

この経緯はじっくり眺めていましたが、フィッカラルド君も(笑)ビックリだったかも知れません。

村上センセイが現今の世界金融資本-北米中心の軍産共同体産業体の壮大な世界凌辱を知らないとは思えませんので「慰安派確信犯としての作家活動」と考えています。
因みに、片岡義男も広瀬隆も元翻訳家ですが、こんな無様(ぶざま)を呈した事は一度もありません。

余り余計なリンクは張りたくありませんが、
飯山一郎が阿修羅からオミットされた経緯をしるした記事だけ貼らせて戴きます。

http://www.asyura2.com/11/test22/msg/503.html
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前記、elanです。 (elan)
2013-05-17 03:21:32
前記、elanです。
最初にリンクを貼った村上春樹のバルセロナ演説が不完全だったようでお詫びします。正確には↓です。
http://grnba.com/iiyama/img99/bk/MurakamiBarcelona.html

どうも、長いURlが途中で切れるようですので、
二分割して記します。ご自身で空無く繋げて下さい。

http://grnba.com/iiyama/img99/
MurakamiBarcelona.html

尚、いわゆる陰謀摘発論の巣窟と称された阿修羅などのリンクを貼った事を藤永先生に深くお詫び申し上げます。
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elanです。 (elan)
2013-05-17 03:30:03
elanです。
再度大変申し訳ありません。
どうも不慣れなもので…、
もう一度正確なURLを記します。

http://grnba.com/iiyama/img99/bk/
MurakamiBarcelona.html

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不勉強を承知に申し上げますが、ホーキング氏のイ... (海坊主)
2013-05-17 06:49:58
不勉強を承知に申し上げますが、ホーキング氏のイスラエル訪問キャンセルの件は「何をいまさら」という感じで私は受け取ります。過去にイスラエルを4回訪問されている氏が今回に限ってキャンセルするに値するほど、イスラエルの問題は大きくなったのでしょうか。パレスチナ、シリア、レバノン、イラン、エジプトなどへのイスラエルの関わり方について抗議するのであれば、なにも今でなくても良かったし、むしろ遅すぎると思います。

前回の記事にコメントさせていただいたように、ヨーロッパに対するイスラエルの脅威、という意味であれば納得出来る部分もありますが。
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FBにシェアさせて頂きました。ありがとうございます。 (kenshin)
2013-05-18 12:58:13
FBにシェアさせて頂きました。ありがとうございます。
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