私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

米国によるボリビアのクーデター

2019-11-20 22:08:28 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 

 全くひどい形のクーデターがボリビアで実行され、モラレス大統領はメキシコに亡命しました。『マスコミに載らない海外記事』の記事:

「ボリビア報道で「クーデター」という単語を頑固に避ける主流マスコミ」

http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2019/11/post-b4a159.html

を是非お読みください。また、ボリビアとモラレスという人物については私の過去の二つのブログ記事:

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/ea6a05eca5a2d5d645fecedb252292f5

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/e9fc91f91e8c12c12adb0ba6ca67f5e5

を読んでください。

 今回のボリビアでのクーデターは、全く言語道断のひどいものです。米国に動かされた極右を含む反モラレス勢力が、警察と軍隊を操作して、モラレスとその家族、さらに主要閣僚の生命を脅し、メキシコへの亡命を強制しました。そのあと、極右政党に属し、国会上院の副議長のヘアニネ・アニェス・チャベス(Jeanine Añez Chavez)という女性が(多分、米国政府の事前のお膳立てに従って)、突然、「私がボリビアの暫定大統領である」と名乗りをあげました。この女性が、数年前、ツイッターで「私は先住民の悪魔崇拝のお祭りのないボリビアを望んでいる。都市は‘インディアン’のいる所ではない。彼らは高地かエル・チャコに行ったらいい」と言った記録が残っています。上掲のブログにも書いたように、ボリビアの住民の半数以上が‘インディアン’なのです。エボ・モラレスは極貧から身を起こし、16年間の長きにわたって、大統領の任務を見事に果たした a full-blooded Indian です。クーデターの翌日の11月11日、モラレスはボリビアの衛生医療労働者と学校教師たちに「暖かく、一致団結して、一般の人々に奉仕してほしい」とツイッターで訴えています。

クーデターに対する反対運動で、病院や学校が機能を失うことを恐れたのです。アニェスとモラレス、何という違いでしょう。

 11月11日、ホワイトハウスが正式に発表した「ボリビア大統領エボ・モラエスの辞任に関する」トランプ大統領の声明全文を、原語のまま以下に掲げます。嫌悪感が強すぎて翻訳する気になれません:

https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/statement-president-donald-j-trump-regarding-resignation-bolivian-president-evo-morales/ 

The resignation yesterday of Bolivian President Evo Morales is a significant moment for democracy in the Western Hemisphere.  After nearly 14 years and his recent attempt to override the Bolivian constitution and the will of the people, Morales’s departure preserves democracy and paves the way for the Bolivian people to have their voices heard.  The United States applauds the Bolivian people for demanding freedom and the Bolivian military for abiding by its oath to protect not just a single person, but Bolivia’s constitution.  These events send a strong signal to the illegitimate regimes in Venezuela and Nicaragua that democracy and the will of the people will always prevail.  We are now one step closer to a completely democratic, prosperous, and free Western Hemisphere.

 今回のクーデターに反対するデモに参加した先住民たちの多数が、すでに、殺されています。日本のマスコミは、香港の擾乱ばかりを大袈裟に報道して、なぜボリビア先住民の惨状をもっと適切に取り上げないのですか?

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ここまで11月18日に書きましたが、その後すぐ『マスコミに載らない海外記事』に二つの記事が出ました。是非お読みください:

http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2019/11/post-7a958c.html

http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2019/11/post-d86826.html

これらの記事が我々に教えてくれるのは、ボリビアという国についてよりも、米国という国のサタニックな正体についてです。これらの記事の翻訳者の並々ならぬご努力に感謝し、それに鞭打たれて、私も上掲のトランプ米国大統領の公式声明を訳出します:

「ボリビア大統領エボ・モラエスの昨日の辞任は、西半球の民主主義にとって重要な時点である。14年に近い彼の在任と、ボリビアの憲法と国民の意志を無視しようとする彼の最近の試みの後、モラレスが職から去ることは、民主主義を保持し、ボリビア国民がその声を世に知らせる道を開くものである。合州國は、自由を要求するボリビア国民を称賛し、ボリビアの軍部が、ただ一人の人物を守るのではなくボリビアの憲法を守るという誓いに従い通したことに拍手を送る。これらの出来事は、ベネズエラとニカラグアの不法政権に、民主主義と国民の意志がいつも必ず勝利するという強力なシグナルを送るものである。我々は、今や、完全に民主的な、裕福で自由な西半球の実現に一段と近づいている。」

 どうです? この米国大統領の公式声明を読んで反吐が出そうにならない人は、確かに、どうかしています。

 

藤永茂(2019年11月20日)


ルーラ・ダ・シルヴァ、お帰りなさい

2019-11-13 21:39:02 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 

 これは朗報です。前ブラジル大統領ルーラ・ダ・シルヴァが11月8日牢獄から釈放されました:

https://www.commondreams.org/news/2019/11/08/extraordinary-day-brazilian-leftist-leader-lula-freed-prison

Common Dreams というサイトの記事です:

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ルーラとして知られる、前ブラジル大統領ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァはブラジルの右翼政府からの政治的動機による起訴によって1年半投獄された後、この金曜日に監獄から釈放された。

 労働者党の色である赤一杯の大群衆がルーラの自由への復帰を歓迎して集合した。 “皆さんがどんなに私のためにやってくれたか、皆さんは知らない”と、前ブラジル大統領は支持者の大群に呼びかけた。

“ブラジルの特別の日、いや、ルーラの重要性を思えば、世界にとって特別の日だ”と、インターセプト社のグレン・グリーンウッドはツイートし、“感無量の日だ”と更に付け加えた。

“Wow! This is big.”とインターセプト同僚の作家ネオミ・クラインはツイートして応えた。

 ルーラ自身も、“ルーラ、自由だぞ”と言いながら、ジムで体を鍛えているビデオをツイッターに掲載した。  

2018年4月、一連の事件の後、ルーラは投獄された。アソシエイト・プレスはブラジルの右翼が政権奪取のための策略の一部だと報道解説した:

「ダ・シルヴァが自ら選んだ後継者であるディルマ・ルセフは告発され、2016年、大統領の座から追われた。続いて、一群の判事がダ・シルヴァを汚職と資金洗浄に対する有罪判決を支持した。これが彼の左翼的労働者党を指導者なしの状態に陥れ、さらに2018年の総選挙の大敗北によって士気を失ってしまった。」

2020年米国大統領選挙の民主党候補に名乗りを上げているバーニー・サンダース上院議員は、この6月、ルーラの監獄からの釈放を求めたが、2020年大統領候補の中で釈放を求めたのは彼一人にとどまっている。サンダースは、金曜日に、ルーラが自由になったことは“大変喜ばしい”とツイートし、ブラジルの指導者の投獄は“そもそも初めからあってはならなかった事”と発言した。

ルーラは、群衆に当てての言葉の中で、繰り返し団結のメッセージを訴えていた。彼は言う:“彼らは一人の男を投獄したのではなかった。彼らは一つの理念を殺したかったのだ。だが、理念は殺せるものではない。”

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上には本文の部分だけ訳出しましたが、記事の中にはツイッターのメッセージや動画もありますので是非オープンしてみて下さい。

この数日間にルーラの釈放に関する記事は多数ネット上に出るようになりました。もう一つだけ挙げて、その前半を訳出しておきます:

https://libya360.wordpress.com/2019/11/09/lula-promises-to-help-free-brazil-from-the-insanity/

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クリチバ市の監獄に政治的に580日間投獄された後、11月8日金曜日に釈放された前大統領ルーラは、インスタグラムに彼の最初のビデオを掲載して、支持者たちにメッセージを送った:

“私は、あなた方の示した一致団結を、心の底から全ての方に感謝し、合わせて、私が、わが国で起こりつつある狂気からブラジルを解放する事に貢献できる自由の身になったことを皆さんに申し上げます。我々は教育、雇用、給料、文化、そして、幸福にしっかり配慮しなければなりません。もし、若者たちが生きることに喜びとモチベーションを感じなければ、若者たちは生きていないに等しく、この生き甲斐こそ我々があなた方に提供しなければならないものなのです。”

ルーラはまた笑顔で冗談も飛ばした: “私はこのインスタグラムを見てくれている皆さんに告げたい。私は生物学的には74歳だが、30歳の人間のエネルギーと20歳のバイタリティーを持っています。いいですか?こう言うのは、あなた方に話しかけているこの若い野郎を羨ましがってほしいからです。”

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ルーラが自由を取り戻し、政治運動ができるようになったのは、確かにビッグニュースです。今後、もし事がうまく運べば、ブラジルという国が現在の狂気から解き放されて世界平和の大きな礎石の一つとなり、やがて、ルーラの名前は、カストロやチャベスと並んで、歴史に残るようになるかもしれません。  

しかし、1年半前、ルーラの逮捕と投獄に成功した狂気は今も中南米で吹き荒れています。ルーラの釈放という大朗報は、それに時を合わせるように起こったボリビアのモラレス大統領に対するクーデターの大凶報によって打ち消されそうになっています。

藤永茂(2019年11月13日)


ロジャバ革命よ、生き残れ(4)

2019-11-06 22:35:50 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 

 前回の記事の終わりに書いたように、トルコとロシアの間の了解事項をまとめた覚書の第2項: 

2. They emphasize their determination to combat terrorism in all forms and manifestations and to disrupt separatist agendas in the Syrian territory.

を読むと、

シリア北東部の三角形地域を支配しているクルド主導の民主的自治行政機関(Democratic Autonomous Administration of North and East)(今後はDAANEと略称します)のやっていることは、シリア領土内で行われている分離主義者的行動方針、政策(separatist agendas)の一つに含まれると考えても何の不思議もありません。実際、イラク北部のクルド人自治区政府は、2017年9月に、独立の賛否を問う住民投票を実施、賛成が9割以上を占め、独立を求める民意が表明されました。この住民投票騒ぎについてのマスコミ報道の典型例として、2018年10月2日付けのNHK特集「クルド住民投票1年“独立の夢”の行方は」を挙げておきます:

https://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/archive/2018/10/1002.html

注意すべきは、この報道には誤謬と偏向が含まれていることです。私は、この独立騒ぎは米国とトルコとイスラエルが仕組んだ偽旗作戦ではなかったかという強い疑念を持っていますが、これについては別の機会に論じましょう。

 このイラク北部のクルド人自治区の先例から、ロジャバ革命をシリア北東部の三角形地域に拡大しているDAANEが、その支配地域のシリアからの分離独立のアジェンダを秘めているとしても不思議ではありません。しかし、私は、それはないと信じます。ロジャバ革命が基づいている思想は骨太で明快です。民族国家形成への希求をはっきり超克しています。戦術的に、時宜に即して、表明されたものではありません。エルドアン、トランプの類はともかくとして、プーチン、アサドはそのことを十分弁えていると、私は判断しています。当面というか、短期的には、プーチンの声明(前回訳出)の中に、

「これに加えて、シリア政府と北東部のシリアに居住しているクルド人たちの間の広範な対話が開始されなければならない。シリアという多民族国家の不可欠の一部としてのクルド人のすべての権利と利益は、そのような包括的な対話を通してのみ十分に考慮されるであろう。」

とあることに安堵を覚えます。シリアのアサド大統領はこの対話に真摯に従事するでしょう。彼は国家という政治的枠組みの中で問題の解決を目指しますから、シリアのクルド人たちは、現在のDAANEのステータスから一定の後退を余儀なくされると思われます。しかし、アサド大統領は、強権的な冷血残忍なタイプの政治家ではありません。この私の判断は、最近あらためてロジャバ革命の支持を強調したチョムスキーのアサド評価と異なります。最近(10月31日)シリアのテレビ局が行ったアサド大統領の長時間にわたるインタビューの内容全文(英訳)が発表されました:

http://www.syriatimes.sy/index.php/presidential-activities/44616-president-al-assad-s-interview-with-the-syrian-tv-and-the-syrian-alikhbaria-tv

https://syria360.wordpress.com/2019/11/01/president-assads-interview-with-to-al-sourya-and-al-ikhbarya-tv/

ここに含まれている質問あるいは話題は広範 にわたり、大統領の発言は直裁で、極めて興味深い内容です。サンプルとして、その米国大統領観を引用します:

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As for Trump, you might ask me a question and I give you an answer that might sound strange. I say that he is the best American President, not because his policies are good, but because he is the most transparent president. All American presidents perpetrate all kinds of political atrocities and all crimes and yet still win the Nobel Prize and project themselves as defenders of human rights and noble and unique American values, or Western values in general. The reality is that they are a group of criminals who represent the interests of American lobbies, i.e. the large oil and arms companies, and others. Trump talks transparently, saying that what we want is oil. This is the reality of American policy, at least since WWII. We want to get rid of such and such a person or we want to offer a service in return for money. This is the reality of American policy. What more do we need than a transparent opponent? That is why the difference is in form only, while the reality is the same.

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 このインタビューの中で、シリアのクルド人問題も詳しく明快に語られています。上にすでに述べたように、アサド大統領はシリア・アラブ共和國という統一国家の元首として、現在の政治的時点に鑑みて当然の語り口で、語っています。ただし、この部分はかなり長いので、ここで適切に議論するわけには参りません。私として申し上げたいことは、同化政策の対象、さらには民族浄化政策の対象としてしか、クルド人問題を考慮することの出来ないトルコのエルドアン大統領とは正反対に、シリアのアサド大統領は、個人的には、ロジャバ革命の世界史的意義を理解しているに違いない、ということです。そして、おそらく、ロシア連邦のプーチン大統領についても同じことが言えるでしょう。

 ロジャバ革命が生き残ることを強く願う私が、シリア情勢の近未来、中東の近未来について、あえて予言を試みるとすれば、それはエルドアン大統領の失脚による中東情勢の激変です。今年、2019年の初頭に、クルディスタン労働者党(PKK)の指導者ムラト・カラユランが、年頭の挨拶として、「今年は我らの決定的勝利の年となる」と言っていたことを思い出します。2019年も余すところ2カ月足らず、年内は無理でしょうが、新しい年に希望を託すことにします。

 

藤永茂(2019年11月6日)